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[第16章●天国への階段] 1… ショップを始めることにした |
[2005.03.26登録] |
石田豊 |
ネットショップを始めることになった。 詳しい事情については追って報告することにするが、ともあれ、このところその準備に忙殺されている。Web上の小さなお店であるにしても、やることは実にたくさんあるもんだ。本も読めず、好きなテレビも見られない。 ショップといえば金銭のやりとりが必要になる。つまりはショッピングカートと決済システムである。これをどのように実現するか。これがまず最初の考えどことなる。もっとも簡便な方法は、事前に振り込んでもらい、振込があったことを当方が確認したら商品を送るという方法だ。以前は通販と言えば少なくとも小規模店ではこれがもっともふつうのやり方であった。店側とすれば、いちばん簡単に実現でき、かつ取りっぱぐれの発生しようのない方法だ。 しかし、この方法は顧客に事前に金融機関に出かけていき、自分で振込票を書いて(あるいはインターフェイス極悪のキカイを操作し−もしくは操作され)金を振り込まないとならないし、振り込んだところで商品が送ってこないかもしれないというリスクを強いるということに他ならない。いまや、買う側にとっては嬉しくもなんともない方法である。 では、事後ではどうか。 注文に対して商品に振込用紙を同封して送る。お客は商品を確認してからその振込用紙を使って銀行なり郵便局なりにでかけてお金を払う。これはダマされるかもしれないという疑念もないし、用紙に面妖な相手先口座の番号などを書き込む手間もない。あるのは郵便局へでかけるという手間くらいだ。 お客にとっては事前に送るよりは安心だが、店にとっては取りっぱぐれが心配になる。ブツを送ってそれっきりになったらどうすんだ、ということだ。しかし、これも考えようである。現にこのシステムを採用しているお店は、必ずしも少なくない。たとえば多くの古書店は長年にわたってこの方法で決済をしている。いまでも「日本の古本屋さん」とかをつかって古本を買う場合、おおむねこの方法で送られてくる。 近いところではこの連載の勧進元であるポット出版や、ポットが中心メンバーのひとつである版元ドットコムもこの方法を採用している。 いまでは違う方法も採用しているが、創設当時の版元ドットコムは、入金は商品同封の振替用紙での後払い、配送はメール便(つまりポスト投函で受取確認がない)で送料無料というものだった。ぼくが配送事故(送ったけれど、先方はついていないという)についてはどうするか、ならびに入金事故(ブツは送ったがカネは来ん)についてはどうなのかと訊いたところ、配送事故に対しては「また送ればいい」、入金事故に関しては「払わないヤツ、どれくらいいると思う?」という答えだった。 この答えには、まさに蒙をひらかれた思いがした。こういう考えがバチっとできるのがアタマのいい人というのである。 300gの本だとしよう。これを東京から九州へ送るには受領印のある宅急便で送ると正価では1,160円かかる。いっぽうポスト投函のメール便だと160円だ。1,160円のコストを負担することはできないが、160円なら「メーカー」として負担しうる金額である。配送事故がどれくらいの率で発生するか。そりゃやってみないとわからないものの、微々たるものだろうということはだいたいわかる。100件に1件の配送事故があれば、それは由々しき問題であって、そういう配送会社はだれも使わなくなるに違いない。だとしたら、その配送事故に対してだまって商品を再送するということは、「1%割引」で販売していることと同じコストだと言うことだ。1%引きを嫌って1,160円の運賃を払うというのは愚かな選択だ。 入金事故に関しても同じ。要するに「バックレる」相手がどれくらいいるかということ。考えてみていただきたい。前述の問いかけの時点でぼくが頭の中で想像したのは2、3パーセントまではいかないだろうな、ということ。クラスに1人はいねーぞ、という感じだった。 たとえばクレジットカード。これはとりっぱぐれがない(クレジット会社が負担する)かわりに手数料を5〜8%程度巻き上げられる。あらっぽい議論になるが、料金後払いでナシのつぶてとなる悪漢が100人の中に5人以上いれば、クレジットを使う方が「店」としてはトクになり、それ以下では「ソン」になるという勘定だ。それにクレジットカード決済システムを導入しようとすると、手数料の他にいろんなことを考えなければならなくなる。ネットショップでいえば、お客に安心してクレジットカード番号を入力してもらうためにはSSLの導入が必要になる。 SSLとはやりとりされるデータを暗号化し、第三者に傍受されないようにするという「技術」と、相手がマトモであるということを信用のおけるだれかが証明するという「シクミ」が合体したものであると考えればよい。