ず・ぼん9 ●多摩発・共同保存図書館(デポジット・ライブラリー)基本構想 図書・雑誌を活かし続けるために
東京都立図書館の運営方針が変更され、複本の廃棄、永久保存の見直し、区市町村立図書館への協力貸出の縮小が進められている。
その失われつつある機能を、市民と図書館員の手で、NPOとして実現しようとしているのが、この共同保存図書館構想だ。
市民の手で地域を治める=地方自治をより発展させる視点も持ちながら、単なる反対ではない、具体的な<対策提示>の試みを紹介する。
文●鬼倉正敏 多摩地区から東京の図書館を考えるプロジェクト・メンバー
おにくら・まさとし●一九五五年生まれ。日野市立図書館奉仕係長。一九七七年より図書館勤務。移動図書館、ホームページ編集等も行う。
基本構想がまとまるまで
都立図書館は、都立図書館あり方検討委員会による「今後の都立図書館のあり方」(二〇〇二年一月)[注1]以降、住民・区市町村立図書館職員が危惧したように、協力機能を大幅に低下させはじめている[注2]。これは、二〇〇二年二月一九日の文教委員会での、サービス低下は来たさないとの答弁に反し[注3]、広域的な機能[注4]を果たす東京都の責任放棄であり、その是正は求め続けられなければならない。
しかし、その是正を求め続けるだけでは、後退し続ける協力サービスの低下に、ただ振り回されるだけである。さらに、都立図書館の「一四万冊」処分に異を唱えながら、図書館職員としても、日々の除籍作業に心を痛めていた。多摩地域で約四九万冊、二三区を含めれば、約一六〇万冊の図書・雑誌が〇一年度に除籍されている。これら除籍資料と都立図書館が除籍して町田市で保管する五万冊を活用し、将来にわたって、確実、迅速な資料提供を、経済効率を確保しながら実現できないかを検討することにした。これを検討するプロジェクト・チームは、事前準備を進め、二〇〇二年一〇月に発足した「多摩地域の図書館をむすび育てる会」(略称「多摩むすび」[注5]参照)の下に正式発足した。
プロジェクト・チームは、多摩地域の市立図書館職員四名と都立図書館職員一名で構成し、二〇〇三年一月に中間報告を作成した。検討集会を、立川、町田、東村山、調布の各市で、九月四日には最終的な説明会を開催し、利用者、図書館職員の論議を経て『東京にデポジット・ライブラリーを作ろう! 多摩発・共同保存図書館(デポジット・ライブラリー)基本構想』(二〇〇三年、ポット出版)がまとまった。
以下は、その全五章を再構成した要約であるが、この文責は、執筆者である鬼倉にある。
I 保存と利用をめぐる図書館の現状
一 市町村立図書館
東京都では、島嶼部を除く全区市町村に図書館が設置されている。区立図書館は、資料費、施設は多摩地域より充実しているが、区民一人当たりでは、十分な態勢ではない。一方、多摩地域の多くの図書館は、一九七〇年以降に設置され、その蔵書も概ねこの期間に限られ、区立図書館より資料費・施設・職員数は小規模である。
利用実績は、〇二年度は、区部では、個人貸出が五一五七万三二五五冊、住民一人当たり六・四冊、〇一年度の予約の処理件数は、四三三万六八二八件で、多摩地域で、個人貸出が二七五二万三四九〇冊で、住民一人当たり七・一冊、〇一年度の予約の処理件数は、一四五万七一一四件である。
各図書館は、財政難による資料費の削減[注6]、一方で出版点数の増加により、収集率低下の中、その影響を最小限にとどめ、市民・利用者の日々の資料・情報への要求にこたえようとしている。
レクリエーションにとどまらず、生活支援・調査・研究のためや、常に満足できるレベルのレファレンス・サービスに応えられる資料収集が求められている。
また、「障害者」への資料・情報入手を保障するための資料[注7]や、その自治体の現在と過去をとらえ、伝え、地方分権の基礎ともなる地域資料・行政資料と[注8]、公的機関として責任ある資料の収集・提供・保存に努めている。
しかし、大部分の図書館では、書庫容量の制約などから、利用頻度の低くなった図書・刊行年の古い図書を中心に、東京都全体で毎年約一六〇万冊もの図書が除籍されている。
