2006-03-21
フランスは燃えている 〜街娼・男娼の『売奴プライド』と「雇用促進法・阻止!」デモには感動させられた!〜
「A bas ! A bas ! A bas le CPE !」(倒せ!倒せ!倒せCPE!)
高校生の年頃のManifestant(/e)s(デモ参加者)が叫ぶのを聞きながらわたしはひとり感慨に耽った。フランスを発つちょうど一週間前の18日(土)、フランス全土で150万人の人々が参加したデモ隊の中に私はいた。
その前日、私はとても悩まされた。興味がそそられるデモが18日に二つあり、どちらに行くかなかなか決断できなかったのだ。ひとつは雇用促進法・CPEに反対するManifestation(デモ)。もうひとつが街娼・男娼によるフランス初のパレード『売奴プライド』(Pute Pride)。前者はDenfert-Rochereau広場に14 :30集合と書かれてあり、後者は14 :00にピガル広場(Place Pigale)集合と書かれてあった。ドヴィルパン内閣の進める雇用促進法に反対する学生・労働者・市民が参加する大規模デモは2月7日、3月7日と行われ、3月18日はおそらく最大規模になるであろうといわれていた。学生を中心としたデモは連日、各地で繰り広げられ、全国の大学の多くが学生により占拠されるなどして通常の講義を行える状態にないと報道されていた。賑やかさでいけば反対デモのほうが、若い学生が多いし人数も相当なものになるだろうから、上をいく。しかし、街娼・男娼が自らの権利を主張するデモも、フランスの性事情を調査してきた私の好奇心を大いにくすぐる。
けっきょく、反対デモはどうせテレビや新聞のトップで扱われるだろうから(各地のデモは毎日ニュースのトップで放映されていた)私が行くまでもないと思い、売奴プライドに参加することに決めた。
18日は朝から晴れ渡り、春の到来を予感させるような小春日和だった。
ピガル広場に行くべくパリ北駅までRER-B線で行き、地下鉄2番線に乗り換えた。しかし、一駅行ったところで客は全員降ろされた。しばらく上り・下りとも不通になるという。「なんと、学生の怒りに呼応してデモが勃発か」と思ったら、単に故障しただけだという。しかたなく残り二駅を歩いた。14時をすこし回った頃、ピガル広場につくとカミーユ=カブラル・パリ17区議が率いるトランス・街娼支援組織『PASTT』のトラックが待機してあり、街娼や同性愛者の人権に取り組む人権団体『Act-UP』の横断幕が掲げられているのが目にとまった。そして、胸の開いた街娼スタイルの黒いドレスに身をつつんだカブラル区議がテレビカメラに囲まれ、アジ演説をしている。広場には仮面をつけた街娼と思しき女性や支援者、男娼が一〇〇名ばかりいる。胸に「性労働者」と書かれたTシャツを着ている男娼が何人もいて、メディアのインタビューを受ける。いたるところで参加者が「売春嫌悪(Putephobe )」や街娼規制の「サルコジ法」に反対すると書かれたプラカードを掲げている。参加者を見ると以前、写真を撮ったことのある男娼や街娼がそこかしこにいる。
自らの仕事に誇りを持つ街娼・男娼たちがパリ市内を堂々と闊歩する姿はどんなに素敵だろうなと思った。
わたしはその場に30分ぐらいいて写真を撮り、地下鉄が動き出すのを確認したら、CPEに行こうと思った。会の雰囲気がつかめたからもういいだろうと思ったのだ。電車に乗りDenfert-Rochereau広場についたのが3時15分頃、デモはすでに始まっているのだが、広場にはまだ出発できないでいる後列のひとびとで埋まっていた。わたしは先頭にたどりつこうと必死に早足であるいていく。高校生・大学の姿も多くいるが、壮年・老年の男女や子連れの親子などの姿も多く見かける。みんな楽しそうだ。
学生の隊列はとくに盛り上がり、お祭り騒ぎだ。トラックにのった男女が音頭をとり、声をかける。警察発表で8万人の人々が参加したこのデモの先頭にたどりついたのは17 :00頃、場所は終点のNation広場だった。街の行く先々で商店やスーパーが、デモ隊の暴徒化をおそれて店を早々と閉めているのが何とも可笑しかった。そして、一般市民が大量に立ち止まりデモ隊に声援をかける姿もよかった。
若い学生にまじり声を張り上げながら私がある種の感慨にとらわれたのは、CPEは26歳以下の雇用者を対象としているから、それ以上の年齢の人々には無関係であるのにもかかわらず、多くの市民・労働者が学生と連帯し、すでに国民議会を通過した法案をブッつぶすために共に立ち上がるというその心意気に打たれるものがあったからだ。フランスは社会連帯の国といわれる。学生たちだけの問題だから俺たちには関係ないやと突き放すのでなく、世代・年代・職業を越えて不当な法律に対しては共に闘うという姿は何ともすがすがしい。フランスの組合はデモの成功に自信をふかめ、48時間以内に法案を撤回しない場合はゼネラル・ストライキに突入すると最終通牒をドヴィルパン内閣に突きつけた。これを書いている段階ではどうなるか分からないが、大幅修正など事実上の撤回に追い込まれるだろうとの見方が強かったが、どうもドヴィルパン首相は撤回をせずこのまま突き進むらしい。立法府である国民議会で成立した法が人民の力で廃棄されるとすればフランスの草の根民主主義の強さを見せつける話ではないか……と思うのだがどうなることやら。
あと、フランスのメディアの報道にも感心させられた。
テレビはニュースでデモをトップに扱い、新聞も一面に記事を載せる。
デモ隊の一部は線路を占拠して電車の通行をとめ、車や商店を破壊して機動隊と衝突するなど一部は暴徒化している。逮捕者も数百名単位になっている。日本であればその一部の行動をあげ、「ケシカラ〜ン」となるのかもしれないが、フランスメディアは客観的に報じるのみ。フランス市民も反対の声にかわりはない。
帰国直前にして改めて感じさせられたが、フランスという国は「人民力」が本当に強い。抵抗する市民の国だ。