EPUBリーダー表示テスト正解集

発行:ポット出版プラス
次世代パブリッシング研究会 著
希望小売価格:2,300円 + 税 (この商品は非再販商品です)
ISBN978-4-86642-030-1 C0004
A5判 / 114ページ /並製
[2025年09月刊行]

ブックデザイン 小形克宏
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内容紹介

全ての電子書籍リーダーの表示が均一なのではない。CSSルールは同じでも、リーダーが変われば表示も変わってしまう場合がある。それが現実なのだが、これは電子書籍制作者の悩みでもある。そこでこの問題の全面的な可視化を目指し、全12種・全72環境のリーダーをテストしたのが、「EPUBリーダー表示テスト」(2023年)だ。とはいえ多くの人にとってテスト結果を見ただけでCSS仕様通りか否かを判断するのはむずかしい。そこで正しい表示のスクリーンショット、つまり正解を一冊にまとめたのが本書なのである。テストで実際に使用された別売のEPUBファイルにより自分でテストする際、本書を隣に置けば結果は一目瞭然となるだろう。

目次

はじめに
■CSS仕様適合性テスト
「CSSの公式的な定義に含まれるCSSモジュール」から
「かなり安定しているが実装経験が限定的なCSSモジュール」から
「大まかな相互運用性のあるCSSモジュール」から
CSS Snapshot 2023 に載っていないが、最新のブラウザで利用できるもの
■その他のEPUBリーダー表示テスト
 実ページ番号表示テスト
 EPUB本扉指定テスト
 イタリック表示テスト(タテ)
 イタリック表示テスト(ヨコ)
 カギ/句読点の前後のツメ・アケ制御(タテ)
 和欧間自動アキ指定(タテ)
 カギ/句読点の前後のツメ・アケ制御(ヨコ)
 和欧間自動アキ指定(ヨコ)
■EPUB内文字、画像、背景表示テスト
 第1項 縦組み時の文字の向き
 [デフォルトとsideway時の確認]
 第2項 画像の表示不備[欠落、サイズ異常、位置不整]
 第3項 背景色と罫線の表示不整
 第4項 リンク動作
 第5項 表組対応
■追加テスト
 回り込みテスト(タテ)
 回り込みテスト(ヨコ)
 背景画像テスト
 表テーブルセル幅指定テスト(横)
 表テーブルセル幅指定テスト(縦)
 SVG表示テスト
 クリッカブルマップ動作テスト
 サロゲートペア文字表示テスト
 結合文字列表示テスト
 ルビ関連表示テスト
 MathML数式表示テスト
 論理目次階層表示テスト

前書きなど

はじめに

1. 本書の目的

『EPUBリーダー表示テスト』(2023年、以下「報告書」)は、電子書店のリーダー、アプリケーション合わせて、我が国で利用可能な極力多くの電子書籍ビュアー(以下、EPUBリーダー)を、横並びでテスト評価しようという試みである。具体的には全12種のリーダーを、全72環境でテストした(内容は第3節で詳述)。また、報告書だけでなくテストファイルを無料で公開しているので、自分で任意のEPUBリーダーを検証することもできる。

テスト結果の公表後、私たちには2つの反省点が残った。1つはとりわけ電子書店におけるEPUBリーダーの場合、私たちのテスト結果といくぶん異なっている可能性があるということ、もう1つはテスト結果だけ見ても、本来どういう表示が正しいのか分からないということだ。

前者について少し詳しく説明すると、私たちはテストファイルを直接デバイスに転送してテストをおこなっている。一般にこれを「サイドロード」と呼ぶ。一方、電子書店では納品されたEPUBファイルをそのまま販売するわけではない。実際には最適な状態で表示できるよう各書店のサーバー上で変換したファイルを販売しているのである。
もちろん、この最適化により納品ファイルと販売ファイルに大きな表示の食い違いが生じるわけではない。しかしイコールではない以上、私たちのテスト結果と異なる可能性は残る。さらに変換処理の内容を各書店は公開していないので、どんな違いがあるのか、あるいはないのかは「藪の中」ということになる。

そこで電子出版を業務の一つとするポット出版の協力を得て、テストファイルを同社から『EPUBリーダー表示テスト』の書名で主要な電子書店において、ごく安価で販売してもらうことにした。

