2009-01-21
デジタル/ネット時代を生き抜く出版コンテンツの活用法 出版コンテンツ研究会報告書 200901
高野明彦国立情報学研究所教授が座長となって2008年夏から冬まで「出版コンテンツウ研究会」が行われました。
ポット出版の沢辺もメンバーに加わりました。
2009年1月に、研究会報告として「デジタル/ネット時代を生き抜く出版コンテンツの活用法」がまとまりました。
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デジタル/ネット時代を生き抜く出版コンテンツの活用法
− 出版コンテンツ研究会報告書 200901 −
平成21年1月
報告書の全体構成
1 本研究会の発足の趣旨
本報告書作成の背景についてお示しします。
新しいデジタル情報環境で「出版」にどのような役割変化と方向性があるか。私たちは、業種・セクター横断で、組織の立場を離れて問題意識を共有すべきと考えました。
2 状況と課題
出版コンテンツ・サービスをめぐる状況と課題について概略します。
揺籃期である今こそ、出版の新しい方向性提示・ビジョン形成に向けて「努力してみる」出版事業モデルを提示することが求められています。
3 主要論点とその要旨
全6回の研究会で議論された主要な論点について整理しました。
・紙とデジタルの関係
・電子書籍の在り方
・出版社の役割
・著作権システム
・公共基盤
・広告
・雑誌リテラシーの必要性
・オーディオブックの可能性
4 ビジネスモデル・制度の提案
電子コンテンツビジネス展開の方向性について、4つのアプローチを提案します。
・従来との連続性を重視するアプローチ
・新規事業モデルの展開
・出版社の人的資源・ノウハウの活用
・公共基盤の活用
本報告書が、今後の組織横断的で、具体的な議論の素材となることを期待します。
1 本研究会発足の趣旨について
出版、本、テキストなど、様々な次元で情報・知識の世界をめぐる社会状況が大きく変化しつつある。これまでそこに関わってきた出版社、大学、取次、書店、古書店、図書館、作家・研究者等も相互関係の変化を含めて、大きな影響を受けている。その中で、民間出版社(者)が日本の知の重要な部分をこれまで支えてきたことは確かである。しかし従来の出版事業が様々な困難に直面する一方で、新しいデジタル情報環境で「出版」にどのような役割変化と方向性があるかは、まだはっきりしていない。実際、当初大きく期待された出版コンテンツ・サービスは所期の成果を上げているとは言い難い。
こうした状況を打破するためには、「出版」がその一翼を担ってきた知識世界の公共性を支える、新たなビジョンが必要である。そして、その理念を民間ビジネスとして成立させるための仕組みと、それを支える公共基盤整備の在り方を考える時機が来ている。
こうした状況認識のもとに、従来の枠組みにとらわれず出版の今後の方向性を論議するため、広く出版に関わる業種・セクター横断的に、問題意識を共有する有志で「出版コンテンツ研究会」(座長:高野明彦国立情報学研究所教授)を本年6月に組織した。本リポートは、そのささやかな検討成果のひとつである。
2 出版コンテンツ・サービスをめぐる状況と課題
出版不況といわれる出版産業についての現状をみると、実は必ずしも本が売れていないわけではない。しかし、雑誌・新聞の売上急落が全体状況を暗くし、それに伴い、出版業を陰で支えてきた従来の広告収入モデルがうまくいかなくなっていることは確かだ。一方、電子情報環境に対応しようとした出版コンテンツ分野がそれに代わる市場になっておらず、また売れているのも一部コミックなど分野に偏りがあり、その展望は不透明である。
