2012-07-17

第8回■エコーズ

転戦

“相棒”との転戦(というか、相棒との出会いによって、出会った人達との転戦かもしれない)の模様を簡単に書き記しておく。

池袋の合コンで会った“お嬢様”から知り合いの女性を紹介された。
それも一人や二人ではなく、かなりの人数になる。そのなかには、全国展開する“花嫁学校”(いまとなっては、曖昧な学校である)の経営者の息女もいた。いまでいう“セレブ”な出自で、まったくの箱入り娘。誰がどう見ても美人という容姿で、有名なテレビ番組の放送作家や映画のプロデューサーなども知り合いだった。そういう意味では、箱入りといいつつ、なかなか、好奇心旺盛な発展家でもある。

何故、私などを紹介したかわからないが、“お嬢様”の豊富な人脈のバリエーションを示すには、私の登場が必要だったのかもしれない。私も紹介された手前、その女性と“デート”らしきことも数回した。ただ、イタリアンにフレンチ……店選びやメニューなどに気を使ったデートなどは、面倒くさいとしか思えなかった。勿論、継続するはずもない。

また、先の“合コンお嬢様”の人員の調達先である、異業種交流会的な社会人サークルにも顔出しさせてもらった。そのサークルでは合コンだけでなく、クルージング、キャンプ、テニス、ゴルフなどもしていたので、私もそれらに参加した。

そんな中から、共同でディンギー(小型のボートのこと。一般的には風を動力とするセーリング・ディンギー、ヨットを指す)を持とうなんていう話がされ、本気で葉山や逗子に係留させようという案も出ていた。まさに、バブリーな、あの時代ゆえのことか。

大学時代に仕事をしていなかったら、当時の大学生や新卒の社会人がしていそうなことをこのとき経験していたのだと思う。それだけ、世の中は浮かれていたのだ。

恥ずかしながら(そんな恥ずかしがることはないが、私の感覚では充分に恥ずかしい)、社会人サークルでは、合コン感覚で、初めてかの“鼠の国”にまで行くことになった(そこから名前を拝借した風俗店、ティズニーには行ったことがあったのだが!)。しかし、それは苦い思い出となった。たまたま、同行した男性の中にいわゆる女性に嫌われるタイプの男性がいたため、いつの間にか男子と女子のグループに分かれてしまい、「ホーンテッドマンション」は男同志でドゥームバギーに乗る羽目になったのだ。おまけに「ビッグサンダー・マウンテン」ではキャストから男性同士でいらしたんですか、と、余計なことをいわれる始末(涙)。

サークルの仲間が顔出ししていた“ねるとんパーティ”にも行き、そこでもちゃっかり当たりをつけ、何人かとそういう(ご想像にお任せする)関係にもなった。ねるとんパーティは元々、いまでいう婚活というか、出会いを求めているわけだから、ストリートなどで何を目的としているかわからない女性にやたら声掛けするよりは効率はいい。ある意味、前のめりだから、ひっかかりもいいわけだ。もっとも婚活といいつつ、まだ、結婚などまるで考える気はなく、悪い言い方だが、美味しいところだけをいただいていた。

そんなことをしているうちに、ねるとんパーティの主催者とも仲良くなり、気づいたらイベントの“お手伝い”をするようになっていた。

これはテレクラや風俗遊びにも通じるコツ、つまり“スタッフを味方につけろ”だ。
私は人垂らしではないが、気づくとうまく取り入っている。変な競争心を持ったり、他人を押しのけたり、店員やスタッフのことを見下したり、ぞんざいな口をきいたりせず、どこか仲間のように接していたからだろう。不思議と気に入られ、知らぬ間に仲間に引きずり込まれている。だからといって、完全なスタッフではない。あくまでも、お手伝い。ここが重要だ。

ただのねるとん参加者や完全なスタッフではないニッチな立場が、女性には新鮮に映る。気軽にスタッフに話しかけていれば、“偽客(さくら)”と思われる。さくらというと、たとえばテレクラなら、店に雇われ、やたら話を長引かせつつもアポは取れない女の子、のように悪いイメージがあるが、ねるとんでは、本気で参加している男性とは違って、いい意味でのジョーカー的な視線を浴びることになった。特に意識をしていたわけではないが、自然といい立ち位置を獲得していたようだ。

