2008-03-05

お部屋1420/今日のマツワル80

大事なことは購読者だけに教えておけばいいと思ってますが、こればっかりはそうもいかないでしょう。さっき配信したものをこちらにも転載しておきます。

mixiの規約改正問題です。大急ぎで書いたので、間違っているところがあるかもしれず、皆さんもこの機会に著作権法を読んで、自分自身の頭で考えて対応を決めましょう。

それはそうと、年に3回の読者募集期間中です。こっちもよろしく。

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< パクリのリスク47>

mixiが大バカをやってくれました。3月3日に発表した新規約にとんでもない条文が入っていたのです。

すでに退会した人たちも続出しているようですが、私も、この規約を撤回しないのであれば、退会することをmixiで表明。

私同様、退会を表明する人たちも増えていて、コミュも立ち上がり、署名活動も始まってます。

ただし、この条文が何を意味しているのかについて、正しく理解できていない人たちも多いので、ここで解説をしておきます。ビックリですよ、ホントに。

新規約は4月1日制定になってますが、「そもそも3月3日の段階で、4月1日制定の規約が出ているのはどういうことだ」って話でありまして、この会社のいい加減さがよくわかります。

ここはスルーするとして、4月1日から実施される新規約には以下の条文が入ってます。

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第18条 日記等の情報の使用許諾等

1  本サービスを利用してユーザーが日記等の情報を投稿する場合には、ユーザーは弊社に対して、当該日記等の情報を日本の国内外において無償かつ非独占的に使用する権利(複製、上映、公衆送信、展示、頒布、翻訳、改変等を行うこと)を許諾するものとします。
2  ユーザーは、弊社に対して著作者人格権を行使しないものとします。

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「パクリのリスク」を読んでいる読者の方々は、とりわけ第2項に目が釘付けでありましょう。

そこに行く前に、第1項の説明。「日記等」とあることから、mixiで書き込んだすべてに拡大すると思っていいでしょう。

「複製、上映、公衆送信、展示、頒布、翻訳」というところまでは財産権の問題です。通常、「著作権」と言った場合はこの「財産権」を意味します。これは譲渡ができるものです。具体的には著作権法の第21条、第22条、第23条、第25条、第27条です。

これらの使用を承諾するということは、mixiがワシらの書いたものや撮ったものを無断でどこかに転送しようと、Tシャツにしてばらまこうと、映画に使用しようと、テレビコマーシャルに使おうと、展覧会に展示しようと、本にして売ろうと、翻訳して海外に売ろうと自由ってことです。しかも、「金は払いませんよ」と。

「非独占的に」とあることから、ワシらがmixiに書いたことをどうしようと勝手ってことですけど、そんなん、当たり前。権利を譲渡するわけではないのですから。しかし、「これから販売するTシャツの写真をアップしまーす」として写真を出したら、自分が販売する前に、mixiが先にTシャツにするような事態があり得るってことです。

すでに指摘されているように、mixiに広告を出したスポンサーに、アクセスした人たちの年齢や住んでいる地域、職業についてのデータを提供するのみならず、今後はその商品について書かれたものまでを企業に提供するために、規約を改正した可能性も大ですが、ともあれ、なんでもできるようにしようということです。

最初からそれを打ち出しているのならいいとしても、さんざん人を集めておいて、いまさらこれはないでしょう。実際、こういう規約になっていたのなら、私は入会しないか、したとしても、一切書き込まなかったと思います。

mixiで人間関係を作らせておいて、あとになってこれを言い出すことの是非は問われて当然。だったら、最初から言え。

しかし、ここまではまだしもです。この規約が稀に見る杜撰さ、無謀さを見せているのは、これ以降です。つまり、この規約は財産権のみならず、著作者人格権にまで権利使用が及んでいます。

ここ、大事ですよ。すでに「パクリのリスク」で何度も説明してきたように、財産権としての著作権以外に、著作者人格権というものが著作権法では定められています。

著作者人格権は「公表権」(第18条)「氏名表示権」(第19条)「同一性保持権」(第20条)からなります。

「公表権」というのは文字通り「公表する権利」です。例えば、私の日記帳を誰かが拾うとします。拾った人は、これを私に無断で公開することはできず、引用することもできません。「公表された著作物」しか引用はできませんので(第32条)。

私がある出版社に版権をすべて譲渡する契約をしていても、なお、この日記をその出版社が私に無断で出版することはできません。「公表権」は譲渡してないからです。

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(著作者人格権の一身専属性)
第59条 著作者人格権は、著作者の一身に専属し、譲渡することができない。

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亡くなったあと、遺族が相続するのは、著作権つまり財産権であって、著作者人格権は一身専属ですから、遺族も人格権までは相続できない。実際には訴える人がいなくなるので、遺族が承諾すれば問題は生じにくいし、著名な作家の未発表原稿が出てきた場合は、第59条第2項の規定により、公表することが可能かと思いますが。

「氏名表示権」は、名前を出すか出さないかの権利です。版権を所有している出版社でも、著作者の名前はちゃんと表示しなければならない。よく私が例に出しているように、夏目漱石の著作権が切れているからといって、松沢呉一著『坊ちゃん』と著者名を変えて出すことはできません。死後五十年経っても、人格権は消滅しないのですね。

「同一性保持権」はその内容を著作者が出したかったように出す権利であり、著作者の承諾なく、その内容を改竄して出すことはできません。夏目漱石著『坊ちゃん』をポルノに改竄して出すことはできないわけです。

ところが、mixiは、規約の中に「改変」という文言を入れてます。方式、様式が変わることにともなう改変は、著作権法第20条で認められています。

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(同一性保持権)
第20条 著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。