技術のほうはともあれ、シクミは維持するのにコストがかかる。そのコストはSSLを導入する「店」が負担しなければならない。これは安いものではない。特に版元ドットコム草創の頃はそうだったし、いまでも自前でマトモに払えば月1万円程度はかかったりする。 クレジット会社との契約のこともある。実際に店舗をかまえて営業している店ならいざしらず、ネット上で、しかもこれから開業したいというような店がクレジット会社との間で契約を結ぶのはタイヘンなことである。そりゃそうでしょう。ぼくがクレジット会社であるとしても、何がなんやらわからない相手との契約はごめんこうむりたい。リスクはこっちもちだからだ。版元ドットコムはつまるところ、法人格もなにもない「任意団体」にすぎないのだから、この交渉もやっかいであるだろう(あわてて付言しておくと、今はクレジット払いもできる。送料無料。どんどん利用されたし)。 それやこれやコストや労力をかけるより、あっさりリスクを引き受けるほうが「トク」であるのはあきらかだろう、とあのときの沢辺さんは考えたわけだ。 自分でネットショップをはじめようと考えた時、ぼくはそんな会話を思い出したりしていた。さて、どうしたものか、と。 要するに、顧客の利便性と安心をどこまで実現し、店側のリスク・コストをどこまで低減できるか、である。このふたつの要求は、ある側面では相反し、ある側面では独立して存在する。つまり顧客の安心・利便を追求することが必ずしも店がわのリスク増大には直結しないまでも、ヘタをするとそうなっちまうこともありうるということだ。 よく考えないといけない。 もちろん、もっともシンプルで合理的な解決策は存在する。それは専門会社により提供されているネットショップ向けのサービスを「買う」ことである。現在では、多くの専門会社が存在している。 要は一種のホスティングサービスなのだが、サーバを置かしてもらうだけではなく、ショッピングカートをはじめとするソフトや、クレジット決済などの決済システムなどがコミになったサービスである。これが月額数千円程度のコストで使える。そういう会社と契約すれば、あとはページのデザインを決め(それもひな形が用意されていたりもする)、商品を集めてくれば即座にお店を開店することができる。 それはわかっている。 しかし、熟考の末、その道はとらないことにした。それは合理的な判断ではない。どうもニンがあわない。結局のところ理由はそれだけなような気もする。 つまり、自前でサーバを用意し、自分でカートシステムなどのソフトも書くということだ。この手のソフトに関しては経験がないわけではない。以前に仕事として請け負ったこともある。だからといってカンタンであることでもない。現に、ここ4日ほどはずっとスクリプトを書いていた。前に書いたものを流用すればいいようなものだが、これも性分なのか、まったくブランニューなものの書き起こしになってしまった。 いい野球選手になるためには、どうやって打率を上げるか、どうやって守備がうまくなるかということを考え、実践していくしかない。球場の整備やチケットの販売のことはとりあえず考えないほうがいいし、ましてやバットを削っている場合ではない。店も同断であって、商品のこと、価格のこと、サービスのことは真剣に取り組まないといけないが、店舗に敷くカーペットを織るために織り機に向かっている場合ではないのである。 そんなことはわかっているつもりなんだが、やはりこれはどうもニンだとしか言いようがない。 |
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YSさんより [2005-03-27] |
クレジット 自分のショップではクレジット会社を使っています。リスク回避というよりはお客を逃さないために使おうと考えました。なぜならわたしはネットでは100%クレジットカード決済で買い物しているからです。店に足を運ぶのが面倒くさい、開店時間を気にせず好きな時に買いたいからネットで買うわけで、金を払いに9時から3時までしか開いてない銀行や郵便局わざわざ出かけていくのは嫌です(コンビニ決済ってのもありますが、やっぱ行くのはめんどい)。従ってクレジット決済できない店にはお客がつかないだろうと思ったわけです。自分は石田さんの次の次くらいに変な人間だと自覚しているので、自分をサンプルにするのは危険だと思っていますが、、、。 |
かとですさんより [2005-03-27] |
ネットショップおもしろいな 石田さんセレクトの商品てなんだろ。楽しみだわ。 ネットの買い物大好きなんだけど、お客としての 決済は、クレジット、ネットバンク、代引き、コンビニ支払いと 支払い先と金額によって使い分けてますよ。クレジットばかりだと ますます浪費してしまうので。 オークションなど、信頼度が高くない相手などは 先に支払いはしないようにしてます。 |
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