2008-06-28
お部屋1558/出版界崩壊は止められないがために 7
ワシの食中毒はキャンピロバクター菌(カンピロバクター)が原因でした。もとは家畜の病気で、腐りかけのものを食べたかどうかではなく、ちゃんと火を通しているかどうかの問題です。
キャンピロバクター菌は潜伏期間が長いので(2日から7日)、何がいけなかったのか特定できないのですが、ちょっと気の利いた小料理屋で、地酒を飲みながら、中まで火の通っていない新鮮なササミを食したのがいけなかったのでしょう。そんなことをした記憶はないですけど。
では、本題。「SM業界と比較することで出版界の問題点を抽出する」という誰も試みたことのない視点を提出してみましたが、SM業界に限らず、同様のことはいろんな業界で過去に起きていたでしょうし、今現在起きつつありましょう。伝統芸能の世界でも、お笑いの世界でも、職人の世界でも、プロレスの世界でも。
こういう場合は小さい世界を見た方が全体像をつかみやすいものです。
ここ十年間でSM業界に起きたことをさらに見てみるとしましょう。
何がもっとも変わったかと言えば情報です。今の時代はいろんな形で情報が流れます。「こんなに条件がいいのはうちだけだ」「うちを辞めたら他で働けない」といくら店が言っても無駄です。
店に縛りつけようとしたって、女王様たちは、雑誌の撮影やビデオの撮影、イベントなどで、店を越えての接点が生ずる。SMバーなどの飲み屋も増えて、仕事のあと飲みに行っているうちに、他店の女王様たちとつながる。そのうちに、「うちはもっと条件がいいよ。うちにおいでよ」ということになったり、「だったら、一緒に店をやろうよ」ということにもなる。
人を介すことなく、ネットでいくらでも情報は得られますし、客の中にも、さまざまな情報をもっているのがいます。こうなると、無理に縛り付けるような店、条件の悪い店は自然に淘汰されて、競争原理によって労働環境が向上していきます。
もちろん、従業員の態度が悪くても、バックの率が悪くても、客が集まり、結果、稼げる店であれば人材は集まるわけですが、選択肢が出てくると、「そんなに稼げなくても、自分のやりたいことをやった方がいい」という選択をするのも出てきます。驚くほど収入が少ないのに、「居心地がいい」「無理なことはさせない」「店のみんなが楽しい」ということで働いている女王様もいますからね。
また、ネットを使って、フリーで女王様稼業をやっているのも増えてます。法規制が強まって、プレイルームをもっているSMクラブが激減してしまったため、クラブのうま味は減りつつあります。
リスクはあるし、宣伝をどうするかという問題はありますけど、フリーになって、料金の全額を手にすれば、客が半減したところで、収入は変わらない。しかも、好きでSMをやっている人たちにとっては、自分のやり方を追及でき、時間にも縛られないので、収入が減ってもストレスが溜まらない。
情報が流れやすくなり、人が移動しやすくなり、選択肢が広がり、クラブに属さないことも可能になり、店に縛り付けることが不可能になったのですから、働く側からすると、いいことづくしのようですが、そうとばかりは言えません。
今から十年ほど前までは、次から次と新しい人材が出てきて、いわば「スター」が出ることで店も業界全体も雑誌も活気づくところがあったわけですが、今は突出した存在が出にくい時代です。
今現在、雑誌、ビデオ、イベントなどで顔や名前をよく見かけ、この業界の人たちの誰もが知っている存在の多くは30代以上と言っていいでしょう。年齢不詳になっている人も多いですが、十年前からやっていれば、当然そういう歳です。
もちろん、その下の世代も常に出てきてはいるのですが、なかなかクローズアップされない。
この業界は、風俗嬢たち、AV嬢たちに比べて寿命が長く、50代で現役も珍しくない。とくに80年代から90年代にかけての「SMバブル」と言われた時代に出てきた世代が今なお頑張っているために、下が出にくいという事情もあります。
プロ意識の強い人材が揃っているのに、下が定着しない店の話もよく聞きます。「揃っているのに」ではなく、「揃っているから」だったりもして、30代の大先輩ばかりの中に、20歳そこそこの小娘が入ってきても怖じ気づいてしまうのでしょう。育てられるには理想的な環境のはずですが、簡単に移動できる時代ですから、もっとお気楽な店に移ってしまいます。
それと同時に、新人を育成して世に出すシステムが崩壊してきています。
かつてはどのように、数々の女王様たちの中から抜きんでる存在が登場したのかと言えば、まずはクラブの判断です。「この子を今後は売りだそう」となれば、そういった雑誌に広告に出す。ビデオにも出す。店は「恥ずかしいことはできない」と考えますから、しっかり教育をする。
店に対する信頼感であったり、実際にプレイを見せてもらっての判断によって、雑誌も「この子はいける」となると、大きく扱います。
客は客で、店への信頼感、雑誌への信頼感で店に行って指名する。
この流れが綻びてきています。以前は月刊誌だけで何誌もの専門誌が出ていたわけですが、数が減って、部数も減り続けています。雑誌に出るだけで客が殺到することが今もないわけではないですが、かつてほどの力はない。
ネットの登場によって、客も雑誌よりネットで店や女王様たちを探す。この場合は、各店のサイトやポータルサイトが大量にあるために、情報が分散し、なおかつネットには、雑誌ほどの権威、信頼感がないため、客の選択も分散します。人気が集中しにくいわけです。そのために、「流れ」というものも起きにくく、盛り上がっているのかどうかも見えず、業界全体が活性化しにくい。
雑誌やそこで仕事をするライターは全体の状況を見渡して、そこから動きを察知してクローズアップし、流れを作り出すことが役割だったりもするわけですが、「旗振り」「参謀」「プロデューサー」「案内役」の役割を果たしにくくなってきて、情報が流れやすくなっているのに情報が見えにくい。これが現状かと思います。
既存のメディアからネットの時代に移行すると、どのジャンルでも、同じような問題が生じそうです。
続く。