2009-11-09

さらに先の図書館Webサービスと、保存体制のバックボーン案

これまで勤務先では、ブログをはじめソーシャルブックマークサービス、ブクログ、そしてGoogle AJAX Feed APIなどを利用し、様々なWebサービスを展開してきた。
最近では、公開準備段階でまだ公式サイトからのリンクは貼っていないが、「結城市関連論文ナビゲーター」というサービスの準備を進めている。
これは、図書館側で用意した地域に因むキーワードをクリックするとCiNiiを検索して、全文表示可能な論文を表示するものだ。
公共図書館ユーザーにとって、CiNiiはあまり馴染みのあるものではなかったと思うが、ネットワークと資料のデジタル化のおかげで、CiNiiに収録されている膨大な学術情報を能動的に提供できることを示す事例として、これは意義があるのではないかと思う。
なお、このプログラムを製作した当館スタッフの牧野雄二が、国立情報学研究所主催のCiNiiウェブAPIコンテストに応募している。

「結城市関連論文ナビゲーター」のような路線で考えると、例えばPORTAなどの外部データベースのパーマリンクを利用し、選書感覚でセレクトしたデータに、図書館サイトから利用者を誘導することにも大きな可能性を感じる。

図書館のWebサービスを介して資料を知る利用者もいるだろうし、最近の図書館はそういうこともやるんだなぁ、と関心を持ってもらうきっかけになってくれることも期待している。
だが、これらはすべて図書館にしかできないことというわけではなく、やろうと思えば個人にも可能なことである。
現状手が届きつつあるこうしたWebサービスの方向性は、図書館固有の機能と呼ぶにはまだ少々足りない。
ではこの先、どうすればいいのか?

やはり司書が利用者や情報に対し、図書館や図書館サイトで自館にアクセスされるのを待ち受けるだけでなく、能動的に仕掛けていくことを考えたい。
つまり、非来館者サービスとしてのWebサービスという次元を超えて、図書館サイトに来る人だけでなく、Web上の一般的な場所にも司書が出て行って、積極的にサービスする試みも必要だろうと感じている。

そういう意味で、これまでにiGoogleガジェットを用意してみたが、これもユーザーがわざわざ組み込まないと使えないのだから、まだまだ満足できるレベルとは言い難い。
検索バーへのプラグインにしてもそう。
まだ図書館(サイト)を知っている人だけを対象としたサービスの域を出てはいない。

そんなことを感じていたので、先日国会図書館が三菱総研に調査を委託している次期システムの検討会議「国会図書館情報検索サービスの利用者ニーズに関するディスカッション(第6回)」に参加した際、メーカーが工場からパソコンを出荷する時点で、あらかじめブラウザーの検索バーにPORTAを組み込んでおいてもらえないだろうかという意見を出してみた。
結構無茶な意見だったかな?とも思うし、実現するかどうかはわからないが、そういうことができれば、今よりも図書館を身近に感じる人は増えるだろう。
さらに、国会図書館の資料の電子化を見越した場合、PORTAの検索結果から当該資料を所蔵している公共図書館一覧が表示できて、最寄の図書館にリンクするといった導線が必要だと思ったので、そんな仕掛けをぜひ用意して欲しいと提案してみた。
また、前回書いたOCLCのウェブスケールに関することもある程度話すことができた。
現状は、まだまだ分担保存体制が確立されておらず、他館の所蔵を確認してそれぞれが保存・除籍を考えるといったルールも整備されていないところが多い。
例えば僕が勤務している茨城県に関していうと、市町村と県との関係は、分担型なのか県内の最後の砦として県立が控えているのか、まったく不明確な状態であり、最近になってようやくその点を議論しようという機運が高まりつつある程度の状態に過ぎないのだ。

少なくとも司書は、ルールが整備されていない段階である以上「最後は国会図書館が持っていればいい」ということで安心して思考を停めてはいけないだろうと思う。
地域の図書館が地域のアーカイブとして責任を持つ分散管理型でいくのか、市区町村の後ろに都道府県、さらには国会図書館がバックアップ機関としてアーカイブしておく体制になって行くのか、今のところはいずれとも言えない曖昧な状況である。
だが最低限、除籍しようという時点で他の図書館が持っているのかどうかを知らせてくれるアラート機能が働くような総合目録は必要ではないかと思う。
個人的には、その資料が単に地球上に存在するという保証があれば良いのではなく、図書館はその資料を利用する人のアクセシビリティも考えた方がいいと思うので、できれば都道府県立図書館の機能を強化することが望ましいと思うが、ともかくそうした議論さえまだ始まってもいないように思う。

保存体制を支えるシステムとしては、総合目録の構築を前提にウェブスケール的なシステムを構築するのが、いま考えられる限りでは最も有効ではないかと僕は思う。
さらにもうひとつ考えられそうなのが、都道府県立図書館は、ゆにかネットやNACSIS-CATに接続できるのだから、その傘下に各市町村を束ねたミニ総合目録をつくり、コントロールする方向性だろうか。
あるいは、図書館システムベンダーならば自社製品の目録を集めることも容易だろうと思うし、公共図書館界最大のMARCサプライヤーであるTRCならば、公共図書館版OCLCのように発展できる可能性もあるかもしれない。

PORTAに代表されるWeb上の情報源という点でも、もちろん国会図書館には大いに期待しているが、そうした他機関を利用する方向とは別に、地域の図書館ならではの主体的なWebサービスとしては、どんなことが可能だろう?