ちなみに、元祖“相棒”からは、彼が後に奥様となる女性と付き合い始めた頃、彼女の同級生を紹介され、ダブル・デートなどもした。彼女と“ラブラブ・モード”(懐かしい表現だろ?)になる彼としては、私を“更生”させるための御膳立てだったかもしれない。
紹介されたうちの一人はデパートのブランド・ショップのチーフ、もう一人は実家の花屋の手伝いである。

前者は高級ブランドらしい優雅さを持った淑女、後者は気立てのいいあいくるしい美少女。“あいくるしい”など、綾瀬はるかに先駆けること、10年以上も前。その顛末だが、相棒には悪いが、私には邪まな遊び心が疼いている、“欲望と痴情の世界”に相棒の彼女の親友を巻き込むわけにはいかない。やんわりと、撤退させていただいた。

この転戦の模様を書きあげたら、切りがない。隠しネタは無尽蔵にある。その模様は、またの連載(!?)に譲らせていただこう。密かに楽しみに、お待ちいただきたい。

連日連夜、遠征、転戦を繰り返した私だが、その時に意識したのは“エコーズ”という響きや軌跡である。
池や川に小石を投げ込むと、波紋は際限なく、広がっていく。その広がる様や行く末を追いかけ、それに身を任せてみる。

実は、現在、作家として、また、中山美穂の亭主として知られる辻仁成(ひとなり)が辻仁成(じんせい)時代に組んでいたバンドがエコーズという。バンド名そのものはピンク・フロイドの同題の曲から取ったそうだが、同時に曲名だけでなく、小石を投げ込み、波紋を広がるということからも取ったというのを覚えていた。私自身もまさに池や川に小石を投げ込む人でありたいという思いであった。

ある意味、行き当たりばったり、出たとこ勝負。あるがまま、なるがままに身を任せるという感じだろう。気づくと、池や川の波紋のように、いろいろと人間関係が広がり、人の縁が繋がっていく。そのありていを楽しみつつ、その絆を紡いでいったのだ。

30代のバツイチ子持ち女性の自宅へなだれこむ

といささか、文学的、哲学的(というほどではないが)に話はずれたが、前回、ティーザー広告的に紹介した30代肉感女性について触れておかなければならない。いまでこそ、“バツイチ”という言葉が流布しているが、同表現は1992年からで、同年には流行語にもなっている。まさに、その女性はバツイチ、かつ、子持ちだった。

かの相棒と出会ったテレクラがきっかけで、彼女と暫く付き合う(私の付き合うだから、あまり真面目にとらないでいただきたい)ことになったが、最初の出会いは、鮮烈であった。

その30代肉感女性との出会いは“黒革の手帳”を見ると、88年4月とある。多分、深夜になる前、自宅から掛けてきたのだろう。待ち合わせ場所は不確かだが、とりあえず、お酒が飲みたいので居酒屋へと行こうということだったから、歌舞伎町のどこかだったと思う。

第一印象は、肉感的ということ。グラマラスというより、ムチムチとしている。だからといって、肥満というわけではない。卑猥な表現だが、抱き心地が良さそうな身体である。顔は当時、ホームドラマなどで、人のいい、お母さんの役をやっていた女優に似ている。残念ながら、その女優の名前は思い出せない。

離婚経験と子供ありという女性だが、元のご主人が経営する洋装店で、いまだにパート的に働いているという。離婚の原因などはあまり詳しくは聞いていなかったが、ご主人の浮気ではないようだ。それなら、仕事を一緒にすることなどはできないだろう。

仕事や子育て(子供は小学低学年)のストレスを吹っ飛ばしたいという。歌舞伎町の居酒屋に連れて行くことにした。実は同店、私の仕事仲間から聞いたところで、馬刺しとレバ刺し(いまではレバ刺しは幻になるが、当時はそんなことはない)が上手いところで、あまりレバーは好きではないが、そこのは平気食べれた。ニンニクとショウガが絶妙なバランスに醤油に絡み、絶品である。何故、表(という表現も変だが)の行きつけの店に彼女を連れていったかわからないが、なんとなく、信頼できる女性であると、判断したからだろう。一瞬の人の見極めは、直観のようなものだが、安全と危険の仕分けは、自然としている。なにしろ、不夜城・新宿を泳ぐ“新宿鮫”である。危険察知能力は、高まっている。危険を察知し、回避する術は、このような遊びをしながら習得していった。