これで前述サイドロードでのテスト結果と実際の販売ファイルでのテスト結果を比較できる。もちろん、私たちは後日その結果を公表するつもりだ。

次に「テスト結果だけでは、本来どういう表示が正しいのか分からない」について。CSS仕様を知り尽くしている人ならともかく、多くの人はテスト結果のスクリーンショットだけみても、仕様通りか否かなど分からない。これでは、私たちの説明を鵜呑みするしかないことになる。そこで正しい表示(正解)のスクリーンショットだけをまとめ、読者に判断の材料としてもらおうというのが本書である。本書により報告書への理解を深められるだけでなく、実際にテストファイルを使って検証する際、本書を座右におけば結果はおのずから一目瞭然となるはずだ。

2. 本書の読み方

報告書には、3つのテストの結果報告が掲載されていた。以下に報告書の章名と、本書の章名の関係を示す。章名は違っても順番は同じになっている。なお、「追加テスト」は本書刊行にあたって、現代の電子書籍に求められる機能を中心に、そのサポートの有無を調べるテストを追加したものだ。

報告書での章名 本書での章名
1 第2章 CSS表示テスト*1 CSS仕様適合性テスト
2 第3章 その他のEPUBリーダー表示テスト*2 その他のEPUBリーダー表示テスト
3 第4章 電書協EPUB3制作ガイドに基づく文字、画像、背景表示テスト*3 EPUB内文字、画像、背景表示テスト
4 n/a 追加テスト


個々のテストは、以下に例示するようにテスト名の直下にスクリーンショットを、細い四角枠で囲んで掲載している。


なお、正しい表示になっているかどうかの判定が難しいテストに関しては、キャプションで解説を付記したので参考にしていただきたい。また、各テストは2022年〜2023年に実施しているので、現行のリーダーと結果が違う場合があることをお断りしておく。

3. 報告書の概要

この節では、報告書の内容を短くまとめる。全文は前掲QRコードから読むことができる。なお、サマライズにあたっては生成AI「Gemini」(Google)を使用し、その出力結果を適宜修正して掲載した。

「第2章 CSS表示テスト」の概要

テストの目的とその結果
CSS Snapshotへの対応状況: EPUB 3.3*4はWebで安定的に実装されたCSS仕様リスト「CSS Snapshot」*5のサポートをリーダーに求めているが、国内リーダーの対応状況はどうか。
-epub-接頭辞の要否: EPUB 3.3で非推奨となった-epub-接頭辞なしで、縦書きなどが本当に表示できるか。

上記の目的でテストをおこなった結果、以下のようにEPUBリーダーは搭載するレイアウトエンジンにより「モダンブラウザー系」と「独自エンジン系」に明確に二極分化していることが判明した。

モダンブラウザー系: Apple「ブック」や楽天Koboのモバイルアプリなど。現行ブラウザのエンジンを流用しており、EPUB 3.3が求めるCSS仕様の多くをサポートする。
独自エンジン系: Amazon「Kindle」やhonto、Kinoppy、楽天KoboのPCアプリ・専用端末など。独自開発または古いエンジンを搭載し、CSSのサポートは限定的である。

電子書籍制作者が直面する課題
この「二極分化」は、制作者にとって深刻な問題を引き起こす。現在のWeb標準の知識でCSSを記述してEPUBを作成しても、独自エンジン系のリーダーでは表示が崩れる可能性が非常に高いからである。

特に、CSS変数やFlexboxといった現代的なレイアウト手法は、Kindleをはじめとする独自エンジン系の多くで対応していない。また、縦書きプロパティwriting-modeも、KindleのWindows版や楽天KoboのPC版・専用端末では、依然として-epub-接頭辞なしでは表示できなかった。一方で、同じKindleでもiPhone/Mac版では接頭辞なしで表示されるなど、プラットフォーム間での挙動の違いも見られる。

さらに、独自エンジン系の一部はCSS 2.1の基本的なプロパティ(例:visibility)すらサポートしていないことが判明し、これが原因でテストに困難が伴った。

なぜ独自エンジンは対応が遅れているのか?
著者たちは、独自エンジン系リーダーがEPUB仕様ではなく、デジタル出版者連盟*6(旧・日本電子書籍出版社協会)が2012年に制定した「電書協EPUB3制作ガイド」*7(以下、電書協ガイド)のサポートを目標に開発されたからではないか、という仮説を立てている。

このガイドが求めるCSS機能は、CSS 2.1*8のサブセットと-epub-接頭辞付きプロパティに留まっており、これが独自エンジン系が最新CSS仕様に対応できない原因と考えられる。

まとめ:制作者への提言

EPUB 3.3はWebとの連携強化を目指しているが、国内の主要な電子書籍市場(特にKindle)では、その恩恵を活かした制作が困難な状況にある。

Webページで使われるHTMLとCSSを手軽に電子書籍化できるのがEPUB 3.3の狙いだが、独自エンジン系リーダーとの間には大きな断絶がある。とくに現在のWebページでは普通に使えるCSS機能をKindle向けに利用しようとする際は、意図通りに表示されない可能性を考慮にいれ、慎重に判断すべきであろう。

