2010-11-16
談話室沢辺 ゲスト:『リストラなう!』著者・たぬきち「『リストラなう!』から見る『どすこい出版流通』」
「早期退職者優遇措置(リストラ)」に応募した大手出版社営業マン、たぬきち氏。
退職までの日々、そして勤務する出版社の内情を克明に記した
ブログ「たぬきちの『リストラなう』日記」はTwitterでの紹介をきっかけに、
コメント欄には賛否両論含め、さまざまな意見が多数寄せられる人気ブログとなる。
同ブログでたぬきち氏が取り上げた『どすこい出版流通』(ポット出版刊、2008年)をテーマに、
編集者の経験も持つ元出版営業マン、たぬきち氏に出版業界の現状、課題について伺います。
(このインタビューは2010年10月8日に収録しました。)
USTREAMで中継された映像はこちらで視聴できます。
プロフィール
たぬきち
1965年広島県生まれ。大学卒業後、出版社に勤務する。書籍編集部、宣伝部を経て営業部へ。
「早期退職者優遇措置(リストラ)」に応募し2010年5月をもって退職。
ブログ「たぬきちの『リストラなう』日記」に発表された文章と、
寄せられたコメントをまとめた単行本『リストラなう!』(綿貫智人名義、新潮社、2010年)が発売中。
退職後はブログ「たぬきちの野良犬ダイアリー」を更新中。
Twitterアカウント:@tanu_ki
●出版社を退職してから今まで
沢辺 今回の「談話室沢辺」はたぬきちさんをお迎えして、お話を伺います。
たぬきち たぬきちでございます。ブログ「たぬきちの『リストラなう』日記」というのをやっておりまして、それが7月20日に書籍『リストラなう!』となって新潮社から出まして、世間をお騒がせしております。
ざっと経緯を言いますと、平成元年に都内の某中堅というか、準大手の出版社に就職して、今年、平成22年5月22日をもちまして、特別早期退職制度に応募して、辞めたところです。いわゆるリストラ組ですね。
細かいことは「リストラなう」で検索していただければブログに行きますんで、チラッと見てくだされば解ると思います。
沢辺 『リストラなう!』の元となったブログ「たぬきちの『リストラなう』日記」の中で、ポット出版で出版した『どすこい出版流通』を取り上げてもらいました。ありがとうございました。『どすこい出版流通』はブログに取り上げていただいた直後から2、3日でAmazonで100弱動きました。
現在二刷なんですけれども、もう一息で三刷にいきそうで、そこでたぬきちさんを呼んで、もう一回この本のヨイショをしてもらおうかなと(笑)。一方でたぬきちさんの『リストラなう!』も宣伝できるよって甘い言葉で誘って(笑)、今日来てもらったわけであります。
『どすこい出版流通』をちょっとだけ紹介させてもらうと、著者の田中達治さんは57歳の時に癌で亡くなられるまで、筑摩書房で取締役営業局長だった人です。田中さんは筑摩書房が書店向けに出している「蔵前新刊どすこい」という4P〜8Pの書店向けのニュースの中で営業部通信を書かれていました。業界のあり方に対する問題提起などを含めて出版流通の現状がかなり率直に書かれていて、非常に面白いコラムでした。亡くなってからではあるんですが、これをポット出版で本にまとめたいと、筑摩さんに申し入れて書籍化したという経緯の本です。
たぬきち ちょっとエクスキューズをいいですか。今日はもしかすると今後の出版界がどうなるのかといったことが、僕の口から語られるんじゃないかって期待されてる方もいるかもしれませんが、正直退職して4ヶ月も経つと、ただのぼーっとした中年なんですよ。なので今日は久々に沢辺さんをはじめ楽しい方というか、会場にいらっしゃる尊敬すべき業界の鋭い方々とお話をして、僕自身が刺激を受け取りたいな、というくらいのものでして。あまり期待していただくと申し訳ないなっていう気持ちでいっぱいなんですが(笑)。
僕が恐れ多くもこの場にしゃしゃり出てきたのは、ひとつには田中さんのこの『どすこい出版流通』。出版業界を語る上で、この本を読まずに語るのはもったいないよ、ぜひこれ読もうよみんなっていうのをもう一回言いたかった。それでちょっとだけでもご恩返しが出来たらなって思って出てきた次第なんです。これをUSTREAMで見ていただいている方は、ぜひウインドウをもう一つひらいてAmazonでポチっとやっていただいたらありがたいなと思う次第です。
沢辺 ところで、今はたぬきちさんはどうされてるんですか?
たぬきち はっきり申しますと専業主夫ですね。洗濯と掃除とごみ捨てと料理と、あとは諸々の修理。独身ですけど家人が一人おりまして、働きに出てますので家事は山ほどあります。家事は奥が深いです。特に料理は奥が深いですね。料理はやったことなかったんですけど、やるようになってから創造性を発揮しないと出来ないもんだなあと思いました。
沢辺 毎朝何時に起きるんですか?
たぬきち 7時に起きてます。あんまり早くないですけど。会社員の時は5時に起きて6時までウォーキングしてたんですよ。今年は猛暑が激しかったので、すっかりウォーキングの習慣がなくなってしまい、ダメですね。しっかりウォーキングしないと。
沢辺 ところで、失業保険はいつまで出るんですか?
たぬきち 本来だったら来年の5月30日、いや4月30日までだったかな。会社都合で辞めた場合、330日分は出るはずです。僕は旅行をしていて1度認定日にハローワークへ行けなかったので、一ヶ月給付してもらってないんですよ。その分は先延ばしになります。来年の6月30日に僕の給付期限が切れるので、それ以上は延長されないんですが。
沢辺 失業保険をもらう気分はどうですか?
たぬきち 失業保険をもらった経験のある方だとお解りになると思いますけど、これをもらってる間は働いたら負けかなっていう気分になりますよ。
システムの不具合だと思うんですけど、失業給付っていうのはもらってる間にちょっとでもバイトしたりすると、それを申告しなきゃいけない。申告すると「それでお金になったの?」「就職はできるの?」とか根掘り葉掘り言われます。そうすると、今のうちは働かない方がいいのかなって気分になっちゃう。
沢辺 根掘り葉掘り言われるだけなんですか? 例えば、ポット出版がたぬきちさんに営業を10日くらい頼んで、ギャラを支払ったら失業保険はどうなるんですかね?
たぬきち アルバイトしたことになるか、僕が個人事業主としてポットさんから営業の仕事を受注したかということでは判断が違ってくるのかもしれませんが、働いてお金を得た時点で失業給付の資格が云々されちゃうわけなんですよ。で、今もらっている失業給付の額が変動して、満額もらえない事態が起きるかもしれない。
でも最近は運用が柔軟なので、そうそう短いバイトや内職仕事でお金をもらったからと言って欠格事項になることはないみたいですけどね。だけど、申請直後のガイダンスで厳重に言われるので、お前ら働いてはいけないよって言われてるように感じるんですよ。
制度の落とし穴というか、一生懸命失業給付の制度を維持しようとするためにみんなが働かない人になってしまうという。
沢辺 なるほどね。ハローワークには月二回くらいは行くわけでしょ?
たぬきち 認定は月に一回で、その間に求職活動の実績を二回作る必要があります。
求職活動の実績については、会社が用意してくれた再就職支援会社に就職相談に行ってます。そこで模擬面接をやったり、履歴書や職務経歴書の書き方の添削をしてもらったり、あるいはメンタルヘルスの維持の相談をしたりとか。アウトプレースメント会社って言ったかな。そういう再就職全般におけるサポートをしてもらってます。
それから、求人情報を独自にその会社で集めていて、その情報はメールでもらえます。僕が同じ業界に就職したいんじゃないかと思って、出版業界に特化した求人情報をメールでくれます。出版社の就職情報が意外にあるんでびっくりしました。文庫を持ってらっしゃるような大手の会社の求人もけっこうあるんですよ。
沢辺 ここだけの話ですけど、正直まだ来年の春まで失業手当貰えるわけだし、本気で求職のエントリーをしようってところまではなってないんですか?
たぬきち やっぱり世間様に通じるスキルは維持したいので、求職活動はしなきゃいけないと思ってますが、まだ実際にエントリーしたことはありません。求職に関しては少なくとも年内はしないだろうって感じですかね。今のうちに自分でやってみたいことっていうのはあるので。でもそれをおおっぴらに言うと「君は求職活動ではなく、自営業を目指してるんだったら失業給付の対象にはならないんだよ」ってなっちゃうんですよ。
まあ再就職っていうのはね、自分をその市場に放り出してみるまで、どういうものか解らない。やっとその一端が見えてきて、これはこれで面白いねって思うんですよ。楽しいもんではないので、万人におすすめしませんが(笑)
沢辺 失業同期の人とは連絡取ってるんですか?
たぬきち たまに連絡する同期はいますよ。SNSで個人的に連絡を取り合っています。最近twitterはあんまりやらないんですよ。結構大勢の人にばれちゃうんで。
沢辺 みなさんたぬきちさんとおんなじなのかな? 来年までは失業保険がでるし、すぐにガリガリエントリーするところまでいってない。
たぬきち それは色々です。すぐに就職しちゃった40代の若い仲間もいます。しかも同業他社に。
辞めた時の個人の資産状況というか、経済状況にもよるんですよ。僕は独身でローンを持ってない。ものすごい恵まれてる状況なんで。リストラ組にも退職金でローンを相殺して、あとは蓄えはそんなに無いよって方だと真剣に就職を探さなきゃならないし、お子さんに教育費がかかる人もいらっしゃいますから。
沢辺 興味が横道にそれちゃうけど、リストラ同期仲間にもうローンを払い終わってる人は?
たぬきち いらっしゃいましたよ。40代の末とか、50代くらいの方だと、終わっちゃってる方も結構いらっしゃいます。子どもにももうお金がかからなくなった人も。ホント千差万別なんです。
沢辺 その後の会社は外から見ててどうですか?