多摩地域の市町村立図書館では、受入に占める除籍率が、一九八〇年代には三四・三%であったのが、二〇〇一年度には五八・七%と大幅に増加している。全二八自治体のうち、半数の一四自治体が六〇%以上、うち六自治体は八〇%以上で、受入れたら、その分を除籍しないと資料が収まらなくなっている。[注9]
このことは、平成一四年度に行われた書庫容量の調査[注10]にも表れている。多摩地域の市町村立図書館の書庫収容能力は四五〇万冊であるが、四〇〇万冊が収容され全容量の八九%を占めている。個別には、一三自治体で書庫容量が一〇〇%に達している。今後、資料除籍のいっそうの増加が予測される。
二 東京都立図書館
東京都立図書館は、都民に閲覧、レファレンス・サービスを主とする直接サービスを行うとともに、広域的なサービス、協力貸出・協力レファレンスなど区市町村立図書館への協力事業を行ってきた。
多摩地域においては、都立多摩図書館(立川市。旧都立青梅・立川・八王子の三館は廃止)が一九八七年に建設された。都立多摩図書館は、資料の相互協力サービスと市町村へのレファレンス支援を柱とし、レファレンス資料や逐次刊行物の市町村への貸出、市町村立図書館どうしの協力関係のつなぎ役として評価されていた。二〇〇二年の都立図書館再編により、中央図書館の分館となり、二〇〇一・二〇〇二年の二年間に大幅な蔵書の整理を行い、現在は、児童青少年・多摩の地域資料・逐次刊行物の全都への協力貸出などに限定したサービスへと方向転換している。
都の財政難を背景として、資料費は九七年度決算から〇二年度予算で五五%も大幅に削減されている。そして今回の再編計画で、今後は原則として複本は購入しない、すでに所蔵している複本は除籍処分と決まった。
また、都立図書館の書庫は、現有部分だけで、今後の増設等は行わない、資料の永久保存は有期保存にという方針を打ち出し、都立図書館が、これまで構想してきた共同保存書庫(デポジット・ライブラリー)の機能は持たないという方向性を示している。
三 小中高等学校の図書館
学校図書館は、教科教育に多大な貢献が要求されている。しかし、公立小中学校図書館は、資料、施設、人のいずれも不足し、専任の学校司書・司書教諭の配置、資料費の獲得、施設の整備などの課題があり、市町村の図書館からの援助が欠かせない。
四 大学図書館
大学図書館は、公共図書館と比較して、高度に専門化した資料収集を行っているが、大学図書館でも、書庫は満杯というのが現実である。
比較的扱いやすい外国雑誌の分担収集が、外国雑誌センター館として指定された九つの国立大学で実施されているが、保存スペースの確保に困難をきたしている。東京大学・京都大学など大規模な図書館に広範な保存機能を付属させることや、地域ごと館種ごとに保存図書館を作るなどの構想が考えられている。[注11]
五 専門図書館
専門図書館は、設置母体の業務上の情報要求によって運営され、ユニークな蔵書構成となっている。一般に利用には条件が課されることがあるが、レファレンスには、頼りになる存在である。
大多数の図書館・資料室は、スペース的に制約があり、資料の保存場所が十分ではない。また、設置母体の経営状況に、存立が大きく左右され、インテリジェント・サービスへ発展している館がある一方、閉館・閉室に追い込まれている館もある。その特色ある資料の保存と活用が必要である。
六 国立国会図書館
国立国会図書館は、法定納本制度に基づく、唯一の国内刊行物の納本図書館として、図書・雑誌・電子資料などを網羅的に集め、収集された国内刊行資料は、日本国民の文化財として蓄積されている。
国立国会図書館の資料は、未来永劫保存すべき文化的な資料である。その損耗を防ぐため、国立国会図書館の資料は、市町村や都道府県の図書館などで、どうしても入手できない場合のみ利用すべきである。
一定の利用の見込まれる資料は、各市町村や都道府県の図書館自身が収集し保存しておくべきである。国立国会図書館が「保存のための保存」の役割をもっているのに対し、市町村や都道府県の図書館には「利用のための保存」の役割が優先される。
