2007-09-15
極右のドン、ルペン仏「国民戦線」党首の素顔
『インターネット新聞・JANJAN』に【 極右のドン、ルペン仏「国民戦線」党首の素顔 】という記事を書きましたので転載します。
【本文】
世界一有名な極右政治家といえば、今年で79歳になったフランスのジャンマリー=ルペン「国民戦線」党首だろう。同党が創立された1972年から党首の座にあり、世界の極右勢力から尊敬される首領(ドン)的存在で、強面(こわもて)で知られている。
ナチス・ドイツのアウシュビッツ大虐殺を「歴史のごく一部分に過ぎない」と発言して世界中から非難され、「ナチス・ドイツのフランス占領はそんなにひどくなかった」と発言して国内で総スカンを食らい、下院議員選挙でフランス社会党の女性候補を殴り、刑事事件になったこともあった。国民戦線は結党以来、フランスからの移民の排斥を唱え、拝外主義をウリにしている。
フランスのメディアでは、ルペン氏や国民戦線は「キワモノ」扱いされながらも、一部には熱狂的なファンがいる。過激な言動に魅了される人も多い。そして、ルペン氏が時折、誰もいえない正論を吐くことから、支持する人もいる。
2005年秋、フランスでは移民2世・3世を中心とした暴動が各地で起きた。「移民の増加によってフランスは崩壊する」と長年、国民戦線は危険を煽ってきた。暴動を目の当たりにして、支持者は「ルペンが云っていた通りになった」と拍手喝采し、国民戦線には入党の申し込みが殺到したという。
「暴徒を厳罰に処すべきだ」と強硬な主張をしたことはいつもと変わりなかったが、真っ当なこともいった。暴動の最中にルペン氏にインタビューする機会を私は得た。そのやりとりを紹介しよう。
――あなたにインタビューを申し込んだのは、フランスの暴動が起こる前でした。厳しい移民規制・犯罪対策で名を馳せたニコラ=サルコジ内相(当時)が暴動に参加する若者を「社会のクズ」「ゴロツキ」と罵り、彼らが住む町を「一掃・浄化する」と発言し物議を醸しましたね。メディアではルペン党首の御発言はあまり取り上げられていないので、いま何を考えているのか率直に伺いたい。
ルペン氏:サルコジ氏が強いのは「舌」だけです。郊外に住み暴動に参加した若者に対して、私はある種、共感のようなものを覚えています。自分たちの将来はどのようなものになるか彼らが思いを巡らせるとき、労働者や会社員になり、そのあと管理職になれると考えることがはたして合理的でしょうか。彼らには、強盗やテロリストになることしか残されていない。何も彼らに非があるわけではない。暴動に参加した若者数千人を社会の枠外に置くことを許してきた政府に非があります。
暴動参加者を「ゴロツキ」と罵るかと思ったら、共感するというのである。移民2世・3世に真っ当な職を与えてこなかった政府が悪い……というルペン氏の意見は正論である。アメリカの9.11の後に、世界各国がアメリカ支持を表明する中で、ルペン氏は「アメリカが悪い」と公の場でいってのけた。湾岸戦争もイラク戦争も「侵略戦争である」と非難した。グローバリズムも「国民にとって百害あって一利なし」と批判する。アメリカが対テロ戦争を声高に語れば、「米英両国による経済封鎖によって、10年間で、医療品や食糧品の不足によりイラクで乳幼児が100万人以上、死んだ。これは国家によるテロではないのか?」「広島、長崎の原爆投下こそテロである」と応戦した。
「フランスを愛さない者は国から出ていけ!」と長年、ルペン氏はいってきた。極端な拝外主義者である。一方で、野放図に振る舞うアメリカや失業をもたらすグローバリズム、大国による弱小国への侵略を強く非難する「弱者の味方・ルペン」「強きを挫(くじ)き弱きを助(たす)くルペン」という側面も彼にはある。そこが魅力の1つである。
2004年7月3日から2006年3月25日までフランスに滞在した私は、ずっとルペン氏を追った。彼がパリで出る演説会やパーティーに毎回のように顔を出すものだから、党関係者の中には懇意になった者も少なくない。約2年、ルペン氏を見てきて痛感したことは、「面白すぎる」ということだ。見ているものを飽きさせない魅力が彼には存分にあった。
1980年代の中頃にルペン氏は来日したことがある。欧州議会議員だった彼を、時の首相・中曽根康弘氏が総理官邸で出迎えた。「破格の扱い」にルペン氏はたいそう満足していた。私がインタビューした際、中曽根首相(当時)とルペン氏が握手を交わしている写真を見せてくれた。そんなこともあり、ルペン氏の日本に対するイメージは良い。「日本は美しい国だ」としきりに褒めた。国家こそが美しい多様性を生みだすというために、神戸の名を口にした。その部分を引用する。
「フランスと世界の為に、それぞれの多様性が守られることを望んでいます。そうした多様性こそ人間を豊かにする要素だと考えるからです。もし、私が神戸に行くとすれば、そこに中近東を見出したいから行くのではありません。それぞれの国々が、それぞれの価値、力、均衡等の魅力を持っている。そうしたことが素晴らしいのであって、そうした多様性を尊重する我々の立場は、グローバリズム、地球画一化の流行を追っかける連中の立場とは明らかに距離がある」
ジャンマリー=ルペン氏がまた、来日することがあれば、面白いことになるだろう。イラク戦争を真っ先に支持したような米国にひたすら追従する日本の親米政治家を前にしてルペン氏は一体、何というであろう? 「美しい国」だと思っていた日本が芯から米国化している姿を見て何を思うだろう? ルペン氏が再度、来日することを心から願ってやまない。