2007-09-20

仏外相「戦争もありうる」と発言 イラン核開発をめぐる各国の思惑

オーマイニュース』に次のような記事を執筆しましたので、転載いたします。

主題:仏外相「戦争もありうる」と発言
副題:イラン核開発をめぐる各国の思惑

【本文】

 フランスのベルナール=クシュネル外相は、9月16日にラジオ番組に出演し、イランの核問題について「最悪の事態に備える必要がある。それは戦争だ」と述べ、イランが核開発を断念しない場合、戦争に発展しうると警告した。

 さらにクシュネル外相は、現時点において「これ(イランの核計画)よりも、重大な危機はない」と述べ、イランの核兵器は「世界全体にとって、正真正銘の危険」となりうると強調した。クシュネル氏の発言は、ニコラ=サルコジ政権が、急速に対イラン強硬姿勢に転じつつあることを示している

 クシュネル氏は欧州連合(EU)として、独自に対イラン制裁を準備する意向も表明した。フランス独自の対応として、石油やガス会社などに対し、イランへの投資を停止するよう求めることを決定したと述べた。その上でクシュネル氏は、対話が最優先の選択肢だとし、イランが濃縮ウラン製造を中止するよう「最後まで交渉しなければならない」と述べた。

 ロバート=ゲーツ米国防長官もクシュネル発言に追随し、16日にイランがウラン濃縮の停止を求める、安保理決議を無視していることについて、武力制裁を含む「あらゆる選択肢を検討している」と述べた。

 ジャック=シラク前政権は、国連の枠組みでイランの核開発の問題を解決するというスタンスだったが、サルコジ政権は、国連枠外でイラン制裁を実施している米国に、同調する動きを加速させている。日刊紙「ルモンド」は「新しい米英仏の枢軸」と形容した。

 イランのゴラムレザ=アガザデ副大統領は17日、ウィーンで開幕した国際原子力機関の年次総会で、仏外相の発言に関連して、欧米諸国は「イランとの理解ある友好関係ではなく、常に対立関係を選んできた」と批判した。

 アガザデ副大統領は、欧米諸国が協力関係を築いていけば、「国際社会の問題は防ぐことができるだろう」と述べる一方で、イランの核開発は、平和目的だとあらためて主張、

 「原子力技術の進展と国力の増強が達成されるまでは、この活動を続けていくと固く決心している」
と語った。

 国際原子力機関(IAEA)のモハメド=エルバラダイ事務局長は17日、仏外相がイランとの戦争を示唆した発言について「非常に大げさだ」と述べた。

 エルバラダイ氏は記者団に対し、

 「武力行使は、常に最後の手段だ。今はまだそのような事態ではない」

と発言し、さらに、

 「現在、われわれが行うべきことは、IAEAによる4年間の調査後も、残っている未解決の問題について、同機関と協力して解決するようイランに対し働きかけていくことだ。イランの核開発に関し、現在差し迫った危機はないと明言してきた」

と述べた。

 フランソワ=フィヨン仏首相は、17日、記者団に、

 「戦争回避のため、あらゆる手段を講じなければならない。フランスの役割は、世界にとって著しく危険となる状況を平和裏に解決することだ」

と述べ、イランとの戦争は回避すべきだとの見解を示した。イランが、ウラン濃縮その他核兵器製造に転用可能な活動を停止する姿勢を見せていないことから、国連安全保障理事会は、これまでに2つの対イラン制裁を承認している。フィヨン首相は、フランスが繰り返し求めてきた追加制裁を再度、要求していくと語った。

 クシュネル仏外相は18日、ロシアの首都モスクワでセルゲイ=ラブロフ外相と会談した。冒頭で仏外相は「われわれの2国間関係はすばらしいが、さらに取り組むべき課題が山積している」と述べ、会談ではイランの核開発に対する、より強硬な姿勢をロシアに要請したとみられる。

 しかし、会談後の記者会見でラブロフ外相は「イランに対する軍事行動が真剣に検討されているとする複数の報道があるが、そのようなことになれば中東地域に対する影響は計り知れない」と強調した。クシュネル外相は「戦争回避のため、あらゆる努力を行う必要がある。戦争は、起こりうる最悪の事態だ」とした上で、対話継続の必要性を訴えた。

 一方、米国ではダナ=ペリノ米大統領報道官が18日、クシュネル外相がイランとの交戦の可能性に言及したことについて質問され、「われわれは、外交的な解決策があると確信している。われわれは、イランが国連安全保障理事会の規範に基づいて義務を果たすよう圧力をかけるため、フランスや他の欧州連合(EU)諸国と協力している」と述べ、外交による解決を訴えた。

 米仏高官が外交努力による解決を掲げたことにより、仏外相の戦争発言はひとまず沈静化した模様だ。ただ、フィヨン仏首相は「事態は危険だと指摘したことは正しく、発言は真剣に受け止められるべきだ」と付言している。

 イランの危険を過大視し、イラン制裁で前のめりになっている米英仏の3カ国と、イランとの対立が今後、深刻なものになる可能性は否定できない。