2007-12-09

お部屋1386/今日のマツワル68

更新を減らす予定だったのですが、1761号「偽装表示に思う」の続編を書いてしまったので、こっちにも出しておきます。

まさか、こんなタイミングで、こうもピッタリの素材が登場してくれるとは。同じ物書きとして、こんな原稿がどうして成立すると思うのか、不思議でなりません。現にいい原稿料を払う出版社があるのですから、成立しているわけですが。対して私は1本2千円程度のメルマガの原稿を書いていて、「黒子の部屋」にはタダで出していて、なんかおかしいような気がします。愚痴でした。

この文章はさらにもう一回続きます。第三回目では、この筆者の特徴をさらにわかりやすく分析しましたが、「マツワル」読者以外にはわかりにくいので、次回は省略。

ざっと要点だけ説明しておくと(これだけ読めば十分かも)、先週、「マツワル」に登場した新しいキーワード「思い出派」に、この筆者はピッタリ当てはまるのです。こちらにおいても、見事なタイミングです。

「思い出派」
というのは、必ずしも悪い評価ではないのですが、「過去は無条件によかったと言いたがり、対して現在を無条件に否定したがる」といった傾向が見られ、その傾向は時に「他者に対する優越性の誇示」が本質だったりします。「おまえらは知らないだろうが、オレが若かった頃は〜」ということです。今しか知らない世代に対して、ジジイの最後のよりどころが過去です。つまり、「最近の若いモンは〜」の変形でもあります。

この筆者は悪しき「思い出派」の定石通りに、若者を批判し、「今」を批判し、日本を批判をするのですが、それをやるために、気持ちが悪くなるくらいに現実をねじ曲げてます。人間、いかに腐っても、こうはなりたくない。

因みに私は「思い出判定試験」で20点しか採れない「思い出劣等生」です。こちらは「昔のことをきれいに忘れる」「同じ過ちを繰り返す」といった欠点があり、無闇に最新の曲をカラオケで歌って、そのことで優越性を誇示しようとするところが迷惑です。

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< 偽装表示に思う2>

「週刊文春」12月13日号に、徳岡孝夫という人物による「誰か腹でも壊したの? 食品偽装 『魔女狩り』はもうええやろ」という駄文が出てました。筆者の肩書はジャーナリストです。偽装表示かと思います。

私が「偽装表示に思う」で批判した内容そのままです。正確に言えば、それ以下です。まっさかここまで杜撰な文章が商業誌に出るとは想像してませんでした。

冒頭で筆者は、三十年ほど前に、飲めないのが常識のパリの水道水を飲んで、腹痛にならなかったことを書きます。なんの話かと思ったら、【私はそういうことをする野蛮な男だから、食品偽装事件に関しても偏頗な見方をしているかもしれない。少し割り引いて聞いていただきたい】とつなげてます。

三十年前のこんなチンケな話を持ち出して、逃げを打つとはなんちゅう甘ったれ。悔しかったら、半年前のもずくを食ったり、カビの生えたパンを食ったり、悪臭を放つ肉でも食って下痢をしてはどうか。年中そうしている私はそう思わないではいられません。

この冒頭の一文自体、筆者が「今何が起きているのか」をまったく理解していないこと、理解しようともしていないことを明らかにしています。

この筆者はそのような趣味の問題として、【食品偽装を怒らない】と宣言していますが、この人の個人的資質、個人的体験は、この国の国民にとってどうでもいいことです。こんな人のこんな体験に誰も従う義理はない。

どうやらこの人も、自分の趣味と社会のルールが合致していないとダダをこねるタイプの人のようです。野蛮でいたい人は、食品に無頓着な生活を個人で実践すればいいだけでしょうに。現に私はそうしています。

以下も同様に意味がない。

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JAS法はおろか、消費者というコトバや総理大臣すら存在しなかった三百年の昔から、赤福はずーっと商売してきて、お客様に喜んでいただき、今日がある。「赤福で当たった」話を聞いたことがない。生きた現実を見ずに、紙に書いた法律の方を重んじよというのか。

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そういう問題ではありません。こんな話は、今問題になっている偽装表示と関係がない。まったく関係がないわけではないにしても、ほとんど関係がなくて、偽装表示問題の是非を論ずる根拠になるはずがないのです。「紙に書いた報道」くらい見てはどうなのでしょう。

だいたい三百年の昔と同じように、赤福が本店だけで細々と営業していたら、こんなことにはならないわけで、この筆者の立場からすると、営業を拡大した赤福を真っ先に非難しなければならないはずです。変質したのは消費者だけではないのです。

あるいは同趣旨のこんな文章もあります。

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 そりゃあ彼らとて企業だし、社員を食わせなければならないから、切り詰められるところは一銭でも切り詰めたい。なるほど食品衛生法はある。だが実際の話、どなた様もかつて一人としてコレラ、チフスを起こしておられない。えいッとラベルを剥がし、製造日なり賞味期限なりを新しいのと張り替えた。次の日も、腹痛の出たという報告がないから、張り替え続けた。こうして被害者は一人も出ないまま、今日に至っている。

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コレラ、チフスにならなければ偽装表示をしていいと思っているらしい。しかし、その前に正確な事実関係を把握する必要があるんじゃないか、ジャーナリスト。

