2005-04-07
アイルランドのテロ被害者を描いた映画『Omagh』
1998年8月15日。北アイルランド西部のオマー(Omagh)で事件は起きた。
買い物客で賑わう繁華街で車に仕掛けられていた爆弾が爆発した。死者二九人、負傷者二五〇人という最悪のテロだった。実行犯はIRAのメンバーである。
映画は犯人グループが爆弾を製造し、車にのっけて町中に行き、そのまま放置。その後、新聞社に電話するところから始まる。警察は新聞社から連絡を受け、現場の立ち入り禁止策を始めるが、中途半端に終わり多くの人々が未だ残る状況で、爆弾は炸裂する。廃墟の中で血を流し倒れる者、体を失う者、亡き倒れる者、怒鳴る警官の姿が、画面に映し出される。
この映画は実話をもとに、事実を正確に再現するために緻密な取材に基づき、制作された。主人公は自動車整備士のマイケル・ギャラファー(Michael Gallagher)。自らが営む整備工場で働く当時、二一歳だった息子のエデン(Aiden)を事件でなくす。エデンを失ってからの日々が映画では展開されていく。被害者遺族の団体設立に参加する場面、IRAを支持する人たちの集会の前で、亡くなった家族の写真を手に、被害者遺族が抗議する場面、政治家に会う場面、警察官に事件の経緯を聞きに行く場面……などが映し出されていく。警察は事前に、事件を知っていたにもかかわらず、未然に防ぐことができなかった。遺族はその真相を追求する。
この映画は被害者遺族の視点で描かれている。優れているのは、「被害者遺族」と冠せられる人々の、日々の生活を丹念に描いていることだ。けっして、遺族を美化することなく、遺族団体の内部対立なども、ありのままに描く。また、家族内部の葛藤も取り上げる。
マイケルには妻と他にも娘二人がいるのだが、運動に没頭していく父に、娘の一人が泣きながら「なぜ、そんなに活動するの?」と訴える。父が目立てば、自分たち家族が標的になる可能性を、危惧しているのだ。父は「エデンのためだ」という。娘の一言は痛ましい。
「彼は死んだのよ!もうここにいないの」
けっきょく、ギャラファー一家はしばらく、運動から離れる。
「テロリスト vs 自由」という単純な二項対立に陥っていないのは、イギリスがテロと長い間、向き合ってきたからなのであろう。
であるならば、9.11以降、暴走するアメリカをたしなめる言葉や知恵を、持っていたのではないかと思う。