出版時評ながおかの意見 1994-2002

発行:ポット出版
長岡 義幸 著
定価:2,200円 + 税
ISBN978-4-939015-39-7(4-939015-39-4) C0000
四六判 / 296ページ /上製
[2002年01月刊行]

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内容紹介

[まえがきより抜粋]

出版をテーマにするインディペンデント(フリーランス)の取材記者として、ときどきの関心のおもむくままに業界の動きを追い、批評的な発言をしてきた。“本流”よりも“周縁”を意識して私なりの視点を提示しようとしてきたつもりだったけれど、あらためて自分の書いたものを読み返してみると、様々な切り口から業界の出来事を敷衍したひとつの“同時代史”あるいは“軌跡”として世に問えるのではないかと思えてきた。一冊の本として「市場」に投げかけ、より多くの読者(消費者)と出会い、問題意識を共有できたならと思ったのが本書を編むことにした最大の理由だ。過去を振り返ることで出版業界はこれからどうなるのか、どうするのかをともに考えるきっかけとしたい。

本文は、大きくはふたつの切り口を持っている。産業としての出版の側面から再販制や流通の現状・問題点に触れた記事と、出版産業を存立させる精神的基盤ともいえる「出版の自由(流通の自由)」の実際をレポートした内容のふたつだ。

業界問題については出版社・取次・書店・読者という言葉をいったんメーカー・卸・小売・消費者という言葉に置き換え、その関係性から産業を見直したいという観点を強く押しだし、同時に、出版の自由を単なる理念的なものにしないために流通との連関を意識した論点を提示するよう努めた。その問題意識の延長線上で、出版にかかわる業界内外の出来事、出版で働く労働者の問題にまで話題を広げている。

目次

■第一章 出版業界の黄昏/硬直した流通の落とし穴
出版の産業構造
取引制度の抱える構造的矛盾再販制という名の遺制
再販論議の陥穽
二大取次成立の事情
再販制成立の歴史的事実
「定価外」販売の実情
再販制を相対化するための提案
鈴木書店倒産

■第二章 図書規制の実情/青少年条例強化をめぐって
青少年条例強化に突き進む自治体
民間育成者の批判と業界の自主規制無定見さを露呈した東京都議会
都条例の陳列規制と認定基準

■第三章 変容する出版産業/進取としがらみのはざま
1994/06取次の取引条件は独禁法違反?
1995/07ヨドバシからコンピュータ書が消えた
1997/01消費税アップで価格表記の再変更
1998/09情報誌戦争、関西へ拡大
1999/04倒産したスコラと好調な角川
1999/12出版業界のネットビジネスへの参入
1999/12破竹の勢い「新古書店」
2000/02柳原書店・ほるぷの倒産
2000/10日販の急激な仕入部数抑制
2001/06弘兼憲史らが新古書店らのコミックス取扱い中止を要求


■第四章 出版界の折々/ときどきの出来事と話題
1995/10農文協の不思議
1996/04まだまだ続く中央公論社の混迷1996/12納得のいかない「asahi com」の購読料金
1998/08使い勝手のいいCD-ROM版事辞典
1998/09健康雑誌は好調か
1998/09インターネットが可能にした「T-Time」の試み
1998/11中央公論社の身売り
2001/07フォーカス休刊


■第五章 すすむ再販制見直し/せめぎあう文化論と産業論
1994/09揺れる「再販制」
1995/03正念場にきた「再販制見直し」
1996/01再販制維持キャンペーンのアイロニー
1995/12再販制と「政治」の関係
1996/06再販問題検討委員会が活動再開
1996/09再販擁護派が文化論で対抗する理由
1997/12最終報告書に反映された政治のうごめき
1998/02出版倫理協議会が出した奇妙な文書
1998/04「著作物再販制度の取り扱いについて」の報告書を読んで
1998/05“猶予期間”の取り組みに注目
2000/04亀裂が生じた新聞業界と出版業界


