2004-09-09

年金法案、問答無用の強行採決と徹夜国会〈「参院選までに国民は忘れる」!?〉

 年金関連法案が可決——というテレビのニュース速報のスーパーを見て、なんとも言えない脱力感に陥る人々が多かったことだろう。この数か月、政府・与党の提出した年金関連法案が、抜本改革とは似て非なるものであることは十分に知れ渡ったはずだ。
 しかし、テレビ・新聞が「今国会最大のヤマ場」と伝える6月4日の深夜から5日の未明にかけて、国会周辺は奇妙な静けさに包まれていた。議員会館前に座り込む人の姿もなく、徹夜で続いた参議院本会議の傍聴者もまばらだった。99年8月の盗聴法・住民基本台帳法の参議院本会議での徹夜国会の時は、傍聴席はぎっしりで、反対の声も国会周辺に渦巻いていた。
今年の1月、「逮捕者を出すことも辞さず、年金改悪法案を阻止する」とまでぶちあげた連合会長は、政府・経団連・連合の年金協議を続行していくことにこだわり、労働組合は消化試合的なイベントを繰り返しただけ。本気で廃案に追い込む陣形はついにつくられなかった。野党第一党の民主党も、とりわけ参議院の法案審議の場で政府・与党を粉砕する機会を生かせなかった。
世論調査をすれば、国民の7割が、このまま年金関連本案を成立させるべきではないと答えている。総理大臣から厚生労働大臣の未納問題で制度への信頼は地におちた。さらに、政府・与党の説明も矛盾だらけ。給付は現役時代の5割を確保するというのもウソ、4割台から3割台へと減額もされる。国民年金は16900円を上限とするというのもウソ、2万円台を超えてしまうことも暴露された。
きわめつけは、本紙で報告し続けた年金積立金問題だ。年金資金運用基金(特殊法人)が株式運用で最大6兆円の評価損を出し、グリーンピアの破綻が確定的になり、総額融資残高25兆円規模にのぼる年金住宅融資の1兆円焦げつきと、目も当てられない状態であることに救済の手が差しのべられる。
なんと、年金積立金を6兆3千億円取り崩して、財政投融資に対する「立替え一括払い」を行うのである。それが、年金関連法案の中にしっかり隠されていることがわかり、厚生労働委員会で福島瑞穂社民党党首が厚生労働省を追及した。だいたい、年金積立金を取り崩すのに、きちんとした説明がないのはおかしい。国会に説明をしたのか? という質問に対して、「与党のブロジェクトにこの考え方を説明しています」と吉武年金局長は答えた。裏を返せば、野党にもメディアにも一切伏せたままだったのだ。
国民の保険料を積み立ててきた年金積立金から一時、6兆3千億円を立て替え払いをして、時間をかけて相当額を取り戻します。だから、年金財政に影響を与えませんというのが厚生労働省の言い分である。しかし、年金住宅融資の抱える損失額9300億円やグリーピアの損失1000億円を超える分もあわせると1兆円以上の「損失穴埋め」が、こっそりと行われようとしていたのは事実である。住専への税金投入は6300億円だった。今回は、税金ではなくて国民から強制徴収した保険料の行方だ。あの時の10倍にあたる6兆3000億円を国民に無断で持ち出すという内容を、力づくで強硬採決したのだ。しかも、6月3日には、この点を福島瑞穂党首が徹底追及するはずだった。小泉総理に対する質問時間が約束されながら、質問前に動議が提出され怒号が委員会室を包んだ。
社民党・共産党の質問時間を残したまま、年金関連法案が強行採決された。そこには、そこに小泉総理と坂口厚生労働大臣が出席していたにもかかわらず、だ。小泉総理が「物価スライド」と「マクロ経済スライド」の差をきちんと答弁できなかったことから、与党が採決を急いだという話も伝わってきた。物価スライドは物価と年金受給額を連動させるということで、マクロ経済スライドは労働力人口の減少と賃金水準、そして受給者の数で調整する、つまりは年金受給額を抑制する——という中身である。それさえ説明できないとすれば、4回も厚生大臣をつとめた小泉総理は、まるで今回の年金制度変更に関心がなかったということになる。
昨夜、そんな採決を認めた倉田参議院議長に対する不信任案が提出されると、本岡副議長(野党出身)が「散会」を宣言。そこで、今日の採決は出来ないはずだった。ところが、不信任を受けて登壇できないはずの倉田議長が出てきて、副議長の「散会」を取り消す宣言を行なうという暴挙に出た。そして、民主党・社民党が欠席する中を、さっさと年金関連法案を野党欠席の本会議場で可決・成立させてしまったというわけだ。このデタラメ法案の総責任者であるはずの小泉総理は、勤務実態のまるでなかった
横浜の不動産会社社員をやっていたことを指摘されて「仕事は選挙に勝つこと」「太っ腹な社長だ」「人生イロイロ、会社もイロイロ」などと居直りつづけている。給与も社会保険も払ってもらって「自分のやりたいことをやれ、来なくていい」なんて会社が一般にあるわけがないだろう。政治家としての存在を利用したいから、形を変えた政治献金・癒着に他ならない。
おまけに青年代議士時代に小泉総理が世話になった「太っ腹社長」は生きているのに「墓参りに行きたい」とまで抜かしたのにあきれ果てた。しかし、小泉総理も与党幹部もタカをくくっていることを忘れないでほしい。どうせ、国民は来月の参議院選挙までに忘れてしまう。事実、年金で苦しくなってきたら平壌訪問を前倒ししたら支持率も上がったし、年金報道も下火になった。こうして、この国を崩壊に導いていくイラク派兵も「多国籍軍へ参加」という禁断のシナリオに手をそめようとしている。
そんな小泉政治にノーをつきつけるのは、今しかない。

(初出:『労働情報』[連載●4]年金一揆の旗を掲げて/2004年6月15日)