2005-11-13

警官の暴力、フランス暴動、サルコジ内相の「社会のクズ」発言

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旧聞に属する話かもしれませんが、NHK記者が連続放火容疑で逮捕されたそうで。フランスの暴動がついに日本にも伝播したのか……と思ったのですが、暴動より前から放火していたようですね。

ところで、100人予約が集まれば出版されるという予約投票プロジェクトに出した拙著『PHOTOエッセイ Gay @ Paris』に続々、予約がついています。フランス暴動のあおりでしょうか。暴動にあおられて火をつけるよりは、仮予約していただいたほうが無害でよろしい。

予約はこちらから


ほぼ毎日ブログを更新する珍しい衆議院議員・保坂展人氏の『どこどこ日記』で、パリは燃えているか?と呼びかけがあったので、パリの状況について少し触れます。

金曜日は休日でしたので、パリ中心地・レ=アールの映画館に夜、「隠し剣 鬼の爪」を見に行きました。映画開始の少し前についたのでエスカレーターにのって地上に出ました。エスカレーターの地上出口で毎週金曜日の夜は極左政党『労働者の闘い』活動家が二人、週刊『労働者の闘い』を1ユーロで売っているので、それを買いに行ったんですね。政党機関紙ですと共産党の日刊紙『L’Humanite』と極右・国民戦線が発行する『週刊国民』は駅のキヨスクで売っているので手に入れるのに苦労しません。前者の日曜版と後者を毎週わたしは買っています。

さて、レ・アールの地上に出てみたのですが、休日ということもあり、活動家の姿は見えません。わたしはエスカレーターの下りにのりました。そしたら、男性警察官四人に拘束された黒人の若者一人がのぼってきます。若者は警官をずーーっと罵倒して彼の左にいた警官に頭突きを食らわしました。すかさず右にいた警官が思いきり彼の頭を右手で殴りました。制裁です。

4月1日にこのブログで書きましたけど、パリの警察官って若者に威圧的な態度で職務質問を日頃からしています。プラットホームですと警官数人が壁のあるところに連れて行き、職質対象者の体を壁に押しつけ、時には両腕をつかみ、全身を触っていきます。カバンなんかもっていますと、別の警官が中身を全部検査します。

デート中のカップル(♂+♀)の男性に突如 持ち物検査を要求するなんていうところを二回見ました。複数の警官に突如彼氏が身柄を拘束されて壁に体を押しつけられる様に、彼女のほうは涙を流していました。

パリ郊外の暴動で警官が若者に暴行しているところをテレビカメラが撮影していた為に、警官が処分を受けました。しかし、暴行なんてのは日常茶飯事のことでしょうヨ。なんせ、最高責任者であるニコラ=サルコジ内務大臣が「社会のクズ」(la racaille)「ゴロツキ」(le voyou)「一掃する」と呼び続けているのですから。処分を受けた警官とて「社会のゴミをゴミ扱いして何で処分されにゃアカンのや。大臣が『一掃する』いうてるやないか」なんて内心 毒づいているんじゃないでしょうか。

サルコジ内相というと一般の日本人には馴染みが薄いかもしれません。あるいは「相撲は知的なスポーツではない」旨 批判した男ということで御記憶の人もいるかもしれない。たとえるならばサルコジ内相とは実務能力のある(仕事ができる)石原慎太郎・都知事といったところでしょうか。ないし、米国のラムズフェルト国防長官が内務大臣をやっているというところか。私は一度演説会を聞きに行きましたが、演説はえらい迫力です。政治家としても大臣としても仕事は実にできる……と定評であります。パワーでいえば人間ブルドーザー・田中角栄といったところか。

サルコジ内相自身、ハンガリー系の移民二世です。移民二世であるにもかかわらず、権力の階段を若いうちから登ってきてきた人だからこそ、暴動に参加するような若者が憎いのかもしれんですね。てめぇーら、社会ばかり恨んでないで働かんかい、ボケ、わしかて移民二世じゃ、それでもな、次期大統領といわれるようになったんじゃ、と。

ニコラ=サルコジ内相(Nicolas Sarkozy)の私生活暴露報道を支持する』でも書きましたが、氏の私生活に関する報道に対してとった対応について私はかなり批判的です。夫婦の不仲説を広めたということで警察の広報担当者を本年六月に解任したなんて話を聞くと(ワイフのセシリアさんが新しい恋人と駆け落ちしてしまったんですね)、普段の強気とは裏腹に実は小心者なんではなかろうか……と思ってしまいます。先週木曜日にジャンマリ=ルペン「国民戦線」党首に取材しているときにサルコジ内相の強気発言の話題が出たのですが、「あいつは口先だけだよ」と吐き捨てていました。極右の大物・ルペン氏にしてみれば、けっ、ガキが調子にのってんじゃないわい、と思っているのかもしれませんね。

さて、フランスのアカデミー賞といわれるセザール映画祭で本年、賞を総なめした映画は暴動の中心地・セーヌサンドニ県の若者を描いた『L’Esquive』です。チュニジア出身の監督が描いたこの作品では「社会のクズ」と一般社会から見なされる(ことの多い)パリ郊外の若者を現地で調達して映画に出演させました。是枝裕和・監督の「誰も知らない」のように、役者は監督の演技指導を越えている、換言すれば「じ」でやっています。

実に名作でありまして私は三回も観ました。監督の目指したところは犯罪・オチこぼれとしてしか社会から認識されていないような若者達のナマの生活を伝えたい……ことにあったのでしょう。

今年、カンヌ映画祭でパルムドール大賞を受賞した映画「ある子供」も、サルコジ内相から見れば「社会のクズ」にしか見えないだろう若者の話です。ひったくり・強盗で生計をたて、その日暮らしをしている若い白人男性の恋人が出産する。彼氏は金のために実の息子を売ってしまいます。パニックになる彼女を見て、取り戻すのですが、彼女は怒り心頭、口をききたがりません。もうすぐ日本でも公開されますので、これ以上のストーリーは触れません。

フランスで大暴動が起きたこの年に、主要な映画祭二つで「社会のクズ」扱いされる若者を描いた作品がいずれも最高の栄誉に輝いたというのは、何とも象徴的な話です。「クズ」→「排除」というサルコジ的短絡に、表現者として抗議しているように思えてなりません。

ただ、これだけ騒動が大きくなったのに(なったからなのでしょうか)、超強硬派のサルコジ内相が逆に人気を落とし、対話の可能性を探りながら冷静沈着に対応するドミニク=ドヴィルパン首相の人気があがっています。貴族の家系で父は上院議員(知日家です)、長くアメリカに留学し、外務省のキャリア上がりにて詩集・歴史書を上梓する詩人・歴史家、シラク大統領のご寵愛を受けて政治の道を歩み、娘さんは女性雑誌の表紙をかざるモデル……というフランスの貴公子・ドヴィルパン首相(天は二物を与えず……というが、しかし)はこれまであまりのエリートぶりと鼻持ちならない性格に国民のウケはイラク戦争時をのぞいてイマイチでしたが、暴動の対応を評価する声が多い。今回の騒動でサルコジ内相とドヴィルパン首相の明暗は別れるのでしょうか。

*写真は及川健二がサルコジ氏を撮ったもの。