■第六章 出版の自由と人権/定見なき出版の“倫理”と民間の“道徳”
1995/02『「マルコポーロ』廃刊と事なかれ主義
1996/11雑誌回収事件から感じた小学館と講談社の体質の違い
1997/02復古派による教科書攻撃
1997/07『フォーカス』『週刊新潮』販売自粛
1997/10『週刊金曜日』は自らの言論を検証すべき
1998/01『チビクロさんぽ』への抗議
1999/10広告から「ヴァギナ」の文字を消した朝日・日経・読売新聞
2000/05青少年倫理問題懇談会のあきれる“倫理”
2001/07現状の教科書検定と採択制度に問題あり
2000/08表現の自由と人権は対立させるものではない


■第七章 出版物を取り巻く規制/青少年条例と法的規制の動向
1995/05サリンも怖いが、「警察国家」も怖い
1996/03破防法は“劇薬”
1996/04私的な領域まで権力が介入する青少年健全育成条例
1996/06淫行条例は本当に必要なのか
1997/04盗聴を法制化する動き
1998/07「管理主義教育」の言い換えにすぎない「心の教育」
1999/08組織犯罪対策三法のでたらめな成立
1999/11児童ポルノ禁止法の施行で出版業界に広がる恐慌
2000/12着々と進む“有害”な青少年条例の制定
2001/08“エロ本”販売規制に向けて始動するゾーニング委員会の裏舞台
2001/12子どもの権利をないがしろにする「子ども読書活動推進法」
2001/12再浮上した「青少年有害社会環境対策基本法案」の中身


■第八章 出版労働の裏面で/「人は城、人は石垣」!?
1994/05出版社と労働組合
1996/05雇う雇われるという関係が存在しないワカーズコレクティブ
1997/06講談社労組が出版労連を脱退
1998/11混乱が続く三一書房
2000/04自由業者への差別

前書きなど

 出版をテーマにするインディペンデント(フリーランス)の取材記者として、ときどきの関心のおもむくままに業界の動きを追い、批評的な発言をしてきた。“本流”よりも“周縁”を意識して私なりの視点を提示しようとしてきたつもりだったけれど、あらためて自分の書いたものを読み返してみると、様々な切り口から業界の出来事を敷衍したひとつの“同時代史”あるいは“軌跡”として世に問えるのではないかと思えてきた。一冊の本として「市場」に投げかけ、より多くの読者(消費者)と出会い、問題意識を共有できたならと思ったのが本書を編むことにした最大の理由だ。過去を振り返ることで出版業界はこれからどうなるのか、どうするのかをともに考えるきっかけとしたい。

〈略〉

 出版にかかわる暗い話題なら事欠かない。業界に身を置く者でなくても、すでに産業としてのピークは過ぎ、斜陽感が漂っていると漠然とながらも感じているのではないだろうか。

 もとより、画期的な業界再建策があるわけではない。ただ、現状を全肯定する立場とは一線を画し、あるいは視点をずらして、こう考えることはできないだろうかという切り口は提示しているつもりだ。同時に、産業内部の人間としてでばかりでなく、できるだけ消費者(読者)の立場に身を置いて、「業界エゴ」に荷担しないよう心がけてもきた。ここに“出版回生”のヒントを見出してもらえたならと希望する。

 いままでは一方的に出版産業を批評的に書く立場でしかなかった。それなりのリアクションはあったものの、今回、私の文章をひとつにまとめることで、批評・批判される立場に立たされ得ることになる。私の観点が“現実”に耐えうるのか、ぜひとも読者のみなさんの判断を仰ぎたい。

著者プロフィール

長岡 義幸(ナガオカ ヨシユキ)

1962年生まれ。出版業界紙『新文化』記者を経て、現在はフリーランスの記者。著書に『物語のある本屋  特化した棚づくり』(胡 正則との共著、アルメディア)などがある