2010-10-31

お部屋2121/エロ雑誌と実話雑誌(加筆あり)

また細かな話ですので、興味のある方だけ読んでください。なんて言わなくても、興味のない人は読まないでしょうが。

読んでいない方は先に以下をお読みください。

2104/緊急開催!! ありがとう東京三世社

2105/続・「週刊ポスト」掲載「懐かし昭和の『エロス雑誌』大全」のデタラメ

この件は「エロをバカにしやがって。でも、世間一般の意識を反映しているだけのことで、この程度の記事しか雑誌では求められていないんだよなあ」とため息をついて終わり。いつものことです。

どうせ興味を抱く人は少ないので、「黒子の部屋」ではこの手の話を書く気はもうなくて、この記事を批判したのは、たまたま阿佐ケ谷ロフトのイベントがあったためです。それがなければメルマガに書いておしまいだったでしょう。

でも、なりゆきで話は続きます。私にとっても想定外です。

ここ数年、私はほとんど固定電話に出ません。固定電話のない倉庫で仕事をしていることが多いためです。携帯電話も持ち歩かないことが多く、紛失したまま何ヶ月も買い替えなかったこともあって、よく「連絡がつかない」と怒られます。

「大きな仕事が入ったらどうするんだ」とも言われるのですが、携帯電話を持ち歩いたところで大きな仕事は入らないので、持ち歩いても持ち歩かなくても一緒です。

ふだん仕事をしている人たちは皆さんメールを送ってきますから、それで問題は生じず、問題が生じるのは、人と待ち合わせをしている時にも持って出ない場合です。ここは改善した方がいいかと思ってますが、どうも携帯電話が身に付かないので、ついつい忘れてしまいます。

そんな事情を知らない人が固定電話の留守電に入れていることがあるのですが、メモリーがいっぱいになって留守電が入らなくならないと聞かないので、入れるだけ無駄です。

これで連絡がとれない人は、携帯番号に電話してくるなり、メールを送ってくるなりするので、これも困ることはまずなく、そういう手間をかけないのは、コメント依頼とか、取材協力とか、時間的余裕のない用件だけで、気づかなかったとしても、こっちは困らないです。

で、昨日、久しぶりに留守電を聞いたら、いつもの通り、どうでもいいコメント依頼とともに、「週刊ポスト」の編集者から「インタビューをお願いしたい」とのメッセージが入ってました。どうやら、「懐かし昭和の『エロス雑誌』大全」に私のインタビューを入れようとしていたらしい。そうだったのか。

2114「マツワルとポットチャンネル」 に書いたように、インタビューは引き受けることが多いため、まさか、あんな記事とは思わず、まんまと「週刊ポスト」のインタビューも受けていたかもしれない。危なかった。固定電話に出ない生活をしていてよかったです。

もしそうなっていたら、出た記事を見て、編集者を5時間くらいどやしつけていたと思うので、あっちにとっても私が固定電話に出ないのはラッキーでした。

しかし、これは私にとっては意外でした。たぶん「週刊ポスト」の編集者は私の存在なんて知らないだろうし、当然、『エロスの原風景』や雑誌に書いたものを読んでいないだろうと思ってました。

読んでいたんだったら、ああはならないはずです。『エロスの原風景』では、カストリ雑誌の定義も、写真ページが売りのカストリ雑誌があったことも、自販機本の見分け方も、自販機本からビニ本という流れも、トルコ風呂の元祖についても書いてますから、あんな記事になるはずがない。

週刊誌だと時間がなくて、著書を読んでなくてもインタビューを申し込むことがあります。固定電話に出ないため、携帯に電話してきたり、メールを送ってきたりはしていないことから、おそらく携帯番号やメールアドレスを調べる時間さえなかったのでしょう。だから、あんな即製記事になったわけで。

ただ、一点ひっかかることがあります。

あの特集では、「昭和20年代〜30年代」を「カストリ雑誌の登場」、「昭和30年代〜40年代」の1を「グラビア雑誌の登場」、「昭和30年代〜40年代」の2を「実話雑誌の興奮」、「昭和40年代〜昭和50年代」を「カラーグラビアの隆盛」、「昭和50年代〜60年代」を「AV雑誌の大流行」とまとめています。

こういう時代のくくり方をした場合、疑問なく言えるのは「昭和20年代前半はカストリ雑誌の時代」くらいで、それ以降は、複数の流れが同時に進行していくので、ひとつの動きで時代を象徴させることは難しい。

よって、どこに着目するかに主観が入り、どれが正しくて、どれが間違っているとは言えませんが、5ページで昭和20年代から50年代を私があえてまとめるんだったら、「昭和20年代/カストリ時代」「昭和30年代/カラーグラビア登場」「昭和40年代1/ポケットサイズが席巻」「昭和40年代2/マニア雑誌の乱立」「昭和50年代/自販機本とビニ本」といったものになりましょうか。

ポケットサイズというのは「ポケットパンチOH!」をきっかけに新書サイズのエロ雑誌が激増したことを指します。東京三世社が出していた「MEN」「PINKY」もこのサイズです。所詮サイズの問題ですから、これをなくして、50年代を「自販機本」と「ビニ本と裏本」にした方がいいかな。通常の雑誌流通とは別の流通ですから、その意味でどちらも意義はありますし、露出という意味でビニ本と裏本はエロ本史上歴史的な出来事でした。