その背景としては、出版者側に従来の紙メディアと電子メディアの連続性・不連続性の関係に対する戸惑いがあり、新しいマーケットをとらえることができていない、GoogleやAmazonの出現も脅威なのか好機なのか出版界としての対応策が見えない、別分野からの新規参入も必ずしもうまくいっていない、など様々な理由があるだろう。また、出版に大きく依存しているはずの大学や図書館界が、出版界とほとんど無関係で活動していることも問題である。こうした状況下で、これまで機能していた活字メディアの品質保証の仕組みが揺らいでおり、誰が新しい電子環境下の出版ビジネスを引っ張っていくべきかが見えていない。
今こそ、出版の新しい方向性提示・ビジョン形成に向けて「努力してみる」出版事業モデルを提示することが求められているのではないだろうか。
3 研究会における主要論点とその要旨
研究会では出版の現況と今後の方向性について、様々なトピックが論議された。その内容すべてをこの報告に盛り込むことはできないが、そこから特に重要と思われる7点について取り上げ、その要旨を紹介したい。
(1)紙とデジタル(所有と利用)の関係
紙とデジタルのコンテンツは、内容は同じであっても、製品としては別物と考えるべきだ。これまで多くの人は、本の中身(コンテンツ)を利用することでなく、所有すること(パッケージ)に対価を払ってきた。書籍の魅力はパッケージ化されていることにあるので「同じテキストだから同じもの」と捉えてはいけない(例:新聞は、ニュースを売っているのではなく、自宅までパッケージ化して届けるサービスだから成立してきたといえる)。
ただし、その所有欲は減退しているのかもしれない。世代によっては、本好きな人であってもスペースの問題から図書館を利用し、自宅には本棚がないこともある。デジタル辞書は別として、文字メディアに関しては、「いつでももっていること」には魅力がないのかもしれない。新古書店で売り買いする行為は、有料で借りることと実質的に同様である。書店がそういう機能を取り込むべきという議論もありうる。
また、デバイスとコンテンツは不可分の関係といえる。たとえば、携帯電話というデバイスだからこそ携帯小説というジャンルは登場した。米アマゾンのKindleなどの専用読書端末とは異なり、日本では携帯電話が電子書籍のリーダー・決済機能を果たしており、電子書籍普及の可能性を秘めている。
一方、ユーザの中には、デバイスにこだわることなく、ただ単に切売り可能なテキストを見たいだけの人もいるだろう。電子化に向くもの/向かないものといった属性や、借りる/買うといった行為の機能を踏まえた上で、紙とデジタルの関係を議論すべきだろう。
(2)電子書籍の在り方
今の電子書籍は、紙の書籍の呪縛から逃れられていない。製版データをそのままwebに出すのではなく、デバイスの特性とコンテンツを組み合わせ、両面から付加価値をつけて再編成する必要がある。また、新しい配信サービスとの連動も不可欠だ。
ただし、既存の出版社の編集業務は、紙の書籍を電子コンテンツとして再利用しやすい体制にはなっておらず、またシステム的なツールも存在しない。音楽業界はCDを製品化する時点で楽曲のデジタル化が完了しており、ダウンロード事業にスムーズに移行できたが、出版業界ではデジタル化の費用面で各社躊躇しているのが現状である。
電子書籍の販売は、紙媒体と同じ方法で売ろうとして苦戦している。電子書籍の価格設定は、再販制度及び紙の本の値段との関係を断ち切った方がよい。今のところ、電子書籍や携帯小説の流通コストは相対的に高く、また種類・売上げともに紙の書籍より圧倒的に少ない。電子書籍の「金になる」ビジネス・モデルは、やはり紙媒体の出版物の強みの延長線上にあるだろう。独自に価格設定した電子書籍の流通を紙の本と連動させることも考えられる。ただし、出版社が直販で電子書籍を売る場合、各社個別に販売システムを構築するのではなく、共有の販売インフラを持つことが望ましい。
読者市場のマーケティングも必要だ。PC系の電子書籍利用者は男性が多く、携帯小説読者は若い女性が多いなど、現在は、世代別・性別・デバイス別の市場セグメントがある。特に50-60歳代以上で本を読み、PC・インターネットを使うシニア層は、従来はなかった新しい市場なので、若い世代と差別化した商品開発の余地がある。