たぬきち 伝え聞くところによると、結構雰囲気はいいらしいですね。女性ファッション誌などがすごい好調なのがあるようで、メーカーさんのCMに名前が出てたりして、おお、すげえ!誌名出てんじゃんみたいな(笑)
この広告不況にもかかわらず、優良なクライアントがその雑誌について、テレビに大きく誌名を出してすごい成功してるものもあるんじゃないかと。
沢辺 出版界はどうですか?
たぬきち 実は今日持って来るのを忘れたんですけど、出版界だけではなくて、日本の産業ってヤバいことになってるなって。角川Oneテーマ新書の中の、『デフレの正体』(藻谷浩介著、2010年)っていう本、ご存じですか?
日本の生産人口が減っていて、消費が減少しているということが一番問題だよ、と。出版不況と言われてから、1タイトルあたりの実売部数が半減し、トータルでリリースされるタイトルが二倍になってるっていう状況があります。それは買ってる人数がそれだけ減ってるからっていうことと全く符合するんですよね。それってすごいやばいなー、と。外から離れてみると余計にそれがリアルに解っちゃった。
僕が引っ越した先は割と住宅街なんですが、勤め人の導線じゃない道路際のコンビニがあるんですね。そこでは雑誌が売ってないんですよ。棚が空っぽなんですよね。
沢辺 そもそも売られてないって意味? それとも売れちゃったって意味?
たぬきち 絞ってるんですよ、多分。店を作ったときは棚を作ったぐらいだから棚いっぱいに並べられてたんでしょうけど、売れないから入れないようにしてる。そういう事じゃないかと思うんですけどね。
●書籍版『リストラなう!』は『電車男』級のスケールで企画された
沢辺 なんかね、僕は最近本が売れるの売れないって話には全然興味がなくなっちゃったっていうか、もうどうでもいいかなって気がしちゃうんですけどね。『リストラなう!』は売れてます?
たぬきち 申し訳ないけど、新潮社さんのご期待に沿うことは出来なかったんじゃないかなと非常に反省しているところです。
沢辺 初版はいくつ刷ったの?
たぬきち 1万8千部。
沢辺 単行本で1万8千部ってすごいですよね。それにしても1,300円は安いな。
たぬきち すごい数字ですよね。この束で安いですよね。これ宣伝じゃないですよ。読みたいんだったらブログにアクセスしていただければ同じものをお読み頂けますので。
沢辺 384ページ!。しかもこれフランス装じゃないですか。上製本に近いようなコストをかけてますよね。それで1,300円なんだから、確かに部数は必要だと思いますが、1万8千部はいくらなんでも刷り過ぎじゃないかって感じするけどね。
たぬきち 『電車男』(中野独人著、2004年)とか『ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない』(黒井勇人著、2008年)のようなスケールの商品ということで企画をされたと思います。
沢辺 それ間違いでしょ。僕はTBSラジオの『Dig』に出演させてもらったときに生放送で「たぬきちさん、『リストラなう』を本にしませんか?」と立候補して、「たぬきちさん、5,000部でどうでしょう?」っていった記憶があるんです。
いくら新潮社で出すにしたって初版1万8千部は多くないかなー。リストラの話はある意味普遍的と言えるかもしれないけど、中身は普遍的じゃないですよ。
たぬきち ラジオからの沢辺さんのオファーには感動しました。でもそうですよねえ。労働貴族の末路っていうか、そういう話ですからね。
沢辺 そう。むしろ年収とか退職金が話題になって、やっぱ大手の出版社はすごいなって思ったくらいで。これ読むとリストラの悲しさが解るとかそういうもんじゃないですもんね。
たぬきち それがね、読んでない人は100%会社を批判してるとかね、リストラは大変辛いんだ、だから同情を集めてるってそういう解釈をなさるんですよね。そうか、そういう風に判断をされるんだっていう。それは本当に忸怩たる思いがしますね。
例えば2chの該当スレッドで、「あいつ今どうしてんの?」なんてあって、「なんだあいつ。いま金持ってんじゃん。働かなくてすんでるんじゃん。だったら同情することもなかったよね」って。いや、あんた同情してたんだって思って改めてびっくりしました。
沢辺 まあ『リストラなう』っていうタイトルはともかく、中身を読めば僕はしんどい、大変だ、こんなにひどい目にあってるってことは全然ないですよね。むしろ極めて事実に対して冷静に記録しておこうかなって意思を感じられるような。
たぬきち 冷静ってほどじゃないですけどね。その時のノリっていうのは自分でも尋常じゃなかった。ハイになってるって感じ。誰かにこの現況を叫びたい!という感じではなくて、伝えたいって感じだった。
沢辺 記録ってことですよ。ハイになった状況も含めて、隠さず記録しておこうっていうところにポイントがあって、逆にいうとそれが面白かった。
たぬきち っていうか、口が軽い男だったってだけですよね(笑)。毎日本当にバカバカしくて楽しかったですね。疲れましたけど。
沢辺 書籍化するに当たって、コメント掲載をめぐって一時ブログが炎上したでしょ? あれはどういうことだったんですか?
たぬきち ブログにいただいたコメントの掲載をオプトアウト形式(拒否を表明しないテキストは掲載してしまう)にしたんですよね。いろんな方がそれは止めたほうがいいと仰ってくださったんですけど、僕はオプトアウトはオプトインとそんなに違わないんじゃないかと思った。だったらトータルコストの小さい、手間が少ないオプトアウトの方がいいんじゃないって思ったくらいで。
沢辺 たぬきちさんが選択したの? それとも新潮社?
たぬきち 新潮社の担当の方と相談した結果です。新潮社の方は法務の方と相談して、これで現況問題ないよとなったようです。オプトアウトって確かに理不尽な面もあると思うんですよ。なんの意思表示もしなかったらそれはイエスなのかっていうのは相当乱暴な話ですよね。
ただ、こちらとしては反論機会というか意思表示の期間を必要十分に取ったつもりではありますし、幸いなことに炎上してくれたおかげでいくつかのネットニュースが炎上中っていうのを報道してくれて、しばらく読んでなかった方ももういっぺん読みに来られる機会にもなったし。十分告知効果はあったと思うので、載せたくないという人については100%意思表示をもらってると思います。
沢辺 僕自身は現行の著作権法上ではそれではまずいだろうなとは思うし、インターネット時代でそのあたりの権利処理をどうするのかというのはかなり最先端のテーマだと思うんです。でもあの炎上については僕はほとんど興味を引かれなかったんですね。なんでだろ?
それにしても1万8千部はすごいですよね。紀伊國屋、ジュンク堂の実売を見ると、合計して4桁くらいでしたね。シェアから考えて、まあその10倍、つまり半分前後は売れてる感じかな?
たぬきち 大出版社の本気の部数って感じがしますよね。売れ行きはどうなんでしょうか。今、3ヶ月ちょっと経ったところで、あと2ヶ月強、都合6ヶ月でどのくらいになるのか? 少しでも仕上がってくれたらいいと思うんですが。
沢辺 ちなみに印税はもう入ったんですか?
たぬきち もちろんです。この件はブログのエントリーにも書いてますけど、源泉徴収を差っ引いた200万円くらいを頂戴してますけど、その内、60数万円をコメントくださった方々のためにプールしてます。図書カードもしくはAmazonのギフト券で申告いただいた方にはお返ししてますし、申告くださらなかった方の分は何らかの団体に寄付するつもりです。
沢辺 ちなみに60万円のうち、どのくらい申告がきましたか?
たぬきち 20万円くらいはペイバックしてます。
沢辺 1/3くらいは来てるってことですね、計算上。それはすごい。なんとか増刷できるといいですね。でも増刷するとまた払うんですか?
たぬきち そん時はそん時で考えますよ。できれば個人の方にお分けするのは手間が辛いので、増刷したら今度は1/3をNPOなどに寄付させていただくとかにしたいなあと思ってるんですが、どうですかね。
沢辺 ぜひ寄付する時に、僕にも相談してくださいよ(笑)。僕が理事をやっている「げんきな図書館」というNPOもありますから(笑)
●「どすこい」っていうか「ガチンコ出版話」
沢辺 ここで『どすこい出版流通』に話を移させてもらいます。どうでしたか?
たぬきち 実は辞める直前になってこの『どすこい出版流通』を読んだんですね。販売部の古手の方には当然のごとく読まれていたバイブルのような本だったんですけど、何と残念なことにそういう方が僕のすぐ近くにはいなかったんですよ。で、辞める直前にそういう方と席を接して働いてたときに、「これ知ってる?」と言われて。
読んでみたら、それまで我々販売部員が使っていた販売システム、要するに「共有書店マスタ」がなにゆえ作られたかって話が書いてあったんですね。それで販売システムって何でこうなってんの?っていう疑問が全部氷解した。あるいは、業界の来し方行く末について、すごい透徹したエッセイが続いている。この思想性たるや! すごい面白いなと思い、田中さんのファンになって、最後に亡くなったと知ってびっくりしたわけです。
沢辺 今おっしゃった「共有書店マスタ」ってみんな解るかな?