「第3章 その他のEPUBリーダー表示テスト」の概要

テストの目的
本テストでは、国内の主要なEPUBリーダーが、電書協ガイドに準拠はしていないが一定の需要があると思われる基本的なページレイアウトやアクセシビリティ関連の機能を、どの程度サポートしているかを検証したものである。電子書籍制作者は、この結果から、リーダーごとの機能実装の現状を把握し、制作時の判断材料とすることができる。

本扉配置指定テスト(page-spread)
紙の書籍のように、本扉や章扉を見開きの特定の位置(縦書きなら左、横書きなら右)に配置するためのproperties=”page-spread-left” / properties=”page-spread-right” 指定が、各リーダーでどのように機能するかを調査した。

結果として、見開き表示モード自体を搭載していないリーダーが多く、特にスマートフォンではその傾向が顕著であった。EPUBサイドロードに対応しているEPUBリーダーのテスト結果としてはAndroid版のみ、あるいは横書き時のみといった限定的な対応に留まっており、特に海外のストアのEPUBリーダーで未対応のケースが多かった。制作者は、この機能が多くの環境で意図通りに機能しない可能性を認識しておく必要がある。

実ページ番号表示テスト
紙の書籍のページ番号をリフロー型EPUB内に表示する機能の対応状況を調査した。これは、[EPUB Accessibility 1.1](https://www.w3.org/TR/epub-a11y-11/)で要求されるなど、アクセシビリティや学術利用の観点から重要視されている。

EPUBサイドロードに対応しているEPUBリーダーのテスト結果としては、この機能に明確に対応していたのはAppleの「ブック」と「MURASAKI」のみであった。Kindleはガイドラインに対応の記載があるものの、テストファイルのサイドロードでは動作を確認できなかった(ストアで「販売」してみての結果は未確認)。他の多くのリーダーはおそらく未対応であり、実装はほとんど進んでいないと思われる。

文字の自動ツメ・アキ表示テスト
DTPでは標準的な、約物が連続する場合の「ツメ」や、和文と欧文が混在する場合の「アキ」といった、可読性を高めるための自動的な文字間調整が、各リーダーでどのように処理されるかを調査した。

モダンブラウザー系リーダーの多くがこの処理を自動的には行わない。一方、独自エンジン系リーダーでは対応が分かれ、「honto」や「Kinoppy」などが日本語組版を意識した独自処理を実装している。Kindleも近年のアップデートで連続する約物のツメ処理に対応し始めているが、まだ挙動に差が見られる。制作者は、リーダーによって組版品質に差が出ることを理解しておく必要がある。

イタリック表示字形テスト
欧文で強調などに使われるイタリック体を、単なる斜体(oblique)ではなく、文字デザインとして専用に設計された字形(italic)で表示できるかをテストした。

EPUBサイドロードに対応しているEPUBリーダーのテスト結果としては、CSSでfont-style: italicを指定しただけでイタリック字形になるリーダーは少数派であった。フォントを埋め込んだ場合は多くのリーダーでイタリック表示が可能になったが、その多くは読者がリーダーの表示設定で「出版社のフォント」を選択している場合に限られた。制作者が確実にイタリック体で表示させたい場合、フォントの埋め込みは必須だが、読者への案内も必要になるだろう。

画像内代替文字 検索/読み上げテスト
アクセシビリティの重要な要素である、画像に付与された代替テキスト(alt属性)の文字列を、リーダーが検索対象とするか、またスクリーンリーダー等で読み上げるかを調査した。

EPUBサイドロードに対応しているEPUBリーダーのテスト結果としては、代替テキストを検索できたのは「honto」のみであった。読み上げについては、「ブック」「honto」「BinB」「Thorium Reader」で対応が確認できたが、OSの読み上げ機能(VoiceOverなど)を利用しているものが多く、その操作に習熟が必要なため、テストは困難を伴った。EPUB 3.3でアクセシビリティ対応が謳われているものの、画像の代替テキスト活用は多くのリーダーで未対応に近く、今後の対応が強く望まれる。

「第4章 電書協EPUB3制作ガイドに基づく文字、画像、背景表示テスト」の概要

テストの目的
本テストでは、「電書協ガイド」に準拠して制作したEPUBが、国内の主要な電子書籍リーダーでどのように表示されるかを検証した。リーダーによってはCSSの指定通りに表示されない既知の問題について、その現状と原因、対策を解説しており、電子書籍制作者が意図しない表示を避けるための指針となる。

