2012-12-20

お部屋2474/風営法改正の問題点 3/ダンスの礼賛は風営法からダンスを外すことの根拠にならない

前回は横道だったので、とっとと本道に戻ります。

2472「風営法改正の問題点 1/ダンスを外すことで起きること」に書いたように、「ダンスは素晴らしい。朝まで踊らせろ。風営法を改正しろ」と言う人たちに「じゃあ、家の横にクラブができてもいい?」「学校の横にクラブができていい?」と聞くと、「あー、それはちょっと」と言い出すことがしばしばです。

「防音や振動対策がしっかりしていればいい」という人もいるわけですけど、風営法を外れると、騒音規制法やそれに類する条例での規制だけになり、現状より騒音や振動に対する規制はゆるくなる可能性が高い。しかも住宅地で朝まで営業できてしまう。こういう人たちもまたLet’sDANCEの方針には賛同できないはずです。

多くの人がそこに躊躇や拒否を示すのは意外と言えば意外、当然と言えば当然なのですが、最大の問題は、こういうことの合意がないまま、署名が進んできてしまったことだと思います。「法改正して欲しい」まではいいとして、なぜ「ダンスを外せ」だったのか。

Let’sDANCEがその方針を選択した理由が当初も今も私にはなおよくわからないのですが、風営法からダンスを外したらどうなるかを今からでも考えざるを得ないところに来ています。

住宅地や学校の隣にクラブができることについての躊躇や拒否の感覚自体は全然おかしなことではない。いかにダンスが素晴らしいと思っていても、いかにダンスを享受していても、それに酒という要素が加わったクラブという営業をどうとらえるのかはダンスの評価とはまた別の話です。また、それが商業地区などに限定された場所で営業していることと、住宅街にあること、あるいは学校や病院に近くにあることをどうとらえるのかもまた別の話。

「ダンスが素晴らしくても、クラブを住宅地に作らない方がいい」という姿勢はなんの矛盾もないし、「クラブが素晴らしくても、クラブは学校の横に作らない方がいい」という姿勢も同様。つまり、「住宅地に作るべきではない」「学校の横に作るべきではない」という考え方は、クラブを否定するものではないし、ダンスを否定するものでもないのです。

このことは、風営法自体、ダンスを否定する法律ではないということを意味します。

これを峻別せずに、ダンスの礼賛、ダンスの肯定をそのまま風営法に持ち込んで論じようとすることが問題を見えにくくしてきていて、「風営法からダンスを外したらどうなるのか」のシュミレーションさえ検討しないで署名が進んでしまったのだと私は感じています。

Let’sDANCEにせよ、クラバーにせよ、DJにせよ、自分らの感覚、自分らの利害で動いてしまっているので、ここはより客観的な姿勢をとれるメディアがこういう点を突っ込んでいくべきだと思うのですが、この国のメディアは役立たずです。右から左に情報を流すだけ。その範囲では大いに役に立ちますが。

その点、私は全然個人の利害で動いてませんし、右から流れてきた情報を左に流すのでなく、右から流れてきた情報をケツの穴から出すタイプです。

前から言っているように、『踊ってはいけない国、日本』はいい本で、大いにこの問題を考える契機になったと思うのですが、法律に関する指摘が薄いことが難です。あれを読んでも、「どう改正したらいいのか」は全然わからない。

条文はネットで見られるのですから、「どこの条文をどういじったらいいか、そうすると何が起きるか」なんてことは読んだ人が自分で考えればいいんですけど、そんな能力の高い人はなかなかいない。99%以上の人は書かれたことを理解するところで力尽きるでしょう。そこまで行き着ける人だって少ないかも。

何もかもを一冊の本で拾い上げることは無理ですから、もう一冊法に絞った本が必要とFacebookでも書いていたのですが、ここまでどこも出そうとはせず。そこまで考えた上でクラブを守りたい人は極一部なので、そうは売れないのかもしれないけれど。

それを待っていてもしょうがないので、改めて、今までメルマガに書いてきたことの中で、広く知っておいたもらった方がいい話をここに書いていくことにします。
 
 
私は「ダンスが規制されている」という言い方は利用者の実感として表明される限りにおいて、さほどおかしなことではないと思っています。「ダンスが禁止されている」という言い方さえも、実感としてはしゃあないかと。

海外だったら広場がダンスの場所になりやすいのでしょうが、この国には広場がない。かつてあった広場は学生運動のせいでだいたい潰されて、復活したのは高円寺など一部のみです。実際、高円寺の広場ではダンスの練習をしている光景を見られます。

そういう広場がないところでは、路上や建物のエントランスで踊るしかない。そうすっと住民に通報され、警察に注意される。住環境からして、家で踊れるパーティをすることも難しいこの国では、安心して踊れるのがクラブだったりする。その安心を確保するために金を出す。

何事もビジネスにつながるのはこの国の特性ですから、これ自体、自然な成り行きです。そのクラブが摘発されれば場を奪われてしまい、「(私の)ダンスが禁じられた」と感じたり、店から「踊らないで」と注意されれば、「(私の)ダンスが規制されている」と感じるのも無理のないことかと思います。

