2008-06-29

お部屋1559/出版界崩壊は止められないがために 8

SM業界における、今の時代のもうひとつの問題は、教育がなされにくく、よってレベルの向上がなされにくいことです。

かつてはSMクラブという場がノウハウを伝達していました。ベテランから新人へ、店から女王様たちへ。本当にこの世界は奥が深いですから、1日2日の講習で教えられることは知れていて、それ以外のことは、実践によって身につける、あるいは店や先輩、同僚たちによって教えてもらうか、自分で盗むしかない。

法規制が強まって、クラブがプレイルームを持てなくなって、出張型が主流になってくると、部屋から部屋へ移動し、待機は車ということが増えてきます。同僚や店のマネージャーと一緒にいる時間が短くなれば、伝達される機会が減るのは当然です。

プレイルームがあれば、プレイが盛り上がってきたところで、「もう一人を呼んでいい?」と聞いて、新人を参加させ、見学をさせることも容易でしたが、それもできにくい。

時には女王様からM男の客へ、客から別の女王様へという伝達もなされ、これは今現在も続いているわけですが、客には知りにくい知恵というのがあります。

古いSMクラブだと、入ってすぐに衛生の指導を徹底的にやります。針を使い捨てるのはもちろん、クスコやカテーテルは消毒液につける。あるいは紫外線消毒をする。

しかし、客にこういう部分を見せると興醒めですから、客は裏では病院なみの管理をしていることを知らなかったりします。そうすると、客を通しての伝達がなされない。

まして、クラブ経験を経ずに、最初からフリーで始める女王様、あるいはビジネスではなく、趣味でSMをやる女性たちだと、こういう部分をまったく知らずにプレイをしていることがあります。大変危険であります。

「スナイパーEVE」で一緒に連載をやっているAV監督にして、フリーの女王様でもある青山夏樹さんも、このことをよく危惧しています。ある一人のせいで業界全体が同様に見られかねず、たったひとつの事故で、業界全体がバッシングされかねないので、他人事ではないわけです。

クラブだけでなく、SMバー、SMサロンも増え、フリーの女王様や素人女王様たちも増えて、客の選択肢が膨大にある。人気も情報も金も拡散し、それぞれ儲けが減る。女王様も情報の平板化の中でなかなか浮上することができない。そういう時代に今はなってきていて、さらには危険の増大、レベル低下が言われるようになってきているわけです。これが今の時代のネガティヴな側面でしょう。

しかし、よくしたもので、壊れた制度をカバーする試みも出てきます。店によっては月に一回講習会を開いたり。この場合に、フリーの女王様たち、素人女性たち、さらには別の店の女王様をも対象にしている店があります。SM業界全体の意識向上、技術向上です(そのまま店に入れようという下心もあるにせよ)。

さらには女王様のプロダクション化も始まっています。今まではクラブやバーといった営業主体がその代行をしていたわけですが、先日も出てきた山咲美花さんは、今年になって、育成機関を兼ね備えたプロダクションを始めてます。彼女は30代後半で、このまま若い世代が伸びて来ないと、この業界は先細りになるのではないか」という危機感を抱いてのことです。詳しくは次号の「スナイパーEVE」を参照のこと。

あるいは「T1グランプリ」ですっかり人気者になっている紅葉さんが慕う月花さんのように、積極的にイベントを組むことで、店を越えて人材を世に出していくことを実践している人たちもいます。

女王様という仕事をやっている人たちには、面倒見のいい人たちが多く、独立心も旺盛であることにも関係しているのかもしれないのですが、それぞれに業界全体のことを視野に入れつつ、新しい試みをやろうとしていて感心します。

こういうところから新しいビジネスも生まれるのでしょう。

ただし、こうしたところで、徹底はできませんから、ネットで知り合った自称女王様に「ひどい目に遭わされた」ということがおそらく起きているはずで、ここは客が眼力をつけていくしかない。

今までのシステムが壊れた時には、プレイだけやっていればいいのでなく、各自が工夫し、努力していかないと生き残れない。今までは考えなくてもよかった業界全体のことにも気を配らないと、結局自分も生き残れない。クラブやメディアに頼りにくいため、客もまた同様になってきています。情報に乗っていればよかった時代よりずっと厳しい時代とも言える。

「昔はよかった」と言っていても、今は昔ではないので、問題は解決はできません。現状を踏まえた上での新しいシステム、新しいルールを構築していくしかないわけです。

出版界も同じです。

続く。