同性パートナーシップ証明、はじまりました。 渋谷区・世田谷区の成立物語と手続きの方法

発行:ポット出版
エスムラルダ 著, KIRA 著
希望小売価格:1,700円 + 税 (この商品は非再販商品です)
ISBN978-4-7808-0225-2 C0036
四六判 / 288ページ /並製
[2015年12月刊行]
印刷・製本●萩原印刷株式会社
ブックデザイン 沢辺均、和田悠里
書籍のご購入は右側から ⇒


【電子書籍】
●『同性パートナーシップ証明、はじまりました。』は電子版(価格:1,000円+税)もあります。以下のサイトでご購入いただけます。

内容紹介

今年2015年11月5日、渋谷区・世田谷区で同性パートナーシップ証明の交付が始まった。
渋谷区では一組。世田谷区では七組のカップルが証明書、あるいは宣誓書受領証を受け取った。

日本で初めての同性パートナーシップ制度はなぜ、どのようにして生まれたのか。
渋谷区では、池山世津子(渋谷区教育長)、岡田マリ(渋谷区議会議員)、栗谷順彦(渋谷区議会議員)、桑原敏武(前渋谷区長)、杉山文野、長谷部健(現渋谷区長)、松中権の各氏、世田谷区では、上川あや(世田谷区議会議員)、西川麻実、保坂展人(世田谷区長)の各氏にインタビューを行ない、同性パートナーシップ制度が生まれるまでを追いかけた。

また、渋谷区・世田谷区で証明書の交付、宣誓書受領書の交付を受けるには、どのような手続きが必要か。
渋谷区で必要な合意契約公正証書とはどんな項目で作ればいいのかなど、詳細に解説する。

さらに、渋谷区の条例、条例にいたるまでの議事録の抜粋まとめ、世田谷区の要綱、そして世界の同性婚の動向など、一連のパートナーシップ制度に関わる資料類も掲載。

目次

●第1章 同性パートナーシップ証明はなぜ、いかにして生まれたのか エスムラルダ
 渋谷区の場合すべては、いくつかの出会いから始まった
 「どうしたらLGBTの人たちに喜んでもらえる?」
 検討委員会で何が起こったか
 条例成立、そして実施へ
 世田谷区の場合世田谷は「性的マイノリティを差別しない」
 「要綱」がいかにしてできあがったか
 2015年11月5日同性パートナーシップ証明スタート


●第2章 同性パートナーシップ証明手続き編 KIRA
 step 1 パートナーシップ証明ってどんなもの?
  (1)渋谷区証明書と世田谷区受領証はこんな感じ
  (2)渋谷区証明書と世田谷区受領証の違い
  (3)婚姻と養子縁組、パートナーシップとの違い
  (4)区内の事業者たちに課せられる義務
 step 2 パートナーシップ合意書を作ろう!
  (1)パートナーシップ合意書ってなに?
  (2)どこで作るの?
  (3)何歳から作れるの?
 step 3 任意後見契約書を作ろう!
  (1)任意後見契約書ってなに?
  (2)すぐできるの?
  (3)いくらかかるの?
  (4)どんな内容?
  (5)終わりに


●資料
渋谷区議会議事録パートナーシップ関連の議論の要旨
渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例
渋谷区男女平等・多様性社会推進会議の構成及び運営に関する規則
男女平等と多様性を尊重する社会の推進に係る重要事項について
世田谷区パートナーシップの宣誓の取扱いに関する要綱
同性カップルを含む「パートナーシップの公的承認」に関する要望書
諸外国の同性婚制度等の動向──2010年以降を中心に/国立国会図書館調査及び立法考査局行政法務課・鳥澤孝之
●増原裕子さん・東小雪さんが渋谷区に提出したパートナーシップに関する合意契約公正証書
●渋谷区のパートナーシップ証明書のお知らせ
●渋谷区のパートナーシップ証明書発行の手引き
●渋谷区のパートナーシップ証明 任意後見契約・合意契約 公正証書作成の手引き
●相談先専門家一覧


