2012-07-27
お部屋2420/磯部本から削った参考資料リスト
ダンスと風営法について論じた磯部涼の編著本は8月末に発売がズレ込んだようです。
すでに書いたように、この本に私は2本寄稿しているのですが、原稿が長すぎて、大幅に削ってます。長くなったのは大正から昭和30年代までのダンス事情と法規制について書いた原稿です。
エピソードをいくつか削ってしまったのが私としてももったいなくて、元の原稿は先日メルマガで配信しました。とはいえ、削っても、論旨は変わりませんから、磯部本を読んでいただければ、戦前のダンスブームがどっからどう拡大して、どう規制されたのかがよくわかるはずです。
ここまで繰り返してきたように、風営法は戦後の混乱期特有の事情によって制定されたものではなく、戦前からあった各種法令が失効したため、それらをまとめ直したものです。ダンスで言えば、大正時代から制定されたいくつかの法令(私の原稿では4種の法令が出てきますが、もっとあるかも)があり、それらを踏襲して風営法のダンス規定が作られていることも拙稿から読み取れるはずです。
この原稿のために調べてわかったことですが、実は売春云々はあとから出てきたものです。当初は見知らぬ男女が出会う場自体を嫌悪する人々が反対の論陣を張り、それを受けて法が整備され、ダンスホールを規制していきます。
戦前のものを読むと、「ダンスホールの弾圧」という言葉がよく使用されていて、この弾圧によってこそ、売春が生ずる余地が生まれていきます。当時私娼は警察犯処罰令で取り締まられ、これと連携する形でダンスホールへの規制はいよいよ強まったと言ってよさそうです。だったら、最初から規制しなきゃよかったのにって話。
さて、この原稿には参考資料リストがついていました。大量なので、ページの関係でこれも削ってしまいました。国会図書館や大宅文庫にもないものが多く、出すだけ無駄ってことでもあったのですが、本来は元ネタを示すのがルールですので、こちらに出しておくことにしました。
本文にタイトルを入れていないものだけです。また、参照した部分は磯部本では削除になっているものもあります。
●「話」文藝春秋社 昭和五年五月号 玉置眞吉「ダンスホール経営法」
●多田道夫著『ダンサーとズロース』三興社 昭和六年発行
●「自警」自警会 昭和七年新年号 通巻149号 新井虎之「所謂売笑婦と労働争議」
●「漫談」駿南社 昭和七年九月号 巽治太「ニッポン・ダンス盛衰記」第二篇
●「健康時代」健康時代社 昭和八年九月号 錦織義栄「ダンスパーティ 主催する人と招かれた人の心得べきこと」
●「話」文藝春秋社 昭和八年十月号 森久雄「ダンスホールの伊達男」
●「話」文藝春秋社 昭和十年九月号 東郷牧治「志賀暁子桃色行状記」
●「実話雑誌」非凡閣 昭和十年十二月号 草野彦七「異説ダンサー美人局」
●「週刊よみもの」週刊よみもの社 昭和11年2月20日発行 第120号「売笑婦にも似たる 良家の子女の桃色競争」
●「奥の奥」婦人画報社 昭和十一年六月発行 第七号 「女給 踊子の生活内面内幕座談会」
●「話」文藝春秋社 昭和十一年九月号 吉葉照子「涙のダンサー生活三ヶ月」
●能村恭・吉井晃編『東京千一夜 世相風俗誌』新風社 昭和二十二年発行
●「スリラー」スリラー社 昭和二十二年十一月発行 創刊号「東京でかめろん 近頃・ホール聴書」
●平間孝三・坪田譲治編『少年犯罪の手記』鎌倉文庫 昭和二十三年
●「青春生活」双夢社 昭和二十四年十一月号 浪速新太郎「道頓堀狂想曲」
●「りべらる」太虚堂書房 昭和二十六年三月号 影浦憲「ダンスホールにみる最近の桃色犯罪」
●「あまとりあ」あまとりあ社 昭和二十六年五月号 第一巻第三号 鳴海儀一郎「おそるべき子供たち」
●「人間探究」第一出版社 昭和二十七年三月発行 二十三号 井上泰宏「思春期少年の性犯罪」
●北尾春道責任編集『ナイトクラブ』彰国社 昭和二十九年十一月
●「かっぱ」久保書店 昭和三十一年二月号 江坂嘉「酒場今昔談」
●警察庁保安局防犯課編『条解 風俗営業等取締法』立花書房 昭和三十四年
具体的な事実や数字を拾ったわけではないので、リストには挙げなかったのですが、「をんな」(萬里閣)昭和12年9月号掲載・榛名静夫「近代女性のダンス学 第三期」がムチャ面白い。
ロフトプラスワンでの「そうだったのか!風営法」でこの原稿について説明しましたが、「ダンスぐらゐ現代の日本で、ありとあらゆる迫害、弾圧、憎悪、排斥を喰ったものはないだらう」として、ダンスホール規制を強く批判。それと同時に、ダンスの健全な効用だけを説いてダンスホールを弁護する人たちも支持できないとしています。
今の言葉で言い直せば、「ダンスで男と女が知り合って、交際が始まったり、セックスしたりするのは当然じゃね?」ってところです。男子との接点ももつこともできない女子は、ダンスをしただけで、その楽しさと相手への好意を錯覚して、貞操をあっさりと奪われるのであって、そういう経験を積む場が社会には必要なのだと。これも広く言えば効用のひとつですが、こういう場を潰していくと、純粋培養されて耐性のない人間ばかりができていく。
「そうだったのか!風営法」での我々のスタンスにも近くて、可能性があるという程度の理由で悪所をすべて潰した社会が本当に住み心地がよく、安全になるのかどうか。戦後の風営法の歴史は、いったんは制限された警察権力が及ぶ範囲が拡大していく過程と重なっていて、そんな社会が健全なのかどうか。
この辺についてはもう1本の浄化作戦の流れから見たクラブ摘発についての原稿を読んでいただけるとよろしいかと存じます。他の人たちが何を書いているのかまったくわからないので、自分のこと以外は省略。
磯部本は河出書房新社からの発売です。