2007-05-04
テレビ討論結果は「ロワイヤル候補優勢」 仏大統領選の決選投票迫る
『日刊ベリタ』に「テレビ討論結果は「ロワイヤル候補優勢」 仏大統領選の決選投票迫る」というタイトルの記事を執筆しましたので転載します。フランス政治や大統領選挙に関するディープな情報は拙著『沸騰するフランス 暴動・極右・学生デモ・ジダンの頭突き』(花伝社)に掲載していますので、御関心のある方はお手におとりください。
【リード】
5月6日に行われるフランス大統領選挙の決選投票に臨む社会党候補セゴレーヌ=ロワイヤル下院議員(53)と与党「国民運動連合」候補のニコラ=サルコジ前内務相(52)による公開討論が現地時間の2日午後9時から行われた。その模様は国営放送のテレビやラジオによってフランス全土に生中継された。サルコジ候補は紺色のスーツに身を包み、ロワイヤル候補は白のワイシャツの上に黒のスーツを着て登場。住宅、年金、税制、環境保護、公立教育、国家像、欧州像、移民問題など多岐に及んだ約3時間に及ぶ討論は、ロワイヤル候補が終始攻勢に出て、討論直後の緊急世論調査でも同候補優勢との結果が出た。
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先に発言権が与えられたのはサルコジ氏だった。同氏は近年の政治的危機を「津波」(TSUNAMI)と表現、「もはや、過去と同じような政治をすることはできない」と述べ、「国民が私を信任してくれるならば国民がいままで体験したことのない極めて重要な改革を成し遂げる」と決意を語った。
ロワイヤル候補はまず「現在、フランスでは暴行・暴力沙汰が増加し、国民は不安に駆られている。大統領になったら、暴力行為・暴行を必ず減らす」とサルコジ候補が得意とする治安問題を取り上げた。続けて「サルコジさん、あなたは『寛容ゼロ』で治安対策にあたるといった。しかし、(内務相になった) 2002年以来襲撃事件はウナギ登り」と治安担当相を4年以上務めたサルコジ候補の責任を追及した。同候補は「警察の予算増に反対してきたのは社会党ではないか」と反撃した。
さらにロワイヤル候補はパリ郊外・ボビニー市の警察署勤務の女性警官が署を出た直後に強かんされた事件を取りあげ、「大統領になったら女性警官が夜遅く外に出るときは、他の警官が必ず同行させるようにする」と約束した。公務員削減を公約するサルコジ候補は「リヨネル=ジョスパン左派連立政権下の5年で、暴力事件は18%増加しました。シラク政権の5年間では5%減少した」と反論した。
ロワイヤル候補は「残業が失業を作る」と労働時間短縮による雇用創出を主張。対するサルコジ候補は「(ロワイヤル氏は)社会党のワーク・シェアリングという凝り固まった考えに囚われている。こんなことを言っているのはフランス人だけ」と批判し、「働いた分だけ、稼ごう」というスローガンを繰り返した。
ロワイヤル候補は心配されていた失言もなく、サルコジ候補をしばし挑発するなど、攻めの一手に出た。さらに、「私は4人の子どもを持つ母だ。私の信念は家族や、学校、働くことの価値の尊重にある」と「女性を武器」に変えた。サルコジ候補は最後に「彼女の才能を認めざるを得ない」と褒めざるをえなかった。
討論終了後、サルコジ、ロワイヤルの両候補はともに「勝利宣言」した。しかし、スイスの経済紙は「ロワイヤル氏は攻勢に出て、サルコジ氏は平静でいようと努めた」と報じ、サルコジ氏が守勢だったと評した。
日ごろの激しさはなりを潜め「落ち着き」を演じ続けたサルコジ候補。微笑みを浮かべながら「攻め」に徹したロワイヤル候補とは対照的だった。
フランスの日刊紙『ルモンド』はホームページ上で「どちらが勝利者か」との緊急世論調査を実施。3日午前2時半現在(現地時間)で34,871人の回答があった。結果は「ロワイヤル勝利」との回答は52.4%で、サルコジ候補の36.3%を大きく上回った。無料日刊紙『20Minutes』のインターネット調査でもほぼ同時刻での回答者は3,276人で、「ロワイヤル勝利」の回答が52.01%で、サルコジ候補の41.7%を上回った。
これまで世論調査ではロワイヤル候補をリードしてきたサルコジ候補だが、今回の公開討論で形勢逆転の可能性もあり、予断を許さない情勢となってきた。
一方、極右政党『国民戦線』のジャンマリー=ルペン党首は両候補の討論終了後の2日深夜、ラジオに出演し、5月6日の決選投票ボイコットを支持者に再度呼びかけた。極右支持層の多くはサルコジ候補を支持しており、多くがルペン氏の呼びかけに応じ棄権に回った場合、サルコジ候補の優勢はさらに揺らぐことになる。
写真脚注:討論前に握手を交わすサルコジ候補とロワイヤル候補(ラジオ局『Europe 1』提供)