2013-10-08

第30回■サマーヌード〜日本縦断テレクラの旅Ⅰ 札幌編

2013年の夏は、猛暑とゲリラ豪雨と、竜巻と突風と地震。そして、福島第一原発からは汚染された地下水が漏れ出した。“招致”のため、コントロール下にあると、世界に向けて大嘘をつくものもいたが、いかがなものだろうか。

20年前の夏、1993年の夏は、私にとって、“日本縦断テレクラの旅”の夏だった。あまりにも阿呆らしく、馬鹿げているが、“いいじゃん、夏なんだから”(by「ビーチボーイズ」)。

訪ねたのは、北海道は札幌と九州は福岡、そして、関西は大阪である。丁度、私が関わる企画会社のイベントが各所であり、その視察と応援を兼ね、1週間で、三ヶ所を回ることになった。仕事ゆえ、“相棒”がいる。同行するのは、幸いなことに、仕事仲間では珍しく、私の夜の行状を知る同年代のフリーカメラマン。テレクラ歴5年の強者である彼と示し合せ、全国縦断するなら、各地のテレクラを体験するという“旅打ち”することにしたのだ。

札幌ですっぽかしの嵐!

私達の“グレート・ジャーニー”は、東京サミット(第19回先進国首脳会議。1993年7月7日から9日まで日本の東京で開催された)のために過剰警備が布かれ、まるで戒厳令下の街のような東京を抜け出すことから始まった。

1日目、梅雨の影響でこの日は大雨。うっとうしいこと、このうえない。そればかりか、午後4時発の札幌行きのANAは、その機体を雨に晒し、まだ、飛び立てないでいた。悪天候。期待とは裏腹に、空を覆う暗雲のような、心に黒い雲がかかる。心はブルーに染まっていく。飛行機は定刻を20分ほど過ぎて、羽田を飛び立つ。

札幌の千歳空港には2時間ほどで着く。前年、1992年に新設された同空港はハイテックな作りで、当時、私が仕事で何度も訪れたパリのシャルル・ドゴール空港を彷彿させる。

札幌へは新設されたJRで行く。地下から地上に出ると外は梅雨のない北海道。からっと、晴れ渡っている。車窓には広大な田園風景が広がる。札幌に着くと、仕事仲間と合流し、簡単な打ち合わせをして、この日の仕事は終わり。いよいよ、テレクラ・タイムだ。

相棒とともに、札幌の繁華街・すすきのにあるテレクラ「BEAT」を目指す。店は予め、同地のタウン情報誌(当然、夜のタウン情報誌である!)で、調べておいた。道内では優良コールの多い店として評判だという。

同店はとてもテレクラとは思えない豪華な作り。聞けば、オーナーは元々、建築関係の仕事をしていたという。テレクラへの異業種参入。当時、儲かる投資先だったのだ。

店内の装飾は本職だけあって、変に華美ではなく、小奇麗にまとまっている。都内のテレクラに比べたら雲泥の差だ。ボックスもスペースにゆとりがあり、チェアーも極上のリクラニングシート。ボックスに入ると、テレビ電話が設置されていた。

プリペイド・カードを買って、IDナンバーと暗証番号でアクセスすると、すぐに繋がる。電話で話し、相手に画像を送ってもらう。静止画像だが、相手の顔がわかる分、親近感がわく。こちらの画像も送る。お互いの雰囲気がわかるだけでも安心感がある。何人かと話してみる。話が乗ると、裸の画像を送ってくれるものもいる。胸だけでなく、秘部のアップまである。その中で、少し話し込んだ20代のOLとアポが取れ、店の前で会うことになった。午後11時30分。店に入って2時間で初めて取れたアポ(テレビ電話に嵌り過ぎ!?)だ。身長は150cmにも満たない、小柄だが、画像を見る限り、ルックスは悪くない。店の前で待つこと、30分。彼女はやってこない。すっぽかしだ。

