2015-04-08
第36回 火車Ⅱ 出会いゲーム
バラエティに富む出会い系
膨大な三行広告の中から、私の経験と勘が抜きだしたのは『男女交際・カラオケ飲食会』というものだ。
いわゆるデートクラブ的な男女紹介は多種多様にあり、それが自由恋愛といいつつ、売買春の温床になっていたのは有名な事実だ。仲介料金や交際料金が高額なため、利用しなくてもすぐにそれとわかるし、現在も名称を変えてデートクラブは存続している。女性はCAやモデル、AV女優、タレント、男性は医者や経営者などと限定しているところもある。当時も、高級志向を打ち出すところもあった。
ところがこの広告は“男女交際”“カラオケ飲食会”など、のどかな名称、かつ、事務所が私鉄沿線の鄙びたところにあると書かれている。胡散臭くもあるが、どこか、安心できるものもある。三行広告を見て連絡をすると、事務所に来てくださいと言われる。
電話をかけたその日に、その事務所へ行くことにする。普段、乗り慣れない私鉄沿線の駅に降り立ち、再び電話すると、事務所への道筋を案内される。マンションなどかと思ったら、古びたアパートへ案内された。出てきたのは、当時、既に50歳は過ぎたであろう男性で、風俗業者ではなく、職人のような佇まい。まず、主催者の免許書や資格などをコピーしたものを見せられる。普通は入会するものが身分照会されるものだが、主催者が入会者を安心させる算段だろう。決して怪しい人物でないことをアピールしていく。勿論、私自身も保険書やパスポートなどを提示させられ、身分照会をさせられた。
聞けば既に10年以上も活動していて、いわゆるデートクラブ的なところではなく、真面目に男女を取りもつ交流会的会で、ここで出会って結婚したカップルもいるという。男女とも登録制で、出会いを求める者たちをマッチングしていく。ちょっとした結婚相談所的な会で、各々登録料がかかり、デートするにはその都度、料金がかかる。会費は3名までの紹介で10000円、女性へのデート代は3000円くらいだった。3000円は直接、女性へ払ったと思う。
出会いを演出し、その先は自由恋愛となるのだが、ここでホテルなどに誘い、売買春などをすると男女とも規則違反となり、退会させられる。入会するとコピー用紙の会員規則のようなものを渡されるが、いきなりホテルに誘うなどは厳禁とされ、何度も会うことで、いわゆる不特定多数を紹介するとは違うということらしく、法律的には違法ではないそうだ。
次に会う時は、また、会にセッティングをお願いすることになる。会員どうしが直接、電話番号を交換することは敢えて勧めてはいない。女性は、会を通すことでまた、デート代を貰えるから、すぐに教えるようなことはしない。
同会ではカラオケ飲食会などの集団お見合い、合コン的な飲食会も開催したりしている。一度、出たことがあるが、事務所の近くのカラオケパブで、昼から男女が健全にカラオケに興じる。あまり色っぽいものではなかった。
また、“寄宿”という制度もあり、地方から来たり、旅行で東京に来た女性が宿泊するところがないと、その場を提供するというのもあった。事務所が入っているアパートも数部屋がお泊りのための部屋になっていたし、実際に自分のアパートやマンションに住まわす 会員もいたという。
登録している男女の年齢や職業がバラバラで、既婚、独身関わらず、いろんな人種がいた。当時の私からしてみれば、男女とも年配の方が多く、女性は性的な対象というより、近所の食堂のパートのおばさん(失礼!)という感じの方が多かった。
私も何度かセッティングしてもらって女性と会ったが、完全にデート代をもらうために来ているという感じで、1時間ほどお茶をして、次に繋げようという感じを持つこともなかった。
まったくの健全運営だが、同所が変わっていたのは、時々、3Pを希望する夫婦やカップルからの要望にも応えていたことだ。当然、会則を書いたテキストなどにはそのようなことは明記されていないが、何故か、そんな性癖を持つ方から依頼があり、私自身、そんな遊びをしていることを言っていたからか、私に声がかかり、派遣され、ホテルまで行ったことがある。その場合、紹介料を会に払うものの、そのカップルに参加費を払うこともなく、ホテル代を折半することもなかった。バブル期のことである。景気のいい不動産屋のおやじが愛人との逢瀬の刺激剤として、私が呼ばれたという感じではある。