たぬきち 全国の書店に個別に番号を振っていくっていう作業で、それまでは出版社ごとに独自に書店名簿の制作・管理していたものを、何社かで集まって全国の書店に固有の統一番号を割り振った「日本の書店のデータベース」です。書店が新しく出来たり、なくなったりしたらその都度、追加や削除を管理していこうよっていうものですね。ひょっとするとかなり面倒なことなんですよね。
沢辺 田中さんはそういったことをコンピュータを使ってシステムを実現したり、ここにはあんまり出てこないんですけど、例えば出版VANだとかISBNとかのインフラにも関わった方なんです。そういう意味ではコアな部分では新しもの好きな人。
たぬきちさんも、電子書籍にも着目していて、どちらかというと新しもの好きの部類に入る人だと思うんだけど、でも一方田中さんは出版流通論みたいな話になると結構古典的なところがあるよね。
たぬきち 紙の本をどう流通させるかっていうのが大テーマになってるんですよね、田中さんの場合。
沢辺 なるほど。そういう見方か。あとは「良書」という言葉は嫌いだとかね。
たぬきち グッと来ますよね。
沢辺 僕もね、グッと来てたんです。でも、今回たぬきちさんとお会いするので、『どすこい出版流通』を読み直してみたんです。そしたら意外にも、あまりに自明なことが書かれていた。まだこういうことが課題になるような業界なのかなってそういう感じがしたんです。
たぬきち ただ、ここで言われている「良書」というのは鈴木書店の倒産に関してある新聞記事が、良心的な(?)取次の一つが倒産したら「良書」とか「いい本」の流通に支障が出てくるんじゃないか、そんなスタンスで記事が書かれている。こういう紋切り型の「良書」って言葉を安易に使ってほしくないよねっていうことなんですよね。
沢辺 すみません、話がいきなり脱線しますが、倒産で思い出したんですけど、理論社が倒産したんですね。会社更生法適用中ですけど、どこか名乗りをあげるんでしょうかね? 全然知らない俺達が話しても何の意味もないけどね(笑)
たぬきち 知らないですけど。でもコンテンツ的には非常にいい本をお持ちだと思いますから。草思社って今どうなってるんですか?
沢辺 いま、会場から文芸社の傘下に入って再生されたって報告がありました。
たぬきち 同じかどうかは解らないですけど、やっぱり拾ってくれる人がいないとダメなんですけど、けして見過ごしにされない出版社だと思いますけどね。僕ですら「よりみちパン!セ」は気になってたし。まあ児童書は知らないですけど。ただ問題なのはこれから子供の数がすごい減っていく中で、児童書がコアになってるとどうなのかな?とは思いますけどね。
沢辺 そうですね。でも、「よりみちパン!セ」なんて、あれは子どもは読んでなかったんじゃないの? あれは明らかに大人が読んでたんじゃないですか?
たぬきち ヤングアダルトっていうのは「アダルトが読むヤング」な本って意味ですからね(笑)ヤングは読まない。
沢辺 僕は西原さんの『この世でいちばん大事な「カネ」の話』(西原理恵子著、2008年)を読みましたけど、あれは良かったです。あとは何冊か読んでるんですけど、読みました?
たぬきち 僕も西原さんは読みました。素晴らしい本でしたね。いつも営業先で買うので、当時行ってた山下書店銀座店で。
沢辺 すみません、戻って『どすこい出版流通』、もうちょっと褒めてくれませんか?(笑)
たぬきち 書店さんっていうのは、出版社とある意味パートナーシップの関係にありますが、すごいミクロに見ると対立してるんですよね。何でこの本をよこさないのとか、何でこの本をすぐに返しちゃうのとか、感情的な対立がある。
要するに取引先っていうのはコーポレイティブな関係でもあり、憎しみあう関係でもあるじゃないですか。『どすこい出版流通』はそんな取引先の書店の皆さんに向けて、版元の営業の人間が投げかけ続けたメッセージの集積なんですよ。これがすごくいいんです。
実は僕も営業マンとして、電子メールで知り合いの書店員にこっそりと営業メールを打ってたことはあったんですけど、もっとすごいことをやってた人がいたんだなってこれで知りました。
やっぱりね、普通の営業トークでは、いいことしか言えないんですよ。カッコいいこととか、耳障りのいいこと、口当たりのいいことしか言えないけど、『どすこい出版流通』は結構ガチンコなことを言ってる。「どすこい」っていうか「ガチンコ出版話」なんですよ、これ。
読み進むうちに、並々ならぬというか鬼気迫るモノを感じてしまうエッセイの一つとして非常に優れている本なんですね。短い中で完結させている中に届けたいメッセージっていうのがちゃんとあるんです。
沢辺 文章うまいんですよね。で、オチが結構入ってるしね。
たぬきち そうそう。しかもそれをかなり責任ある立場の人がリスクをしょいながらやってるっていうのがすごい。こういうものはなかなかないですよ。
業界話に立脚してるので、読み進むためには色々解らなきゃいけない細かいディティールとか専門知識が必要とされるので、かなり敷居は高いんですけど、それは田中さんを偲んで集まった方々の素晴らしい注釈がフォローしているので、その注釈だけ読むと出版業界基礎知識を非常に効率よく吸収できる。業界の基礎知識を仕入れる一冊ともなっておりますし、一粒で何通りにも美味しい。
僕もね、この本は引越しの時に捨てようとは思わなかったし(笑)
沢辺 この本の中にも出てくるんですけど、田中さんはJPO(日本出版インフラセンター)で「商品基本情報センター」っていうのを作ろうとした。その取り組みの過程で、僕も一緒させてもらったんですね。2002年、3年くらいの頃かな。その会合での田中さんしか僕は知らないんですけど。
田中さんは書店にシビアなことを言ってるわけです。こんなふうに言えるのって田中さんの人間力というかキャラの力というか。誰もが言えることじゃないなとは思いますよ。
たぬきち けどね、誰もが伝えなければならないメッセージだって田中さんは思っていて、だからこそ迫力がありますよね。例えばね、鈴木書店が倒産した時のくだり、「頼むから迂回返品はしないでくれ!」って、これ鬼気迫るメッセージですよ。ほんとに。
迂回返品っていうのは要するに潰れた取次から別の取次に口座を移したら、そっちの方から本を返してくれるなよっていうことなんですよね。これ普通にもアナウンスしなきゃならないことなんだけど、新刊ニュースの間のちっちゃいコラムの中で改めて言うところがまたすごい迫力があるっていうか。通知文みたいな体裁じゃなくて肉声なんですよね、全部。
沢辺 そこ強いとこですよね。あと、業界のシステムを色々つくってきたっていう意味でも、ものすごい実績があるし。
●取次のシステムはあまりにも完成されすぎている
たぬきち 取次は悪だとか、取次というシステムが限界に来てるからいま不況から脱することが出来ない一因があるんじゃないかという議論もありますけど、しかし取次って何なの? っていうのをトータルで語るものってなかなかないんですよね。
僕は営業として取次さんとお付き合いさせていただいても、やっぱり取次さんのシステムは最後までわからなかった。でもそういうことも理解する端緒になる貴重な文献ですよね。
沢辺 たぬきちさんは取次批判派じゃないの?
たぬきち 僕は取次は立派な仕事をしてるってブログにも書いてると思うんですけど。
沢辺 いやいや、あえてネタ作りのために(笑)。たぬきちさん、佐々木俊尚さんにシンパシー感じてるでしょ。佐々木さんは既存の紙の流通システムは腐ってると言っているじゃない。で、僕はそこには違和感があるのよ。
たぬきち 業界の人にはみんなありますよね。あれは佐々木さんが作ったアングル(構図)なので。そういうふうに簡単にしてみるとものすごくすっきりして見えるから。
沢辺 これまで、取次は悪人だよねって見立ててきたところがあるわけですよ。たぬきちさんが勤めてきたような準大手の出版社は別だろうけど、中小零細出版社は批判してきたわけです。取次は大手を優遇して中小を切り捨ててるとか、利用してるとか。
佐々木さんが描いているような、取次を中心とした出版流通は腐ってるよねっていう見方は、いままでにも出版業界に流布してきた言説なんです。むしろそう言うだけで事を済ませてきたから何も改善しないまま今日を迎えているんだと僕は思う。だから僕は、もちろん少し皮肉も入ってるけど、取次は素晴らしいなと思っている。
だってマージン8%で本を本屋さんに個別に届けるんですよ。たぬきちさんはご存知だろうけど。
たぬきち 取次の取り分は本の価格の8%だって事自体を知ってる人が少ないですよね。取次が20%ぐらい取ってるって思ってる人が普通にいる。
沢辺 例えば、『リストラなう!』は1,300円です。8%ってことは104円ですよ。ルール上は一冊だけの注文もアリなわけですね。例えば書店がこの『リストラなう!』を注文して頼むと、一冊でも持ってきてくれるわけです。つまり、取次から書店、そして売れなかったらまた書店から取次へと戻して、それをさらに出版社の倉庫まで送り届ける。この作業をやって、たった104円です!
なおかつ本屋さんからも集金して、出版社に再分配してるわけですよ。まあよく言われてる金融機能ですね。それを含めて104円でやってるんですよ。
雑誌なんかもっと取次の取り分は少ないでしょう。利益は雑誌のほうが出るとは言われてますけど。仮に10%だとしたら500円の雑誌で50円。
取次は実はすごいことをやってるわけですよね。あまりにも完成されすぎてる。
たぬきち 完成されすぎてて、しかも一番売れ行きの良かった時のコスト計算でシステムが設計されているから、売上がこうして急速に縮小しつつあるときに、制度疲労みたいのが見えちゃうって側面がありますよね。それは多分、出版社の利益を上げるシステムも制度疲労が来てるだろうし。
沢辺 だけど、僕の見え方では、この間の出版業界ってただ取次を悪者にしておけば良かったみたいな議論をしてたんだよね。
たぬきち で、一番大きいのは取次さんは黙して語らない存在なんですよね。『メン・イン・ブラック』みたいな。みなさんtwitterで取次さんがつぶやいてるの見たことあります?
