2005-11-29
雪が舞う厳寒のパリで、豚の胃袋と腸でモツ鍋……移民という快楽2……
11月26日、ときおり雪が舞う厳寒の中、わたしは中華街に降り立った。
パリ南東部のイタリア広場から南にひろがるの町並みは異世界に迷いこんだような印象を受ける。「どこでもドア」がこっそり駅の改札に設置されていて、地上に出ると北京の繁華街が広がっている……と思えてしまうぐらいに。
商店に掲示される文字はすべて漢字、歩く人々も東洋顔、白人も黒人も中東系の顔をした人もまばらだ。
スーパーの棚に並べられる商品は中華系のものだ。冷凍のコーナーには春巻きや、魚が並べられ、たくさんの種類の中華麺が冷蔵コーナーに並べられる。即席麺も置かれており、「出前一丁」などという日本製品にもお目にかかれる。調味料は中華、朝鮮、日本、タイ、ベトナム……のものが手にはいる。豆腐チゲをつくるために三ヶ月前、この街で辛味噌を購入した。
大きなスーパーだと野菜のコーナーはもとより、職人がいる魚のコーナーや肉のコーナーがある。肉のコーナーにはよく列ができている。
中華系スーパーで何よりありがたいのは、野菜が豊富だからだ。フランスのスーパーは野菜の種類が少ない。
一般の小さなスーパーだと、にんじん、じゃがいも、たまねぎ、ネギ、にんにく、ナス、トマトぐらいしかおいていない。少し大きいところならば、レタスやキャベツ、ピーマンがおかれる。しかし、大根はない、白菜もない、生姜はたまにある、きゅうりがない、ほうれん草など葉っぱ系野菜がない。中華スーパーだと、「この野菜、何なんじゃ?」と突っ込みたくなる名の知れぬ野菜も多い。
私はその日、あまりにも寒いから鍋にしよう、何がいいか、そうだモツ鍋にしよう、と思い立ち、中華街に来たのだ。何故、モツか。それは以前、フランス料理店で食べた牛の胃袋のワイン煮込みを思い出したからだ。歯ごたえがあり、格別の味だった。フランス料理では牛の臓器類が上手に調理される。日本とてモツ鍋という調理法があるワイ、負けておられんと、ヘンな意地を覚え、モツ鍋をつくることにしたのだ。
一番大きなスーパーに入り、肉屋職人のコーナーにいく。
うーん、グロテスクなスポンジみたいなものがある。
「これはなんですか?」
と尋ねると、「豚の脳みそだ」
という。モツ鍋に脳みそは合わないな、コロッケにしたら美味しいんだろうけど。
「牛でも豚でもいいので、胃袋はおいてないかな?」
「おいないよ」
素っ気ない答えで会話は終了した。豚足はおいてあるのに。
別のスーパーにも行った。やはり置いていない、という。
スーパーの二階にあるショッピングモールをうろちょろしていたら、肉屋を発見。黒人が二人、中国人のお爺さんが一人、若い中国人が一人働いている。活気がある、ここならありそうだ。
「牛か豚の胃袋はありますか?」
若い中国人店員は「おー」と驚きを口にして、「あるよ」といって、店頭に並べられた肉の中から胃袋を取り上げて見せた。
「それ、300gください。あと、その横にあるのは何ですか」
ソーセージ状の白い肉を指さしたら、
「豚の腸だよ、腸。これも欲しいのかい?」
「はい。ええと、それは200g」
しめて3ユーロ弱だった。臓器は安い。
臓器売買が流行するのも分かるな。それは違う話か。
中国の肉屋をまわって分かったが、店頭にならべられるのは豚肉の方がおおい。豚肉だと色々なパーツが売られている。中国は沖縄同様、豚を食べる文化なのだと体感した。