2012-01-16
お部屋2299/クラブが厳しく取り締まられる歴史的背景 2【補足あり】
2217「クラブが厳しく取り締まられる歴史的背景」で、当時のダンスホールでは、ダンサーたちによって実質的な接待が行われていて、個人交渉による売春にも発展、それを取り締まるために、ダンスをする場所が風営法の対象とされたと書きました(補足参照)。
この回はやたらとアクセスが多くて、クラブに対する規制についての関心の高さがよくわかるわけですが、あの話は間違ってはいないものの、十分ではないです。良識ある人々にとっては、他にもダンスホールを放置しておくのはまずいと考える事情がありました。
前回の「『エロスの原風景2』を出します」に書いたように新刊を猛スピードでまとめているところなのですが、その過程で、メルマガのバックナンバーを調べていたところ、ダンサーが売春をしていたことを裏付ける資料を多数取り上げてました。
こちらはもう疑いのないことですが、もうひとつ、別の側面からダンスホールの問題点を取り上げた資料について触れた号もありました。自分が書いていたことを全部忘れてます。
雑誌「りべらる」(太虚堂書房)昭和26年3月号に影浦憲「ダンスホールにみる最近の桃色犯罪」という記事が出ています。
この頃も、18歳未満の入場は禁じられていたのですが、年齢チェックが甘く、18歳未満の高校生、洋裁学校の生徒たちが多数出入り。そのことによって生ずる諸問題を取り上げた記事です。
彼らは声をかけあって、桃色遊戯を繰り返していて、これ自体好ましくないとされたのでしょうが、もっと問題だったのは、彼らを狙う犯罪が頻発していたことです。ダンスホールに出入りしていることが学校にばれると処分をくらうことに目をつけた連中は、それをネタに恐喝をしていて、日大、東洋英和などの学生たちが恐喝で逮捕されています。
これ以外に売春の斡旋、麻薬の売買、偽音楽会のチケット販売などの行為が記述されていて、青少年を対象とした、あるいは青少年自身による犯罪の温床になっていたことがわかります。
こんなん、今のように年齢チェックをすれば済むことであって、糞ガキやチンピラ学生のために、なんでまともな大人の行動までが規制されなければならないのかって話です。コンビ二に不良がたむろするからと言って、深夜営業を禁止すべきかどうかって話。
今もクラブを舞台に、ドラッグの売買をしている人たち、使用している人たちもいるのかもしれないですけど、それはそれで取り締まればいい話です。
また、この記事にはアプレゲールの行動として、「サンバという卑猥な踊りを好んで踊る」という記述もあります。まだサンバが広く知られていなかったのでしょうけど、浅草サンバカーニバルは取り締まった方がいいのでしょうか。
踊りは卑猥で、いかがわしいものとされていた時代に制定されたのが風営法であります。若い男女が卑猥な踊りを好んで踊るような場所はそれ自体規制していいのだとする世論の後押しがあったのでしょう。そんな法律に今も縛られているのはおかしくないか? おかしいと思ったら、声を上げましょう。そうしないと何も変わりません。
さて、この「りべらる」ですが、ホントにいい雑誌です。よくカストリ雑誌と誤解されてますが、「りべらる」はカストリ雑誌ではないです(カストリ雑誌の定義については『エロスの原風景』参照)。約10年間出ていて、昭和20年代を象徴する存在と言ってもいいでしょう。その後、復刊されていて、復刊後のものは抜けがありますが、それまでの号はほとんど入手済みです。新聞社や大手出版社の出していたものを読んでも、一般庶民が何を考え、どう行動していたのかを十分には理解できないでしょうけど、この雑誌に一通り目を通せば、その穴埋めが十分にできます。
これは上に出てきた号じゃなくて、創刊から間もない頃のものですが、書影があったもんですから、出しておきます。いい表紙でございましょう。洋画家・中尾進によるものです。
とくに町田進という編集者による記事が私は好きでして、この人の探訪記事は今から単行本にしてもいいのではないかと思うくらいに闇市時代の新宿や上野の様子をよくとらえています。中尾進と組んでカラー口絵をやっている号もあり。ここで描かれるパンパンがまた美しい。
この雑誌についてまとめた原稿がすでにあるので、『エロスの原風景2』に入れたいところですが、すでにパッツンパッツンに原稿が詰まっているので、今回は無理っぽいです。パート3が出る可能性は低いですけど、もし出たら入れます。
補足:冒頭の記述は不正確ですので、より正確に説明します。今現在のクラブでのダンスと当時のダンスはダンスの種類が違うだけではなく、当時は接待の意味合いがあり、売春にもつながりやすいものでした。そのため、野放しにはできず、そのような場所を提供する業態に制限を設けて取締対象としたのが風営法であり、売春を取り締まること自体が法の目的ではありません。むしろ一定の条件のもとで営業を認める法律とも言えます。