沢辺 会場からありますという意見がありましたけど、大したことをつぶやいてないでしょ。公式じゃないですし。そういうこともつぶやかないよねってことでしょ。
たぬきち 本当に取次さんって黒い服を来た解らない集団。黒子に徹してるってとこなんですかね。それって美風だったのかもしれないけど、こうやって個人が情報発信する時代になると、何でこの人達黙ってるのかな、不気味じゃんって思ってしまう。それだけで印象悪い。
しかもそれで新しもの好きの人からは、おまえらは何も言わないで、黙って右から左に動かすだけで中を抜いていく既得権益側じゃんみたいな言われ方をして。それに対して反論をしないとやっぱり既得権益なんじゃんって思われちゃって、すごい損な役回りだと思うんですよね。
沢辺 僕は取次を弁護したいというわけではないんだけど、取次が悪いと言ってるだけでは問題は済まない、それで済ませてるから問題が全然変わってないんだと思う。だから取次の悪口を聞くと、取次だってすごいよ、100円で納品、返品、振込も全部やってるんだよって反論したくなるんです。
たぬきち 電子書籍にすれば取次の中抜きがなくなるって言うけど、取次は8%しかとってないんだから、印税が増えるっていっても10%が18%とかそこらになるぐらいでね。そんなに得なのかって。
沢辺 変わって、AppleやAmazonが取次や書店のぶんをがっちり30%〜40%抜くよっていうのが今のモデルだから、下手したら今の書店と取次に払っているマージンより、AppleやAmazonに支払う金額が増えるくらいかもしれない。でもそれでは問題は変わらないんだよってことをすごく思うんですよ。
さっき取次さんは語らないっておっしゃいましたが、確かにそうなんですけど、例外的に語ってる人もいるんですよ。『新世紀書店』(北尾トロ・高野麻結子編、2005年)っていうポット出版の本なんですけど、今日せっかく来ていただいたんでお土産に差し上げます。
この本の中で取次のひとつ、大阪屋の鎌垣さんという方のインタビューを掲載してます。彼はインタビューの中でそれらの矛盾を語ってるんですよ。あるいは取次の言い分を語ってる。数少ない取次の人の本音に近い発信として。
たぬきち なるほど。でもやっぱり語るのは大阪屋さんか、みたいな感じがしますね。これは業界の営業の方ならなんとなく伝わると思うんですけど、なんでトーハンさん、日販さんじゃなくて大阪屋さんがこういう時に語るのかっていう(笑)、そんなニュアンスがあるでしょ。
沢辺 でも、大阪屋だからOKというわけではなく、彼自身、上司にも原稿見せたらしいですよ。社内的にここまで言ってるけど、いいですかって。個人の名前で出すけど一応大阪屋の人間だから、了解を得る手続きは踏んでいる。
で、『どすこい出版流通』の田中さんに話を戻すと、彼は取次悪者論でことを済まさないで、先程おっしゃった「共有書店マスタ」とか、出版界全体のみんなで使えるインフラを作ったんです。それが筑摩のためにもなったんだと思うんですよね。
たぬきち 田中さんは実務家なので何らかの解りやすいアングルを描いて、それで話のオチをつけたところまでで、田中さんの仕事は終わらない。実務だから、そっから先に行くにはディティールをどんどん掘り起こさないといけない。だからパッと見はとっつきにくいし、面白さは解らないんだけど、でもほんとうのところはこういう地道な、地味なものがシステムっていうか、世の中を動かしている。解りやすいアングルじゃ物事進まないんだよってところはありますよね。
何か大きなことをしなきゃいけない、とても破壊的なことをしないといけない場合には解りやすいアングルが必要だと思うんですよね。僕は大河ドラマが好きなんで、坂本龍馬が言ってるように、もし日本の制度を何とかしなきゃいけないって言うんだったら、幕府は悪じゃ、とか言ってしまったほうが楽ですよね。
●本の情報を必要な人に届かせる難しさ
沢辺 でも龍馬もね、ディテールじゃないですか。実は俺も『龍馬伝』観てるんですけど(笑)、薩長連合の時もさ、結局最後は長州が金を出して鉄砲何百丁を、薩摩が名前を出して買うという交換条件。あれが僕にとってはディティールなんですけど、幕府が悪だという理念で結びつくのではなく、鉄砲何千丁で初めてお互い博打が出来る。
そういうのはまさに言われたディティールじゃないか。ああいう大きな変化であっても結局ディティールを大切にすることが変化を支えるんじゃないかなって。
たぬきち ディティールの積み重ねでしかないですからね。ただ、幕末の話で言うと、一番最初に水戸藩の水戸学の尊皇攘夷っていうスローガンがあって、そこで日本全国各地の青年たちが血沸き肉踊るような夢を描いたのがそもそもの始まりだったっていうのがあるので、僕はやっぱり解りやすいスローガンが必要だと思うんですよ。「電子書籍」みたいな。
沢辺 そうすると『どすこい出版流通』は解りやすいアングルじゃないですよね。
たぬきち ええ。『どすこい出版流通』は本当に解りにくい、関節技の応酬みたいなところがあるので、言ってみれば猪木とか馬場のプロレスとは違うスポーツですよね。玄人にしか解らないっていうか。ここでチキンウイングアームロック!?みたいな。
沢辺 なんかそっちに魅力感じちゃうんですよね。
たぬきち だからやっぱり少なくとも出版業界のことを語っていこうよっていう時は解りやすいアングルだけで話をしていても、そんなに発展性はない。だから基礎文献としてこれを読んでおくと面白い話が出来るよって言うことは繰り返し言いたいですよね。
沢辺 もうひとつ、『どすこい出版流通』の販売経験でいうと、本は届いてないんだなって感じるんです。これ出版して二年ぐらいたつんだけど。新人の営業部員も入ってきますから、できるだけ買える状態にしておきたい本ではあるんですけど、例えばこんなに共感してくれたたぬきちさんにだってこの本の存在を知らなかったわけですよね。
映画や音楽もそうかも知れないんだけど、本当は楽しんでもらえる人、喜んでもらえる人に情報が本当に伝わってないんじゃないか。これをどうやったらいいかって言うのが僕にとっての営業なんです。そこがますます見えてきた本だなって。
だからさっきたぬきちさんが言われた、この本知らなかったんですよ、先輩に教えてもらって初めて知りましたって聞いて、まだいたんだって。存在は知ってるけど筑摩が嫌いだから買わなかったというのでもなく、40いくつの営業経験も何年もある人が知る機会をもてなかった。
本って結構そういうところありますよね。これ、どうしたらいいんですかね? でも解決策ないよね。
たぬきち でもこんなふうに安いインフラで放送ができたりする世の中だから、伝えるべきコンテンツを持ってらっしゃる人にはどんどん状況は良くなってるんじゃないですか?
沢辺 そうだよね。さすがだなあ。ここで、電子書籍とかインターネットとかって話に振っていこうって思ってたんですけど(笑)、狙い通り。
たぬきち (笑)一番問題なのはマスを相手にしてきた非常に効率のよい広告主体の雑誌で、マスの客層の消え失せてしまった出版社とか、マスの視聴者がいなくなってCMが入らなくなってしまったテレビとか、そういう媒体が今苦しい状況。
沢辺さんたちのように伝えるべきものがあって、どうすればこれを伝えるべき人たちに届くだろうかって状況にある人にはむしろ、もちろん売上は縮小してるわけですけど、機会は増えてていいんじゃないかと思うんです。
沢辺 まあ、そういうつもりで今日もこのUSTREAM中継をやってるつもりなんですけど。低費用で、もう一回『どすこい出版流通』を俎上にのせようと。
たぬきち ええ。これは何度でも、何回でも伝えるべき本なので。
沢辺 それも一方的に僕らの側、作った側からこれいいから読んでくださいっていうだけじゃなくて、やっぱきっかけがないと伝わらないっていうか。だからたぬきちさんのブログはいい機会だった。Amazonで100冊ぐらいパッと売れるわけだから。そういう機会を捕まえるしかないなと思う。すごくつまらない結論にしかないんですけど。
たぬきち うーん。なんかやりようはあるって思いますけどね。読みつないでいく基本文献になるんじゃないかと思うんですけどねえ。特に「共有書店マスタ」を使ってる出版社の営業の人はこれ読むとめちゃくちゃ面白いので、本当に読むべしっていうか。
●電子書籍は在庫がないのが一番の魅力
沢辺 最後にインターネット、電子書籍の話を。正直、僕はこの話題に飽きてるんですよ。とはいえまだまだ課題ではあるので。
たぬきち 電子書籍に関しては『電子書籍と出版』の、イベントライブ(「2010年代の出版を考える」)は面白かったですね。
沢辺 あ、そうですか(笑)
たぬきち 僕は阿佐ヶ谷ロフトのバーカウンターにいて、画面で見てましたけど。雪が降る日でした。個人的に面白かったのは、元芳林堂のおじさんが登場したことで(笑)
それ以前にですね、そこにいたるまでに丁々発止のやりとりというか、やっぱり仲俣さんや高島さんといった、twitter上でファンだった方々が目の前で語っておられるだけでとても面白かったですし。なにより電子書籍ってまだ出てきてないけど、語ることは山ほどあるみたいな、そういう瞬間だったと思います。
あのイベントが2010年2月。そしてiPadが出たのが5月でしたっけ? あの瞬間に電子書籍の話題がシュウシュウとしぼんでしまったところがある。興味がなくなったって人も結構いるんじゃないかと思いますけどね。
沢辺 実際に電子書籍を読んでますか?
たぬきち はい。僕、iPhoneで青空文庫はよく読みますよ。青空文庫リーダーのアプリで。
沢辺 なんか出版社の敵みたいな人ですね(笑)。しかも新潮社の敵じゃないですか。
そういえば三島由紀夫の著作権が切れるのがもうすぐなんですよね。亡くなったのが1970年で、いま2010年だからあと10年ぐらい。三島ですらもう50年ですから、青空文庫対象ですよね。
たぬきち 三島もですか。今はそういえば新潮文庫で出てる本ばっかり読んでる。島崎藤村とか。なぜiPhoneで読むのがいいかというと、電気を消しても読めるからなんですよ。それだけなんです。
沢辺 iPadはお持ちですか?
