2008-04-25
お部屋1472/あれやこれやの表現規制 3-4
SLAPPからは話がはずれますが、「オリコン裁判」の判決文を読んでいて感じたことを2回続けます。
烏賀陽氏のコメントを読んだ音楽業界の人たちの多くは「まあまあ、だいたいオリコンはこんなカンジ」といった印象を抱くと思います。それに対して5千万円の損害賠償請求と聞けば、「なんだそりゃ、いやがらせか」と思うのもまた当然。
私もそうだったわけですけど、判決文を読んで、意外に思った点がありました。
「オリコンは予約をカウントしている」という話は、しばしば「出荷枚数をカウントしている」という話で語られているかと思います。予約をして、店に入荷した段階でキャンセルをしてもカウントされるわけですから、「予約をカウントしている」と言い換えても間違いではない。
私もここまでずっとその話を信じてました。しかし、判決文で提示された被告側の資料を見ると、「原則実売。ただし、予約がカウントされることもある」というのが現実のようです。
「以前はそうだったが、今は違う」のか、「以前から違っていた」のか、「調査が足りないだけで、予約数を申告している店がある」のか、どれかはわからないです。
これについては、今後さらに明らかにされることでしょうが、なんにせよ、はっきりと「出荷枚数をカウントする」という話ではなさそうで、「そうだったんだ」といまさらながらに驚いた次第。
音楽業界にいたことのある私の感覚で言えば、オリコンを語る時には常に「いい加減だけど」という語られない言葉が暗黙のうちに共有されていたように思います(以下は四半世紀前の話が元になっています。今のことはよく知らないです)。
「××って、三週連続オリコン一位なんだってね(いい加減だけど)」
「へえ、そうなんだ。オリコン三週一位はすごいね(いい加減だけど)」
具体的な根拠があって「いい加減」と言っているのではなく、イメージとしてそういう含意のもとでオリコンは語られがちって話ですので、誤解なきよう。
洋ものをありがたがる卑屈さの表れかもしれませんが、海外のチャートを見る時と、オリコンを見る時ではその姿勢が違う。「いい加減だけど」がオリコンにはどうしてもつきまとうのです。あるいは「所詮業界誌だけど」と言ってもいい。
海外のチャート誌、音楽情報誌と、雑誌としての「オリコン」を同列に見るような人たちもまずいなかったと思います(これは私自身がもっぱら洋楽の人たち、邦楽でもオリコンのチャートとは無縁の人たちとつきあっていたことにも起因しましょうが)。「オリコン」の記事はパブ記事でしかなく、批評性のある記事など誰も求めてはいない。
だからと言って頭ごなしに否定するわけでもなく、「そういうもの」として存在を認め、「そういうもの」として音楽業界への貢献を認めている。ある意味、プロレスみたいなもんかな。
今現在、音楽業界でどういうことになっているか知らないですが、私の中でのオリコンは今もそういう存在です。
烏賀陽氏が音楽業界の人たちに取材をして出てくる言葉は、多くの音楽業界人たちが共有している「いい加減だけど」「所詮業界誌だけど」という意識を背景にして出てきたものだったことが想像できます。
「烏賀陽ちゃんさ、オリコンなんてどうせ数字は操作していているに決まってんじゃないの」
「オリコンは予約数もカウントしてっから、カラ予約をしてしまえばどうにでもなるよね」
「演歌のセクションでは、今だってサンプル店で大量購入しているよ」
なんて言葉を拾い集めることはたぶんできるんだと思います。しかし、この時はもうひとつの語られない言葉が共有されています。「本当かどうか知らないけど」って言葉です。
「所詮」という意識が共有されている人たちの間では、「本当かどうか」はいまさら問題にはならない。「本当かどうかを論じる対象ではない」ということが予め合意されてしまっています。「この間のプロレスの試合は八百長じゃないか」と誰も言わないのと一緒です。
しかし、いざこの人たちに確認をすると、「いやあ、そんなこと言ったっけな」「まあ、そんな噂は聞いたことがあるけど、ムニャムニャムニャ」ということになってしまって、どこに根拠があったのかがわからなくなる。
続く。