2007-02-03

お部屋1223/今日のマツワル20

「数学嫌いの数字好き」の私は、しばしば電卓を手にして、報道されている数字を計算し直します。オリジナルのデータが公開されている場合は、その数字を計算し直して、報道が正しいかどうか検証します。もちろん、報道されていない数字もそこから読みとることもあります。

この作業をやることによって報道の間違いに気づくことがあり、昨今話題の「給食費の滞納問題」でも、多くのメディアが誤解している点を発見。誤解しているわけではなくても、読者が誤解しかねない報道をしています。事実、ネットを見ても、誤解を元にしたコメントを書いているブログが多数あります。

そこで4回にわたって「この調査のどこがどうおかしいのか」「なぜこの程度の詐術で、メディアも読者も騙されるのか」「文科省は何を狙っているのか」について「マツワル」に書きました。以下はその1回目です。

念のために書いておくと、私は「給食滞納者を放置していい」とも、「法的手段をとってはいけない」とも言う気はありません。払うべきものは払わせればいいと思っているのですが、それはそれとして、認識は正確にすべきであり、さもなければ対策を見誤ります。

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< 給食から見えてくるもの1>

「あるある大事典」の捏造問題で、情報に飛びつく人たちに対する苦言を述べているメディアが多数あります。まったくもってその通り、一時納豆を食えなくなった恨みのある私も賛同します。

しかし、これってバカな女たちだけの問題ではないでしょう。女たちはダイエットに関心が向き、日々スーパーに行くために納豆を買ってしまうだけのことで、男たちも「金が儲かる」と聞けば、金持ち父さんがチーズを食ったみたいな本に飛びついて、「毛が生えてくる」と聞けば、育毛剤に飛びつく。どこどこのキャバクラにいい子が入ったと聞けば飛びついて、客引きに「いい子いますよ」と言われれば飛びついてボッタクられています。

情報に踊らされてはいけないのは、男も女も、大人も子どもも同様です。そして、メディア自身も同様。

給食費の滞納問題については、私も気になっていくつかの記事をコピーしていたのですが、よくよく読むと、とても微妙です。なので、パスしようと思ってました。

ところが、「Publicity」もやっぱり「親のモラルが低下している」という方向で論評していました。そう読めるんだけど、そう読んではいけないのです。

「Publicity」だけではなく、どこを見ても、その方向で論じられていて、これは個人のブログも同様。ネットでも納豆は売り切れです。

こんな状態なら、私が論じる意味もありましょう。

asahi.comです。
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給食費滞納、全児童生徒の1% 総額22億円
2007年01月24日20時58分

 給食を実施している全国の国公私立の小中学校で、全児童生徒の約1%にあたる10万人近くが05年度に給食費を滞納し、滞納総額は22億円余りになることが24日、文部科学省による初の調査でわかった。滞納がある学校は全体の約44%。滞納の理由について学校側は、60%の子どもについて「保護者としての責任感や規範意識」の問題、約33%については「経済的な問題」と見ている。

 調査は、深刻化している滞納への対策を検討するため昨年11月〜12月に実施。学校給食を行っているのは全国の国公私立小中学校の94%にあたる3万1921校で、この全校に尋ねた。

 滞納した児童生徒がいるのは43.6%の1万3907校で、総額4212億円余の給食費のうち0.5%の22億2964万円が滞納された。滞納した児童生徒は計9万8993人で、小学校で6万865人、中学校で3万8128人。

 児童生徒の数で見た都道府県別の「滞納率」は表の通り。沖縄が6.3%と突出しており、北海道(2.4%)、宮城(1.9%)、福岡、大分(1.6%)などが続いた。

 滞納の原因について学校側の見方を選択式で尋ねたところ、保護者の姿勢を問題としたのが60.0%で、保護者の経済状況をあげたのは33.1%だった。

 滞納分を抱える学校に対策を自由回答で尋ねたところ、「徴収した分でやりくり」(29%)、「学校が他の予算などから一時補填(ほてん)」(27%)、「市町村教委などの予算から一時補填」(15%)などだった。保護者への対応(複数回答)では、「電話や文書で説明、督促」(97%)、「家庭訪問で説明、督促」(55%)が多かった。少額訴訟や裁判所への支払い督促の申し立てなど法的措置も281校(2%)あった。