たぬきち 持ってないです。デカイので。まだ高いし、今のiPadってメモリがiPhoneより少ないっていうのが解っちゃったので、次が出るまで買うべきじゃないなって。スペックオタクなんですよ。
でもiPhoneで読む青空文庫って、電気を消した時にちょうど画面が光ってるのでこっそり読めるし、僻地に行っても3G回線さえあれば本の保守ができるし、ホントいいことだらけだなって。まあ電池は切れちゃいますけどね、いつか。
沢辺 まあ電気は今時どこにでもありますしね。すみません、せっかくお呼びしてるのに電子書籍について語る意欲が失せてて。ちょっと息切れしてるんですよね。
たぬきち ブログを書いてる時は営業だったので、電子書籍は在庫がないのが最高だと思いましたね。在庫っていうのは全ての営業マンが苦しむ元だと思うので。書店さんも苦しいし。もし電子書籍を紙の本みたいに書店の店頭でポップを立てて書店員さんのリコメンドで売ることが出来たら最高だと思うんですけどね。
沢辺 書店さんは電子書籍を売る必要はなくなっちゃうでしょ。売れなくなっちゃうんじゃないですかね。
たぬきち そうかなあ。電子書籍を書店の店頭で楽しく売って、楽しくお客さんがお買い求めになるとかあったらいいのになと思うんですけどね。
沢辺 100%ないとは思わないけど、難しそうだな。
たぬきち 出版不況というのは、業界の売上が下がっているってことですが、いま業界の中で何がなくなったら悲しいかって言ったら、街角の書店。出版社の一つや二つなくなったって別にいいんです。僕が一番悲しかったのは、新橋駅の前の文教堂がなくなったことですね。担当書店だったし、ほんとうに色々無理を聞いてくださったのに、突然なくなってしまった。
沢辺 でもね、その逆もあるでしょ。この前山手線のある駅から歩いて2、3分のところに、たまたま本屋さんがあったのでのぞいてみたら、本屋は滅びるなって思った。そういう本屋もまたないですか? 例えて言えば、この洋服屋さんどうやって生きてるんだろう?みたいなお店と一緒です。
もちろんなくなって寂しい書店もありますよ。昔、文鳥堂書店が原宿にあったんですよね。あれも何年か前になくなった。グループ経営だから全体の計画のうちの一つの方針なのかもしれないけど、やっぱ寂しいよね。
たぬきち そう。僕は営業マンとしてやっているうちにどんどん担当書店がなくなっていくという悲しい人だったんですよ。まず山下書店銀座店。これは営業不振ではなく、地下鉄側のレギュレーションが変わったので閉めなきゃいけなくなったから。あと、そのそばにあった旭屋書店銀座店。これが惜しまれながらなくなってしまった。本当に悲しくて。そう、あとは文教堂新橋、新橋駅書店、次々とリスペクトしていた書店がなくなっていった。福家書店銀座店も閉めちゃうんですね、今月。あそこもなくなると、握手会イベントはどうなるんだろうってね。
●会場との質疑応答1:編集・営業の相互理解と研修
沢辺 ではこのへんで会場からの質問を受けましょうか。
会場(高島=出版社の営業担当) たぬきちさんのブログでも書かれてたんですけど、出版社は大小に関わらず、編集と営業がすごく溝が深かったり、あるいは密接だったり、会社によっていろいろでしょうけど、たぬきちさんは編集も営業の現場も両方体験されてらっしゃる。編集と営業の関係の中でうまくいかなかったところや、もうちょっとこうしたら建設的というか、ポジティブな方向にいったのにっていうことがあれば、具体的に教えていただけたら。
たぬきち これは本当に自分の経験でしか言えないわけですけど、編集と営業の相互理解って、システム的にそれを保証する仕組みっていうのが全くない。結局その人によりけりっていうか、属人的な関係でしかやってこなかったんですね、僕の会社は。
ただね、今、編集の現場を見渡してみると、例えば僕の同期、入ったときに営業に配属された平成元年入社の人たちは今みんな編集にいます。いや、広告営業の人だけはずっとプロパーでやってるかな。販売営業で入った人たちは当時、酒を飲むと結構荒れたんですけどね。でも今はみんな編集の一線にいて本を作っている。営業を経験した編集者っていうのは編集しか知らない編集バカよりはよっぽど視野が広かったり、足腰がたくましかったりするっていう評価につながってますね。
会場(高島) 人事の異動は結構頻繁にあったんですか?
たぬきち 今、新入社員を見ると、営業に入った若い人は最終的には編集に行きますね。営業は編集のための草刈り場。牧場のような場所になってますね。で、編集で燃え尽きちゃった人が営業にみたいな、悪く言うとそんな風に見えないこともない。
会場(高島) あ、編集から営業っていう異動もあるんですね。もう一つ、社員教育について。これは大きい課題だと思うんですよ。OJT(On-the-Job-Training)というと聞こえはいいんですけど、習うより慣れろっていうか、やってく中で覚えろが現場では大半だと思うんですけど、具体的に会社の中でやっていたことは何かありましたか?
たぬきち これが恐ろしいぐらいOJT頼み。要するに泥縄方式です。泥棒を捕まえてから縄をなう、っていう。入社後三ヶ月の研修をやったあとは、一切研修はないんですね。管理職研修もまったくないです。
いや、やってんのかもしれないですよ、僕の知らないところで。でも僕は知らなかった。管理職にしても、どうやって管理職の仕事を教わるのかと言ったら、前任者からの引継ぎ頼みだったんじゃないかな。これは恐ろしいことですよね。
沢辺 え、だけどさ、介入しちゃいますけど。研修って役に立ちます?
会場(高島) いや、役に立つかどうかはそれぞれだと思います。あくまで個人的な経験ですけど、自分は前の会社にいたときに管理職研修を受けたことがあるんですよ。で、ああ普通の会社ってこういう事やってんだっていうのが学べるのが一番大きい。行った人はみんなそう言ってましたね。
たぬきち 研修って、受ける側のメリットより、やる側のメリットのほうが大きいと思いますよ。研修をシステマティックに遂行してる会社は、知の共有化、業務ノウハウの平準化が自然に行われている。属人的にしかやって来なかった会社っていうのは、共有事項に濃淡があって、こいつ、全然ものを知らないのに偉くなってるなみたいなことが平気でおきちゃうところがあるんじゃないですかね。
会場(高島) 無理やりくっつけるわけじゃないですけど、『どすこい出版流通』の話に出てくる共有書店マスタの話を読んでいると、筑摩も共有書店マスタが出来る前は、書店から短冊が戻ってきたら打ち込んで書店マスタを作っていた。8,000件くらいのマスタがあったようですが、共有書店マスタを使うことによって、2万数千件のデータが一気に整理された。 ただ、それを摺り合わせる作業がすごい大変だったと書かれている。
他の会社でも同じようなことが起きていたようですね。書店の管理は大切だから、みんなリストを一生懸命整備してるんですよ。ところが同じ名前の店があったりとか、同じ店なのにそれこそ半角と全角のスペースが違ってるから違う店だと認識されてるとか。
これも、前の人がこうやってたからこういう風にやってね、とやっていくだけだとだんだんボロボロになっていくんだと思うんですよね。だからそういう意味で、OJTだけじゃなくて、もうちょい基本的な研修があったほうがいいと思う。
たぬきち 多分研修をやってると、トータルのコストは安上がりになると思うんですよね。特に管理職研修など年をとってからの研修を充実させると。
沢辺 ポットは『ず・ぼん』という図書館の本も出してたりして、図書館の人と付き合うことが多いんですけど、図書館の人ってものすごい研修好きなのね。だけどその研修の現場を見ても、本当にどれだけ意欲があるかなって疑問に思う。研修費も図書館持ちだったりすることもあって、あんまり意味がないっていうか。
たぬきち それは講師を外部の方に委託してる場合ですよね。
沢辺 あるいは、日本図書館協会など外部の団体の研修会に派遣するっていう場合も結構あります。俺もね、悩むんですよ。10人くらいしかいない小さな会社ですけど、勉強をどうするか、それから共有をどうするか。お前何やってんの、エクセル使えばこういうこと一発でできるじゃんということを、隣のヤツは知ってるのに、こっちのヤツは出来ないってこともある。レベルの低い話になっちゃうけど。本当に研修ってどうやればいいか難しいなあ。そもそも研修でそれが解決するかな?って考えるんだよね。
たぬきち まあ研修っていうか、つまるところ何らかのことをみんなで共有するってことですよね。編集と営業のコミュニケーション不全を解決するのも、問題点をお互いで出し合って共有することをどうやっていくかってことだと思うし。飲みニケーションの話をすると、編集と営業が飲むと殴り合いになったりすることがあるので、なるべく飲まないようにしてるみたいな風潮はあるんですよね。よそ様もそうかは知らないんですけどね。
●会場との質疑応答2:物流にはリアリティがある
たぬきち ここで事前にもらった質問に順番に答えていきましょうか。まず高島さんから。まず取次の業務に対する理解について、取次の倉庫には行ったことありますか? という質問です。
僕は戸田の日教販さんの倉庫は見せてもらったことがあります。寒い寒い道を歩いた先にあるんですけど。でも実は僕は自社の桶川の倉庫を見たことがない。見る前に辞めちゃった。見て辞めれば良かったなあ。
トーハンさんも日販さんも見てないし。あ、日販さんは「王子まつり」で行ったことはあります。だけど入口を見るだけ。ちゃんと見せてもらう機会を得ずに残念だった。だけど、取次システムに関する研修っていうか、みんなで知識を共有する機会っていうのはなかなかない。そもそもなくても日常業務はできちゃうわけですから。
沢辺 高島さんはやっぱり倉庫は見たほうがいいって感じはある?
