2008-02-06
お部屋1405/今日のマツワル72
鴨沢さんが亡くなったことがわかってから半月が過ぎ、「鴨沢さんの思い出」シリーズもほぼ最後まで書いて、やっと落ち着いたところです。
「鴨沢さんの思い出」シリーズは、時折「黒子の部屋」に転載しようと思っていたのですが、広く公開しない方がいいように思えてます。私はそういう鴨沢さんが好きだったからつきあってきたのですが、「酒浸りでエロ好き、金にだらしがなくて他人に迷惑かけっぱなし」というオッサンの現実を知ってしまうと、作品を楽しめなくなる人がいそうです。所詮そんなもんだから、人間は楽しく、愛おしいんですけどね。
つうわけで、「鴨沢さんの思い出」シリーズは第二部の再録ものに入ってから、また転載するかも。
今回は「ディフェンディング・ポルノグラフィ」シリーズで、倖田來未発言を擁護した回を転載しておきます。
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< ディフェンディング・ポルノグラフィ4>
久々に「ディフェンディング・ポルノグラフィ」シリーズです。タイミングを逸してしまったので、このシリーズは『ポルノ防衛論』の解説にすることは意識せず、この本に関連するさまざまを論じていこうと思ってます。
本論に入る前に、『ポルノ防衛論』の序文に出ている文章を紹介しておきます。
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言論の自由を保障するために、その言論が心地良いこと、社会的に発展性があること、不快でないことなどを証明する必要はないのである。公民権の根底には、言論は本質的に価値を有しているという信念がある。それは、発言内容の価値にかかわらず、発言する権利があることを意味している。
(略)
言論の自由の保障は、「多数派の横暴」から少数派の権利を守るために、意図的に反多数決主義を採用している。ウィリアム・ブレナン裁判官が、国旗を焼くという極めて悪評の表現を犯罪とみなす、極めて高い支持を得た法律を無効とする判決を下すにあたって、最高裁判所の多数派に向かって次のように書いている。言論の自由という法の考え方の「根底となる概念」は、「社会が不快に感じるというだけの理由で、その思想の表現を禁止することはできない」というものである。その結果、社会の多くの人々を不快にさせるというだけの理由で、性的表現を禁止することは、憲法違反と判断されるべきであろう。さらに、社会のほとんどの人が不快と感じない性的表現を禁止するにいたっては、何をかいわんやである。
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「許される表現」「許されない表現」の線引を多数決で決定するようなことをしてはならない。多数が不快であると感じたところで、その発言の自由は保障されるべきです。
表現する以上、どうやっても他者を不快にさせる可能性があって、仮にたかが個人の感じた「不快さ」によって、表現を規制し、潰すことが可能になったら、あらゆる表現は規制され、潰されることになりましょう。
「虚偽を事実かのように言ってはならない」「特定個人の名誉を毀損してはならない」「他者の表現をパクってはならない」といったルールは守るべきにせよ、「他者を不快にする表現はしてはならない」というルールなどありはせず、あったとしても、それを守らなければならない義務はない。
では、本題。新宿2丁目でシークレット・ライブをするミュージシャンが増えていて、倖田來未までがやらかしました。
しかし、こんなこともやらかしてしまって、大変ですね。
asahi comから。
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倖田來未さん「35歳超は羊水腐る」 謝罪し活動自粛
2008年02月02日18時40分
歌手の倖田來未さん(25)がラジオ番組で「35歳を回るとお母さんの羊水が腐ってくる」といった趣旨の発言をして批判され、1日、自身の公式サイトで謝罪した。
倖田さんが所属するエイベックス・エンタテインメントによると、先月30日のニッポン放送の番組で、自身のマネジャーが結婚したことにふれて先の発言をし、早く子どもをもうけるよう促した。
発言に対してニッポン放送に抗議のメールが届いたり、ネットで批判が起きたりし、エイベックスとニッポン放送がそれぞれのサイトに謝罪文を掲載。倖田さんも自身のサイトで「皆様に不快な思いをさせてしまったことを心より深くお詫(わ)び申し上げます」と陳謝した。
エイベックスによると、倖田さんは1月末に新作アルバムを発売したばかりだが、宣伝活動を自粛するという。
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この発言が不謹慎なのは、「なんとなくのカンジ」としてはわかるんですけど、よくよく考えるとわからなくなります。