その地域の司書がレコメンドする情報、という部分にしか価値が残らないとしたら、その情報発信自体、いつまで存在意義を保てるか、確信は持てないと僕は思う。
だから、これまでやってきた路線とは別にもう一本、全く違ったことをやる必要があるんじゃないかと考え、現在新しい構想を練っている。

ところで、こんな具合にWebサービスをどんどん発展させることに対し、キーとなる人材が異動したらサービスが止まってしまうではないかといった懸念を聞くことがある。
確かに、サービスの安定供給を旨とする考え方は正しいと思う。
だが、一人や一部だけではなく、多くのスタッフを巻き込んで一緒に話を進め、動き出して習慣化させることができれば、安定したサービスとして定着させ得るというのが僕の実感だ。
あとはそのサービスを評価し、不断に改良し続けられれば良いと思うが、そこにはどうしても人材の問題が絡んでくる。
自治体の人事制度や委託などの問題ともリンクするので、ここで詳しく言及はしないが、ともかくいま現場で出来ることを、何か一つでも始めてみることが大事なのではないかと思う。

2009-10-31

資料の保存体制私案

「救いたい!」以降の一連の流れから、まだ様々な反応が続いている。
この情報に関しては、僕自身はあくまで速報的な情報伝達を第一義に、逐次入った情報を流すというスタンスでいた。シンポジウムで聞いたままのニュースとして最初に流した際の強烈なインパクトで、いろいろな反響の輻輳があり、結果的に正確な情報が伝わりにくくなってしまった点は、関係者に申し訳ないと思う。

シンポジウムでのニュースソースである齋藤誠一さんは、インターネットの住人ではないのか、本件に関するネット上での発言は今のところ見ていない。また最初のニュースが流れた以降の情報の詳細についてバイアスのかかっていない情報を一番発信できる立場の方が、よりわかりやすい場で詳しい情報を発信してくれたならばという思いもある。

この機会にいろいろな意見が表に出たことを、個人的には意義のあることと考えているが、そんなことを今さら論じるのは無駄と思う人もいるかもしれないし、初めて考えさせられたという人もいるだろう。
僕自身は公共図書館に来て比較的日の浅い新参者だから、今回は考える機会として非常に良い経験になっている。

様々な意見を匿名で書いたり、他人の発言をそのままブログに貼り付けている人は多いが、直接の反応は非常に少ない。本件について早い段階で、僕が知る限りで実名で発言したのは當山日出夫さん、岡本真さん、松沢呉一さん、そしてやや控え目ながら沢辺均さんといったところだろうか。いずれの見解からも、学ぶべきところは多い。

今回、図書館やアーカイブという話に耳目が集まったこと自体を、悪く捉えるのではなく、建設的にこの流れを利用して、図書館とアーカイブについて議論し、良くしようとしない手はないんじゃないかと僕は思う。
今後も保存問題に関しては自分なりに情報を収集してみたいと思うし、事実を把握して、それをもとにオープンな場で様々な立場の人の考えを交えながら考えていければと思ってもいる。
というのも、この両方を見ていて思ったのは「公共がどこまで担うのか?」という話を整理しないとダメなんじゃないかという気がしたからだ。

まず極端に専門的な本は、基本的にはその分野の専門図書館の領域だということは言えるだろう。
公共として収集すべき資料の幅は、分野で館ごとに分けて収集するなどした図書館もあるにせよ、ある程度決まっている。
しかしこの点も、デバイスに依存したデジタル資料をどう考えるのかといったことや、個性的な特徴のある公共図書館の存在の是非なども含め、再定義しなきゃならない時期にきているのではないかとも思う。
また資料保存に関しても、やはり公共がどこまで担うのかを、はっきり定義して市民に知ってもらう必要があるだろう。

都道府県立図書館は、市区町村立図書館に資料を提供するバックアップ的な意味を持っている。
これをアーカイブ機能と見なすか、そうではなく市町村同士の資料の仲介・斡旋をする立場と考えるか、このあたりで都道府県と市区町村の間の認識のズレというか、役割分担が不明なケースが多いのではないだろうか。