会場(高島) まあ倉庫は見たほうがいいかなって思いますけどね。
たぬきち 編集の人間が手にするのは一冊の本だったりしますよね。しかし、本がパレットいっぱいになるとそれがどのくらいの量になって、どのくらいの重さになるか、その迫力は実感しますよね。
会場(高島) 返品倉庫に行くと、同じタイトルのパレットがバーッと並んでたりするじゃないですか。取次というか物流にはそういうリアリティがある。それこそ田中さんなんかも倉庫から上がってきてる方なので、そういう話がリアルに語られてる。
たぬきち いま出版社は普通に本を売ってもなかなか儲けは出ないけど、倉庫でよそ様の本を扱うとそこで利益が出るという話もあったりするんですよね。だからもしかしたら出版社が潰れても倉庫部門は生き残るかも。
沢辺 現場に行くと、出版社のオフィスとのものすごい落差を感じるよね。オフィスで働いている人の顔とか、身なりとか、働いている場所とか見ると、すごい給料もらってコストもかけてんだろうなって思う。だから倉庫を見て本当にこれで利益が出てると言っていいのだろうかって気もしないことはないっていうか。
●今の編集職は10年前より仕事が2倍になってる
たぬきち 僕が編集だった時は作っておしまい。飲み会やって打ち上げすればそれでおしまいじゃんっていうのが編集の一番いいところだと思ってたんですけどね(笑)。もう今の仕事ってやらなきゃいけないことがすごい増えててカタルシスを得る瞬間が少ないんじゃないか。世の中は大変になってるなー、若い人は大変だなーって思いますよ。
沢辺 俺、今まさにそこのところに不安を覚えてるんですよ。今日もこうやって既刊本のプロモーションをやってるわけだけど、今週は火曜日も別の本のプロモーションでジュンク堂でトークセッションやったの。イベントのセッティングから始まって、チラシを作り、ブログで告知して、twitterでつぶやきといったことを編集者も含めみんなでやっているわけ。仕事の範囲が広い。本当にこんなコトやらせてていいのか? コストは見合うのか?っていう不安感があるのね。
たぬきち こういう素晴らしい便利な安いツールが発達したおかげで個人の出来ることがすごく多くなった。個人がやんなきゃいけないことばかりになっちゃったみたいなところはありますよね。
本当にどんな規模の会社でも今の編集職はたぶん僕が編集をやってた10年以上前、20年近く前よりも仕事量は絶対倍になってるはずですから。また、本を作るスパンが短くなってますよね。
沢辺 それは点数が増え、一部当たりの売上が減ってるからね。
たぬきち 入稿してから校了するまでのスパンも短くなってる。本当に昔はのんびりしてた。生産性が低くてよかったなっていう。生産性が高まるってことは、みんなして失業を発明してるんだっていう言葉がありますよね。さほど消費は増えていないわけですから、生産性を上げるということは、人が買わないものを作るってことになっちゃう。
沢辺 リフレ主張の中に、デフレ率0%っていうことは、生産性が向上してる分、必ず1%か2%のマイナス成長になってるんだよっていうことを言ってる人がいるけど、まあそりゃそうですよね。今までと同じことやってるのに手間は減って便利になってる。でも、その分他にやることは増えてるんだよね。おっしゃるとおり。
例えばこのUSTREAM中継だって、ポットの会議室の一部を使って簡単にできちゃうわけですよね。だけど、簡単にできるからと言って、何も勉強をせずにある日突然「はい、ユーストやれ」って言って、「はい分かりました」で出来るかっていうと、そうじゃない。
音はどうしたらいいかとか、ネットワークの理屈ってどうなってるのかとか、アプリを使うといいのかとか、どこどこの設定はどうするとか。実は今回で何回かやってるんだけど、音を良くするためにはどうしたらいいかってことを何回かやった中で、5回目くらいでやっとある程度の満足にいきました。これは今までは編集も営業の人もやる必要がなかった全く新しい仕事です。そんなに幅広く出来るのかって感じはすごくしますよね。
たぬきち 僕のいた会社だと、YouTubeで簡単に小規模プロモーション出来るよってなったら、じゃあどのセクションがやるのかっていう押し付け合いが始まったりするんですよね。宣伝部がやるの? 編集部がやるの? 販売がやるんじゃないの? って。三すくみの状態になっちゃう。
沢辺 なるほど。
会場(高島) 昔、出版社のウェブサイトが誰が作るんだって話で、結構立ち上がらなかった会社があったという話も聞きましたね。一緒ですよ。
沢辺 一方ポットでは、俺がやれって命令して、嫌がることもできずに、無理やりやってしまうってことになって、新たな仕事が増えちゃうわけですよね。
たぬきち 労働強化ではありますけど、一面から見たらみんなのスキル向上や、組織として業界全体の競争力が増していくことにもなるかも知れないし。それって一概に判断しづらいですよね。
●会場との質疑応答3:電話営業と飲みニケーション
たぬきち では次の質問にいきます。「電話営業をやったことがあるのか?」です。電話営業ってどういう形のことなのかな? フェアの注文が足りないので、もうちょっと強化しようぜとか言って、全員で自分の担当の地方の書店さんにもう一回ローラー作戦をやることはありましたけどね。
会場(高島) 電話でとにかく注文をとる出版社は結構あるようです。注文を取る仕事は営業の仕事で大きなウエイトを占めてると思う。FAXなのか、メールなのか、まあその他もろもろ直接行くっていうのも含めてどういった方法でもなんですけど。
FAXを送ると書店の紙を使うとかトナー使うとか怒られるじゃないですか。一方で書店の人員もどんどん減っちゃってるから、直接営業に行っても会う時間ないよとか、おいしい話持ってこないんだったら来られても困るよって話になる。それはよくわかるんですよ。
ところが電話はいいのか悪いのかが見えにくい。注文は一応取れるんですけど、書店に対して負荷がかかってるのかなという思いもあって。やらない出版社も多いし、うちもやらないですけど。中堅の出版社は営業電話をどうやっていたのかな?というのに興味があったんです。
たぬきち そういう意味だったら、書店さんから頂戴する電話は本当に喜んで出てましたね。あと、僕がいた会社はFAXがメインでした。でも電話でのコミュニケーションを喜ぶ、大好きな社員もたくさんいますし、なにより電話のほうがいいっていう書店さんも結構多いんです。
会場(高島) 書店さんから注文をもらうのが、前に比べてどんどんやりにくくなってるなと僕は思ってるんです。FAXはいろんな会社から大量に送られてくるからもういいやとか、忙しくて営業と話している時間が取れないとか。まあ大手の人はいい企画やいい弾を持ってるので、行ってもさほど書店さんに嫌がられるとは思わないんですが、そのあたりどうですか?
たぬきち それは思います。現場の書店さんの中で発注権を持ってらっしゃる方がすごく少なくなってるっていうのがありますよね。
会場(高島) 上の人と会わないといけないとか、仕入の方で番線印押さなきゃいけないとか、増えましたよね。それまでの営業は取次の特販と一緒に営業かけるだとか、自分たちが自前で営業かけるだとか、いろいろな方法があったんですけど、どんどんやりにくくなっている。その中で、次に何をやっていくのがいいのか、自分も模索してるところがあって。何かヒントがあればと思って…。
たぬきち いや、ヒントにはならないですけど、これはちょっとフィットしたなって僕が感じたのは、20代とか30代の若い現場の発注権を持ってらっしゃる方へのメール営業。これはすごく良かったですね。双方空き時間でできるし、紙も使わない。
そもそも最近書店さんの中にはFAXを送ってもそれをプリントしないチェーンっていうのがありますね。画面で確認する。なので見づらいのでFAXを送っても見ないよ、メールのほうが見やすいよって。
沢辺 でもそれは自分で直接相対した人のメールアドレスですよね。
たぬきち もちろんそうです。名刺交換しないとメルアドわからないですからね。
沢辺 だから、結局たぬきちさん個人が作るネットワークを介した情報だということだよね。それにその基礎はまず関係性を作るってこと。
たぬきち そうです。フェイストゥフェイスコミュニケーション。メールはその後のことですね。少なくとも名刺交換はしなきゃいけない。
で、そこから先のこれから営業がどうなっていくかって話ですけど、僕ひとつ気になることがあるんです。今後、書店さんとの飲みニケーションはどうなるのか? 僕の経験では、営業で特に地方に出張に行って、地方の書店さんと一杯って話になったら必ず出版社がその飲み代を出しますよね。経費削減の中、それがどうなるのかなっていうのが一番のトピックかなと思ってるんですよ。
会場(高島) 特に地方だとそうですよね。向こうの方が書店のすごいえらい方で、こっちが後輩でって時はおごってもらったりってこともありますけどね。
たぬきち でもそういうのはその地方のドンみたいな書店さんだけであって、普通は予算を持って出張するから。
沢辺 それは、たぬきちさんのいた会社でも、そういう際の領収書は処理できなくなりつつあるってこと?
たぬきち いや、これからそうなるんじゃないかという危惧。負担できるだけの会社の余裕がなくなるんじゃないかということです。
それともう一つ、在京の書店さんでもチェーンによっては版元の営業さんと飲むのが大好きなところがありますよね。そういうとこはこれからどうなるんだろう?って。一緒に飲んでコミュニケーションを取ろうっていうやり方が版元の営業予算が支えきれなくなっていくんじゃないかな。
会場(高島) あと、飲みニケーションに関して言うと、昔はどこどこ書店のなんとかさんを囲んでとかしょっちゅうあったじゃないですか。でもそういうのも減ってきてるし、書店の営業時間が長くなっちゃって。
たぬきち うん。レジ閉めたら22時すぎるので、居酒屋がもうすぐ閉まる。
会場(高島) 書店さんの人手が減っている、営業時間が延びている、正直そのあたりが結構厳しい話で。夜営業に行くって話も結構聞くんですよ。19時頃店に行くっていう。でもそれはそれでちょっときついなって。
たぬきち あとは休日に行くとか早朝に行くとかになっちゃいますからね。
●会場との質疑応答4:取次の総量規制は出版社を殺すのか
会場(A=大手出版社社員) この1年、取次の総量規制などきつくなってきて、大手の中にはペナルティを課すとか厳しくなってきてるんですけど、その辺のところはどうでしょうか。
たぬきち 日販さんの総量規制ってまだ続いてるんですか?