従来の紙の本は、サイズ、ページ、レイアウト、装丁等の制約のなかで情報を構成する必要があり、そこに出版社の編集能力が発揮されてきた。現在では、電子書籍や携帯小説のようなデバイスの多様化、インターネット発コンテンツの書籍化などにより、編集者に求められる能力や役割も変わってきている。
インターネット上の掲示板やブログ、携帯小説は、著者が代償を求めない新しい形のコンテンツである。フリーコンテンツと有料コンテンツを組合せて商品化する、フリーコンテンツにクリッピング等の付加価値をつけるなどの枠組みは、編集者の能力を生かした新しいビジネス・モデルを生み出す可能性がある。
(3)出版社の役割
出版社がコンテンツの「質」を維持する上で果たしてきた役割は評価されるべきであり、出版流通の形態が変わっても維持する必要がある。デバイスが紙でもデジタルでも、良質な情報は対価を得ることができ、さらなる良質な情報の再生産に投資できる好循環が生まれる。従来の出版のビジネス・モデルは、刊行部数が臨界点を超えると利益が大幅にアップし、そこから得た利益を、採算性は低いが良質な情報の生産に回してきた。一方、売り上げが減り費用回収ができないと情報の質は劣化していく。
紙媒体の書籍の出版においては、出版社が総体としての情報の質に責任をもってきた。作者や出版社の固有名詞は一種のブランドとなっている。このような信頼性の高いブランドを作り上げる仕組みは、現在のデジタル出版にはまだ存在しない。将来に残す信頼性の高いコンテンツは、資本投下して作られるべきである。出版社(編集者)によってクオリティコントロールされ、付加価値をつけられた情報と、インターネット上で誰にでもできる情報発信は等価ではない。
プロダクトの「よいもの」の概念は可変的だ。大手メディアのコングロマリット戦略は、価値観の多様性の否定につながる怖れがある。多種の出版者が存在し、それぞれが「良い」と思うものを作っていくことが結果的に文化の多様性を残すことになるので、これを残していくことが重要だ。
また、出版社が他のメディアとの競争に生き残るためには、今後は出版社同士が手を組んで出版業界全体としての協同体制を構築することも必要となるだろう。
(4)著作権システム
電子書籍の普及を阻む一要因として、現行の著作権システムが挙げられる。出版者側の権利が弱すぎないだろうか。出版者のもつ「編集力(信頼性の付与、内容の高度化等)」や「クオリティコントロール」への対価として、何らかの補償が必要なことを国は認識すべきではないか。
従来の紙メディアの出版物は別として、デジタルへの移行期だからこそ、デジタルコンテンツの補償金制度(=集中管理システム)という利益分配の新しい枠組み導入のチャンスと考えるべきだ。ICタグの導入などにより正確な個体管理が可能になってきた。これにより、コピー機等の記録データに基づく使用料配分も、技術的には実現可能になりつつあると考えられる。例えばナクソスジャパン(http://www.naxos.co.jp/)ではアクセスログをもとに権利者への利益の分配を行っているが、デジタルコンテンツの私的複製に対する補償金も適切に配分する仕組みができればよい。
(5)公共基盤
歴史的に見ても、市場のみで「出版」活動がうまくいくかは定かでない。出版社からは、採算性を度外視した提案をするのは難しい。そのような提案こそ公共部門が担うべきだろう。ただし、公共基盤の主体は、必ずしも国である必要はなく、民間部門に担われていてもかまわない。事業・サービスとして何をやるべきかが重要だ。
たとえば、本のデータ(書誌情報)を公共的に集めて使える状態にし、商業的な条件をつけずに自由に利用できる仕組みこそ、公共基盤が担うべきではないか。データのダウンロードが可能になれば、利用者が自発的な工夫で新たなサービス(使い道)を生み出すこともできる。現在の公共の書誌データ提供の仕組みは貧しい。たとえば、国立国会図書館のMARCはOPACからダウンロードすることができない。
