2012-12-18

お部屋2472/風営法改正の問題点 1/ダンスを外すことで起きること

前回の予告通り、風営法改正が抱える現在の問題点について論じておきます。

先に結論を言っておくと、Let’sDANCE署名推進委員会Let’sDANCE法律家の会が提唱する方向での法改正は極めて難しいと私は思っています(以下、このふたつの団体を「Let’sDANCE」としておきます)。また、場合によっては私自身が反対に回りかねない。

だからと言って署名運動が無駄とは思っておらず、これだけこの問題が浸透したのは明らかに彼らの貢献です。あとは早く方向転換をするか、出なおした方がよく、そのためにはとっとと10万人集まって結論が出た方がよいとも思ってます。

皆さん、「議論をしよう」と言いながら、議論がなさすぎ。私も避けていたところがあるのですが、もう避けるのはやめました。メディアもLet’sDANCE礼賛で、内容を吟味する姿勢がなく、おそらく気づいてさえいないので、そもそも法改正を言い出した私がやるしかねえかなと。

本当は署名を始める前に議論をしておくべきでした。今さら言ってもしかたのないことなので、せめてこれからやりましょう。

おおっぴらに批判することに対する抵抗感は、法改正に対するくっだらねえ批判をするアホどもに利用されるのがイヤだということもあります。

「原発に反対しているのに、深夜営業させろというのは矛盾している」とか。矛盾してねえよ。ここに至ってなお「ピークの電力を拡散すればいい」ということがわかっていないんだから、救いようのない頭の悪さ。

以下書いていくことはあくまで「法改正した方がいい」というのが大前提。「どう法改正するべきか」という点での意見の相違を述べたものに過ぎません。イチャモン屋どもには無関係の話であることを確認しておきます。
 
 
まずはこちらのコメント欄を読んでいただきたい。

前々から私が抱いていた疑問ですけど、こういうことをおおっぴらに出すのがいいのかどうかよくわからず、こうやってコソコソとメルマガやFacebookには書いてました。とくにメルマガでは延々とこういうことを論じていました。細部に入りすぎて、読者の多くは理解できてないと思いますが、

このコメントについては磯部涼君がTwitterで紹介していて、先日のDOMMUNEでの「TALKING about風営法」第三章でも磯部君はこういう内容のことをLet’sDANCEの人たちに問うて、これに対してLet’sDANCEからの回答が語られていました。

しかし、その回答を聞いて、「これでLet’sDANCEの方針は根底から覆ってしまった」と思いました。もうはっきり批判した方がいいだろうとその時に思ったわけです。もうひとつ、多くのダンス教室が4号から外れたことも要因のひとつです。Let’sDANCEの方針を維持するメリットがほとんどなくなってしまいました。

改めて説明をします。風営法が定める風俗営業において、ダンスをさせる営業は、1号か3号か4号に該当します。ダンスを外すことで、現行のクラブは風営法の対象ではなくなり、単に飲食を提供する業種ということになります。深夜も営業するのですから、深夜酒類提供飲食店の届けがあればいい。これも風営法ですけど、風俗営業ではなく、たんなる届出で営業が可能になる。

となると、風営法に定められた時間の制限だけでなく、場所の制限が外れます。条例の定めがない限り、学校や児童施設、病院、図書館の近くで営業ができ、住宅街でも営業ができる。床面積の制限も外れます。年齢制限も外れます。経営者に対する制限も外れます。騒音の規制もゆるくなります。客引きの制限も外れます。そのほかモロモロの制限がなくなる。

このことをLet’sDANCEはここまでしっかり説明をしてきていないため、おそらく賛同している人たちや署名している人たちも、「風営法からダンスを外すと何がどうなるのか」というシミューレーションをやっていないと思われます。

具体的には学校の横にクラブができて、路上でゲロ吐いて寝ているクラバーの横を小学生が登校する可能性がある。ゲロ吐いて寝てなくても、その辺の公園にまだクラバーがたむろしているかもしれない。中学や高校が終わる時間帯に、クラブの客引きが生徒に「踊っていきなよ」と声をかけて、制服の中高校生が立ち寄る可能性がある。22時までは入場できますから。また、同時間までは18歳未満が働くこともできます。客引きも可能です。深夜の営業においても、騒音の規制が弱まる可能性がある。