会場(高島) 続いてますけど、落ち着いちゃってる感じですね。返品率が下がったんで、効果が上がってるんじゃないかって話にはなってる。
会場(A) だから下げないとペナルティでお金が絡んできちゃう。
たぬきち じゃあ返品してないだけかもしれませんね。
会場(高島) いや、それはそういう契約になってるところもあるんですけど、そうでないお店もあるので。
たぬきち でも規制をかけて本当に返本率が下がるんだったらどんどん規制すべきですよね。
会場(A) いや、それこそ体力が無い版元だと、レコード会社じゃないですけど、社長が自殺するところも出てくると思いますよ。そんなこと言ってると。
沢辺 僕も総量規制で上手くいくなら総量規制すべきだと思うけど。根本の問題はどれが売れるか予測が立たないってことじゃないの?それは抽象的すぎる?
会場(A) いやあ、いろんな話は聞こえてきますけどね。新刊の代わりに古い本を戻すとかね。
沢辺 いや、だからそういうテクニックに行ったりしちゃうわけで。根本の問題は、例えばこのお店だと『どすこい出版流通』が3冊売れるよねとかがわかれば世話がないんだけど、それがわからない中である程度予測でやっている。その予測の精度をいかに上げるかの問題が一番問題なんじゃないですかね。返品とか総量規制の問題って。
会場(A) でも、予測できないでしょ。
沢辺 予測できないんだけれども、その予測度をどれだけ高めるのか、どのようにしてよりましにするかって議論だっていうこと。
会場(A) でも、それは売れ行きを予測できるような本しか出さないってことじゃないですか。売れ行きが予測できるような本を出してると買い手はどんどん減ってるんだから、売上が小さくなるばかりであって。
予測できないものであるっていうのは絶対動かしようがないと思うんですけどね。それに予測できるようにフィットするとあんまり売れないと損だし、売れすぎても損ってことになっちゃうじゃないですか。
沢辺 そこに解消の術として増刷はある。要は即返品とかも、極端な例だと書店さんに届いてダンボールも開けないで返しちゃうよって問題はあるんだけど、そしてそれは送品の問題ではある。それは取次が悪いだけじゃなくて、出版社も書店も、三者三つ巴で頑張っても、この本だったらどこに何冊売れるかっていうことに、正解がない。そこに起因してるんじゃないですかね。
その正解率をどうやって上げていくかとか、補充のスピードを上げるかってことが解決策なんじゃないですかね。
会場(A) 総量規制をやっていくと、新刊はともかく、『どすこい出版流通』みたいに、長くやっていく本がきつくなっていくのかなって。いい本がね。あ、いい本って言っちゃいけないのか(笑)。長く売られていく本が、そういう取次の総量規制なんかに影響受けちゃうんじゃないかなって。派手な新刊ばっかりの書店営業になる。
会場(高島) 地方の書店さんに聞いた話ですが、売れ行きが悪いとどんどん配本が絞られて、新刊の配本もどんどん減ってくる。すると新刊を出して返品を出してという作業が減って、ちょっと楽になって他のことに手が回るようになったらしいんですよ。これは総量規制以前の話なんだけど。
だから、地方の配本を絞られた店だと、返品はあんまり出ないよって話があったんですよ。もしかすると、その方向に軟着陸していくのであれば、新刊の量を絞っていくっていうのはありかなっていう気がするんです。でも全部を機械的に絞っていくとなると、わけわからなくなりますから。
たぬきち いや、わからないですよ。もしかして全部機械的に絞るっていう方法もあるかもしれない。確かに地方に営業に行ったときに、そこの地方のオピニオンリーダー的な若い書店主さんに言われたのは、「とにかく新刊出しすぎだから、バッサリと半分ぐらいにしたほうがいいんじゃない」って。
会場(高島) 作業する時間がないんですよね。新刊出して、また売れなかった本を返してって。この作業の手間がなくなるだけで他のことが出来るって話ですよね。
たぬきち 恐れず色々試してみるチャンスなのかな。チャンスっていうのは酷な話ですけど。
それと、今は東京って本当にお年寄りが増えてる。地方ももちろん増えてるでしょうけど。若い人が減っていくのは押しとどめようのない現状です。しかし、若い人が牽引してきた市場っていうのは明らかにあるわけじゃないですか。
例えば僕がいた会社のファッション誌はハマトラ世代の、80年代に色気づいてファッションにお金を出すようになった世代の人が20代、30代、40代になり、50代になりっていうのを追っかけて雑誌を創刊してきた。要するに人口の多いところをターゲットに持ってきた。しかしその先の未来ってないわけですよね。人口のコアが小さいから。
で、男性の読者にしてもサブカルチャーの市場っていうのがあると思うんですけど、僕のような昭和40年代を中心にしてどんどん高齢化してて、みんなやっぱりガンダムが好きで、エヴァンゲリオンとかにもはまり、大体サブカルにものすごいお金を使ってきた世代だったりするんだけど、今読む本がないって言ってる。出版界を離れてぼーっと見てるとこの先新しい読者は育つのかっていうのは思うんですね。
●会場との質疑応答5:リストラよりも全体の給料を下げたほうがいい
沢辺 Gさんはどうですか。
会場(G=準大手出版社編集) 編集と営業について言うと、僕はほとんど営業には関心がないまま編集の仕事をしてたんですが、ある時、営業の人と書店に行ってて、その書店員の人たちと営業の人達のある独特の親密さ。それを目の当たりにしてすごい世界があるなってわかるんですね。
例えば新刊がありますね。で、その本がどれだけ書店にあるかという滞在期間。これは営業の力によって返品は簡単にしないでよって圧力をかけられるかどうか。それも険悪にならない感じで。多分ダメな営業だと、その本はすぐ返ってきちゃうと思うんですよ。それをなるだけいい位置で、長い時間滞留させてくれる。そういう営業がいるんだってことがわかって、素晴らしい仕事だと。編集者はいい本を造らないとつぶしが効かないけど、いい営業の人たちはどんな仕事でも出来るなって。
もう一つ総量規制のことについて言うと、多少そういう縛りがかかることは編集にとって、必要だと思うんですよ。今明らかに供給過剰じゃないですか。本が入りすぎる。読者以上に本がある。これは作る側から規制することは殆ど無いですよね。やっぱり会社からは本を作れ、生産上げろでしょ。で、それを歯止めかけてくれるとしたら外からの圧力で、それで自分たちが作ってる本のひとつひとつをもう一度見直す機会になる気がしていて、これはけして僕は無駄じゃないと思う。総量規制に関しては前向きに、出版社にとっては警告として受け止めるべきだなと思ってます。
沢辺 作りすぎてるって思ってる?
会場(G) と思いますね。やっぱり返品率が凄まじいし、書店に行っても溢れてる。欲しい本がないかっていったらあるんだけど、やっぱり本が溢れすぎてるってことはあるんですよ。アメリカは人口が年間100万人増えている、人口ボーナスがあるからどんどん新しい消費者が生まれてくるけれども、日本は完全にもう人口減少社会で、新しい消費者が生まれない。だけど、本を作る設備、印刷所、デザイナー、編集者もそうだけど、ものすごい数の人達がいて、ものすごい供給力を持ってるわけですよ。だから絶対ミスマッチが起こっちゃう。
沢辺 どうですか、ミスマッチが起こってたと思いますか? たぬきちさんがいた会社では。
たぬきち 思わざるをえないですね。リアルに起きてると思います。今若い人向けの雑誌が非常に苦しいという話も聞いたりしますし。
沢辺 例えば具体的に、雑誌はともかくとして単行本で、去年は98冊だったから、今年は1割アップの110冊つくれといった具体的な命令・指令がでたりしたんですか?
たぬきち 数字は出ませんが、増産命令があったり減産命令があったりはしましたよね。面白いことに減産したのに、今年増産しなきゃダメだみたいなことがあったりするんですけど。
ただね、明らかに傾向としてあるのは、僕がいた20年のうち、後半の10年は文庫における時代小説のシェアがものすごく高まった。これ要するに高齢化してるってことでしょ、読者が。
沢辺 まあ複雑なんですけど、いま言われた供給過剰でいくと、会社として考えたら1タイトルあたりの実売部数が減ってるわけだから、これを解消するためには玉、つまりタイトルを増やす。これは算数の式でこれしかないんですよね。
ただもうひとつあって、それは社員をクビにするということ。で、リストラの話に戻ってくるんだけど、去年10人で100冊作ったのなら、今年は9人で100冊作れってことであれば両方を満たせるんですけど、それは正にリストラになるんですよね。そのどっちかしかない。その引き金として総量規制があれば10を9にする方向にいくっていうのがあるかもしれない。結局リストラしかないってことになるような気がするんですけど。
会場(G) いや、それはちょっと反対なんだけど、つまりリストラってことは雇用がなくなるってことでしょ。雇用がないってことは消費の力がなくなっちゃうわけですよ。そういう人を増やすっていうのはものすごく経済が悪くなっちゃう。だからやっぱり賃金カットだと思うんですよ。売れなくなったらその分生活を縮小する。だけど雇用を守る。そういう考え方のほうがまっとうかなと思うよ。
沢辺 ああ、そうね。つまり10人の雇用を9人にするというのも一つの計算式ではあるんだが、別に10人のまま9人の給料にすれば結果はおんなじだから。でも、その手前までは僕と一緒なわけですよね。そのどちらかしかないよねってことで。10割を9割にしましょうって時にさらに一歩踏み込んで、どうやってリストラするかって中身の問題。でも何で結局クビっていう方向に行くんですかね?