同会の他に、私が探し出した出会い系でいまでも印象に残るのが、カップルでレストランやバーへ出かけて覆面調査をするというバイトに見立て、出会いを演出するというものだ。
この会も事務所は何故か、同じように私鉄沿線の鄙びたところにあった。こちらはアパートではなく、マンションだった。主催者はいまでいうところのIT企業系の若手起業家、もしくは広告代理店勤務風の40代の男性だった。
同所の出会いの演出がいかにも広告代理店的な発想で驚いた。いわく、紹介した女性とレストランやバーなどへ行き、覆面調査のようにそのレストランの味や接客などを二人で評価しながら報告書を作成するというもの。吊り橋理論ではないが、二人でことを成し遂げる、それも危険では当然ないが覆面調査員というわくわくどきどきさせるという演出があったのだ。しかも、女性は覆面調査のアルバイトとして募集とし、当然、そこで面接は済んでいる。女性にはアルバイト代(私が事務所で二人分を預かっていることになっている)として5000円を渡してほしいといわれていた。飲食代は私が負担することになっている(これも事務所に後程、精算するものと説明されている)。そして直接、女性の連絡先を聞き、調査後もやりとりをしていいといわれた。会には1回につき、5000円ほどの手数料を払うことになっている。
なんだかんだ高くつくが、自然な出会いを演出し、かつ、電話番号を取れ、さらに場合によっては継続して調査名目で会うことも可能だ。勿論、ストレートにデートへ誘ってもかまわない。良くできたシステムである。
実際、私も利用させていただいた。多分、新宿御苑のビストロだったと思うが、同所に現れたのは20代の会社員で、デザイナーズブランドをシックに着こなす可憐な女性だった。まことしやかに味や接客を採点シート風にメモしていく。食事だけ、1時間だが、二人で何かをするという共同作業によって随分と親密度を増していく。
お見合いなどと違い、作業だから会話も弾む。いい切っ掛けつくりである。幸いなことに電話番号を貰い、その後、何度かやりとりをしたが、デートにはこぎつけることが出来なかった。勿論、私の目的はデートではなく、セックスである。面倒くさい手続きは後回しだ。
そんな出会い系のプチ風俗(!?)をいくつか、海外の高級ブランドに務めるその女性に紹介した。私が紹介人になったので、紹介の特典として私にも無料で3名を紹介するといわれたが、遠慮させていただいた。時間と金の無駄だ。
これらはいわゆる風俗や水商売ではないので、特にノルマもないし、通う必要もない、単なるデートまでだから売買春に関わることはない。当時は、女性に都合のいい、割のいいアルバイトがたくさんあったのだ。
その女性の同会の利用率は高く、同時に、彼女のリピーターもたくさんいたようだ。随分と、借金返済の足しになったのではないだろうか。
その女性には人を誑す魅力があったのだろうか。ある日、実家から引っ越すことを告げられた。同じ千葉でも茨城寄りではなく、東京寄りのマンションに住むことになったという。本人は借金まみれである。引っ越し、一人暮らしをする余裕などはないはずだ。
聞けば、かの交際サークルで出会った不動産屋(当時はバブル期、一番、羽振りがよかった)のオヤジに部屋を用意してもらったという。よく、ホステスなどが愛人として、“パパ”からマンションを買え与えられたという話は聞いていた。自分が管理するマンションで、借主が決まっていない空き部屋を融通したようだが、それが身近なところで起こり、驚く。愛人契約というほどではないが、部屋代や光熱費などは勿論、タダ。会うたびに“おこづかい”もくれるという。意外なところで、大物を釣り上げたのだ。
そのマンションは、私達の逢瀬の場所にもなった。その不動産屋は既婚者、そう頻繁に立ち寄れないし、泊まることも出来ない。彼女の仕事終わりの時間を見計らって、最寄りの駅で待ち合わせし、マンションへとしけ込んだ。