この状態をこの社会は容認できるのかどうかです。Let’sDANCEに賛同する人たちでも、「学校の横はまずい」「住宅地にクラブができるのはまずい」という人たちがいて、クラバーにもそう言う人たちがいます。これは複数の知人たちに確認済みです。

これに対してDOMMUNEの「TALKING about風営法」第三章でLet’sDANCEは「条例で規制すればいい」旨の説明をしていて、Twitterでもこれに同意する人たちがいました。

よーく考えましょう。Let’sDANCEは「踊らせる営業」というクラブの定義を否定したわけです。では、ダンスという要件を使わずに、他の法規でどうやってクラブを定義できるのでありましょう。

クラブを「音楽を提供し、飲食を提供する営業」と定義をして、条例で学校周辺で営業できなくすると、ジャズ喫茶やクラシック喫茶までがその影響を受けてしまいます。あちこちにある「おいしい珈琲と音楽」を売りにしている喫茶店も撤退しなければならない。

「音楽を提供する深夜酒類提供飲食店」と定義しても同じで、住宅街の中にポツリとあるようなシャレたバーも撤退するか、BGMを流せなくなる。カラオケ・スナックも同様。

BGMを対象外にするため、「もっぱら音楽を提供することを主眼とする深夜酒類提供飲食店」と定義すると、「もっぱら」ってどこからどこまでだよということになって、またまた曖昧な定義に頭を悩ませることになり、ここがグレーゾーン化する。

住居と隣接する形で、昼は喫茶店、夜はスナックという営業になっているカラオケの店が田舎に行くとよくあります。そういうところで夏休みに高校生の娘が喫茶営業の時間に手伝いをしていたりするわけですが、そういうこともできなくなる。

すべての項目について言えることで、迷惑防止条例でも青少年健全育成条例でも、クラブの定義が厳密にできないと、他業種の規制を強めることになります。「なんでクラブのために他業種に皺寄せが来るんだよ」って話。かといって「踊らせる営業」という定義を再度持ち込むと、「だったら、風営法のままでいいべさ」ということになる。

このシミュレーションはメルマガでとっくにやっていて、「他の法規でこれを規制する」という代案は無効というのが私の結論です。それができるんだったら、風営法でやればよくて、わざわざ面倒で遠まわしなことをする必要はない。

改正を求める多くの人たちが主張するように「ダンスは健全であり、人間の自然な表現であり、規制の対象であるべきではない」というなら、「学校の横にあってもいい」「住宅地にあってもいい」「18歳未満が入場しても働いてもいい」「客引きをしてもいい」と主張するのがスジです。「卓球場と一緒であり、ことさらの規制は不要」と高らかに主張すればいい。これであれば、大きな反発が予想されるけれど、筋は通っています。しかし、「条例で規制すればいい」という回答は筋が通っていない。クラブは風営法の対象であるべきと言ってしまったに等しい。

なぜ少なからぬクラバーもLet’sDANCEも、そう言い切らないのか。風営法の役割や風営法におけるダンスの意味を改めて考える必要がありましょう。そこが欠落したまま、あるいはそこに誤解を孕んだまま、風営法改正の動きがここまで進んできてしまったというのが私の印象です。ここを修正しないと、先に進めないと思います。

2に続きます。最後までできているんですけど、ここまでで異論のある方はどしどしコメント欄に書き込んでください。

このエントリへの反応

  1. いつも松沢さんの問題提起には考えさせられます。そんな機会を与えてくれてありがとうございます!

    以下、勉強不足でシミュレーションも深いところまで達していない素人の意見ですが、読んで頂ければ嬉しいです。

    悪いのはダンスではなくて、酒です。(私自身は酒好きですが)
    だから、Let’s Danceの主張と同じく、あいまいな解釈を引き起こす風営法のダンス項目は削除する方向で考えていきたいです。

    「学校の横にクラブができて、路上でゲロ吐いて寝ているクラバーの横を小学生が登校する可能性がある。」
    こういった状況を引き起こすのはダンスでなく、酒です。
    この事例は、深夜営業する居酒屋、カラオケ、スナック、クラブ、どれにでもあてはまる事です。個人的にも、上記のいずれにおいても飲みすぎて朝方の路上ゲロに至った経験がありますので。汗

    だから、クラブは上記の深夜酒類提供飲食店営業の範囲でよいのではないかと。そして、深夜酒類提供飲食店営業のいずれも、学校や病院の近くにあるべきではないと思うのです。