市立図書館にいる僕としては、市区町村の資料紛失・汚破損・除籍の情報を都道府県立が把握し、最後の1冊は必ず都道府県が持つという原則を、早期に確立して欲しいと思う。
だが、県庁所在地の市立図書館の方が、県立図書館よりも人も予算もずっと多いという例はいくらでもあるように、都道府県立側としては、その要求に応じられるリソースがないのもよくわかる。

つまりは、日本には図書館はあってもアーカイブという発想がそもそも幅広く根付いていないのだと思う。
保存は国立国会図書館があればいい、というのは甘えでしかないのではないか。
これに関して以前から時々思っていたのが、都道府県立が共同利用図書館システムを導入し、市区町村立がそこに参加して業務を行うようになれば、全体としてのシステム費は大きく軽減できる。市町村立はそこで浮いた費用の一部をシステム使用料として都道府県立に支払えばいいんじゃないかということだ。

各市区町村のシステム費の総額は、都道府県ごとに集計すれば恐らくどこも年額で数億円に達する。
共同利用システムを提供する代わりに、その7割でも8割でも都道府県が徴収し、年度を越えてプールできれば、結構大きなことが出来るはずだ。

そこまで大規模な話にならないまでも、横断検索システムや資料相互貸借システム、物流ネットワークの維持などに関しては、市区町村が応分の負担をしてもいいと思う。

もっとも、この関係は国立国会図書館との関係についても似たようなことが言えるかもしれない。
ゆにかネットという国会の総合目録ネットワークシステムは存在するが、それを市区町村まで巻き込んだ、リアルタイムで各館の所蔵と連携する完成度の高い総合目録に発展させれば、誰にでも全体像が把握できるようになる。
都道府県が市区町村のアーカイブとなり、そこでカバーしきれないものを最終的には国会がフォローするという仕組みをきちんと確立するためにも、こうした仕組みが必要ではないかと思う。

システムのイメージとしては、NACSIS-CATの公共版に近いものかもしれない。
NACSIS-CATの場合は、各館の判断で所蔵登録しないという選択肢もある。
例えば、私立大学が貴重な資料を学外には公開しないという判断で、あえて所蔵登録しないといったことも可能だ。
それに対し公共版NACSIS-CAT的なものの場合、そういう余地は特に必要ないような気がするのだが、どうだろう?
各館個別の事情まではわからないので、このあたりはよくわからない。
ただ、理想としては全部オープンであって欲しいという気はするが・・・

全部オープンか、一部オープンかはともかくとして、そんな総合目録を実現するためのひとつの方策として、この春にOCLCが発表した「ウェブスケール」という共同利用型のシステムは非常に興味深いのではないかと思う。
ウェブスケールを実際に利用したことなどもちろんないので、実際にどうなのかはわからないが、日本版ウェブスケールを考えるならば、データベースはNDL-OPACを共有する形になって、そこに各館の所蔵レコードがつくイメージになるんじゃないだろうか。
これならば、各図書館が個別にシステムを導入したり、同じ自治体内で学校と公共とが別々にシステムを導入するといった無駄を一気に削ることができる。
これ以上図書館運営コストを上げずに、必要な費用を捻出できるのだから、それを資料購入費に回すなり、共同保存書庫を建てるなりに充当できるだろう。

もちろん既存のシステムベンダーやMARC販売企業の立場もあるので、一足飛びに国会がそこまで対応できるのかというと、それは当然難しいのはわかる。

資料保存問題とは少々離れてしまうが、複数館を請け負った指定管理の企業ならば、システム統合は可能だろうし、直営であっても近隣自治体と手を組んで一本化することは、不可能でもないだろう。
たとえ業務システムのコア部分を共通にしたところで、それとは別の部分で各館の個性を発揮する方法などいくらでもある。
図書館の規模やユーザー層によって、システムへの要求が違うのはわかるが、カスタマイズに膨大な費用のかかる従来のシステムではなく、オープンソースのシステムを導入し、浮いたコストでSEを雇えば、結構現実的な話ではないかという気はする。

問題は、そんな体制を具現化できる「人」の問題が一番大きいのではないだろうか。
権限と見識を兼ね備えた人物の出現を待つだけでは、あまり進展を期待できそうにない。
でも現実を見渡してみると、図書館界やその周辺には、権限はなくとも優れた人材は決して少なくない。
いつかIAAL(大学図書館支援機構)の公共版のようなものが出現する可能性は十分にあるだろう。
もしその役に立つならば、そうした動きにはできる限り協力したいと思う。

