2011-10-28

『眠られぬ夜』は人の死を痛切に・厳そかに悼む

3.11から七ヶ月が経とうとする夜、歌手の中川五郎さんは福島県いわき市で大きなコンサートに歌い手の1人として臨もうとしていた。自分の番が来るまで、他の人の歌に耳を傾けようと思って、観客席に座った。そうすると隣に男性が座り、
「貴方のアルバムを毎日、聴いています」
 と話しかけられたそうだ。そのアルバムとは『ぼくが死んでこの世を去る日』だった。2人でコンサートを聴き、話をするにつれ、男性が28歳の息子を津波で喪ったことを知った。五郎さんの持ち時間が30分弱で、歌う曲も決めていたけれど、急遽、そのアルバムから『眠られぬ夜』を選び、その場で、歌詞を変えて、久方ぶりに歌った。
 その翌日、下北沢の教会でお昼に中川五郎さんのコンサートがあった。
 五郎さんはいわきでの経緯(いきさつ)を話してから、いわきバージョンの『眠られぬ夜』を歌われた。

♪眠られぬ夜 眠られぬ夜 逝ってしまった 友達思い
 眠られぬ夜 眠られぬ夜 春のあの日 流れたほうき星
 歌を愛し 街の人を愛した 君はさらわれた 手の届かぬところ
 眠られぬ夜 眠られぬ夜 昨日の夜 まだ君はそこにいた
 眠られぬ夜 眠られぬ夜 遺された人のことを思い
 眠られぬ夜 眠られぬ夜 長すぎる夜に 短い思い出
 笑い合った 語り明かした 何度も抱き合った初めての夜
 眠られぬ夜 眠られぬ夜 あなたは手を伸ばす でもあの人はそこにもういない
 ああ 死は生きることの隣でいつも待ち伏せ
 生きたくてもさらわれた君 生きていても死んだような人

 眠られぬ夜 眠られぬ夜 頭の中をかけめぐる思い
 眠られぬ夜 眠られぬ夜 さらわれた君と 生きている僕
 死ぬのは怖い みんな同じさ こんな長い夜は 誰かそばにいて欲しい

 眠られぬ夜 眠られぬ夜 朝の街に出れば また新しい日が始まる
 ああ 死は生きることの隣でいつも待ち伏せ
 生きたくてもさらわれた君 生きていても死んだような人
 ああ 死は生きることの隣でいつも待ち伏せ
 生きたくてもさらわれた君 生きていても死んだような人
 ああ 死は生きることの隣でいつも待ち伏せ
 
 眠られぬ夜 眠られぬ夜♪

 ギターを以て歌う五郎さんにステンドグラスから温かい光が注ぐ。
 マイクなしで歌う五郎さんの肉声が優しくこだまする。
 教会に響き包んだ哀傷歌というか鎮魂歌は、悲哀を愛に昇華するような歌に思えた。
 素敵なメロディーなので、最CD化されたらいいなあと思う。