2006-08-03

「生き残るためのペット」

 先日、動物病院に行ったときのこと。
 品のいい、そして質素なたたずまいのおばあさんが、待ち合いに座っていました。そこに獣医さんが猫を入れたケージを抱えてきて「はい、どうぞ。背中に栄養剤をいれてますから、これで少しは元気になると思います……」などといった説明をしながら、猫ちゃんを引き渡していました。
おばあさんは「ありがとうございます」と丁寧なお礼をいい、先生が立ち去った後、かごの中の猫に、ほんとにうれしそうに「よかったねえ」と小さな声でささやいていました。猫は、おばあさんの飼い猫とは思えないくらいのものすごいだみ声でしたが、やはりうれしいのか「ニャーゴニャーゴ」と何度も鳴いていました。その姿を見ながら「ああ、この人にとっての猫も、生き残るためのペットかもしれないなあ」としみじみ思いました。
 そして、おばあさんは、おそらく年金生活者です。さほど裕福というわけではなさそうで、子どもの教育費にだけはじゅうぶんなお金を使い、夫の死後(私の妄想では、夫は死んだことになっている)、郵貯に貯めた夫の退職金とわずかな年金でささやかに暮らしているこの人は、このだみ声の猫ちゃんにいったいいくらの治療費を支払うのだろう? それが無性に気になって、支払いのときに立ち会いたいくらいでしたが、次に私の名前が呼ばれたので、おばあさんがいったいいくらの治療費を支払ったのか、わからずじまいでした。

 今回、QJr2では、作家の斎藤綾子さん、作家の西野浩司さん、そして我がポットの佐藤女史が参加して「我が家のペット自慢」、いや違った、「ペットで人生を豊かにしている人たちにペットとの暮らし、ペットと一緒に暮らす理由などなど」を語ってもらいました。
ここでは、ほんのさわりだけご紹介しましょう。斎藤綾子さんは、つきあっていた男に「俺と猫とどっちを選ぶんだ」と聞かれて、「忠太郎(斎藤さんの猫の名前)に決まってるでしょ」と答え、男に捨てられたそうです。
 西野さんは、「デビちゃん(西野さんの猫の名前)に気をつかっちゃうから、そうそう男を連れ込めない」と言います。なんでも、男を連れていってしばらく立つと、これ見よがしに、サビシソウに自分の陣地の物影に隠れて後ろ向きに寝ちゃうらしく、その姿が哀れになるそうです。
 そして佐藤女史、この人は鉄という犬を今年になってもらいうけ、そばで見ていても「親ばか」ではなく「ばか親」なほど、愛しまくっています。同僚に「自分の面倒も見れないんだから(そこまで言われてなかったっけ!?)、犬なんて無理だよ。たまごっちを育てることからはじめたほうがいい」なんてぼろくそに言われた女です。
 そんな佐藤女史はこういっています。「自分のこと以外に手間がかかる存在っていうのがいたほうが、人間はなんだか狂わなくてすむんじゃないかなって思うところがあって、自分のことだけだとつらいことがあっても、そのことだけを考えていられるから、どんどん視野も狭くなっちゃうでしょ。そうじゃなくて邪魔してくれる存在というのがあると、すごくいいなあと思っている」
 そうなのです。余計なもの、手のかかるもの、頭の痛い存在がいると、大変なんだけど、実はそれが生きる支えになるということだってあると思うのです。まさに、生き残るためのペットです。
 近々迎える50歳以降の人生をいかに生き抜くべきかという話をよく佐藤女史とするのですが、そこでもよく「邪魔するものがいてほしい」話をよくします。この言葉以来、日々の家族の耐えられない鬱陶しさも、なんとなく受容できてきたような気がします。もちろん自分以外に手がかかるものが増えれば増えるほど、手が回らなくなり、そして日々小さな発狂をくり返して、そのたびに「今日は脳細胞が100万個は死んだな」という状況がくり返されていくという事実もまた一方にはあるのですが。もともとばかなのに、人よりどんどんばかになっていく不安も抱えながらです。

 動物病院の話に戻りますが、実はうちにも犬と猫がいて、猫のほうが先日、突然ぐったりし、暑い日が続いたから、軽い熱中症にかかったのかなーとお気楽に思っていたら、あれよあれよという間に動けなくなり、動物病院に連れて行ったところ、免疫性溶解性貧血だっけ、自己免疫の病気で、自分で自分の血をつくることができなくなるという病気かもしれないという診断を受けました。腎臓も肝臓もはかれないほどの高値になっていて、不全状態に陥り、そして緊急輸血。ちなみに猫はA型が多いらしい。
 「今晩が山かもしれません。一応、心の準備をなさって面会しておいてください」と言われ、病院のガラスケースの酸素室でひっそりと息をしているわが猫ちゃんに涙ながらに対面しました。そしてあれから2週間。点滴と酸素補給を受けながら、なぜだか奇跡的な回復をとげ、いまは毎日増血剤と抗生剤を飲みながらですが、けっこう回復しました。そしてかかったお金はいまのところ20万円。
 座談会で語られてましたが、斎藤綾子さんはここ半年で忠太郎くんの病気治療に150万円使ったそうです。あっぱれです。
 「今日は3万500円です〜」と言われて万札を出しつつも「ああもったいない! 我が家の1ヶ月の電気代と電話代と水道代が一日で飛んで行く〜」とけちくさいことを考えてしまった私は、斎藤さんの足下にも及びません、まったく。
 手のかかるものはお金もかかります。

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