2009-10-23

「多摩地域資料問題」の影響について思ったことなど。

「救いたい!」のエントリーが、物凄いアクセス数だったことを知った。
twitterでも盛んに伝えられ、この件について有志を募って討論しあうディスカッションを開催しようという動きにまで発展している。
こうした動きのきっかけになれたのは良かったし、様々な意見を知ることができたのは嬉しかったが、なかには自ら情報を収集・判断せずに、尻馬に乗って感情的になってしまっているようなネット上の発言もあったようで、それには正直なところ少し戸惑った。
だがそれだけホットなニュースになったということなのだろう。
ともかく、予想していたよりはるかに多くの反響があったことに、少なからず驚いている。

今回の件で図書館の資料保存について関心を持つ人が結構たくさんいたということがわかった。
多摩の資料に限った話ではないが、こういう問題について「捨てるな」という感情的な意見だけでなく、多様な意見がたくさん表出したことが、なにより一番大きい収穫だったと思っている。

10/16のシンポジウムでこの話を初めて聞いた当初は、今回の対象資料が原則「複本」であるということは知り得なかった。
(後ほど都立から各館へのFAXを確認したが、そこにも「複本」という言葉は一切記載されていなかった。)
また、都立図書館からの通達が各館長宛のFAXのみであり、通達から締め切りまでの期間が2週間しかなかったという都立の拙速さが、今回一番の問題ではなかったかと思う。

図らずも僕自身がこの話題に関してネットでの情報発信源となってしまった責任上、正確な情報を早く伝えなければと思い「続・救いたい!」をアップしたが、それと前後して都立は来年1月まで期間を延長したことを知った。

一般には国会図書館があるから捨てても安心と思われがちだが、国会図書館に所蔵していない資料が、他の図書館(公共・大学・専門)には数多くある。
それに、そもそも国会が持っていない地域資料など、どの地域にでも多数存在するものだ。
その点があまり知られていないように思ったのだが、そこは司書の力不足ということもあるだろう。自分としても反省したいところだ。

そんなことを踏まえると、複数冊購入したベストセラー本と、廃棄したら同じものが滅多に市場に出ないような地域資料とを同一基準で除籍するというのは、やはりおかしいと思っている。
しかも、多大な費用をかけて脱酸処理までして保存しようとしていたという事実は軽くはない。
それを敢えて除籍したのだから、それなりの事情があるのだとは思う。
それだけに、そこのところを最初にきちんと説明して、建設的に進められなかったのかな?という素朴な疑問は残る。

1冊あるから十分かどうかという判断は、すべて一律にするのでなく、それぞれの資料の性質を考慮し、臨機応変にした方がいい。
恐らくそれくらいのことは、都立だって考えていないはずがない。
要は、キャパの限界なんだから仕方ないということだとは思う。

それならそれで、都内市町村以外にも積極的に声をかけ、廃棄したくはないんですという意思をアピールしていたら、また違った展開もありえたのではないだろうか。

多くの人は承知のことと思うが、都立の資料廃棄問題についてはこれまでにも様々な議論があり、それが「特定非営利活動法人共同保存図書館・多摩」の誕生に繋がっているという。
このあたりの経緯は、自分は実際にその活動の当事者ではなく、ここで語れるほどの知識もないので言及は避けたい。
ただ、この団体の理事・事務局長である齊藤誠一氏が今回苦言を呈したことが発端である以上、同種のことが繰り返されたと捉えていいんじゃないかとは思う。
そういう意味で、継続的あるいは間歇的に、資料保存の問題に関しては、話題になった方がいいのだろう。
そうでないと、各図書館は内規ひとつで資料を簡単に左右できてしまうのだから、少なくとも目を離しっぱなしでいいとは思わない。

本当は複本が多いらしいと知った時点で、「だったら捨てていいじゃん」という意見が圧倒的になるのではないかという危惧もあった。
だが、実際にはそういう意見ばかりでもない。
文化を守れと声高に叫ぶ人もいれば、そんなところに税金を使うなという人もいるし、出版物だけ全部保存するという前提がどうなんだという疑問を呈する人もいれば、捨てるなという人が全部引き取ればいいだろうといった声もある。
本当に様々な意見が出てくるが、個人的にはとりあえず多摩地区の郷土資料という括りのコレクションの価値を考えると、極力散逸は避けた方がいいし、公共図書館にあることで、その資料が利用登録すれば誰でも・いつでも調べられるという点を、そう軽視して良いのか?という疑問は感じている。

多様な意見が出て、それらを包括した現時点での結論が出れば一番だ。
どの図書館の資料もシームレスに検索できて、全部が画面上で見られるようになれば、また違ってくるだろうが、少なくとも現在はそうではない。
(とはいっても、「オリジナルが保存」される別の意味はもちろんあるが。)
まずは、現時点で散逸させずとりあえずまとめておくことが望ましいと思う。
学校の教室とか、空いている公共の場所など、もう少し時間をかければ出てくる余地がありそうな気がするし、まとまったコレクションならば大学が引き取ってくれる可能性もあるのではないだろうか。
共同保存図書館・多摩が立ち上がることも予想されるので、まだまだ選択肢はあるんじゃないかと思う。

こうしたことは、何も都立多摩固有の問題ではない。
今回の問題を通して、溢れたらこうすれば良いというモデルの提示になることを期待したいし、そのための検討・議論はオープンな形でどんどん行った方がいいと思う。

※本件を踏まえた私案をこちらにアップしています。

2009-10-21

続・救いたい!