考えてみたら、普通に会おうという女性がテレビ電話を所有しているわけがない。いまでいうチャットレディーみたいなもの。予め、仕込まれたサクラ。アポが成立するわけはない。Hな画像が見れただけ、ましというものか。

気分を変え、テレビ電話から普通の電話に替えてみる。この店は取り次ぎ制。札幌は取次がほとんどで、早取りはあまりないという。県民性だろうか。1時過ぎにアポが取れる。グレイに白の水玉のブラウスに白いイージーパンツ、紺の巾着型のバッグと、待ち合わせの目印を細かく教えてくれるから、可能性ありだ。会う気がなければ、服装などはいい加減に教えるもの。ところが、待ち合わせの場所にはこない。これもすっぽかしである。

相棒もアポを試みるが、思うようにアポが取れない。深夜になってもコール数は減らないが、なかなか、呼び出すことは難しい。

閉店間際の5時にアポを取る(翌日というか、今日も仕事があるというのに、熱心なものだ!)。純然たるアポではなく、おこづかい目当てのものだが、とりあえず会うだけでも会ってみる。勿論、会うという経験値を上げるためのもので、当然、おこづかいを上げて、身体をいただこうという気はない。すすきのから車で15分ほどのファミリーレストランで待ち合わせをする。

夜のドライブ

5時過ぎに彼女はやってきた。当初、家の近くということで、歩いてくるものばかりと思っていたら、車で来た。赤いホンダ・インテグラがファミリーレストランの前に横付けされる。車から出てきた彼女は、いわゆるコンパニオン系の見映えのする、いい女だ。

とりあえず彼女と食事(朝食!)をすることにする。彼女は20歳を過ぎたばかりのフリーターで、驚いたことに昨年はストリッパーとして、日本中を回っていたこともあるという。その時には、誰もが知るAV女優と共演もしている。

彼女は問わず語りに最近、失恋したことを切り出す。半年前に恋人に女を作られ、逃げられたという。そのショックから立ち直れないでもいる。おこづかい目当てのテレクラ利用も単純に金銭だけでなく、ひょっとしたら自傷行為の一環かもしれない。

ファミリーレストランを出て、ホテルにしけ込むのではなく、彼女の車で市内を当てもなく走る。

「私って、本当の恋をしてないの。いつも相手に言い寄られて付き合ってしまう。今度は自分から好きな人に付き合って欲しいといいたい」

彼女のそんな言葉に被さるように、カーステレオからは大瀧詠一が書き、稲垣潤一が歌う「ヴァチュラーガール」が流れてきた。“独身女性”という意味のタイトルがついたこの歌が流れたのは何かの偶然なのだろうか。

二人は話過ぎたようだ。彼女に泊まっているホテルの前まで送ってもらい、別れた。

翌日(というか、もう日が変わっている)も「BEAT!」へ。当然、僅かな仮眠後、仕事を難なくこなしてからだ。

同日は週末、土曜日。土日に休みのOLが特に多いという。ところが、天気が良すぎて、外に出てしまったのか、コールはほとんどない。

夕方、20代のOLと話し込む。東京から出張で札幌に来て、街をガイドしてくれる女性を探していると伝えると、快く引き受けてくれるという。おまけに相棒が一緒だというと、友達も連れてくるとまで言ってくれた。ちょっとした合コンだ。その話を相棒に話すと、そわそわして、伸びていた髭を剃ろうとする。待ち合わせは近くの駐車場、白いチェイサーでやってくるという。しかし、またしてもすっぽかし。待てど暮らせど、そんな車はやって来ない。相棒の落胆ぶりはいうまでもないだろう。

その後、アポ取りを試みるが、電話がほとんどない。テレビをつけると、その年、開幕したJリーグの鹿島アントラーズと横浜マリノス戦の中継をしていた。いまでは代表戦以外は考えられないだろうが、意外な大敵だった。

