2011-09-17
DVD『二重被爆』 ~川流れ来る 人間筏~
ピカドンに 身体(からだ)焼かれし 傷の跡 老いて薄れて 今日広島忌
くろぐろと 数かぎりなき 佛たち 真夜立ち上がる 原爆図より
慟哭しながらこう詠んだ山口彊さんが亡くなられた、2010年1月4日に。93歳だった。
山口さんはヒロシマ&ナガサキで被爆した“二重被爆者”として知られ、山口さんの語りが中心に展開される記録映画『二重被爆』(2006年)のDVDがリリースされた。TSUTAYAなどで借りられる。また、山口彊さんの生涯を追った記録映画も今年、公開された(http://www.hibaku2.com/)。
1991年に広島原爆式典に参加したことがあるジェームズ=キャメロン監督は病床のみにあった山口さんと長崎で邂逅した。監督は原爆についての映画を製作する構想を山口さんに語った。
「あなたは選ばれたのだと思います。二度と核兵器を使ってはならないというメッセージを伝えるために」
と語りかけた監督に山口さんは
「I think so.」と応じて、
「わたしは責務を果たしました。」と声を振り絞ると、監督は山口さんの手を両手で強く握りしめた、しばらくの間。
山口さんは自費出版の歌集『人間筏』で
大広島 炎え轟きし 朝明けて 川流れ来る 人間筏
うち重なり 灼けて死にたる 人間の 脂滲みたる 土は乾かず
と詠んだ。
大きな声ではなく、静かにゆっくりと、詩心(うたごころ)を以て語り続けた山口さんの
「そのために生かされている感じがします。しかし、もういうことはいえたし、することはしたし、思い残すことはありません」
という言葉が、映画『二重被爆』の最後のメッセージである。