II 東京にデポジット・ライブラリーを作ろう
これまで見てきたように、東京の図書館は、区市町村立・都立・大学・専門などタイプは違っても、利用と保存に関して共通の課題をかかえている。とりわけ市町村立図書館にとっては、デポジット・ライブラリーが、早急に必要な状況になっている。
そこで、まず多摩地域から新たな形の図書館「デポジット・ライブラリー」を作って課題の解決をはかっていくことを提案する。そして将来的には、デポジット・ライブラリーの活動を、より広い館種・地域に拡大していくことにより、各種の図書館が協力しながら、それぞれがより自由に発展していく方向をめざす。
一 デポジット・ライブラリー(Deposit Library)とは
本構想での、デポジット・ライブラリー(共同保存図書館)の定義は、「設置主体を異にする複数の図書館が、それぞれ除籍した資料を共同で保管し、書誌・所蔵情報の管理と提供を行い、物流システムを保証して、利用者の求めに応じて共同利用できるようにした資料保存センター」である。
二 なぜ東京にデポジット・ライブラリーを求めるのか
(一)デポジット・ライブラリーで利用と保存はこう変わる
●参加館の蔵書の新鮮さを保つ
除籍する資料を共同保管することにより、参加館は限られた書架スペースの棚揃えを主体的・戦略的に行え、蔵書が、利用者にとって、常に新鮮で魅力ある構成に保たれる。
●資料のデジタル化までの間の利用の保障
二〇〇一年から始まった国立国会図書館による資料のデジタル化は、著作権保護期間内の資料については、メディア変換される可能性はなく、それまでは原資料の形でしか利用することができない[注12]。
●永久保存に備える
国立国会図書館は、永久保存のための保存であり、安易に利用すべきではない。そのために、利用するための保存がされていなければならない。これをデポジット・ライブラリーが行うことになる。
また、国立国会図書館には、国内の刊行物の納本制度があるが、現実には、市町村立図書館では所蔵しているが、国立国会図書館にはないという資料も存在し、これらは、永久に保存されるべき資料である。
(二)東京から発信される出版物の保存
出版活動の豊富さは東京の特色の一つとなっている。地場産業として、これを保護育成し、その地域の出版物の収集と保存に責任を負うのは、広域行政を担う都の役割である。しかし、都立図書館に十分な保存が期待できない場合、デポジット・ライブラリーがその役割の一端を担うことになる。
三 デポジット・ライブラリー実現の可能性
(一)生かせる相互協力の実績
多摩地域では、都立多摩図書館がまとめ役・中継役となり、市町村立図書館で所蔵していない資料を他館から借りるための相互協力のシステムやノウハウが確立している。これを活かすことで、業務に大きな変更や負担なく事業を始めることができる。
さらに、都立図書館の蔵書検索システムや相互協力の貸出申込システムにデポジット・ライブラリーを組み込めれば、蔵書検索・申込・配送のシステムを新たに構築・維持することができ、費用と人手を大幅に節約できる。都立図書館にとっても、デポジット・ライブラリーが資料を提供することは、都立図書館の負担を軽減するもので、この支援・協力を期待する。
(二)深刻なスペース不足で高まるデポジット・ライブラリーの需要
東京の各公立図書館の蔵書スペースは、満杯もしくは満杯に近くなっている。しかし、各図書館とも書庫の新設は困難で、デポジット・ライブラリー・システムができれば、多数の館が参加すると考えられる。
(三)容易になった資料の重複調査・所蔵確認
資料の選別には、すでにデポジット・ライブラリーに所蔵されているか、重複調査を行う必要がある。調査は、参加館とデポジット・ライブラリーのいずれの側が行うにせよ、調査が容易に行える環境が整っている必要があり、現在その条件は整いつつある。
●目録のコンピュータ化の普及
大多数の自治体で、目録もコンピュータ化され、重複調査を行うための条件整備ができてきている。
