2009-10-24

お部屋1965/メードとメイド

「唐沢俊一検証blog」のエントリー「Syuppan Rush」で、「メード喫茶」という新聞の表記が出てきます。

これは記者個人の問題ではなく、新聞社の基準によるものです。さらに元をたどると、かつての国語審議会の決定によるものです。

新聞でも、「メイド喫茶」については、特例的に「メイド」と表記することもあるのですが、今も「メード」が正しい新聞の表記です。「メイド・イン・ジャパン」も「メード・イン・ジャパン」です。

そのことをコメントしようと思ったのですが、コメントを書いているうちに、他の人に先を越されてしまいました。

では、こっちでは、もう少し詳しい話をしておきましょう。

「メイド」に比して「メード」は幾分間の抜けた印象になりますが、それは我々が今の時代に生きているためです。1970年代あたりまでは、maidもmadeも圧倒的に「メード」だったはずです。

発音の組み合わせと位置によるのですが、日本語の片仮名表記において、長音記号(「ー」)は減少する傾向にあります。この実例と法則、その理由については、かつて「マツワル」の「音引きの手引き」という連載で延々と書いたことがあります。「音引き」というのは長音記号のことです。出版界の用語なのかな。

近年、逆行している用語もありますが、「コンピューター」「プリンター」「フォルダー」から長音記号が消えたように、コンピュータ専門用語の影響という意見もあります。また、原音に近い表記をするようになったという意見もあります。しかし、それだけでは説明がつきません。コンピュータ用語が広まる前に長音記号が減っている例や、原音では長音なのに長音記号ではなくなっている例が多数ありますので。

私の仮説を書くと長くなるので省略するとして(そんなに自信ないし)、今現在、「メード」と「メイド」とどちらが使用されているのかを調べるのは簡単です。検索すればすぐにわかる。もちろん、「メイド」の方が圧倒的に多い。maidの意味でも、madeの意味でも。

ところが、時間軸で検証しようとすると、いつ書かれたものかをひとつひとつ調べなければならず、しかも、インターネットには古い文章の蓄積が少ないため、ここ一世紀のうちに、ある特定の言葉についての表記がどう変化したのかを確認することは難しいのです。

うちには古い国語辞典や新語辞典の類いが何種類かあるので、それを調べると、ある程度のことはわかったりするのですが、今も国語辞典では「メード・イン・ジャパン」となっているように、国語辞典と実際の使用状況との間にはズレがあるため、正確なことは、古い雑誌や本を読んでいる時に見つけたらメモをしていくしかない。たったひとつの言葉でも年単位の時間を要します。

さて、前回書いた国立国語研究所の「KOTONOHA」に文章を利用する件について、昨日、承諾書を投函しました。承諾書の中に、今回承諾した以外の著作物の利用についてマークする箇所があって、「いいえ」と「利用する部分を伝えることで他の著作物も利用していい」という項目のふたつしかないので、「同じ趣旨の利用である限り、今後はすべて無断で使っていい」旨を書き添えておきました(許諾しているのですから、正確には「無断」ではなく、「連絡なしで」ですね)。

この「KOTONOHA」は、書き言葉の用例を集積するプロジェクトでありまして、おそらく時間軸での検索もできるようになるのだろうと想像しています。ただし、1976年以降の文書をデータ化するものなので、「範囲が狭すぎるんじゃねえの」と思わないではいられません。明治時代からやってくれれば、もっともっと役に立つのに。

と、ここで気づくわけですが、これって、国会図書館が進めるデジタルライブラリーの事業と共同で進めればいいんじゃなかろうか。組織が違うので、そう簡単にはいかないでしょうが、国会図書館に相乗りした方が金がかからず、なおかつ、広範囲の時代の、広範囲の用例を集めることが可能なはずです。

予算がもう出ているのでしょうから、別々に動くしかないのだとしても、国会図書館は古い時代のものからデジタル化しているので、両者をうまくつなげられると、ちょうどいいんじゃないですかね。もちろん、googleがやってくれるんだったら、それでもいいんですけど。ワシはどこでも協力するだす。

この話、もっと続くのですが、長くなるので続きは次回。そのうち、イカれた市議やイカれた右翼の話にもつながります。

このエントリへの反応

  1. 細かいことになりますが、medeじゃなくてmadeですよね?

  2. ご指摘ありがとうございました。単なるタイプミスです。