正確には「やっぱ35ぐらい回ると、お母さんの羊水が腐ってくるんですね」と発言したようですが、羊水は35歳過ぎたからと言って腐敗はしませんから、「科学的に間違っている」とは言えます。事実と違うことを発言したら、撤回するなり、謝罪するのは当然です。
しかし、人間は老化していきます。よく知られるように、精子と違って卵子は新たに作られませんので、年々老化していきます。そうじゃなくても肉体は着実に老化し、卵巣も子宮も老化が進むことは誰も否定できない。高年齢出産は、母体にも子どもにもリスクがかかることは科学的に事実です。
その年齢が「35歳以上」が妥当かどうかの問題はなおありますが、「早く生まないと危険が増すよ」であれば、科学的に間違ってはいないでしょう。
我々は常に科学的に正しい表現、科学的に厳密な表現をしなければならないわけではなく、老化することを「腐る」と表現しても、通常は問題にならない。また、羊水も老化の影響をまったく受けないわけではないので、「羊水が腐る」という言い方も許される範囲ではないかとも思えます。
これさえダメなら、「ふられたからって、そう腐るなよ」と慰めることもできず、「腐った政府」と批判することもできない。私もしばしば「頭が腐っている」「根性が腐っている」といった表現をしますけど、どんなバカでも脳みそは腐っていないでしょうし、根性も腐らないでしょう。
こういった表現を一切しない覚悟がある立派な人たちは、倖田來未を批判することができるとして、私はそんな覚悟がないので、批判できません。
この社会において、高年齢出産をする人たちを否定する空気は決して強くなく、むしろ好意的に受け入れられているように感じます。であるなら、高年齢出産をする人に対する社会的な抑圧を加速させる差別発言などというものでもない。
以下は倖田來未によるお詫び。
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■倖田來未 News ニッポン放送 『倖田來未のオールナイトニッポン』での発言に関しましてのお詫び
先日のニッポン放送「倖田來未のオールナイトニッポン」番組内で、私が発言した内容により、皆様に不快な思いをさせてしまったことを心より深くお詫び申し上げます。
また、応援してくださるファンの皆様にも裏切る結果を招いたこと、関係者の皆様にも大変なご迷惑をお掛けしましたこと、すべての皆様にお詫びするとともに、私自身心より深く反省しております。
この度は本当に申し訳ございませんでした。
2008年2月1日
倖田來未
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倖田來未はこの事態を正確に見抜いていて、反省しているのは「不快な思いをさせてしまった」ということだけです。人気商売だからしゃあないですけど、そんなことで謝るなよ。「おめえの存在自体が不快だ」と言う人が出てきたら、どうすんだ。
もちろん、「不快だ」と表明する権利も最大限認められるべきですが、抗議という形をとるとなれば話は別。とりわけ今の時代には、ネットを通じて広範囲に抗議を呼びかけることが可能になっていて、これでは「正しいか否か」「適切か否か」の議論を経ない圧力として機能してしまいます。
法に則っての規制をしようとする政府よりも、なんの基準もなく動く大衆の圧力の方が私は怖いとも思います。これをよしとするならば、宗教団体の批判もできなくなる。彼らは彼らの教義に則って、不快さを根拠に表現に圧力をかけるのですが、その教義を社会が共有しなければならない義務はなく、これでは単なる嫌がらせ。
結局のところ、これも「不快」「人を傷つける」ということを根拠にして、他者の表現を潰していいのだと信じて疑わない人たちが増長している社会の典型的な現象としか思えません。
この発言を否定する人たちは「なんとなくのカンジ」が根拠になっているだけであって、そのあいまいな感覚を他者が共有しないと納得しない。自分の耳に心地よい言葉だけを聞いていたい。不快な言葉を排除できると信じて疑わない。根拠となる教義があるだけ、まだしも宗教の方がマシかもしれない。
耳障りがいいからといって、より大きな影響力をもつテレビで、科学的裏付けのない口からでまかせを言っている江原啓之の言葉はスルーしておいて、今時聞いている人間がほとんどいない深夜ラジオでの倖田來未のこの程度の言葉をどうして叩けるのでありましょう。
「早く生まないとリスクが高まるよ」と言ったところで、40歳で出産しようとしている人は不快になりましょう。不快ということで発言を封殺することができるのであれば、科学的に正しい発言でも封殺されてしまうのです。
「なんとなくのカンジ」だけで留まるのでなく、すこし立ち止まって、自分が感じた不快さは、この社会が共有しなければならない絶対的なものなのかを考えるべきです。その不快さをもって、他者の発言を潰すことが正当なのかを考えずして抗議したヤツらは、どうしてそうも自分の感覚を盲信できるのでしょうね。
倖田來未さんにはぜひまた2丁目でこのストレス発散をしていただきたいものです(続く)。
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