その後さらに確認したところ、もう少し詳しい事情が見えてきた。

対象資料は、都立多摩図書館にあった地域資料 75,276冊、関連雑誌18,294冊(748タイトル)図書館関連雑誌 3,196冊(81タイトル)とのこと。
タイムテーブルは、10/9にFAXで通達、10/23に各館からの引取りの申し出締め切り、そして搬出作業は11/6までということである。

そして今回のことが起きた経緯をまとめると、以下の通りである。

都立は平成14年1月に出した「今後の都立図書館のあり方-社会経済の変化に対応した新たな都民サービスの向上を目指して-」(都立図書館あり方検討委員会編著)で、中央図書館と多摩図書館での資料収集・保存は原則1点とする(p .20)という方針を既に出している。
そして今回の件は、都立としては原則的に複本を対象としているらしいので、定めた方針に則った動きをしているだけと言えなくもないようだ。(今回の対象がすべて複本であるという確証は得られていないが。)

だが今回、地域資料までもが複本を持たないというルールの対象であることが明らかになった。
これはやはり大きな問題ではないだろうか?

地域資料の場合、1冊あればいいというものではなく、災害等への対応としてリスク分散も必要だろう。
また、今回対象となっている中には、市区町村で所蔵している資料も含まれているとは思うが、都立多摩図書館に広域的な地域資料が揃っているからこそ、これまでそこで一括して見ることが出来たという利点がある。
それをそう簡単に放棄して良いものだろうか。

ここは既に決めたことだと押し通すのではなく、是非とも方針の見直しに踏み切って欲しい。
すべて一律に1冊だけ保存すれば良しとして、資料に応じた柔軟な判断の余地がないのだとしたら、これはやはりおかしいのではないか。

とはいえ都にしても、本当は保存した方が良いとは思っているだろうが、保存場所がないので致し方なく除籍しているという事情もあるのだろう。
だからやはり、今後は都と市町村が連携するなどして、共同保存のシステムを設ける必要があるのではないだろうか?

ここで対案を示さずに無闇に都立を責めては意味がない。
僕がすぐに考えつくのは、都内各自治体だけでなく、NIIを通じて全国の大学図書館に呼びかけることや、全国の各自治体に声をかけてもらうといったことだろうか。
わずかそれだけのことでも、救える可能性は格段に高まるんじゃないか・・・と思いたい。

FAXでは、都立から都内の市町村立に対し「都内公立図書館を中心に再活用を図る」という表現で通達されたようだ。
その「中心」以外にどんな手を講じているのだろうか。

※本件のまとめはこちらです。

2009-10-17

救いたい!

10/16(金)に第3回資料保存シンポジウム「資料保存を実践する―事例から学ぶ現場の知恵―」が江戸東京博物館で開催された。
NPO法人共同保存図書館・多摩 理事・事務局長の齊藤誠一さんによる事例報告「共同保存図書館の実現に向けて―多摩から提案する資料保存のしくみ」の中で、驚くべき話があったので、まずは急遽お知らせ。

その内容とは-

10/9(金)に、東京都立中央図書館から都内各自治体の図書館長宛にFAXが送信された。
実際に直接そのFAXに目を通してはいないので詳細は不明ながら、斎藤さんの話から内容をまとめると、概ねこんな感じであった。

・多摩図書館が所蔵していた多摩地域資料約7万冊と雑誌など併せて、 計約8万冊を処分することにした。

・引き取りたい館は、10/23(金)までに直接取りにくること。

通達から2週間ということは、図書館の稼働日で言えば約10日間。
引き取る側の負担で取りに行くのだから、当然費用がかかる。
各市区町村立図書館が引き取りを決断し、役所と予算流用とか補正予算とかの話をつけようとしても、図書館と役所の稼働日が普通はズレている上に、この間に運悪く体育の日が入っているので、調整には恐らく2~3日しか猶予がないだろう。
しかも何万冊を引き取るには運送業者の手を借りざるを得ないだろうから、そちらの手配も厳しいだろうと思う。

これでは、廃棄する前提でアリバイとしてFAXを流しただけと解釈されても仕方ないだろう。
更に驚くことに、今回の廃棄対象資料には、過去に脱酸処理までしていた地域資料も大量に含まれているという。
脱酸処理をするには、安くても1冊2,000円~3,000円くらいだろうか?
当然ながら脱酸処理をするということは、劣化を防ぎ永年保存していくために行う処置で、国立のアーカイブでも、脱酸処理はしたくてもなかなか予算が取れず腐心していると聞く。