保存という面では、国立国会図書館はデジタル納本を担うべきではないか。ただし、コンテンツを公共図書館で無償提供するという枠組みではなく、データ保存とメタデータの管理のみ国立国会図書館で行い、コンテンツの課金、流通、提供は第3セクター(公益法人、NPO、官民連携機関等)が担うという枠組みが望ましい。
それらの前提として、納本制度もそれに基づく国立国会図書館の諸活動も、出版社が存在しなかったら成り立たないことに注意すべきだ。公共のデジタルアーカイブを実現させるにあたっては、出版社はもろもろの条件をつけることが可能なはずだ。公共デジタルアーカイブは有料サービスとしてはどうか。
(6)広告
欧米の出版社の中には、広告の編集も担うところが出てきた。しかし、インターネット技術の普及に伴い、もはや雑誌メディアを介しての広告は不要で、自分たちで直接できると考えている欧米企業は多い。日本においても、雑誌が生き残るには、テレビ型の広告モデルでいくことになるのではないか。一度Web上で流通すると、情報は無料と認識されてしまう以上、広告以外で収入を得るのは難しい。
ただし、メディアミックスの広告効果は、デバイスにより効果が異なる。紙の本は、テレビ、映画等と連動して売れるため、メディアミックスの効果が認められる。一方携帯コミックの場合、宣伝は携帯上の広告しか効果がなく、他のメディアへの宣伝コストをかけるのは無意味である。
従来は、(お金の流れとして)コンテンツの作成者(=出版社)へ広告がまわってきたが、GoogleやYahooなどの登場により広告のビジネス・モデルが変わってしまった。Googleは、Google Bookなどでコンテンツも持ち始めており、広告収入については色々な可能性がある。
(7)雑誌的リテラシーの必要性
若い世代は雑誌を読まない傾向があり、コミック誌は読まず、単行本のみ買う層が増えているという。学術分野でも、学術誌が電子ジャーナルになったことで、テーマ・引用の幅・時間軸が狭まる傾向にあるとの報告がなされている。たまたま読んだ論文を引用するという発見的行為は、雑誌に代表されるパッケージ系の紙だからこそ起こりうるものだったといえよう。関心のある情報だけを入手することで終わり、新たな発見につながる情報を獲得する機会が減っているのではないだろうか。
また、ネット情報の読者も、表面的な情報しか見ない傾向がある。
体系化され評価された情報の質を正しく評価できる人材を育てる必要がある。新聞のNIE(Newspaper in Education)などに見られるような、情報リテラシー教育サービスの提供を、官民の違いを問わず検討すべきだ。
(8)オーディオブックの可能性
オーディオブックはオトバンク(http://www.otobank.co.jp/)などあるが、利益は出ているものの、なかなか普及しない。他方では音声ライブラリーを欲する声が図書館業界から上がっている。図書館から普及させるなど、市場の活性化のために公共部門が介入する余地がありうる。
ただし、音声合成あるいはテキスト読み上げ(text-to-speech: TTS)分野については、音声合成マークアップ言語等、標準化が未整備の段階だ。流通させるためには、何らかの標準が必要となってくるだろう。
4 新ビジネス・モデルと制度づくりの提案
(1) 4つのアプローチ
ここでは、電子コンテンツビジネス展開の方向性について、既存の出版ビジネスとの関係性を軸に4つのアプローチを展望する。①出版事業との連続性を重視するアプローチ、②既存ビジネスとは断絶した新規事業モデルの追求、③出版社の持つ資源やノウハウの活用、④図書館等の公共基盤の活用、といった観点から具体的方策を提案する。
(2) ビジネス・モデルの提案
以下では、いまだコンセプトの段階にとどまるが、4つのアプローチごとに、ビジネス・モデルを提示したい。
01 従来との連続性を重視するアプローチ