●OPAC公開館の増加と横断検索システムの実現
インターネットで蔵書目録を公開する図書館も増え、さらに、このデータを利用して、二〇〇二年末より、都立図書館による横断検索システム[注13]がスタートしている。
●「ISBN総合目録」の存在
多摩地域のほとんどの市町村立図書館に「ISBN総合目録」が存在し、ISBNを検索キーとして、少ない労力と時間で重複調査が行える。
四 必要な資料を必要な時に必要な人に届けるために
(一)図書館資料として付加された価値を利用しよう
図書館の資料は、その本を特定するための情報(=書誌情報)と一体で、また、資料を集め、提供のため、情報収集、発注、納品、現物確認、資料情報・所蔵データ作成、装備、補修などの手間をかけている。デポジット・ライブラリーは、その付加価値を最大限に活用し、資料を利用し続けることができる。
(二) 除籍資料をリサイクルペーパー製造に直行させる前に
図書館の除籍資料は、当該自治体内の別組織(学校・児童館など)での再利用や、市民へのリサイクルが一般的になっている。リサイクルがかなわなかったものは、リサイクルペーパーになる。知的生産物を保存・利用していくという観点からは、デポジット・ライブラリーを設立して利用していくべきである。
(三)分担保存より資料を一箇所に集めて共同保存を
多摩地域の図書館が、それぞれ特定の分野を分担保存することも、机上のプランとしては成立する。しかし、分野によって出版点数に差があり、同一分野でも社会情勢や時期によって出版点数が異なる。さらに、分野による利用者の要求度の強弱を考慮すれば、分担保存はあまり現実的でない。
多摩地域では、これまでも雑誌の分担保存などに取り組んだが、持続させることはできなかった。書庫スペースにゆとりのない館どうしが、分担保存を行おうとしても、破綻をきたすのは目に見えている。
(四)都民が都内全域で等しくサービスを受けられるようにするために
都心に近いところ、都心から遠いところに住む人も、東京都民として等しく「知る権利」として、図書館資料が求められるようする。
III 多摩地域デポジット・ライブラリーの基本的な対応
一 デポジット・ライブラリーの基本的な機能(本体事業)
多摩地域全域の図書館で除籍した資料のうち、デポジット・ライブラリーの蔵書とする資料は、利用による消耗を見込んで、一タイトルにつき二冊備え、多摩地域の公共図書館等を対象に貸出を行う。
二 デポジット・ライブラリーの基本的なスタンス
(一)各自治体の自主性を尊重する
デポジット・ライブラリーは、各自治体が運営する図書館行政に対して、その肩代わりをしたり、運営に口出しをしたり、参加を強制しない。
(二)本体事業はすべて無料で行う
「利用のための資料保存」を行い、「資料の貸借行為」を通して「資料の有効活用」を図る本体事業は、「図書館の無料の原則」を尊重し、すべて「無料」で運営することを基本にする。
(三)配送体制を充実させる
現在、都立図書館の協力車によって、都立図書館や区市町村立図書館の資料が各自治体の拠点となる図書館に届けられるのは週一回である。デポジット・ライブラリーは、二〜三日以内に配送できる体制をめざす。
三 資料の収集と購入
都立図書館や市町村立図書館で不要となった資料を収集することを基本とし、新刊資料などの購入は行わない。将来的には、個人の蔵書等を収集することも検討する。視聴覚資料などの収集は将来的な課題とする。
四 デポジット・ライブラリーで収集する資料の選別
除籍館がデポジット・ライブラリーでの所蔵状態を検索し、未所蔵資料だけを送る方法と、除籍資料はすべてデポジット・ライブラリーが引き取り、そこで保存資料とリサイクル資料に選別し再活用する方法とがある。各図書館の業務軽減、リサイクル事業を資金調達の柱としたいため、後者を選択したいと考えている。
五 個人への資料提供
利用者個人への直接の資料提供は、市町村立図書館が責任をもって行うことであり、デポジット・ライブラリーでは、個人への資料提供は行わない。
