2008-06-20
お部屋1546/出版界崩壊は止められないがために 1
数日前、「マツワル」で「直しの基準」という原稿を配信していて、その話の枕に、雷句誠氏が小学館を訴えた件に触れたところ、一昨日、購読者から、「雷句誠が小学館を提訴まとめ」サイトがあると教えられました。
ムチャクチャ面白いです。人の喧嘩は面白いってだけじゃなくて、これほどまでに出版界のさまざまを考えさせるところの多い素材はなかなかないでしょう。これについて、自分の体験談を書いている漫画家たちのブログがいちいち面白くて、読み耽ってしまいました。
ニュースで取りあげられるほどの「事件」であるがための衝撃ってこともあるのでしょうが、訴訟自体よりも、それをめぐるネットの言論自体が私には衝撃かもしれない。
だったら、私もここからちょっと考えてみようかなと。またまた世間の動きからタイミングが遅れてますが、これから書いていくことは、慌てて出すようなものではないので、問題なしです。
漫画家の知り合いはたくさんいても、そうは詳しくないので、以下はもっぱら、ライターの事情です。
なお、タイトルは竹熊健太郎氏のブログ「たけくまメモ」の「マンガ界崩壊を止めるためには」から拝借しました。今後出版界はどうやっても縮小していきます。ここは必然。とするなら、それを前提にして考えていくしかないという意味を込めてみました。
まずは原稿料の話。
多くの人たちが「あのクラスでも原稿料はモノクロで1ページ1万3千円なのか」と驚いたようです。私の知り合いの漫画家たちの原稿料は1万円以下だったりしますから、それに比べればマシとは言え、小学館で、しかも売れっ子でこの値段は「安い」と私も思いました。
ただし、漫画の場合、これだけを取りだして「高い」だの「安い」だのと判断できないところがあります。子ども向けのメディアとして始まった経緯もあって、漫画雑誌の定価は安く抑えられています(正確な記憶ではないですが、取次上の優遇措置もなんかあったんじゃなかったっけな)。
当然、1ページ当たりの制作費も安い。そのおかげでマーケットを広げ、結果として単行本が売れて、漫画家が潤うという構造になっています。
漫画が売れていた時代はこれでよかったわけですが、雑誌が売れなくなると、安い定価ではやっていけない。だから、20万部も出ているのに「ヤングサンデー」が廃刊になる。
単行本も売れないし、そもそも出版社が単行本にしてくれないとなれば、漫画家は食っていけない。ピラミッドの底辺層は現に干上がっていて、私の知り合いの漫画家でも、バイトをしているのがいます。
この辺のことは「たけくまメモ」に譲るとして、「捨てる神あれば拾う神あり」で、実話誌系のコンビニ雑誌では、そういった漫画家たちを起用しており、こっちの方が原稿料がいいのです。
これはページの制作費(外注のギャラと経費を合わせたもの)が漫画雑誌より高いためです。その分、定価も高い。大手に比べれば、編集者の人件費はうんと安いので、数万部という単位で十分採算が取れます。
雑誌によって1ページあたりの制作費はさまざまですが、下は1万円もあれば、売れている雑誌だと、十万円ということもあります(実話誌ではこんな制作費はないですよ)。
私が仕事をしているような雑誌だと、2万円から4万円くらいが多いのではないかと思いますが、そこからカットを担当するイラストレーターのギャラやデザイナーのギャラを引いて、ライターの原稿料は数千円から3万円くらいだったりする(あくまでもページ単価であって、原稿用紙単価ではないです)。
これを漫画にした場合は、まんま漫画家に払えますので、ギャラが高くなるのは当然です(経費があるので、全額ってわけにはいかないですが)。その結果、中小出版社が出している実話雑誌が雷句誠クラスのギャラ以上払っている。
雑誌が売れなくなっている時代には、制作費を下げるために、「文章だと3万円かかるが、漫画だったら1万5千円で済む」という計算で漫画ページを増やしているという事情もあります。半額ですからね。
漫画が売れていた時代に成立していたギャラを基本にして、それをナンボかでも上回ればいいという発想が成立してしまうわけです。
もちろん、求められるものが違うため、自分の描きたいものは漫画雑誌以上に描けないでしょうし、ページ数もそうはもらえないでしょうが、ともあれ生活はできるということで、ありがたがっている漫画家たちがいると聞きます。
続いては、これを基準に制作費が落とされ、ついでにライターの原稿料も落とされていくかもしれない。
そんな事情がなくても、原稿料は安くなってきてます。もっぱらエロ系の雑誌に限ったことですが、新雑誌が出ると、同じ出版社でも前より原稿料が安くなっていたり、連載がリニューアルになるタイミングで安くなったり。
前はそんなことはなかったように思うのですが、今は原稿用紙1枚当たり千円台のギャラも出てきています。出版社側の事情もわかっているため、値上げ交渉は難しいです。
DVDをつける分、ページが減って、ライターの出番は減る一方。さらに、カラー印刷費の値段が下がったため、「モノクロページはやめて、カラーグラビアを増やそう」ということにもなってきています。モデルのギャラは据え置きで、カメラマンのギャラにちょっと色をつけるだけですから、そうした方が安くできる。エロ系の雑誌の場合、その方が読者も喜びます。
以前から言っているように、エロ雑誌で起きていることは、いずれ出版界全体で起きます。エロ雑誌は、ここ十年ほど、他に先んじて部数の低下と販売店の減少に喘いでいますが、これがどの雑誌でも起きてくることは必至です。
雑誌が売れないわけですから、原稿料が下がるのは当然で、金のかかる部分から削られていく。そうすっと、漫画雑誌以外で、漫画家を起用する雑誌は増えていくかも。今後雑誌自体が減っていきますから、一時的なものでしかないにせよ。
はて、ライターはどうしたらいいものか。
続く。