昭和40年代は、それまで「奇譚クラブ」「風俗奇譚」の二誌体制だったSM雑誌市場に「サスペンス&ミステリーマガジン」「サスペンスマガジン」「SMキング」「SMセレクト」などが参入、また、「薔薇族」も創刊されています。マニア向けですから、一般的な興味の対象ではないですが、この辺にまったく触れないのは私としては抵抗があります。

あるいは人によっては、昭和50年代を「GORO」あたりにひっかけて「アイドルヌードの時代」としたり、三流劇画に着目して「エロ劇画の時代」にするかもしれない。どちらも私は反対しない。

しかし、「週刊ポスト」は、5つの時代区分のうち、ふたつでグラビア雑誌を持ち出していて、落ち着きが悪いし、どちらも微妙に現実とずれています。

グラビア印刷は昭和20年代からエロ雑誌に使用されていますが、それをメインに据えた雑誌は昭和30年代です。それにしても、「昭和30年代〜40年代」を「グラビア雑誌の登場」とするのは無理がありましょう。昭和30年代のうちにはすでにカラーグラビアが当たりまえになってましたから。昭和40年代までを登場の時代にしたのは、昭和30年代のカラーグラビア雑誌が入手しにくかったためではなかろうか。古本市場で今も人気がありますし、値段もそこそこするので。

また、「昭和30年代〜40年代」を「実話雑誌の興奮」とまとめているのも無理がありましょう。ことによると、ここは私の影響かもしれない。正しく理解していないがための影響であって、私のせいではないです。

もともと『エロスの原風景』「実話ナックルズ」の連載ということもあって、実話雑誌を積極的に取りあげるようにしてました。切り口はさまざまですが、『エロスの原風景』に掲載されていない分を入れて実話雑誌を取りあげたのは7回あったはず。昭和30年代の実話雑誌も取りあげているため、その回だけを見て、「昭和30年代は実話雑誌の時代か」と誤解したのかも。

ルーツは江戸時代の瓦版まで遡れましょうが、人々の俗な興味を満たす実話雑誌は明治時代から脈々と続いていて、「実話」という言葉が雑誌や本のタイトルに冠せられるようになるのは昭和初期です。これ以降、「実話雑誌」という言葉が広く認知されていきます。

この実話雑誌とエロ雑誌は、版元が同じだったり、エロ系実話がメインだったり、ヌードと合体したりして、エロ雑誌とクロスする部分が多い。今で言えば「アサヒ芸能」「週刊大衆」「週刊実話」を想起していただけるとわかりやすいでしょうし、ミリオン出版が「実話ナックルズ」を、コアマガジンが「実話マッドマックス」を出しているように、エロ系出版社が実話誌を出している例が多いことでもその関係を垣間みることができます。

阿佐ケ谷ロフトでその流れを詳しく語りましたが、2108「東京三世社の歴史的意義(のさわり)」でも触れたように、 東京三世社も、長らく「実話雑誌」を出していて(これは雑誌タイトル)、社名が三世社だった時代はこれと大衆小説誌だけを出していた出版社です。

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これは戦前版の「実話雑誌」で、当時の発行元は非凡閣。これが戦後、実話雑誌社の発行となり、さらに三世社の発行に。エロがかった犯罪ものやスキャンダルはあるとしても、昭和30年代まではエロ雑誌とは言いがたい。やがてどっからどう見てもエロ雑誌になっていくわけですが、エロ雑誌と実話雑誌は隣接し、時に重なるというだけのことで、昭和30年代から40年代のエロ雑誌を代表する潮流として、実話雑誌を挙げるのは通常は出てこない発想かと思います。

隣接するものとして、「東京三世社のルーツ」だけじゃなく、「戦前の軟派雑誌と実話誌とのつながり」「週刊誌スタイルの実話雑誌のルーツ」「週刊誌ブームを先導したのはエロ系実話雑誌」なんて話を書いているのは私くらいだと思うので、実話雑誌をクローズアップしたのは、私の書いたことを飛ばし読みしたのためだとも想像できます。

それ以外に、そこに目をつけて、その時代のエロ雑誌の代表とする発想が出てくるはずがないとまでは言わないですが、おそらく短時間で適当に入手した雑誌をもとに無理矢理くくる必要があったので、『エロスの原風景』か大宅文庫から取り寄せた「実話ナックルズ」のコピーの本文は読まず、章タイトルだけ眺めて「これだ」と思ったというのが実際のところじゃなかろうか。

もしそうだったら、「頼む、ワシの本は2時間もあれば読めるんだから、せめて読んでくれ」と改めて言っておきたい。それと、「インタビューじゃなくて、校正をやらせてくれ」とも言いたい。手抜きでもいいギャラをもらえる「週刊ポスト」のライターが書いた腐れ原稿を10分の1くらいのギャラで校正しちゃる。

でも、どうせエロ雑誌なんだから、間違いだらけでもいいってことなんでしょう。まっ、世の中、そんなもんだ、エロ雑誌を真剣に調べてきたワシの方がおかしい。とまたしてもため息をついて、今度こそおしまい。
 
 
※「実話雑誌」の写真があったので、その部分を加筆しました。