都立多摩図書館は「都立図書館改革の具体的方策」(平成18年8月教育委員会決定)に基づき、都立中央図書館がそれまで所蔵していた雑誌の中から、約6,900タイトルを移管して、平成21年5月1日にご存知「東京マガジンバンク」として、リニューアルオープンしている。
今回のFAXでの通達は、そのマガジンバンクのため、書庫から押し出された地域資料を処分するということである。

東京の地価を考えると、簡単に書庫を増築したり、そうそう新たな保存書庫を建てるわけにはいかないこともわかる。
だが齋藤誠一さんが講演の中で、どうにか多摩地域の8万冊を救いたいと仰られている通り、戦前から戦火を逃れ先人が大事に保存し続けてきた資料群を、今あっさりと抹消してしまっていいとは、どうしても思えない。
特に地域資料は、一度失ったら二度と手に入らないものが多い。
それは将来の人への責任という意味でも、受け継がれていくべき資料なのではないだろうか。

都は五輪招致に150億円を投入し、痛くも痒くもないという。
その五輪会場予定地は更地のままというならば、そこに書庫を建てたっていいじゃないかと言いたくもなってくる。

どうにかして、早急に8万冊を救う手立てはないものだろうか。

※本件の続報はこちらです。

2009-09-23

図書館ブログについて思うこと

ブログを使って情報を発信している図書館は、もうそれほど珍しくはない。
だが、スタッフの日記のようなものもあれば、今日の天気や館内の様子を掲載してみるなど、各館まだまだ模索している段階のようだ。

周辺の写真や気候などを、図書館のブログに掲載しているのを見て改めて思ったのが、地域の情報を発信することも、大切な図書館の役割だということだ。
例えば地域のイベント情報、行政や産業の情報なども図書館資料とあわせて知ることが出来れば、地域の情報拠点としてさらに便利なものになるだろう。

しかし現実を考えると、地域の情報を網羅的に拾うのも大変だし、そこまで目配りする余力もない。
そこで考えられるのが、集合知の活用だ。

例えばソーシャルブックマークに、地元企業や地域のブロガーを登録しておけば、手間をかけずに地域情報ポータル的なものがつくれるかもしれない。登録の自薦も受け付けるようにすれば、市民参加型サービスとして発展する可能性もある。

公共図書館のリンク集に収録されている地域の情報源というと、信頼性を優先するので公共機関や学校、病院などが多く、個人ブログを登録している例は、恐らく皆無に近いのではないかと思う。

だが実際には、趣味で郷土史を調べてブログを書いている人もいるし、町のイベントをマメにフォローしている人もいる。

レファレンスでそんな個人ブログに行き当たり、これを紹介するのってアリなの?と悩んだことのある司書も、案外いるんじゃないだろうか。
そんな壁も、考え方一つで簡単に突破できてしまうかもしれない。

僕の勤務先でも、資料紹介と雑誌記事紹介、2つのブログを運用している。
今のところは、蔵書への導線を増やそうという意図なので、資料や雑誌記事の紹介を掲載するスタイルとなっている。

資料紹介のブログに関しては、紹介資料の選択と継続性にこだわって進めているが、いかんせん内容が書誌的な事項を述べるだけになっているので、これに関しては、読書感想文的な方向ではなく、書誌解題的な方向で、司書自身の言葉で平易に説明するよう変えなきゃならないと思っている。

2004年の図書館開館当時、「図書館だより」のようなものを作るため、スタッフに原稿を書いてもらったのだが、その時に個人の趣味が強く出た思い入れたっぷりの原稿を書いてしまうケースが続出した。
バランス感覚を求め、まずはロジカルに事実を伝える文を意識付けたところ、それが仇となってしまい、自分の価値観は表に出さず、紋切り型の文を書く人が増えてしまった。

自分の書く文章も下手なのに、人に文章の書き方を指導する無謀さは承知だが、まだ下手だから書けませんと言い続けるようでは、図書館からの情報発信など覚束ない。

確か栃木県小山市立中央図書館の栗原さんが、人前で話が出来て、文章も書ける司書を育てる方針だということを仰っていたのを思い出した。
僕からすると、まだその目標は遠すぎて掲げられそうにないが、これはすごく重要な指摘だと思う。

ところで、勤務先の雑誌記事紹介ブログで、最近新しいことを始めてみた。
ブログが図書館員と利用者のコミュニケーションの場にもなり得るんじゃないかということで、雑誌記事紹介ブログはコメントを許可し、さらに夏休みの体験学習の生徒達にもエントリーを書いてもらうようにした。
まだ手を付けはじめたばかりだが、今後は例えばメールで資料紹介や雑誌記事紹介のエントリーを受け付けて、図書館側でアップするようなこともやってみようかと思う。