六 サービス内容の限定
デポジット・ライブラリーは基本的に資料の保存倉庫および資料の貸出機関であり、それを超えた機能はもたないことを当面の方針とする。
レファレンス・サービスや学校への直接的な支援は、当該自治体の図書館が責任を持って行うべきものである。これを行うために、デポジット・ライブラリーを活用できるのはもちろんである。
七 組織体としての活動範囲
デポジット・ライブラリーの活動範囲は、多摩地域から始め、区部、そして近隣県へと拡大をめざす。当初は町田の五万冊を中心に多摩地域を守備範囲とした活動を行う。
八 デポジット・ライブラリーの保存目標
(一)資料の刊行後約一〇〇年間の保存を行い、活用していく
現在、国立国会図書館では、著作権保護期間が終了した資料のデジタル化が進められている。ひとつの著作物が発行されて、著作権の保護期間(著作者の死後五〇年間)が満了するまでを想定し、資料の刊行後約一〇〇年間を保存期間とする。
(二) 保存資料総数は、最終的(一〇〇年後)に一、〇〇〇万冊とする
図書は、都立図書館の所蔵の有無に関わらず、一タイトル二冊保存した場合、
年間出版予測点数(六〇、〇〇〇) × 図書館所蔵タイトル割合(〇・七) × 複本数(二) = 年間保存冊数(八四、〇〇〇冊)。
雑誌は、都立多摩図書館が所蔵していないタイトルのみ一部保存した場合、
(区市町村立図書館所蔵タイトル数(三、五〇〇)−都立多摩図書館所蔵タイトル数(一、五〇〇))×年冊数(一二)=年間保存決定雑誌冊数(二四、〇〇〇冊)
年間保存決定雑誌冊数(二四、〇〇〇冊)×書架スペース図書換算率(〇・五)=図書換算年間保存冊数(一二、〇〇〇冊)。
図書・雑誌合計冊数、
年間九六、〇〇〇冊(図書換算)。
つまり、一〇〇年後を想定したときの保存資料総数は、約一、〇〇〇万冊。
九 運営主体の検討
(一)都立図書館が運営主体となるデポジット・ライブラリー
もっとも理想的な運営形態であるが、今回の都立図書館の再編計画では、その機能をあえて放棄した形で進められ、再考は不可能な状態である。
この間、プロジェクトでの議論、多摩地域での説明会でも「都立図書館の責任」、「都立図書館が担うべき業務とは何か」が問われた。今後も、「それで都立図書館はいいのか!」は問い続けていく。
とともに、デポジット・ライブラリーに、都としても積極的に関わるべきである。
(二)多摩地域の自治体の共同運営となるデポジット・ライブラリー
都立図書館が運営主体とならない場合、多摩地域の自治体が共同で運営を担う組織体を設置することが望ましい。しかし、各自治体の財政状況や、行政の図書館に対する理解度から、すべての自治体の合意を得ることは難しい。
一方、東京都市町村立図書館長協議会の下部組織である「図書館サービス研究会」で、町田市預かりの五万冊の処理方法について検討を進めている。
デポジット・ライブラリーを一部事務組合等の広域的な組織体で運営する方が、効率的で、業務軽減やサービスの向上につながる有効な対案を提起できれば可能性はある。
公的組織体が、広域で運営する可能性も捨てきれない。
(三)NPOを設立して運営主体となるデポジット・ライブラリー
市民の自主的な運営形態としてNPOを設立し、デポジット・ライブラリーの運営にあたるということが考えられる。
市町村立図書館が除籍した資料を市民団体(NPO)が受け取り、有効活用を考えるものである。NPO法人としての申請、運営組織の構成、活動場所(デポジット・ライブラリーの設置場所)、あるいは資金調達など、厳しい対応が予想される。しかし、市民の図書館を市民が直接NPOとして支える構想も不可能なことではない。
一〇 プロジェクトとしての運営体制の提起
今回の都立図書館再編問題を契機として、「多摩むすび」という市民の組織体が立ち上がっており、その組織体がより有効に活動すること、そして市民の手で今回の問題に対案を提起するという意味から、本プロジェクトとしては、NPO法人を設立し、そのNPOを核として多摩地域の資料の有効活用と保存を考えていくことを提起する。