●あとがき
 同性パートナーシップ証明ができるまで、を追って/エスムラルダ
 大きな一歩に立ち会って/KIRA
●主な参考文献
●協力・プロフィール

前書きなど

あとがき「同性パートナーシップ証明ができるまで、を追って」より

 ほんの少し前まで、私の周りのゲイ男性の間で、「日本で同性婚が認められるようになる」ことをリアルにイメージしていた人は、さほど多くなかったように思う。
 私自身もそうだった。「いつかはそのような日がくるかもしれない」と漠然と想像してはいたものの、「身近なところにLGBT(この表現をめぐり、昨今、さまざまな議論が交わされているのは承知しているが、今回はセクシュアルマイノリティ全般を指す言葉として、『LGBT』を使わせていただいた)がいる」ことをイメージできる人がまだまだ少ない日本では、文化的にも法的にもクリアするべき課題が多く残されており、「外圧」などよほどのことがないかぎり、同性婚が実現するのに十年はかかるだろう、と考えていた。
 
 また、きわめて個人的な話で恐縮だが、私はこれまでの人生の大半を「独り身のゲイ男性」として過ごしてきた。残念ながら、「この男性と結婚したい」とまで思い至るような関係を結んだことはないし、「同性間の婚姻もしくはパートナーシップが認められていないがゆえの不利益」を被ったこともない。
 もちろん「同性のパートナーと互いに助け合いながら、生涯を共にしたい」という希望はあるし、これから先、どのような出会いが待っているかわからない。将来「同性間の婚姻もしくはパートナーシップが認められていれば……!」と悔しい思いをする可能性も十分にある。しかし人間というのは現金なもので、「現時点で、自分にはあまり関係がない」と判断したことに対しては、どうしても関心が薄くなってしまうし、「パートナーもいない自分ごときが、同性婚や同性パートナーシップ制度を求めるのはおこがましい」という気持ちにもなってしまう。
 こうした事情から、私はどこか同性婚を「他人ごと」として捉えており、「もし日本でも同性婚が認められるようになったら、独身のノンケ(異性愛者)同様、独身のLGBTも『肩身の狭い』思いをするようになるのだろうか」「独りでいると、家族や同僚などから『同性でも異性でもいいから、とにかく身を固めろ』と言われるようになるのだろうか」などと考えたりしていた。
 
 ところが、数年前からにわかに、同性婚にまつわる情報を多く耳にするようになった。
 20世紀終盤から同性パートナーシップ制度を導入していた欧米各国が、21世紀に入ると次々に同性婚を認めるようになり、知人の中にも「外国人のパートナーと海外で結婚する」という者が、ちらほら現われるようになった。
 日本でも、「LGBT向けのブライダル」に関心を抱いたり、実際に手がけたりする企業や結婚式場が徐々に増え、渋谷区と世田谷区では同性パートナーシップ証明が始まった。
 いまだに「他人ごと」感は拭い去れないものの、「何か大きな動きが起こりつつある」という気配を、私もひしひしと感じている。
 
 さて、本書で私が担当したのは、第1章「同性パートナーシップ証明はなぜ、いかにして生まれたのか」である。
 特に同性婚や同性パートナーシップ制度に強い思い入れがあったわけでもない私が、渋谷区と世田谷区の同性パートナーシップ証明について調べようと思ったのは、それがどのような経緯で生まれたものなのか、興味を惹かれたからである。
 渋谷に関しては、池山世津子、岡田マリ、栗谷順彦、桑原敏武、杉山文野、長谷部健、松中権の各氏に、世田谷に関しては、上川あや、西川麻実、保坂展人の各氏に、個別に取材をさせていただいた。
 人選や情報の取捨選択の段階で、すでにある程度の価値判断が入ってしまっていることは否めないが、執筆にあたってはできるだけ私情を挟まず、取材から得られた情報を正確に伝えるよう心がけた。
 人によって、同じ事柄に対する捉え方が異なったり、意見が食い違ったりする箇所もいくつかあったが、あえて手を加えるようなことはせず、そのまま生かしている。
 
 取材を通して強く感じたのは、(いささか非科学的な物言いになるが)今回の二つの制度が「生まれるべくして生まれたのではないか」ということだ。
 なぜなら、それぞれの成立に至る過程が、数々の偶然に満ちていたからである。
 特に渋谷区の条例案は、関係者のうち誰か一人でも欠けていたら、あるいは少しでもタイミングがずれていたら、そもそもアイデアすら生まれなかったり、どこかの時点で流れてしまったりした可能性が高い。
 1994年に日本で初めてLGBTのパレードが行われて以来、常にその「到着地点」であり続けた「渋谷」という街(しかも1996年以降は、渋谷区役所の前がパレードのスタート地点となっている)で、日本で初めて同性間のパートナーシップを認める条例が成立したことにも、何やら因縁めいたものを感じる。
 