第1のアプローチとして、出版事業の優位性を維持しつつ、スムーズに新しい電子ビジネスへ移行するための具体案を追求する方向が考えられる。
◎「冊子併売モデル」
電子書籍市場を立ち上げるための方策として、書籍購入者に対する付加サービスの導入が考えられる。具体的には、商品にユニークIDを付与し、ID取得者に対して、電子版(Web版)へのアクセス提供や関連情報源へのリンク等の付加的サービス(有償、無償etc)を行う。
ネット書店のみならず、リアル書店においても、RFIDタグの導入、さらには、破壊式カバーで被覆されたIDシールの添付といった簡易な手法によっても実施可能である。こうしたモデルの定着によって、データ作成、流通、販売の各プロセスの紙・電子のハイブリッド化を促進し、権利面の整理を含めたコンテンツ流通のインフラ整備に寄与することが期待される。付随的には、新刊書と新古書の差別化にも役立つだろう。
02 新規事業モデルの展開
第2の方向性として、現在とは異なる市場モデルに依拠したビジネスを立ち上げるアプローチがある。その場合、特性の違いをどのように見極めるかが、重要なポイントとなる。
◎「開放系電子雑誌(マガジン)」
これまでの商業雑誌(マガジン)は、セグメント化された特定顧客層に対して、情報を凝縮したパッケージとして提供するものであった。一部の雑誌は、テレビ型の広告収入モデルによるインターネット上の情報サービスに移行することが予測されるが、インターネットサービスは、外部の各種情報源とリンクすることによって、情報のパッケージ化とは異なる「開放系サービス」を志向するので、従来とは違う情報編集のノウハウが求められる点に留意すべきである。
また、ネット環境下では、広告主もユーザに直接情報発信を行う方向に向かうため、成功のポイントは、「ブランド力」に大きく依存する。ターゲットの顧客層に対して、どこまでクオリティの高い情報を提供できるか、新しい「編集力」が試される。
◎「ケータイの活用」
幾多の電子書籍専用デバイスが頓挫する中で、広範に普及し、決済機能を持つ携帯電話のポテンシャルは極めて大きいものがある。しかしながら、今後の普及拡大が期待されるiPhone等のスマートフォンでさえも、視認性、一覧性が重視されるコンテンツには不向きなため、デバイス特性に特化したコンテンツの選択や新規のサービス開発が重要である。「ケータイ」に最適化したモデル例として、ターゲットを絞った登録利用者に対する有料メルマガの配信、個人の興味嗜好にあわせた形で記事を編集配信するSDIサービスなどが有望と考えられる。
03 コンテンツ以外の出版社の人的資源・ノウハウの活用
第3のアプローチとして、人材をはじめとして、編集スキルや信頼性等の出版社が保有する経営資源、これまで培ってきたノウハウを活用し、新規サービスを立ち上げる可能性が考えられる。
◎ 「人的資源の活用」と「人材育成サービス」
情報氾濫の中で、出版コンテンツには、信頼性の保証や品質管理面のアドバンテージがある。これまで、知識・情報のゲートキーパーとして、商業出版社が担ってきた編集機能を活かし、電子媒体の編集においても、そのノウハウをビジネスに活用する。一例としては、CMS(コンテンツマネジメントシステム)を利用して、顧客のコンテンツに専門家の立場でアドバイスを行い、付加価値を高める等のサービスが考えられる。
また、インターネットでの不確実情報の氾濫で、情報リテラシーの問題が深刻な課題となっている。安直なテキスト情報の切り張りが横行する等の弊害が顕著であり、公教育だけに任せるのではなく、民間レベルで「情報リテラシー育成」の提供サービスに取り組む必要がある。
04 公共基盤の活用
第4のアプローチは、図書館等の知識・情報にかかわる公的基盤を最大限に活用して、新しい電子ビジネスを展開する方向である。セクターを超えた連携体制の確立が鍵となる。
◎ 「公共図書館マーケットの活用」