一一 NPOでの運営に対する課題
(一)資料の移譲
NPOに各自治体が廃棄した資料の処分を委ねるには、各自治体との合意や公有財産の処分としての手続きの検討が必要である。
(二)活動場所の借用
新規にデポジット・ライブラリーを建設した方が、効率的で、長期的な運用が可能である。しかし、相当の費用負担が必要で、当面、学校の空き教室等の公的な施設を借用する必要がある。
(三)リサイクル事業への運用
NPOの事業として、デポジット・ライブラリーで保存する以外の資料を市民へ売却し、運営資金にあてるための、法的な手続きや、売却方法などの検討が必要である。
IV デポジット・ライブラリー実現に向けた経費の概算
理想的な規模と機能の、デポジット・ライブラリーを実現させるための、初期経費と経常経費の概算である。あくまでも、素人の見積もりで、おおよその感じをつかむためのものである。
一 初期経費
初期経費の構成は、書庫と作業室・事務室などの建物建設経費と、その規模の土地取得費、さらに備品、車両、電算システム、建設・開設事務経費が必要である。ここでは建物建設経費と土地取得費の概算を算出してみた。
●自動出納書庫設置費
第一期として、一〇年分一〇〇万冊規模で算定し、あるメーカーの自動出納書庫は、一〇〇万冊規模で七億円。
●建物建設経費
自動出納書庫のスペース四九〇m2と作業・事務スペースの九一七m2の合計は、一、四〇七m2。建設単価として一m2で二〇万円として、総計二億八、一四〇万円。
●土地取得費
上記の自動出納書庫全期分、作業・事務スペース、駐車場と外構で、総計六、二〇〇m2。一m2当たり一一万円として、六億八、二〇〇万円。
この一m2当たり一一万円は、ある西多摩地域の住宅地の公示地価。
●総計額
自動出納書庫は七億円、建設経費は二億八、一四〇万円、土地取得費は六億八、二〇〇万円で、総計一六億六、三四〇万円。
二 各自治体が書庫を設けることとの経済効率の比較
デポジット・ライブラリーは、建設経費、土地容量を集約することで、規模の経済性を体現している。
二六市の図書館ごとに書庫を設けるとして、事務スペースを除いても、総経費二六分の一、約六、四〇〇万円でできるだろうか。想定の土地取得費は、都内でも比較的安価な西多摩地域の地価水準によっている。
デポジット・ライブラリーを設け、規模の経済性を追求するほうが、安価な経費で確実な効果が期待できる。運営上も、集中した資料の抜き取り、配送事務、配送・返送、納架が事務の効率化を可能にしている。
三 一六億六、三四〇万円は半端な金額ではないが……
NPOという組織体が単独で一六億六、三四〇万円を捻出できるかという大きな問題があり、ここではNPO運営のように行政等の援助で施設を立ち上げることを考える。
上記の経済効率の比較で算出した数字、約六、四〇〇万をもう一度使ってみると、この数字は、総経費一六億六、三四〇万円を多摩の二六市で割り返した数字である。つまり、広域的な資料利用システムを確立するために各自治体が約六、四〇〇万を拠出すれば、立ち上げることができる。個々に対策を考えるよりも長期的な視野に立った初期投資を行うことが有効である。
さらに、都立図書館、また町村の図書館からも応分の拠出をしてもらえれば、この数字はより少ない数字になる。
四 経常経費について
デポジット・ライブラリーを運営していくための経費について、試算してみる。
この運営経常経費は、自動出納書庫が設置され、運営に最低限必要な業務、人員として計上している。
(一)人件費
●資料整理費
年間、受入件数一〇万冊について、受入・書誌確認を一冊二分で処理すると仮定して、年間、二名分の常勤職員が必要(デポジット・ライブラリーに移管するかの所蔵調査は、廃棄館が廃棄処理をした時点で、移管資料として識別され、書誌データも移行するシステムを前提としている)。
●出納経費
自動出納書庫からの出納は、申込館からネットワーク経由で申込まれ、送品日、前日・当日に対象資料が、書庫搬出と同時に貸出処理・伝票出力され、オリコンに搭載する。返却は、伝票との照合、状態確認後に搬入と同時に返却処理される。