 また、渋谷区の隣の世田谷区で、保坂・上川の両氏が区政に携わっていた、というのも、面白い巡り合わせである。お二人がいなければ、世田谷区の制度がこんなにもスピーディに実現することはなかっただろう。
 何から何まで対照的な渋谷区の制度と世田谷区の制度が、同じ日にスタートした意味は大きい。どちらか一つだけだったら、「特殊な事例」として片づけられてしまったかもしれないが、二つの区が同時に始めたことにより、さまざまな意味で幅が広がったように思う。二通りのアプローチが提示されたことにより、ほかの自治体も後に続きやすくなったのではないだろうか。
 
 なお2015年2月、「パートナーシップ証明を含む条例案が渋谷区議会に提出される」と報じられると、LGBT当事者の間でも、それ以外の人々の間でも、賛否両論が巻き起こった。
 反対派の主だった意見は、「『結婚』は男女のためだけのものだ」「そのような制度を認めることは、家族制度の崩壊や少子化につながる」「未婚の異性愛男女も増えつつあるいま、わざわざ『結婚』という、古臭く問題も多い制度を、わざわざLGBTが手に入れる必要があるのか」といったものだった。
 また「『公正証書の作成』など、パートナーシップ証明のためにクリアしなければならない条件が厳しすぎる」という意見もあり、条例成立の1か月後に渋谷区長選が行われたことなどから、「LGBTが政治利用されたのでは」という声もあがった。
 
 渋谷区や世田谷区の同性パートナーシップ証明は、(将来的に同性婚を求める動きにつながる可能性はもちろんあるが)法的な婚姻とはまったく性格を異にする。
 また、仮に将来、同性婚が認められるようになったとしても、それが「少子化につながる」などというのは、非常にナンセンスである。
 同性婚は、異性を愛する人に「同性と結婚しろ」「子どもを作るな」と強制するものではない。もともと同性を性愛の対象とする(制度があろうとなかろうと、自身の子どもを作る可能性が少ない)者が利用する制度である。
 そして、上川氏の言葉(2015年11月6日のツイート)を借りれば「同性婚が認められたとしても、同性愛者が増える訳ではなく、嘘をつかずに自分らしく暮らし、幸せになれる人か増えるだけ」なのである。
 
 事実誤認や偏見に基づく「反対意見」に対しては、この場を借りて反論させていただいたが、そのほかの論点――「条件の厳しさ」や「政治利用」云々――について、本書で是非を問うたり判断を下したりするつもりはない。関係者の「思い」は第1章で紹介しているが、それらをどうとらえるかは、読者のみなさん次第である。
 ただ、少なくとも直に会ってお話を伺った限りでは、それぞれの制度の成立に関わった方々はみな、「LGBT当事者にとって何がベター、もしくはベストなのか」を真剣に考えておられるように、私には感じられた。
 
 私自身はいまだに、LGBTのカップルにパートナーシップ制度や結婚制度が認められるべきなのか、明確な答えを導きだせずにいる。
 しかし「生き方」の選択肢は、ないよりはあった方がいい。そして、もしかしたら将来、良きパートナーと巡り逢い、「ああ、やはり同性婚もしくは同性パートナーシップが認められていてよかった」と思う日が来るかもしれない――と考えると、やはり今回の渋谷区や世田谷区での「第一歩」を、素直に喜んでおきたい気がする。
 
 制度というのは「生き物」である。
 作られた後、実際に運用され、さまざまな人たちの意見や議論にさらされるうちに、少しずつ鍛えられ、変化していく。
 同性パートナーシップ証明などはまさに、生まれたてホヤホヤの赤ん坊のようなものである。現時点ではさほど強い思い入れはないとはいえ、LGBT当事者の一人として、せっかく生まれた赤ん坊にはすくすくと育ってほしいし、兄弟姉妹がたくさん増えてくれればいいな、とも思っている。
 本書によって、一人でも多くの方に、同性パートナーシップ証明という制度がいかにして生まれたものなのか、どのようなものなのかを知っていただければ、そしてこの新たな制度がより良い形に成長していく助けになれば、望外の喜びである。
                             エスムラルダ

