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[第16章●天国への階段] 7… 緩衝材を作る |
[2005.05.02登録] |
石田豊 |
送料と並んで、費用をかけることがお客さんにとっても店にとっても、直接的な利益をもたらさないものに、包装材料があります。 いくら立派なケースに入って送られてきたところで、ぼくが客なら、ちっともうれしくないし、こんなハコを用意できるくらいなら、値段のひとつでも下げたらどうだ、と思ってしまいます。所詮、包装材料なんてもんは、道中安全に中身を守ってくれれば、それで十分です。 ホントのことをいえば、コンビニの店頭に積んであるような廃段ボール箱をもらってきて、それを使って送ってしまいたい。ぼくなら、そんな箱で送られてきたとしても、ちっともマイナス採点にはなりません。しかし、これはどう考えても一般的な感想じゃないでしょう。Yomuparaに注文したらグレープフルーツの段ボール箱で送られてきた、なんていうと、店に対する信頼度が下がりそうです。 それに、毎回サイズのあう廃段ボールを探してくるのも、けっこう大変でしょう。コストがかかる。 そこで、発送用の段ボールは購入しました。探索の結果、アスクルがいちばんニーズに合致し、かつ、価格が安かったので、そこで買いました。 開店前からくよくよ思い悩んでいたのは、その中に入れる「つめもの」、つまりパッキンというか緩衝材はどうするかということでした。段ボール箱で商品が動かないように余りの部分に何を詰め込むか。よくエアークッション(ぷちぷち)なんかが使われていますよね。 この緩衝材こそ、客店双方に利益をもたらすことのない存在です。段ボールケースなら「店の品格を演出できる」なんて理由がありそうですが、緩衝材は所詮、あとはゴミになる存在です。特にエアークッション(ぷちぷち)などの石油化学製品を使うのはやだなあと思っていました。だいいち、高いし。 以前、何かの機械を購入したネットショップの商品説明のところには緩衝材の説明として「環境に優しい古新聞(銘柄は指定できません)」と書いてあり、笑いました。競合店があったにもかかわらず、そこから買ったのは、この一文のせいかもしれません。 緩衝材なんてのは新聞紙をぐちゃぐちゃと丸めたものでいいのですが、もしかするとそれじゃビンボー臭いという印象を与えてしまうかもしれない。この説明文はそれに対する防衛の先制パンチですな。箱をあけて最初にしたことは、パッキンの新聞紙の「銘柄」を確認することでした。「中国新聞」でありました。 ただ、新聞紙は時として商品が汚れるんですね。作業している手も汚れる。手の汚れが伝票なんかについちゃうのもやだろうなあ、と。だいいち、うちは新聞を取っていませんから、新聞紙を常時確保するってのも、少し困難です。 緩衝材、どうしたもんかなあ。開店前から悩んでおりました。同じ悩むのならホンスジで悩めと、我ながら思わないでもありませんが。 そんな日、近所の西友で見つけたものがあります。手回し式のシュレッダーです。価格はなんと499円。 どこの家でもそうでしょうが、我が家にはいらない紙がいっぱいある。頻繁にカタログ類なんかも送られてくるし。それに職業柄、ヨソよりうんと印刷物が持ち込まれます。単行本を一冊しあげると、ゲラだのなんだの、A4換算で千枚を超えるくらいの紙のタバが残ります。シュレッダーを使えば、そうした不要紙を緩衝材に使うことができる。大量の紙をバカバカ捨てる生活にずっと疑問を感じていましたから、渡りに船とはこのことです。 買って帰ってくると、カウネットの新しいカタログが届いていました。ちゅうことは、古い号は不要です。電話帳くらいの厚みがあります。これをバラバラにして、手回しシュレッダーにかける。これはコピー用紙2枚以上を同時投入してはならないとなっていますので、2枚ずつ、入れてはまわし、入れてはまわしていきます。 1時間ほどの作業で、カウネットのカタログは東京都推奨ごみ袋(45リットル)2杯分のシュレッダー片になりました。ぼくはこの手の作業が大好きなんです。大量の封筒づめ作業なんて、喜々としてやります。こういう単純反復作業をやらせると「おれの人件費考えると、高くついてますよねえ」というやからがいますが、「だったら2時間やるから外へ出て人件費分を稼いでこいよ」と言いたくなります。 そりゃ、終日こんなことばっかりやってたら生活できませんが、空き時間を使っての反復単純作業はアタマのリフレッシュにもなります。 続いて取り出すのは「ポリシーラー」です。熱でポリ袋などの口を圧着する機械。 なんでそんな機械があるかというと、昔、それを使う仕事をちょくちょくしていたからです。ソフトがずいぶん高価だったころ、専門家向けの回路設計支援ソフトがあり、無慮数十万の価格で輸入販売したいというクライアントがありました。そこからの委託で、マニュアルを翻訳しました。ついでに、といってはなんですが、そのソフトのパッケージ化から発送までも請け負ったのです。 注文が入ると、翻訳してレイアウトしてあるマニュアルデータを、日本語が通ったばかりのレーザーライタで手差し両面プリントし、製本機で本の形にします。マスターからフロッピーをコピーし、あらかじめプリンタで作っておいたラベルを貼る。それらを浅草橋の箱問屋で買ってきた無地の菓子箱にいれ、これは軽印刷で印刷しておいたカバーを巻き付けます。 できたパッケージを熱収縮プラスティック袋に入れ、ポリシーラーで口を閉じる。ヘアドライヤで熱風をあてると、みるみる収縮して、シュリンクパックのできあがり。買った人はまさかこういうドメスティックな方法で作られているとは夢にも思わなかったでしょう。 この一連の作業で万を超える料金をいただけたんだから、いい時代でした。クライアントとしても、在庫をいっさい持たないで即日発送が可能であったのですからメリットは大きかったでしょう。所詮、どかどか売れるようなタイプのソフトではありませんしね。 こういうシゴトをしていた頃の遺産として我が社にはポリシーラがあるのです。去年は知り合いのミュージシャンが自主制作CDを出したときに貸し出し、CDのシュリンクパックに活躍しました。 ともあれ、この時代物のポリシーラーを出してきて、シュレッダー片をダイソーで買ってきたポリ袋につめたものの口を熱で圧着します。そのままでは空気が抜けないので都合が悪い。そこで、鉛筆を使って2カ所に穴をあけます。できあがり。 袋は70枚入りで105円でした。ランニングコストとしては1.5円でパッキン材ができたわけです。仕上がりは「市販品」とまでは言えないものの、お客さんに違和感を感じさせない程度にはなっていると思います。値段のことはともかく、どうせゴミになってしまうものに「新品」を使わずにすんだというところに「むふむふ」感があります。 以来、時折、夜更けにお酒を飲んでテレビを見ながらじこじことシュレッダーをまわしています。今日もJTBから旅行のパンフレット冊子が届きました。いままでなら一瞥してゴミ箱行きだったのですが、これも今宵のシュレッダーの餌食です。作業もうれしい、結果もうれしい、副産物もうれしい。こういう構造ってのは、あまりないのではないか、と。 |
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