2 前項の規定は、次の各号のいずれかに該当する改変については、適用しない。
(略)
3.特定の電子計算機においては利用し得ないプログラムの著作物を当該電子計算機において利用し得るようにするため、又はプログラムの著作物を電子計算機においてより効果的に利用し得るようにするために必要な改変
4.前3号に掲げるもののほか、著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変

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にもかかわらず、「改変」という文言をあえて入れたのは、改竄と言っていいようなレベルの改変を想定しているわけです。皆さんが書いたり、撮ったりしたものをどう改竄されても文句を言えない。

それをさらに確認するために、第2項があります。

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2  ユーザーは、弊社に対して著作者人格権を行使しないものとします。

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「公表権」「氏名表示権」「同一性保持権」を侵害されても文句を言うなってことです。

「どう利用されてもいいことを前提にしか書いていない」などとして、この改正に冷淡な人たちも多いのですが、たぶんこの改正条文をちゃんと読めていないのだと思います。

皆さんは、公開されることを前提としてメッセージを書いてますか? 書いてないですよね。これを公表するか否かは書いた人に権利があるのですが、mixiはこの条文によって、メッセージさえも公開することができるようになります(末尾の「訂正」参照)。

明日の朝、新聞を開くと、「mixiではこんなセリフで女を口説き落とせます」として自分のメッセージがmixiの広告に出ていても文句は言えない。自分が撮った動画がmixiのテレビコマーシャルに使用されていても文句は言えない。しかも、クレジットを見たら、別の人の名前になっていても文句は言えない。ムチャクチャに改竄されて、自分の名前で公開されても文句を言えない。

この権利は包括的に承諾させるようなものではなく、これを認めると人格権の考えが崩れてしまうため、この条文は無効ではないかと私は思うのですが、ともあれ、それができるようにしようと考えたのがmixiです。

とんでもないでしょ。

しかも、附則に、【本利用規約の施行前にユーザーによって行われた行為についても本利用規約が適用されます】とありますから、退会以外の方法で、日記やメッセージを利用されることは避けようがない。いまさら公開することをやめたところで、なんの意味もないことを明記した条文ですから、消しても無駄。mixiに居続ける限り、これまで書いたものはこの条文の適用を受けることになります。

一度退会してリセットし、再入会して、それ以降は一切書き込みをしないのも手かとは思いますが、それ以外に対策はないかと。もちろん、メッセージやプロフィールを含めて、すべてどう利用されようともかまわない人たちは、このままでいいとして。

これに対してmixiはどう弁明しているか。3月4日、以下を公表。

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昨日お知らせいたしました 利用規約の改定 につきまして、『mixi』のサービス内にユーザーのみなさまが書き込まれる情報に関する取り扱いに関して多数のお問い合わせを頂戴いたしました。この場を借りてお詫び申し上げます。

特にお問い合わせの多い【第18条 日記等の情報の使用許諾等】に関しまして、誤解を避けるため、当社が想定している具体的な使用について補足説明をさせていただきます。

上記の条項につきましては、ユーザーのみなさまが『mixi』のサービス内で作成した日記、著作物等の情報について、従来どおりユーザー自身が権利を有することに変わりはありません。

また、ユーザーのみなさまが投稿した日記等の情報(公開している自主作成の映像やイラスト、テキスト等)の使用に関しては、当社の以下対応について同意いただくもので、当社が無断で使用することではありません。

1. 投稿された日記等の情報が、当社のサーバーに格納する際、データ形式や容量が改変されること。
2. アクセス数が多い日記等の情報については、データを複製して複数のサーバーに格納すること。
3. 日記等の情報が他のユーザーによって閲覧される場合、当社のサーバーから国内外に存在するmixiユーザー(閲覧者)に向けて送信されること。

なお、ユーザーのみなさまの日記等の情報を書籍化することに関するお問い合わせもございますが、こちらの点につきましても、従来どおり、ユーザーのみなさまの事前の了承なく進めることはございません。

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そりゃ、権利譲渡をする内容ではないですから、権利はどこまでも著作者にありますが、それをどう使っても文句は言えないって条文でしょうが。

もしすると、この通りの意図なのかもしれませんよ。しかし、この機会に、なんでもできるようにしようとしたのが大きな間違い。

もしこの意図通りだとすると、著作者人格権についての権利主張をしないなんてバカな条項を入れる必要など微塵もない。ここにある目的に制限をした条文にすればよかっただけです。子供騙しの言い訳をしやがって。

たぶん生半可な著作権知識しかない社員が暴走したのだと思うのですが、だとしたら、いますぐ撤回しか選択肢はない。いまさら撤回しても、「信用できない会社」というイメージはそう簡単には覆らないでしょうけど、それでもそれがもっとも痛手を少なくする方法です。

「マツワル」を読んでおけばこんなことにはならなかったのに(続く)。

訂正(3月5日):コミュで、規約の6条の規定から、メッセージは公開できないと指摘されました。

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1 弊社は、電気通信事業法(昭和59年法律第86号)第4条に基づき、ユーザーの通信の秘密を守ります。

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電気通信事業法第4条。

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第四条  電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密は、侵してはならない。
2  電気通信事業に従事する者は、在職中電気通信事業者の取扱中に係る通信に関して知り得た他人の秘密を守らなければならない。その職を退いた後においても、同様とする。

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この秘密にはメールの内容が含まれますので、メッセージについては、公表できないってことになります。「限定された友人のみに公開した日記も秘密だ」という主張もありましょうが、以前書いたように、「mixiの日記のどこまでが公表された著作物か」については確定した説はないはずで、個人の秘密であるとの主張は無条件には認められそうになく、無断で公表される可能性はあると見ておいた方がいいでしょう。

これ以外にも間違いを書いている可能性がありますので、気づいた方は御指摘ください。

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