 過去と比べて給食費の滞納が増えたかどうかについては、「かなり増えた」が13%、「やや増えた」が36%で約半分の学校が増加傾向とした。「やや減った」は9%、「かなり減った」が3%で、「変わらない」は39%だった。

 文科省は「地域や学校によってかなり集中している例もあるようだ。保護者が責任意識を持つと同時に、教育委員会やPTAも問題を学校、担任任せにせずサポートして欲しい」と話している。

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この報道にある数字は何も語っていない。したがって、こちらもここからは何も語れない。できるのは、「何も語れない事情」を語ることだけ。あるいは「何も語れないのに語ってしまう人たちの問題」を語ることができるだけ。

おそらく今までこれについて全国的な調査はなされていないのでしょう。なされていたのであれば、増えているのかどうかを、なにも学校に答えさせる必要はなく、過去のデータと比較すればいいだけです。

文科省のサイトには、この調査結果が発表されてますが、過去にこのような調査があった形跡はなくて、「給食費 滞納」で検索したら、以下の文章がひっかかりました。

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各市町村は、貧困家庭の給食費の滞納、要保護・準要保護の子どもたちの増大といった問題を抱えている。

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これは「第30回中央教育審議会義務教育特別部会議事概要」に出てくるもので、平成17年8月24日のものです。つまり、つい最近まで、給食費の滞納は貧困家庭の問題だと認識されていたのが、どうもそれだけではないというので、改めて調べてみたのが今回の調査ってことです。あるいは、貧困家庭の問題であるがために解消ができず、なんとか払わせたいということから行われたのがこの調査です。

今までのデータがないので、「増えた」という話がどこまで正しいのかわからないですね。これまで滞納している生徒数の提出が求められていなかったのであれば、おそらく学校単位でもデータがない。「増えた」というのは単なる印象でしかないわけです。

その上、数字がおかしい。【過去と比べて給食費の滞納が増えたかどうかについては、「かなり増えた」が13%、「やや増えた」が36%で約半分の学校が増加傾向とした】とありますが、56%の学校で滞納はないのですから、半数の学校で「増えた」と答えるはずがないじゃないですか。

元のデータを見ると、なんのことはない、この質問は滞納した児童生徒がいる、43.6%に相当する1万3907校を対象にしています。これでは、全体の傾向がわかりません。「ここ10年ずっとゼロである」つまり「変わらない」、「10年前は5人いたが、今はゼロである」つまり「減った」という解答が反映されていないのです。

今現在ゼロの学校が「増えた」と答えることはあり得ないため、全体からすると、「やや増えた」「かなり増えた」と答えているのは21.4%になります。滞納者がいる学校で12%である「かなり減った」「やや減った」は、全体では倍以上になるはずで、ことによると、30%を超えるかもしれない。残りが「変わらない」です。これが半数くらい。

つまり、全体を見た時には滞納者は減っているようなのです。実際のところはわかりませんが、学校はそう見ている。なんということでありましょう。

仮に50%の学校は「変わらない」、30%の学校は「減っている」、20%の学校は「増えている」と答えたとしたら、「滞納は減少傾向にある」と見るのが普通であって、控えめに見ても「これまでと変わらず滞納が続いている」と言うべきであり、その条件を明示せず、【約半分の学校が増加傾向とした】とするのは間違いという類の表現です。

この調査、ないしはこの報道は「払わない家庭が増えている」という、現実とはまったく逆のミスリードを誘い、そこから「最近の親はモラルがない」という印象を抱かせるようになっているのですね。給食費の滞納がモラルのなさを原因としているのだとしても、もともとモラルがなかっただけのことです。

過去の報道を見ると、自治体単位では、数値が急増しているケースはあるようですが(データが明示されていないので、これも怪しくはあります)、今回の調査に関して言えば、つまり全国で見た時には、そのことは数値に出ておらず、逆の傾向が数値に出てしまっているのです。今後、「給食費の滞納が増えている」と書く時は、どこの都道府県か、どこの市町村かを明示する必要がありそうです(続く)。

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