コールが少ない中、20代半ばのOLと話し込む。実に感じのいい女性で、会話に熱が入る。ようやく会おうという話になると、おこづかい目当てということで興ざめしてしまうが、それでも会うことにした。いや、それでも会いたかったのだ。店の近くのシティホテルのロビーで待ち合わせる。そこに現れた彼女はとてもおこづかいをねだるような女性には見えない。品格が備わっている。理由を聞くとカード・ローンの返済に困っているという。道央から出てきて、札幌で一人暮らし、けして贅沢をしたわけではないが、気づいたら、ローンに追われていたという。

だが、彼女と金銭のやりとりをすることを出来なかった。そういう関係になることが我慢ならなかったのだ。そのことを正直に話し、帰ってもらおうと思ったが、ここで別れるのは辛く、未練がましいけど、だめもとで食事だけでもと誘ってみる。自分勝手で、彼女にとっても迷惑かもしれない申し入れだが、付き合ってくれる。

彼女の案内で、すすきの居酒屋へ行く。ホッケやエボダイを焼いてもらう。地元の人が薦める店だけに美味しい。ビールや日本酒、ワインを交互に飲む。彼女の顔が色っぽく染まっていく。とても数時間前に話したばかりとは思えないほど、親密な空気が流れる。彼女は心地良く酔わせてくれる。11時近くまで彼女と過ごす。店を出て、二人は別れた。私の胸に痛みが走る。わずか数時間の出会いと別れ。切な過ぎるというもの。

私がセンチメンタルなドラマを演じている時、相棒は河岸を変え、「ペンギンクラブ」で、アポ取りに挑んでいた。同店はすすきの中心にあるという最高のロケーション。コール数も札幌一と言われている。7時に20代半ばのOLとアポを取る。公衆コールだから、会える確率は高い。約束通り、待ち合わせの場所に現れた女性は、可愛らしい声とは裏腹に顔は老け、体格も小太りで、相棒にとっては魅力的とはいいがたい。その場から立ち去ろうとしたが、アポは取った手前、すっぽかすわけにはいかず、居酒屋へ行くことになったという。北海道の新鮮な魚介類をつまみにビールで乾杯をする。その女性は、この秋、ナンパされた男性と結婚するという。そんな約束がある身にも関わらず、話題は猥褻なものになり、誘惑のサインが送られる。毒気に当てられた相棒は11時過ぎに店を出て、その女性を駅まで送る。途中、大通り公園のベンチの酔いを覚ます。据え膳食わぬは男の恥などという古式ゆかしいことわざがあるが、食わないところが相棒らしいところか―。

その頃、私は大通り公園の側のテレビ塔まで来ていた。居酒屋を一緒した女性と別れ、店に戻って、すぐの公衆コールで、二十歳のOL二人組に呼び出され、タクシーで駆けつけたところだった。ところが、すっぽかし、待ち人来たらずだ。

翌日に備え、ここでホテルへ戻ればいいものの、私も河岸を変え、「ペンギンクラブ」で、相棒と合流。さらに電話と格闘を続ける。深夜になると、すすきのらしく、店を引けた水商売や風俗の女性の電話が増える。アポを取るという感じではなく、暇つぶしに付き合わされる。おこづかいをねだる電話も増えだす。札幌郊外からの電話も多く、話が盛り上がるが、遠過ぎて行けない。店長は、札幌は車がないと、と言っていたが、機動力さえあれば、アポ率は飛躍的に伸びていただろう。

「ペンギンクラブ」は、土曜日はオールナイトで、朝までやっている。二人は朝9時40分の福岡行きの飛行機が出る直前まで、店で粘る。寝不足で朦朧となりながらも、コールが鳴ると、反射的に電話を取ってしまう。習慣(!?)とは恐ろしい。

二人は疲れた身体と心を癒す間もなく、ホテルへ荷物を取りに戻り、空港へと向かう。そして、福岡へ旅立つ。私達の旅は始まったばかりだ。