2008-04-15

お部屋1456/あれやこれやの表現規制 8

表現物において、肖像権を制限する条件については、このような判決が出ています。

http://www.asahi-net.or.jp/~ZI3H-KWRZ/law2pcshozo.html
———————————————————-

東京地裁平8・2・29判決(判例タイムズ915号190頁)

個人の顔写真の掲載により肖像権が侵害された場合であっても、その違法性の判断においては、表現・報道の自由との適切な調整を図る必要があることから、当該写真の掲載が公共の利害に関する事項にかかわり、かつ、専ら公益を図る目的でなされ、しかもその公表された内容が右の目的に照らして相当なものであれば、右侵害行為は違法性を欠くと解するのが相当である。

———————————————————-

肖像権侵害の違法性が問われないのは、「公共の利害に関する事項」「公益を図る目的」「内容がその目的に照らして相当なもの」というのが要件です。

この裁判は、税金の多額滞納者である原告が、上半身写真、顔写真を掲載した雑誌を訴え、それが退けられたものですから、ここまで取りあげてきた「風景か否か」「黙示の承認があるか否か」とは別の理由、つまり公益性を理由として違法性が問われないという話です。ここにある条件を満たせば、上半身写真はもちろん、顔写真のアップであっても違法性はない。

犯罪者の写真もこれに相当します。その場合でも、全裸のプライベート写真まで出す必要があるかと言えば、「内容がその目的に照らして相当」とまでは言えないでしょう。もちろん、全裸のプライベート写真自体に公益性がある場合も想定できるとして。

しばしば劇映画やドラマでは、屋外の撮影でも歩行者はエキストラです。そうしないと撮影がスムーズにいかないということもありましょうが、ニュース、ドキュメンタリーと違って、公共の利害に関する事項ではなく、公益を図る目的ではないということもありそうです。それでも、風景であり、なおかつ「黙示の承認」が認められれば問題はないわけですが。

また、ニュース、ドキュメンタリーでは、エキストラを使うわけにいはいかないという事情もあります。

肖像権の制限は、「表現の自由」を最大限確保するということであり、表現はその様態に応じて、「やむを得ない」という部分がどうしても生じます。必然性と言ってもいいですが、路上を撮れば人が写り込むのはやむを得ず、その人たちすべてに許可はとれない以上、とらなくてもやむを得ない。

ニュース、ドキュメンタリーではエキストラを使えばヤラセですから、肖像権が制限されるのはやむを得ない。録画に比べて、生放送では確認をとることも、修整することも、編集することも難しいので、生放送で人がアップで写り込んだとしてもやむを得ない。

スポーツ中継でも、観客の顔はしばしば確認できてしまいます。私有地だとしても、公共性の強い場所ですし、人数が多すぎて確認をとりようがないですから、これもやむを得ない。

ただし、これもアップにしたことによってクレームがついたか、訴えられたことがあったように記憶してます。ボールが飛び込んだとか、小競り合いがあったとか、そこを写し出す必然性があれば別でしょうが、「おっと、いい女だな」というだけではアップはダメかもしれない。

スポーツ中継では、観客全体をなめるような映像はあっても、観客をアップにする必然性も公益性も薄いのですから、たぶん現在は、家族が観に来ている、関係者が観に来ているといった場合以外、観客を大きく写すことはなくなっているのではないかと思います。

まだまだ続く。