2007-10-27

開戦を徹底批判したドヴィルパン元仏外相が見るイラク問題

_12_0144.jpgインターネット新聞・JANJAN』に【 開戦を徹底批判したドヴィルパン元仏外相が見るイラク問題】という記事を書きましたので転載します。

 2003年、イラク戦争が米国の手によって始められようとした時、それに敢然と抗い、正論を吐き続けた人物がいる。当時、フランスの外相を務めていたドミニク=ドヴィルパン前首相だ。ドヴィルパン外相(当時)は開戦前日の3月19日、国連安全保障理事会で次のように演説した。

 「我々は、武力行使を選び、早急で予防的な行動によって世界の複雑さを解決できると考える人々に対して、断固たる姿勢に基づく継続的な行動をもって反論する。というのも今日、我々の安全を確保するには、危機の多様化とともに危機には文化や宗教をも含めた多面性があることを考慮に入れなければならないからである。それゆえに国際関係においては、対話と他者の尊重なしに、また原則を求め、それを厳守することなしには、継続的なものを築くことはできない。模範を示すべき民主主義国家にとってはなおさらである。これを無視することは、無理解、急進化、暴力の連鎖を引き起こす危険性を伴う。これは亀裂と古くからの分裂に苦しむ中東地域に、より当てはまることである。そして中東地域の安定は、我々にとって重要な目標である」

 混沌としたイラク情勢を見るにつけ、ドヴィルパン氏の警告は的中したといわざるをえない。ドヴィルパン氏は現在のイラク情勢をどう思っているのか?彼が自身の私見を述べた資料が2つある。それらを紹介しよう。

 1つは2006年11月15日に行われたリール大学における講演で、その内容は日刊紙「フィガロ」に掲載されている。同氏はイラク戦争を「失敗することが運命づけられていた」「今日のイラクは内戦と混沌に陥っている」と指摘、「米国が打ち立てようとした民主的に拡大した中東は出現せず、反対に戦争は恐怖と分裂、不安定と西側への敵意を増大させた」と批判した。

 さらにイラク戦争は「多国間機構を弱め、イランや北朝鮮のような核拡散の重大な危機に対する国際社会の行動を困難にし、イスラエル・パレスチナ問題の解決を複雑にし、欧州を分裂させた」と分析し、「イラクは国際テロ組織にとって主要な実験所になっている」と嘆いた。

 もう1つの資料は2007年2月6日に英フィナンシャル・タイムズ紙(電子版)に掲載された同氏へのインタビュー記事である。

 ドヴィルパン氏は「米国はイラクで失敗した。2003年に私はシラク大統領(当時)と共に『軍事的な手段でイラク問題は解決しない』と言ったではないか。03年に言ったことは、07年にも通用する」と述べ、米国を批判した。続けて、「イラクが民主化され、平和になったら(米軍が)引き揚げると言うのはバカげている。そんな日は永遠にこない」、「出発点は外国軍撤退の展望に向けた明確な日程」にあると強調し、「1年後に米軍あるいは英軍がイラクに存在しないと言わないなら、イラクではいっそうの死者と危機が生まれる」と強調した。

 ドヴィルパン氏はイラク安定には「国民的和解」を進めるとともに、周辺国と国際レベルでは「イラク情勢の安定に関心を持つすべての国」を動員すべきだとして、イランも関与させる必要を示唆した。

 イラク復興にはイランの関与が欠かせないと見るドヴィルパン氏とイランを「悪の枢軸」と見なし、同国への空爆すら検討するジョージ・ブッシュ米大統領の違いは、多国間外交を重視するフランスと単独主義の米国の違いといえる。米国を中心としたイラク統治にまったく成功を見出せない以上、イラク復興にはイランを含む多国を総動員しての統治が効果的だ……というドヴィルパン氏の主張には理があるように思える。ブッシュ大統領は「古いヨーロッパ」の意見に耳を傾けることはあるだろうか?