まずはビールで乾杯をするが、すぐに焼酎に切り替わる。飲む量は半端ではない。鯨飲馬食という言葉があるが、私の想像を超えた飲みっぷりだ。むしろ、焦って酔おうとしているかのようにかき込む。よっぽど、嫌なことがあったのだろう、とにかく憂さを晴らしたいようだ。

その嫌なことや憂さの原因などは話してくれることはなかったが、飲み進み、酔っぱらってくると、色っぽくなるというより、怖いくらいに目が座る。そして、やたらと絡んでくる。私などは、どうせ身体目的のスケベ男という扱いである。勿論、彼女の見立てに間違いはなく、身体目当て以外の何物でもない。元のご主人に対する不満や子育てへの不安などをそれとなく聞いてみるが、あまり、まともな答えは返ってこない。大変な女性につかまってしまった、できれば、早く帰りたいというのが正直なところ。いまでこそ、離婚し、子供を育てている女性は少なくなくないが、まだ、当時は実際の数字以上には珍しいと感じられていたのかもしれない。周りの見る目なども余計にストレスを増殖させていたように感じる。

さらに酔いが回ると、いきなりキスをされる。酒臭く、とても下半身が反応するという類のものでもない。フレンチキスやディープキスなど、キスの手技に則ったものでなく、貪るようなキスだ。私的には奪われるというより、襲われるという感じだ。さらに、今度は首筋にキス(というより、噛みつく)、キスマークという可愛いものではない、噛み痕がついてしまう。本当に傷跡(!?)が残り、何故か、必要のないスカーフを数日間、する羽目になってしまった。

私自身、あまり酒を飲まないこともあって、酔っ払いの介抱は得意としていた。また、テレクラで会っただけで、素性もわからない女性だが、流石、捨て置くようなこともできない。それなりに責任感の強い私である。

まともに歩ける状態ではないので、私が彼女の家に送ることになる。幸いなことに家は歌舞伎町から車で10分ほど、さらに都合のいいことに、子供は両親の家に泊まりに行っているという。

タクシーにその女性を必死に担ぎ上げ(酔っぱらうと女性は本当に重くなる!)、乗せて、10数分で、彼女の家に着く。名称はマンションとあったが、どちらかといえば、アパートというのが相応しい。幾分、生活臭の漂う建物である。彼女から鍵を預かり、扉を開け、玄関からすぐの部屋に入る。その女性は倒れ込むように寝てしまう。男性を部屋へ上げる、いくら酔っているとはいえ、これはOKのサインだ。好きにしてくれといっているようなものだ。

居間に倒れている彼女を抱きしめると、強く抱きしめてくる。意識がある証拠だ。決して、酔った勢いで、何かをしようとしているのではない。ある種、自分自身を納得させながら、身体を抱きしめたまま、唇を奪う(今度は私が逆襲する番である)。酒臭さは相変わらずだが、居酒屋でのキスと違い、下半身を刺激する。

服を脱がせにかかる。大人しくセーターを剥ぎ取る際には、両腕を上げる。そして、スカートもすんなりと腰を浮かし、脱がしやすいようにしてくれる。

下着姿になると、予想通り(!?)の肉感的な肢体が現れる。程よい肉付きと、肌理の細かい白い肌がビールと焼酎で赤く染まる。裸体の紅白歌合戦やー。

さらに下着を脱がせようと、手にかけ、いざ、これからという刹那、彼女は懇願する。

「子供と一緒に住んでいる家ではやめて!」

ならば、どこならいいんだ、と、突っ込みを入れたくなるが、まるで、どこかで見た光景、何か、毎度のコントの落ちみたいだが、いつもいいところ、直前で駄目出しをされてしまう。

そんな言葉を無視し、顧みることなく、そのまま、脱がしてしまっても良かったのかもしれない。むしろ、その言葉は、ただのエクスキューズに過ぎず、本心ではなかったと取ることもできる。しかし、詰めの甘い、ごり押しが出来ない私である。そこで一気にテンションが下がり、邪まな欲情も一瞬にして萎えてしまう。こうなったら、潔く撤収するのみ。私は悔恨と安堵を抱きしめ、タクシーに一人、乗り込んだ……。