2009-08-01

「新着雑誌記事速報」リニューアル

前回のエントリーで、今年の3月に当館で公開した「新着雑誌記事速報」を、はてなRSSからGoogle AJAX Feed APIに切り替えるため、テストしていることを書いた。

「新着雑誌記事速報」というのは、国立国会図書館が配信する雑誌記事索引のRSSを利用し,はてなRSSを使って、受入雑誌の新着記事を公開する図書館サービスであることは、前回にも書いたとおりである。
以前は、受入雑誌の約4分の1にあたる114誌(2009.3.1現在)の新着雑誌記事を見ることができる「ゆうき図書館新着雑誌記事速報」(旧)版を7/18まで公開していた。
こちらでは、はてなRSSのフィードを自動振り分けする機能を利用して、『2006年版雑誌新聞総かたろぐ/メディア・リサーチ・センター発行』の分野コードに準拠し、各分野ごとに記事名を一覧できるようになっていた。

このサービスの最大の問題点は、

  1. はてなRSSは、配信されてから2週間以上経過したデータを保持しない仕様のため、国会図書館が記事情報を登録してから2週間経過すると記事情報が表示されなくなる。
  2. 分野ごとに振り分けただけなので、特定の雑誌に掲載された記事を探すのには向いていない。

ということだったので、これらを少しでも改善すべく、リニューアルすることにした。

今回のリニューアルでGoogle AJAX Feed APIを利用することにより、タイトルを選んで記事を表示することが可能になった上、最新の記事情報は消えないようにもなった。
また、これまで利用していた国立国会図書館が配信する雑誌記事索引のRSSに加え、株式会社富士山マガジンサービス(fujisan.co.jp)の目次新着情報「Fujisan RSS」を新たに利用することで、受入雑誌の約65 %にあたる272誌(2009.7.1現在)の新着雑誌記事を見ることができるようになった。

○(新)「ゆうき図書館新着雑誌記事速報」

http://www.lib-yuki.net/room_ad/sokuhou-blog.html

タイトル別表示が可能になり、対象誌数が倍以上に増え、表示も消えなくなったのだから、このリニューアルの成果は結構大きいと思っている。

リニューアルの鍵となった、Google AJAX Feed APIというのは、JavaScriptを使用してRSSフィードをダウンロードし、表示する仕組みのことである。

用意されたサンプルコードを、目的にあわせて加工してつくるので、JavaScriptとhtmlの知識が多少は要求される。
だが、似たようなものを公開している人がたくさんいるので、それらを参考にすれば、プロでないと手が出ないというほどでもない。

少し前に、ある市立図書館の人が「これからの司書はJavaが書けなきゃ勤まらない」と言っているというのを伝え聞いた。
ちょっと極端だし語弊のある言い方だと思う部分もあるが、確かにGoogleやAmazon、はてななどが提供するAPIを、図書館サービスに活用しようと思ったら、避けては通れないのだろうという気もする。

更にProject Next-LのEnjuというシステムや、まちづくり三鷹のシステムのような、Ruby on Railsで開発された図書館システムの今後の可能性を考えると、RoRも知っておきたいし、Webサービスを推進する以上は htmlも多少は書けた方がいい。
また、日々データベースを使って仕事をしているのだから、そうすると当然ながらSQLは知っていた方がいいということになる。

いろいろ羅列してしまうと、すごく大変なことで、図書館員の仕事が一変してしまうような印象を受けるかもしれないが、そんなことはない。

インターネットが普及する前の時代、オンラインデータベースを検索する際には、少ない検索数で効率よく絞り込むスキルが司書には要求されていた。
その頃のオンラインデータベースは、Dialogなど学術情報系のものがほとんどだったから、公共図書館はそういったものを利用していなかったに過ぎない。

公共図書館の仕事は、本や雑誌だけにとどまらず、さまざまな媒体の情報を扱って提供するものだと言って、 違和感を感じる司書はもう少ないだろう。
インターネット上の資源を利用者に提供したり、あるいは自館の情報発信に有効に活用したいと考えるのは、当然の流れだ。
そうすると、JavaやSQLも使えた方が良いというのも、突飛な話ではない。

だからといって、そういうことを話すと図書館にプログラマーばかりを揃える必要はないと言う人が必ずいるだろう。

もちろん、確かにそればかりが司書の仕事ではないのだから、正論だと思う。
またパソコンはどうしても不得手という職員もいるだろうし、個人のスキルも様々だ。
だが、習得できればはるかに進んサービスが出来るのに、それは司書の仕事じゃないとか、自分には関係ない、もしくは無理だと思い込んでいる人が多いように思う。