ここでは問題を食品衛生法にすり替えてます。同法に抵触する恐れがあるにせよ、ここでまず問題になるのはJAS法です。紙に書いた報道を見ても、JAS法違反と食品衛生法違反とは別であることはわかるはず。

したがって、腹痛を起こしたかどうか、コレラ、チフスが発生したかどうかをここで論じるのは意味がない、食品衛生法違反にしても、実際にそのような例があったかどうかが要件になるわけではないのですし。

この人は野蛮なので、インターネットの存在を知らないのだと思いますが、今の時代には、JAS法(農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律)も、それに基づいて、農林水産省が出している食品の品質表示基準も瞬時に読むことができます。

紙に書いた法を軽視するジャーナリストが見たこともなく、よってまるで理解ができていない内容を改めて説明しておきます。

賞味期限は品質表示基準で以下のように定められています。

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定められた方法により保存した場合において、期待されるすべての品質の保持が十分に可能であると認められる期限を示す年月日をいう。ただし、当該期限を超えた場合であっても、これらの品質が保存されていることがあるものとする。

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日本語がちょっと変な気もしますが、原文通りです。

賞味期限は品質が保持される期限のことです。それを過ぎたからと言っていきなり腹痛を起こすようなものではなくて、それを過ぎたからと言っていきなり品質が落ちるわけでもないのですから、ここで腹痛を云々するのは片腹痛いです。製造日をずらしただけで直ちに下痢になるのでは、そもそもの製造日がJAS法に違反していることになります。

私だったら、製造日から一ヶ月経った赤福を食べても下痢はしないでしょう。するかもしれないけど、気にしない。下痢をしても気づかないかもしれない。しかし、餅や餡は変質する。おいしくはない。でも、もったいないので食べないではいられない。レンジでチンすれば食べられるかもしれないと思って試す。「やっぱりうまくはないな」と思って食べる。そうならない保証期間が賞味期限です。

どんな商品も劣化する。包装された商品の劣化を消費者は知る術がない。いちいちキオスクで包装を開いて確認させるわけにもいかない。とあれば、ルールを設置することで、その保証をしましょうということです。

これは消費者のためだけでなく、製造者や販売者の利便でもあります。「中を見なくても安心して食べられますよ。だから包装したままで買ってくださいね」ってことです。

その際に、買ったその日に消費するとは限らず、とりわけ土産に使われた場合は、一日や二日、ずれこむ可能性がある。それを加味した消費期限が求められます。

ネットで見る限り、この基準を元に具体的な年月日を設定するのは製造者であり、農水省が具体的な年月日を定めているわけではないようです。

すでに「偽造表示に思う」で述べたように、賞味期限を過ぎて販売しても何ら問題がなく、さらなる余裕があると判断できるなら、最初から賞味期限を長くすればよい。そうすれば製造日をごまかす必要などない。

あたかもその日に製造したものを販売しているように見せかけて少しでもゼニを儲けようとしなければよかっただけのことです。赤福とて、小規模にやっていた時代は、その日に製造したものをその日のうちに販売できたのですから、こんなウソをやる必要はなかったでしょう。三百年前に戻るべきなのは誰なのか。戻りたくないならどうすべきか。答は歴然としてます。

今問題になっているのは、「腹痛を起こすか否か」「伝染病が発生したのか否か」ではなく、「ゼニ儲けのためにウソをつくことが許されるのか否か」「消費者との取り決めを破ることが許されるのかどうか」です。それを「誰か腹でも壊したのか?」とトンチンカンなことを言って批判した気になっているのが徳岡孝夫です。「誰かウソをついたのか?」と問うべきでしょうに。もちろん、いろんな人たちがウソをついてます。

腹痛絶対主義の立場からすると、腹痛さえ起こさなければいいのですから、JAS法食品衛生法も撤廃して、腹痛を起こした時にだけ、腹痛法違反で摘発すればよい。

この人の論理で言うならば、アメリカ産の牛肉を国産と偽ったところで、腹痛を起こさない限り問題なし。中国産の鰻を浜松産と偽ったところで、腹痛を起こさない限り問題なし。プロイラーを比内鶏と偽ったところで、腹痛を起こさない限り問題なし。段ボールで肉まんを作ったところで、腹痛を起こさない限り問題なし。50グラムの肉を100グラムと偽ったところで、腹痛を起こさない限り問題なし。あー、世の中、簡単。金儲けも簡単。

この問題は、食中毒を起こした弁当屋ではなく、偽のブランド時計や贋作の美術品などと並べて論じる方が適切です。「ブランドものを買うヤツがバカだ」とブランドに興味のない自分の事情をここにぶつけたり、「時間が合っているならいいではないか」と論点を理解せずに虚偽で金儲けを図る販売者を擁護する人こそバカでしょう。それとも、この場合でも、腹痛さえ起こさなければいいとでも言うのでしょうか。

この筆者は【過度の清潔好き人種】を批判していて、個人の趣味として私もそれに同意できますが、問題を在処を見極められず、衛生の範囲に是が非でも落とし込もうとしている「衛生敏感病患者」「衛生至上主義者」はこの人自身です(続く)。

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