ある日、そんな感じで二人で部屋にいた時、時間は夜の9時過ぎだろうか。突然、部屋のチャイムが鳴った(残念ながらオートロックではなかった)。同所に来る人間は限られている。彼女は察知していたのだろう、鍵穴から外を覗きながら、私の靴を玄関から持って来て渡す。そして、ベランダに隠れるように指示された。
いま、風呂上がりだからちょっと待ってと時間を稼ぐ。そのパパが部屋に入ってくる頃には、私はベランダに隠れ、靴を履き、荷物を抱えていた。幸いなことに部屋は2階だったため、ベランダの手すりに手をかけ、足を伸ばすと、地面はすぐそこ、隣の敷地へ飛び降りた。よくドラマで見るようなシーンだが、まさか、自分が間男を演じるとは夢にも思わなかった。私なりの大脱出である。周辺にいるのも危険と思い、何故か、おかしくて笑いがこみ上げつつも、最寄駅まで急ぐ。
彼女はうまくパパを転がしつつ、愛人としておこづかいをせしめていたが、出会い系のアルバイトをしていても家計は火の車、とても借金を払いきれない。高い利息に追われ(当時は消費者金融の金利の限度額が規制されていなかった)、後の闇金や街金などに手を出してないだけましではあったが、毎月末は返済のための支払いのラッシュ。頻繁に催促もある。もっとも、それでもブランド品などの買い物はやめることはできなかった。ブランドショップ店員の宿命だ。バブル真っ盛り、ジュリアナ(一世を風靡したディスコ)などで派手な“ジュリ扇”を振り回し、お立ち台でわが世の春を謳歌していた女性の実態とは、意外とこんなものだったのかもしれない。実際、その女性はかのバブルの巣窟のトイレで、有名タレントとことに及んだことがあったという。バブルの光と影とでもいうべきか。
私自身も彼女のために振込み金額を負担したこともあった。もっとも、それにも限度がある。当時、実家住まいで比較的収入もよかったので、金回りはよかったものの、既に200万以上に膨れ上がった借金の返済には、とても対応できるものではなかった。
最終的に、金利などを考え返済計画を練り、何故かその女性のご両親に面談し、通常の金融機関に200万を借りていただき、彼女の借金を肩代わりしてもらった。そしてその金額を10年計画で彼女に返済してもらうことにした。農協か何かで借りたらしいが、高金利で利息を返済するのに精いっぱいという悪循環から抜け出ることができた。
以前、私が関わったインチキな学生企業で、消費者金融で借金させられた経験が良くも悪くも役に立ったのだ。
そんなこんなで、彼女とは親密な関係を維持しつつも遊ぶことはやめなかった、それが私でもある(笑)。
ただ、秘密クラブや乱交パーティなど、彼女と行くことが多かったが、彼女が他の男性と絡んでいると、嫉妬をしたものだ。元々は前述通り、遊び場への通行手形的な存在という発想だったが、単なる身体の相性だけではなく、気持ちも持っていかれたということか。その場でいろんな女性と絡む(プレイ)ことができたにも関わらず、彼女としかしないことも何度もあった。ある意味、浪漫派ではないが、そんな心や気持ちを揺さぶられるのが楽しくもあったのだ。
なんだかんだと1年くらい付き合いが続いた。が、別れは突然やってくる。なんと、「男女交際・カラオケ飲食会」で出会った会社員と結婚するというのだ。出会いゲームの先の結婚とは、縁とは異なものである(涙)。
ちなみに、件の「男女交際・カラオケ飲食会」、まだ、存続する。街中の電柱などに同会の名称を書いたチラシが貼られている。同会の風景、いまにしてみたら、中高年のための“婚活パーティ”に似ていないこともない。同会には私の名簿も残っているらしく、恐ろしいことに思い出したように実家に数年に1回、案内状が届く。その案内状を読むと、仕切りは息子夫婦(主催者の息子で同会にて結婚相手を見つけたようだ)に任せているが、主催者(多分、いまは70代か)も元気に活動しているようだ。出会いバカ一代、継続は力なり。私も“アラ還”になったら利用してみるか!?