  2. このあと出てきますけど、英米でなぜことさらにクラブの規制がなされていないのかと言えばリカーライセンスが厳しいからです。ダンスを持ち出すまでもない。

    WHOが日本に対して酒の規制を求めているため、いずれそうなるかもしれないし、それを要求する人たちがいてもいいと思いますよ。

    しかし、現に深夜酒類提供飲食店は朝まで営業できるし、場所の制限がない。Let’sDANCEは深夜酒類の規制強化を求めていない以上、その話は深夜酒類の規制強化がなされてからじゃないですか。現状、どうするんだってことです。

  3. お久しぶりです。お元気そうで何よりです。
    いつも風営法に関する深い考察にはホントに頭の下がる思いです。

    松沢さんが指摘するように、ダンス規制を削除した後のシュミレーションについて更に深い議論がなされなければなりません。その事については共感しています。
    Let’s DANCEがその答えを完全に提示していないことも否めません。
    今後の課題としてその事を詰めて議論していかないとと思っています。

    私は物書きでないので、うまくコメントできないのが歯がゆいし、ネット上での議論は苦手なので、久しぶりにお会いしてお話できればと思います。

    ただ、私自身は「ダンス項目の削除」を強く願っています。
    その理由はいくつかありますが、最大の理由は「私が青春時代に感じたダンスカルチャーやクラブが風俗営業とされていること」に納得ができないからです。
    また、風営法の成り立ちにも疑問があります。

    下記の論文を読みましたが、何やら犯罪防止としての法律のあり方にも疑問が湧いてきています。
    [“風俗営業等取締法改正と警察権の拡大” 渡辺治著】http://bit.ly/ZdkyY7

    上記の論文を読んで風営法完全撤廃!とまでは思いませんが、犯罪防止又は抑止するにしてももう少しバランスというのが必要なのかなと感じました。

    先日、20年前に共にクラブをプロデュースした友人とお話しました、彼は現在ブライダル施設のインフラ事業や街作り・再生開発の仕事を多岐にわたってこなしてるバリバリのプロデューサーです。
    その友人がクラブから去っていった原因の一つに風営法が大きく作用していました。
    スポンサーをつけるにしても風営法というマイナスイメージで集まらないとか、自身のビジネスを拡大していくにしても風営法が絡むクラブという業態はいつまでもアンダーグラウンドなまま、といった理由でした。

    彼に「もし、俺たちの活動により風営法からクラブが除外されれば?」という質問をしたところ、「もちろん、街作りに取り入れる可能性は大いにある。クラブが持つ影響力は街作りに有効だし、俺はそれをいくつも目撃してきた。」と言っていました。

    風営法という網がかかっている以上、クラブなどから優秀なプロデューサーやデザイナーが去っていく事を私自身、身を持って実感しています。私も8年前に引退していますから。

    こういう活動をするきっかけになった摘発に関してはいい意味で歓迎しています。
    こんな事でもないとモノグサな私は、動かなかったと思いますし。
    メルアドを記入しましたので是非お話する機会を作ってくださるようお願いいたします。

    松沢さんは、最初に「Let’s DANCEとは共闘できない」としていましたのでみんな遠慮していると思いますよw。
    それに、私の弁護団長は松沢さんにコテンパンにやられましたからw。

    あと、私自身は裁判を控える身なので、私の言動などが裁判に影響する可能性があります。
    そういった意味でも、ネット上での議論は控えめにしています。
    ご査収くださいませ。

  4. お会いする件についてはメールで。

    元気になったのは昨日です。それまではこの件については黙っていようと思っていたんですよ。どうせ誰か指摘するだろうとも思っていて、そのことまで予想しつつ、指摘次第では逆にLet’sDANCEの弁護に回るというところまでメルマガに書いてました。

    一人先回りしていたのですけど、ちいとも議論は深まらず、この間のDOMMUNEを見て、ここに書いたような決定的な疑問にぶち当たりました。

    で、金光さんの指摘は管轄の問題じゃないでしょうか。保健所の方がいいんじゃないかと私も思ってます。興行場法や食品衛生法との関係を考えてもよりスムーズでしょう。

    それならそれで方針を出す必要があって、なんにせよ、このまんまだとそこに行きつけないかと思います。