必要人員として、常勤職員二名分を計上。
●NPO運営職員
NPOの活動を担い、経費の調達、NPOの運営に関わるボランティアとの調整、関係機関との連絡・調整、運営事務を行う。必要人員として、一名を計上。
●図書館専門職員
デポジット・ライブラリーの図書館としての運営全体を担い、図書館業務に関わるボランティアとの調整、各図書館との連絡・調整を行う。必要人員として、一名計上。
●必要経費の算定
資料整理・出納職員
非常勤嘱託職員 四名分×八五〇円×八時間×五二週×五日=七、〇七二千円
NPO運営職員・図書館専門職員
常勤職員 二名×三、〇〇〇千円×一年=六、〇〇〇千円
なお、これらの人件費は、公務員の大卒初任給や再雇用嘱託職員、NPO法人の人件費を参考に算出した。
(二) 運送委託費 半日で三コース、週六日で 六、六七一千円
(三)消耗品・印刷費 二〇〇千円
(四)電話・FAX費 一五〇千円
(五)車両管理費 八五〇千円
(六)光熱水費 三、七五五千円
(七)施設維持管理費 二、八〇三千円
(八)その他の経費 土地、建物の固定資産税等の公課費、施設積立金、職員・ボランティアの保険
総計年間二七、五〇一千円
V NPO法人でデポジット・ライブラリーを運営した場合
本構想の第五章では、NPO法人を運営する場合の課題があげられているが、NPO法人一般の運営の課題でもあるので、ここでは、資金源の考え方とデポジット・ライブラリー以外の事業で、本構想で列挙したものの一部を挙げる。
一 資金
運営のための資金源としては、「会費・寄付金」、「古紙リサイクル事業」、「その他の事業から生じる収益」、「補助金・助成金」が考えられる。
二 デポジット・ライブラリー以外の事業
本構想で、アイデアを列記したものの一部を紹介する。
●古紙リサイクル
●古本販売(市民対象)
●古本・雑誌バックナンバー販売(図書館・類縁機関対象)
●資料交換の仲介・提供
●本・雑誌の国際間協力貸出
●資料収集手続き代行 非売品の行政資料・観光パンフなどの共同一括収集
●書誌データ作成 三多摩MARC、目次・内容情報のデータが無い古い資料の目次・内容データ作成
●資料の電子化、メディア変換の代行・仲介
●インターネット・サイト情報の提供
●人材バンク
●図書館・書店用品のリサイクルセンター
●カルチャーセンター・図書館塾
●貸し展示場
●テーマパーク 懐かしの昭和四〇年代の図書館。古い家具・子どもの頃読んだ本…。図書館用品博物館。
●過去の書物、印刷・出版産業や読書環境を再現する博物館施設
図書・雑誌を活かし、活用し続けられるように『東京にデポジット・ライブラリーを作ろう! 多摩発・共同保存図書館(デポジット・ライブラリー)基本構想』の実現に向けて取り組んでいこう。
[注1] 都立図書館あり方検討委員会「今後の都立図書館のあり方」2002.1。
【掲載サイト・アドレス】
http://www.kyoiku.metro.tokyo.jp/buka/shogai/toshokan.htm
これについては『ず・ぼん8』(2002、ポット出版)の特集も参照のこと。
[注2] 都立図書館は、2003年9月1日より、協力貸出資料の範囲の制限を拡大した。「配架日から30日間は協力貸出の対象外とする(概ね刊行月の翌月から2ヶ月間)」(以前は制限なし)、「1冊10万円以上のものは協力貸出対象外とする」(以前は、30万円以上)、「昭和25年以前に刊行された資料は、すべて協力貸出対象外とする」(以前は、制限なし、劣化資料は個別に対応)等と事前協議も無く制限を開始した。
さらに、「協力貸出用雑誌は複本対応とする。」つまり、これまで協力貸出を行ってきた都立多摩図書館の雑誌等の逐次刊行物で、都立中央図書館にも所蔵していないものは受付けなくなると報じられている。(都職労教育庁支部三多摩分会より 2003年9月26日付けの「市町村図書館のみなさまへ」の呼びかけ文)これが実施されば、都立多摩図書館所蔵雑誌は4割程度は協力貸出対象外となってしまうとのことである。