たぬきち 今回僕のいた会社のリストラの眼目は、50人を減らすことよりも、残った社員の給料を下げることにあったんだと思うんですよ。で、下げること成功したんで、このリストラはわりと成功したんじゃないって思う。で、今伝え聞くところによると業績も回復基調にあって、もしかして復活するかもしれない。
沢辺 余談になるんですけど、例えば子会社を作って、そこに実質の仕事を投げる。子会社は、親会社の給料体系よりも安い給料体系にする。そんなふうに子会社を利用することはたぬきちさんの会社ではやってたんですか?
たぬきち それは耳にしなかったですね。やってなかったでしょう。とにかく正社員の皆さんの給料を縮小、人件費を縮小することが眼目だったんじゃないかと。下方硬直性っていうんですか、絶対給料だけは下がらないっていうタブーをぶっ壊したので、語弊がありますけど、素晴らしいことだったんじゃないか。新しい局面がひらけたんじゃないかと思いますよ。
沢辺 『どすこい出版流通』の話にも戻すんですけど、これを読んでて、やっぱり筑摩が一度倒産して経営再建したってことがきっと大きいですよね。倒産があったからきっと給料下げられたんだと思うし。
たぬきち そうですね。編集の皆さんが美酒を浴びるほど飲み、みたいなのを倉庫、物流の現場にいらっしゃった田中さんが呪詛というか、ルサンチマンのような思い出を込めて語られる姿がすごく印象的だったですね。
あともうひとつは、買切だった筑摩の卸の形態を委託、普通の取引条件にしたりという改革も、倒産がなければ出来なかった。
沢辺 買切を普通の返品ありの条件にしたことを改革っていったけど、実はそれは一部の見方では、返品ができるってことが異常で、業界の悪弊だって言い方もされている。僕は必ずしもそうじゃないって思うんですけどね。
まあそれはともかくとして、何が言いたかったかっていうと、例えば50人リストラしますよとか、会社が倒産になっちゃいましたよとか、ある理由がないとやっぱり給料は下げられないっていうことなのかなっていう。僕もね、計算値的には別に消費が減る、だって1割減るんだから結局減るじゃんっていう反論もあるんだけど、10人を9人にするんだったらみんなで1割ずつ減らそうよっていう風にやらないと、社会は回らないし、良い組織にならないよっていう気もするから、やり方としてももちろん賛成なんです。
でも、そこに手をつけるためにはまだまだ日本社会、僕ら普通の人間が変わっていかないと出来ないですかね。
たぬきち 倒産があるから資本主義は素晴らしいんだって言葉がありますよね。倒産して、ちゃらにして、焼け野原にしたところから、またぼこぼこと新しいものを構築しなおすことが出来るんであって、倒産がなかったらやっぱり病巣を抱えたまんま推移していくだけだから。出版界は今まで倒産がなさすぎたっていう話もありますし。
沢辺 でもね、理論社の例もそうだけど、倒産しちゃうとついつい俺のギャラはどうなるとか、また踏み倒されるのかとかさ、やっぱtwitterに書かれるわけですよね。俺はどっちかって言うと、その書いた人に、じゃああなたは絶対自己破産はしないで、一度借りた借金は必ず返すっていう厳しいシステムのもとに生き続けているのならばそういう発言もありだと思うんだけどって言いたい。
つまり倒産ってチャラのシステムじゃないですか。他社に被害を押し付けるわけでしょ。それが自分である可能性ももちろんあるわけで。
●会場との質疑応答6:電子書籍の魅力は在庫0であること
会場(高島) 電子書籍の話なんですが、私も全然期待してないわけじゃないんだけど、ただ今すぐに今の形態のものがそのまますぐに立ち上がるかって言うと、やや疑問がある。たぬきちさんは以前から電子書籍に対して期待を色々表明されてますが、もしかしたら出版流通の色々な課題の何かを解決する手段として、電子書籍に期待している部分があるのかな?
たぬきち その通りです。全ての営業マン、経営者が悩む在庫というものがない。素晴らしい商品ですよね。在庫から開放されたら資本主義はどうなるんだろうっていう。
会場(高島) 大きく変わっちゃうような気がしますけどね。
たぬきち それは見てみたい。ある意味ユートピアなのかディストピアなのか。それが電子書籍に期待すること。むしろそれしかないでしょ。
電子書籍になったら楽しくなるとかって普通にどうでもいい。見え方は紙だろうが、画面だろうがどっちでもいいし。
沢辺 ポットでは電子書籍は全然売れてないんですけど、村上龍さんの『歌うクジラ』が5,000DLって書いてあったかな。京極夏彦さんの『死ねばいいのに』は確か万のケタに入ったってどっかで読んだか聞いたかした記憶がある。状況が変わっていけば、電子書籍も一気にいく気はするけど。ただもう個人的には話すのが飽きちゃったって感じなんですよ。
たぬきち それはもう十分語りつくしたっていうか、いま語ることない、エアポケットにいるとおもうんですよ。踊り場みたいな。
沢辺 そうですね。新しい状況が出てきてないので、もう全部話したことしかないよねみたいなことかなあ。
たぬきち 語る段階、供給する側が努力する段階はちょうど過ぎてて、読む側、消費する側が今何が出来るかっていうか、消費する側がどう気づくかっていう段階なのかなって。
沢辺 供給はまだまだって感じはしますけどね。
●会場との質疑応答7:絶版本の電子書籍化
沢辺 もうお一人。会場のOさん、ご意見ありますか?
会場(O=フリーマガジン編集) 私は某フリーマガジンの編集をしてるんですけど、フリーマガジンっていう性格上、営業とものすごい密着しています。どうやったらレスポンスが上がるかとか、どうすれば読者に喜ばれるとか、すごくレスポンスを気にして作ってるわけなんですね。
さっき営業と編集が一緒にいるとバトルになるという話になってましたけど、ことフリーマガジンに関しては、そんなこと言ってたら媒体は作れない。それはすごく気にしているし、人の流通としても営業と編集が結構行ったり来たりしてるんです。で、両方経験した人は良い社員になってるんじゃないかと思います。私は残念ながら編集しか経験してないんですけど。
電子か紙かって話なんですけど、私はこれからは自分で使い分けるだろうなって思ってます。端末がまだ重くてバッグに入れて持ち運べないような今の状況だと、電子で読むのは厳しいんですけど、そろそろ老眼が入ってきているので、字が大きくなるのは魅力なんですね。文庫本をこうやって近づけて読むのが負担になってきているので。
それから絶版になった本で今は紙では手に入らないものが電子で手に入るようになったら買うと思います。
沢辺 でもさ、絶版になった本って買いたいですか?
会場(O) 私が絶版になった本で欲しいと思ったのは絵本なんですけど、それはちょっと手に取って読んだほうが本当はいいんです。でも、5冊しか売れないのにもう一回刷ってくれなんて多分言えないことだし。
沢辺 でも古本も便利になってるんじゃないですか。「日本の古本屋」で検索するとかなりのものが入手できますよ。だから僕は今まで絶版になってるんだけど欲しかった本で買えなかった経験は殆どない。大した本を選んでないとも言えるかも知れないけど。
会場(O) 今度トライしてみます。
たぬきち っていうか、絶版になるような本を電子書籍に作り直すコストを誰が負担するのかみたいな話が出てきますよね、きっと。
●会場との質疑応答8:電子書籍時代の営業
大田=スタッフ すみません、twitterから質問が来てます。「電子書籍になったら営業はどうなるんだ?」っていうのが質問です。電子書籍がこれか増えていく中で、具体的にどうなるのかっていうことをお話いただけたらと思います。
たぬきち 僕が当時ブログを書いたときに思ったのは、電子書籍になったらその電子書籍のタイトルとか、電子書籍っていう存在そのものをどうソーシャル化していくか、それが営業になるんじゃないかなと。まあ佐々木俊尚さんの100%受け売りですけど。ここにこの本が存在するっていうのを触れて回るのが営業だと思いますけど。
沢辺 僕のイメージでいくと、プロモーションって言い方になるのかな。例えばこのUSTREAMも何のためにやったかって言ったら、もう一回『どすこい出版流通』っていうのをtwitterのTL上でカギカッコ付きで誰かに書いてほしいなとか、たぬきちさんにもこれを機会に、家に帰ったらひょっとしたらもう一回今日のブログに書いてくれるかな、twitterに書いてくれるかな、と。つまりそういうことによって本の存在を知らしめるってこと。
それは電子であれば電子であるほどネットワークと親和性が高いと思う。福家書店の話が出ましたけど、アイドルの握手会、サイン会だって、同じように本の存在を教えるっていう営業をやってたわけですよね。
だからもちろんお店との営業っていう接点は少なくなるかもしれないけど、トータルにそうしたプロモーションは絶対必要だし、これだけ山ほどのブログがあって、ウェブサイトにいけば生涯金を払わなくたって読む文字数はあるわけだから。その中のこれはいいよっていうような露出のさせ方、認知をしてもらう。たぬきちさんがおっしゃった営業の役割ってそういうことですよね。
たぬきち きっと何が読むべきなのかを誰かに変わって判断するっていう。ホリエモンがよくtwitterの効用として言ってるのが、優れた情報のスクリーニングをしてくれる人が僕の他にいるんだよってことですよね。
沢辺 それは佐々木俊尚さんもキュレーション、という言葉で表現してますよね。例えばSFを読みたいときはSF好きな人に何読んだらいいのって聞いてキュレーションしてもらう。選別してもらうってことはこれからますます求められてくる。出版そのものがそうなるかもしれないですよね。今日はありがとうございました。
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