あとがき「大きな一歩に立ち会って」より
              
  同性パートナーシップ証明手続き編のパートを担当させていただきました、司法書士のKIRAと申します。この度は、本書をお手にとってお読みいただき、どうも有難うございました。当初、「渋谷区の条例成立の本をエスムラルダが出すから、ちょっとその手続きのところだけ書いてみない?」とお声がけいただいたのが事の始まりでした。そのときは、ちょろちょろっと書いてくれたらいいから〜みたいな感じだったのと、実際面白そうだなと思ったので安請け合いしてしまったのですが、月日が進むに連れ、「世田谷区の手続きについても載せよう!」「もっとインタビューしよう!」「世界の同性婚事情も入れよう!」「どうせなら条例文も規則も要綱も、手続きのことわかる範囲で全部載せよう!」という流れで、最終的には「渋谷区証明書、世田谷区受領証発行第1号当事者のインタビューまで載せよう!」という、大変盛りだくさんの内容となりました。
 よもやこんなボリュームになるとは、制作側の誰も想像しておらず、また、個人的にはずっとそうなると信じていた渋谷区の「任意後見契約書+共同生活に関する合意書パターン」の他に、「任意後見契約書が省略できるパターン」が生まれたことを知ったときの衝撃たるや、凄まじいものでした。
 この本は、条例が施行された後しばらくしてから、初めての同性パートナーシップ証明が交付されるであろうその日までを執筆期間として設定されたもので、はっきりしない情報、飛び交うデマ、いつ始まるのかわからない不安感等々と、手探り感満載な中で作られました。実際、手続きに関しての詳細が明らかになったのは交付直前、公証役場にいたっては、やってくれるのかどうかが不透明。司法書士としての通常業務を行いながら手続きパートを書き上げられたのは、本当に奇跡に近いと思います。(本を作るって、本当に大変なんですね……いろいろ勉強になりました)

 本当に多くの方々の、多くの偶然が重なり、多くの繋がりによってうまれたこの二種類の制度。条例や要綱成立の裏に秘められた熱い思い。「条例」や「要綱」と、一言で言ってしまえばなんてことのない響きですし、興味がない人たちからすれば、「出生率が下がるからそれはよくないよね」とか、「家族制度崩壊の危機だ」など、無知無関心ゆえに生ずる声も多々ありますが、当事者にとっては本当に大きな第一歩であったと、本書の制作を通じて様々な声を聞き、実感している次第です。また、本書制作中にアジア最大規模とも言われる約8万人規模の台湾のプライドパレードにも参加させていただき、本当に世界にも多くのLGBT当事者がいることを身をもって感じました。
 本書の制作に携わらなければ出会うことができなかった方たちや様々な性のあり方への出会いは、本当に「多様性」の一言で片付けてしまうにはもったいないくらいの素敵な出来事でした。歴史が変わろうとしているこの瞬間にこのような形で携わらせていただき、本当に感謝しております。
 2020年には東京でオリンピック・パラリンピックが開催されます。どういった形でオリンピック・パラリンピックを迎えることになるかまだ先の話すぎて実感が湧きませんが、多くの外国人観光客が訪れることが予想されることは確かで、その中にLGBT当事者の方が多くいらっしゃることも確かな事実だと思います。日本が多様性の受容に向けて歩み始めたこの小さな歩みを止めてはならないと思いますし、今後また一歩一歩、小さな歩みでも進んでいくことを願ってやみません。
 なお、大変恐縮ですが、この数年はしばらく規則や要綱の改正が起こり、本書の手続きパートに関しては情報が古くなることも予想されます。みなさまにおかれましては、今度の動向にも着目しつつ、新たな情報を仕入れていただければ幸いです。

 最後になりましたが、同性パートナーシップ証明の発行に向けて動かれたすべての方々へ敬意を表すると共に、今後も関わるであろう多くの当事者の幸せを願って、私のあとがきとさせていただきます。本当に、ありがとうございました!
                             KIRA

著者プロフィール

エスムラルダ(エスムラルダ)

ホラー系ドラッグクイーン、ライター、脚本家
1972 年、大阪生まれ。
1994 年よりドラァグクイーンとしての活動を開始。
各種イベントやメディアに出演し、執筆活動や講演活動も行っている。
2002 年、東京都「ヘブンアーティスト」ライセンス取得。
著書に『英語で新宿二丁目を紹介する本』(ポット出版)

KIRA(キラ)

30 代司法書士、独身。
得意分野:商業登記及び相続全般
趣味:旅行
好きな食べもの:焼肉、寿司、ラーメン
好きな言葉:今こそ出発点(大平光代)・あきらめたらそこで試合終了だよ(安西先生)