[注3] 小美濃委員(自民党・武蔵野市選出)は「今まで多摩図書館に対して、主に市町村立の図書館が受けていたサービスが低下はしないだろうか、そういった心配があるわけであります。この辺について、まず1点目、お伺いをしたいと思います。」と質問した。
嶋津生涯学習部長は、「今回の機能の特化はあるにせよ、都立図書館3館が一体となって区市町村立の図書館への支援を行うというスタンスに立ってございますものですから、多摩図書館のサービス低下は来たさないものと考えてございます。」と答弁している。
【都議会文教委員会議事録掲載サイト・アドレス】
http://www.gikai.metro.tokyo.jp/gijiroku/bunkyo/d3030053.htm
[注4] 地方自治法の第2条の5には「都道府県は、市町村を包括する広域の地方公共団体として、第2項の事務で、広域にわたるもの、市町村に関する連絡調整に関するもの及びその規模又は性質において一般の市町村が処理することが適当でないと認められるものを処理するものとする。」と書かれている。広域的、規模又は性質において一般の市町村が処理することが適当でないことを東京都が行うべき根拠となっている。
[注5] 【多摩地域の図書館をむすび育てる会のサイト・アドレス】
http://www.hinocatv.ne.jp/~je1hyg/kankeidantai/tamamusubi/tamamusubi.htm
[注6] 資料費の削減状況(93年度予算から02年度予算)。
区立図書館 25%削減
市立図書館 22%削減
※東京公立図書館長協議会編『東京都公立図書館調査』の各年度より算出。
東京都公立図書館図書館利用に障害のある人々へのサービス研究会編『東京の障害者サービス 2003 2001年度(平成13年度)図書館利用に障害のある人々へのサービス利用調査』同会、2003.7。
[注8] 多摩地域での地方行政資料収集・提供の進展には、次を参照。
鬼倉正敏「地方行政資料の収集を進めるために」『図書館評論』39号(1999、図書館問題研究会)。
[注9] 鬼倉正敏「多摩地域市町村立図書館の資料保存とその課題」『現代の図書館』27巻1号(1989、日本図書館協会)と次の[注10]より、算出。
[注10] 図書館サービス研究会『三多摩地域公共図書館の除籍と書庫の調査』東京都市町村立図書館長協議会、2002.11。
[注11] 「学術情報資源への安定した共同アクセスを実現するために─分担収集と資料保存施設」国立大学図書館協議会情報資源共用・保存特別委員会、2001.6。
同報告では、国立大学図書館の書架の80%以上が満杯としている。
【掲載サイト・アドレス】
http://wwwsoc.nii.ac.jp/anul/j/publications/reports/70/
【国立大学図書館協議会のサイト・アドレス】
http://wwwsoc.nii.ac.jp/anul/
[注12] 雑誌論文等は、複写等による提供で、現物の提供は不要との論もある。しかしもちろん、複写をWebサイトから受付はじめた都立図書館や国立国会図書館の活動は評価し、期待するが、現物の雑誌提供は不要になるわけではない。
多様で深みのある資料活用の可能性を考えれば、現物の提供の必要性は高まっている。人文系だけでなく、マーケティングをはじめとして、感性的観点も重視されてきている。論文複写が適しているとされる、理工系、社会科学系でも、編集後記や全体での論文の配列、扱われ方など、現物や一定期間を通覧することが必要な場合がある。
【都立図書館のサイト・アドレス】
Eメールによる 郵送複写受付 (都内在住限定)
http://www.library.metro.tokyo.jp/16/16g00.html
[注13]【東京都の図書館横断検索(東京都立図書館)のサイト・アドレス】
http://metro.tokyo.opac.jp/