文字の向きと字形の変化
縦組みにおける文字の表示には、一部のリーダーで特有の問題が見られる。

文字の向き: ギリシャ文字やキリル文字など、縦組みでは本来横向き(横転)になるべき欧文文字が、正立してしまう問題が一部のリーダーで確認された。これは特にKindleで既知の問題であったが、近年のバージョンアップにより、現在ストアで販売されている商品版では概ね解消されている。しかし、制作者が確認に用いるサイドロード版では、依然として不具合が残る場合があるため注意が必要である。
引用符の字形: 縦組みの際に、欧文のダブルクォーテーション(“ ”)が、日本語のダブルミニュート(〝〟)に自動的に置換されたり、正しく回転せずに表示されたりする現象。これもKindleや一部のkoboリーダーで見られた問題だが、最新のKindleでは改善傾向にある。

画像の欠落とレイアウトの不整
画像の表示に関しては、特にKindleでレイアウトが崩れる複数の問題が報告されている。

画像の欠け: 段落に字下げなどの余白設定がある場合、そこに配置した画像が適切に縮小されず、画像の端が切れてしまう。これもKindleで頻発した問題だが、最新の検証用リーダーや商品版では解消されている。
画像の意図しない縮小: 画面の末尾に配置された画像が、次のページに送られず、その場に収まるように過度に縮小されてしまう現象。これにより、同じサイズの画像でも表示される大きさがバラバラになる可能性がある。これはKindleの比較的新しいバージョンで見られる問題である。
行頭画像の落下: 横組みで、行頭に配置したインライン画像がベースラインから大きく下にずれてしまう現象。これは、電書協ガイドで推奨されるdisplay: inline-block;の指定が原因で、Kindleで高頻度に発生する。CSSの指定をdisplay: inline;に変更することで回避できる。

背景色と透過の不整
背景色や画像の透過処理も、リーダーによって挙動が異なる。

背景色: htmlやbodyタグに背景色を指定しても、画面全体に色が適用されないリーダーが存在する。Kindle、Apple Books、超縦書では、文字などの要素がある部分にしか色が反映されず、意図したデザインにならない場合がある。
透過PNG: 透過PNG画像の背景が、一部のリーダーでは正しく透明にならない。特にKindleでは、同じ透過画像を複数回使用した場合、初回表示時の背景色がキャッシュされ、2回目以降の表示でその色が適用されてしまうという特有の不具合が確認されている。確実な表示のためには、あらかじめ背景色をつけたJPG画像などを使用することが推奨される。

4. スタッフ一覧

テスター(五十音順)
小形克宏(一般社団法人ビブリオスタイル)
木龍美代子(メディア木龍)
田嶋淳(株式会社三陽社)
仁科哲(株式会社和文)
古門正明(株式会社デンショク)
村上真雄(一般社団法人ビブリオスタイル)
執筆
はじめに……小形克宏
第1章、第2章……田嶋淳
第3章、第4章……仁科哲
デザイン
表紙……小形克宏
本文……田嶋淳
編集協力
釼持芳治(株式会社エスペラントシステム)

謝辞
本テストは皆の意気込みとは裏腹に、世間からあまり顧みられなかったのが実際であった。落胆する著者たちの上に、天上から一本の糸を垂らしてくれたのがポット出版プラス代表・沢辺均氏である。彼なくして本書は世に出なかった。著者一同、深く感謝申し上げる。


*1……https://github.com/jagat-xpub/viewer-test-2023/blob/main/PDF/chap02.pdf
*2……https://github.com/jagat-xpub/viewer-test-2023/blob/main/PDF/chap03.pdf
*3……https://github.com/jagat-xpub/viewer-test-2023/blob/main/PDF/DPFJ_EPUBCheck_Chap4_20240424.pdf
*4……https://www.w3.org/TR/epub-33/
*5……https://www.w3.org/TR/css-2023/
*6……https://dpfj.or.jp/
*7……https://dpfj.or.jp/counsel/guide
*8……https://www.w3.org/TR/2011/REC-CSS2-20110607/

著者プロフィール

次世代パブリッシング研究会(ジセダイパブリッシングケンキュウカイ)

次世代パブリッシング研究会は、印刷出版の未来を考える自主的な研究会。今はなき「XML コンソーシアム/クロスメディアパブリッシング部会」を母体として、2010年に日本印刷技術協会(JAGAT)を活動場所とする勉強会「XML パブリッシング(準)研究会」として発足。2022年「JAGAT 次世代パブリッシング研究会」に改称。2025年4月から現在のグループ名になる。


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