電子書籍流通モデルの一類型として、地域の公共図書館を拠点とするビジネス展開が考えられる。出版社と図書館が包括契約を結び、配信インフラ(書籍DB、配信、閲覧管理、閲覧端末)を共同で整備する等のビジネス・モデルが考えられる。出版サイドとしては、当初から一定のビジネス規模を想定することが可能となり、また、公的機関を仲介することで、データ管理、包括的課金処理等の業務リスクを下げることが期待できる。一方、図書館側においても電子時代の情報提供について、一定の役割と方向性を社会的に示すことが急務となっており、両者ともに新規市場を導入するメリットは大きい。
このほか、音声化書籍(朗読・音声ライブラリー)の図書館への配信も考えられる。視覚障害者向けサービスとしてのみならず、高齢化社会におけるユニバーサルデザインの観点からも、音声ライブラリーに対する需要は高いと考えられる。
◎ 「電子納本制度の活用」
デジタル出版物の利便性を最大限に活用するためには、個々の出版社や業界の囲い込みを排した共通インフラの整備が必要であり、電子出版物の流通を支える基盤である「公共デジタルアーカイブ」の構築が重要課題と考えられる。
公共デジタルアーカイブを構成するコンテンツは、政府等の公的情報資源やパブリックドメイン等の無償コンテンツと使用料還元を前提とする商用出版物に大別される。商用出版物を含め、公共基盤が電子コンテンツを収集・蓄積するための社会制度として、「電子納本制度」の活用が有効である。あわせて、コンテンツの円滑な利用を確保するためのメタデータ(書籍単位、記事単位)の標準化と公開利用も、特定の利害関係者に依拠する形でなく、全体に共通する公共制度として、整備されることが重要だ。
アーカイブ構築に係る経費は、原則として公的資金で負担する。公的セクターが、コンテンツの受入、メタデータ・権利情報の整備、アーカイブの維持管理、データの保存等を担当し、他方、権利処理、配信、課金等の利用は、民間ビジネスとして運営し、収益を分配するモデルが望ましい。
(3) 具体的検討の必要性
以上のモデルはまだ萌芽的なものにとどまるが、今回の研究会の検討を通して、出版コンテンツビジネスとそれを含む出版界の今後の方向性について、セクター横断・業態横断的に検討することの必要性と有効性を確認できた。
当研究会報告をひとつの検討材料として、出版社、大学、取次、書店、古書店、図書館、作家・研究者等を横断した具体的な論議がこれから活発に行われることを望みたい。知識世界をこれまで支えてきた出版関係者として、これからのデジタル情報環境においても、豊かな知識社会をつくっていくために貢献する責務があると考えるからである。
なお、当報告をもとに今後論議を進める場合の課題として、特に以下の4点を挙げておきたい。
1.論点としてあげたトピックに関して、判断するための具体的な事実の把握と、それに基づく関係者間の認識の一致を求めること。
2.いわばプロトタイプ的に挙げた各ビジネス・モデルに関し、それぞれの可能性について具体的な検討を行うこと。
3.出版コンテンツをめぐる状況について、ジャーナリズムはもとより、広く社会的な理解と意見を求める努力をすること。
4.以上のことを論議するための場を、様々な機会・形式・参加者で設定していき、議論の輪・ネットワークを拡げていくこと。当研究会のメンバーも今後こうした場づくりの面で、機会をとらえ企画・提示していきたい。
検討メンバーリスト
高野 明彦 (座長 国立情報学研究所教授)
岩本 敏(出版)
植村 八潮(大学、出版)
加茂 竜一(印刷)
境 真良(大学、行政)
佐々木 隆一(コンテンツ流通)
沢辺 均(出版)
田中 久徳(図書館)
丹治 吉順(新聞)
樋澤 明(印刷)
牧野 健太郎(放送・イベント)
松岡 資明(新聞)
村井 良子(ミュージアム)
村瀬 拓男(弁護士)
柳 与志夫(図書館)
(氏名50音順、敬称略)
*()内は所属・専門分野
[...] また、出版コンテンツの今後を考える会として発足した 「出版コンテンツ研究会」の研究報告と、 デジタルコンテンツ業界で活躍するキーマンにインタビューを行った [...]