しかし、法律を論ずる際には、個人の実感レベルで語るべきではなく、しばしばそのスタンスは議論を混乱させます。個人レベルの感情を出したところで、「私にとってクラブは不快です」という感情を出す人に勝てなくなる。

ここは厳密にやるべきだったと思います。これは木曽崇さんとの議論の中で実感したところです。

法律の議論において、「ダンスが禁止されている」「ダンスが規制されている」という言い方の何がどう問題なのかと言えば、クラブがなぜ風営法の対象になっているのかの理解ができなくなる可能性があるってことです。正しい理解の上で「ダンスが規制されている」と言うのはいいとしても、現に正確にここを理解できている人たちは極一部で、このような言い方は誤解を広げる役割を果たしています。

この誤解は「ダンスは自然な人間の営為である」といったダンス礼賛を風営法否定に直結させることを促しました。これを直結させてはいけない。風営法はダンスを否定する法律ではないのに、あたかもそう思い込む人たちが出てきてしまいました。

むしろダンスをする場を守るために風営法があると言ってもあながち大げさではありません。と書いてもなおピンと来ない人もいるかと思うので、次回、さらに説明します。

このエントリへの反応

  1. たらればの設定でシュミレーションするとそういうことも考えられるでしょう。
    しかし、そういった問題への対策に風営法の規制が適しているとは考えられません。

    風営法のあり方として様々な考察をしていただいていますが、私が解釈しているのは「犯罪が起こるかもしれないための予防措置」「青少年の保護」として防犯的・抑止的な意味だと思っています。

    ごく一部のケースを想定して全体に規制の網をかけることに疑問を感じざるを得ません。
    騒音や近隣迷惑などの問題は確かにあると思います。
    病院や小学校の近くにクラブを作ってしまう経営者もないとは言い切れません。
    しかし、摘発以前のクラブは大半無許可でした。そういう事例はごくわずかだったと思います。
    風営法が今回のように厳格化されていなかった時でも、IDチェックや騒音問題に粛々と対応していた経営者がほとんどだったと思います。
    過去19年前に私が経営していたお店「Club DAWN」もそうでした。
    その後、防音対策や付近の清掃活動、退店後のお客様へののマナーの啓蒙などを行なってNOONと合わせてご近所様とうまくお付き合いして18年経営してきました。

    問題になったアメリカ村でも一部のクラブが近隣とトラブルを起こしていました。
    私はその件についても風営法で取り締まるべきではなかったと思っています。

    また、最近では、私の後輩の経営しているカフェ&ギャラリーも近隣苦情に対応しています。(クラブとかダンス営業とかではありません)

    こういった問題はクラブにかぎらず他の業種でも考えられる問題ではないでしょうか。
    因みに私はカラオケを引き合いに出したことがありますので、念のため「カラオケボックス 騒音問題」として検索してみましたところやはり過去に訴訟の例がありました。

    こういった問題は地域社会で取り組み街の発展や安全を考えてケースバイケースで取り組むべきではないでしょうか。
    この2年に渡る風営法厳格適用の問題はまさにソコにあると思っています。

    風営法で全体に網をかけて規制することはダンス営業でなくても飲み屋営業なども含めて私は適していないと考えています。

    (念のため、私個人の意見でありLet’s DANCEの総意ではございません。)
    これ以上は、また来週お会いした時にじっくりお話しさせてください。

    松沢さんの指摘により私もいろいろ考えさせられ、ココにコメントしたことも指摘されて考え、私なりに見出した意見です。

    いつも有難うございます。

  2. 今回私がこれを書こうと思ったひとつのきっかけはLet’sDANCEがDOMMUNEにおいて「条例で規制すればいい」と発言したことにあります。これに対する批判もTwitterで見る限りは出ておらず、賛同する人たちだけでした。じゃあ、ワシがやるかというのが契機。

    ここに金光さんが書いたように「法で広くその業種に網をかけるのでなく、たとえば住民との話し合いで解決すべき」という考えであるなら、条例であっても法の規制は不要のはずです。しかし、Let’sDANCEはそれを選択せず、「風営法の代わりに別法規で」と言っている。「何をしたいんだ」って話だと思います。

    例えば東京ではIDチェックが法律以上に厳しくて、20歳以上にしているのも、磯部君の話だと、数年前の摘発が契機になっているようです。事実、警視庁の管轄下以外では、IDチェックがない地域も多数あります。むしろ、その方が多いようでもあります。

    つまり、厳しく運用されていなかっただけで、その背景には風営法による、いわば脅しがあったわけで、それが外れた時にIDチェックが今のまま実施される保証がない。もしクラブ経営側にIDチェックが必須であるという意識があるんだったら、全国でとっくにそうなっていたはず。

    ということになると、現に風営法の脅しがある現状において、一部のクラブしかやってこなかったことが、風営法の脅しがきかなくなって以降、一部に留まる保証がないわけです。ここが業界団体のない弱さでもあって、団体が加盟店を締め付けるということもできない。

    で、クラバーでさえも「家の隣にできるのはちょっと」と言ってしまうのは私は当然だと思っています。これは根拠なきダーティイメージ、先入観によるものではないのです。もう少し根源的な話。これについてはこの先論じていきます。