例えば、ある条件の統計資料を急に求められたとする。
その時に、SQLを知っていれば瞬時に回答できるのだが、わからなければまずシステム担当者を探すことになる。
そのシステム担当者が、各業務のデータを熟知していれば話は早いが、そうでなければ要求を伝え、理解してもらうのに、また時間がかかる。
こういうことは、何もSQLに限った話ではない。
各業務担当がWebサービスを検討・推進できれば、それだけスピーディな展開が可能になる。

SEに任せきりだったり、館内に1人だけ詳しい人がいる程度の状態とは、雲泥の差が出てくる。

やはり、わからないよりはわかったほうがいい。

そうはいっても、すぐにプログラムが書ける司書を揃えることなど不可能なのだから、やはりじっくり育成するしかない。
最低限、プログラムが書ければ具体的に何ができるのかを上司が理解し、勉強を推奨する必要はあるのではないか。
公共図書館の管理職者に司書経験のある有資格者は多くはないようだが、司書の仕事の目的やアウトラインを理解した上で、現場の司書たちが学ぶモチベーションを持続できる環境を提供することが、何より大事ではないかと思う。

2009-06-08

Googleカスタム検索

勤務先のWEBサービス勉強会で、Googleカスタム検索が面白そうだという話が出た。

Googleカスタム検索は、外見はサイト内検索の検索窓と似た感じだが、特定サイト内の指定したディレクトリ以下だけを検索するという機能で、さらに複数のサイトをまとめて検索することもできるというのが大きな特徴だ。

この話が出てすぐに、「はてな」や「ブクログ」を使った当館のWebサービスをまとめて検索する「WEB図書館横断検索」をつくってみた。
さらに、このカスタム検索をいろいろ試しているうちに、自館発の情報を束ねて検索する以外にも、もっと面白いことに使えそうな気がして思いついたのが、雑誌の出版社サイトを横断検索して、目次検索に近いものをつくることだ。

そこで、現在継続受入中の雑誌457タイトルの全出版社サイトをチェックし、fujisan.co.jpやCiniiなども利用して325誌の擬似目次検索機能をつくってみた。
これだけ大量のサイトを横断するのだから、いっそGoogleをそのまま使えばいいのか?などと迷いながら作業したのだが、意外に利用価値のあるものが出来たのではないかと思う。

★ゆうき図書館「雑誌記事サーチ」

ところで、各出版社サイトを見ているうちに思ったのだが、大半は目次を公開しているものの、そのファイルが画像であったり、サイトで独自に目次データベースを作っているなど、Googleのクローラが情報を拾えないサイトが案外多い。
自社出版物を全部まとめて同じフォルダに入れているサイトもいくつかあったのだが、それではノイズが多すぎて検索しにくい。
今のところ、自社サイトを訪れた人が刊行物の情報を見るという導線以外を想定していない出版社が多いようだが、書誌や目次に外部から直接飛んでくる導線をもっと意識した方が、より多くの人に本を見つけてもらいやすいのではないかと思った。

もっともこれは、図書館OPACについても同じことが言える。
今のところ多くの図書館システムは、書誌1つ1つが固有のURLを持っていないので、Googleから直接蔵書を検索することはできない。
だが、書誌データが開放された図書館システムが増えれば、Googleカスタム検索で、簡単に図書館間やオンライン書店と図書館との横断検索ができるようになる。
サーチエンジンで図書館蔵書が探せるとなれば、そこから実際に来館して図書館を利用する人も現われるかもしれない。
だから今後は、そういった図書館システムが増えて欲しいと思う。

この「雑誌記事サーチ」は出版社のサイト次第で、最新号に限らずバックナンバーも調べられる可能性がある。
これに対して、既に公開済みの「新着雑誌記事速報」は、RSSリーダーで分野ごとに新着記事をブラウズできるものだ。
今のところ「はてなRSS」を使っているが、タイトルごとに一覧できる仕組みをGoogle AJAX Feed APIでテストしている。

★ゆうき図書館「新着雑誌記事速報」

こういった外部の情報源を活用するやり方は、手軽に無料である程度のサービスを提供できるのだが、この方向で突き進めば万全だとは考えていない。
OPACや商用データベース、電子ジャーナルなど、これまで図書館が提供してきたサービスは、検索対象データが保証されたものに限られていた。
それに対し、出版社サイトを検索する仕組みのような不安定なサービスに軸足を置くことは、本当は好ましいことではないだろう。
例えば、文献に基づいた資料の正確な裏づけとして、資料のある、無しなどの確証を得たい場合は、このツールでは、不十分な結果となる。
網羅的で緻密な情報検索と、図書館資料への導線をたくさん設けることとの違いを利用者が理解して、それらの特性を活かした使い方をして役立ててもらえればうれしい。

ある程度不十分な状態であっても、現段階で出来る限り、調べもののツールを多く提供できるよう、利用者の選択肢を広げていけるよう、工夫しながら進めていきたいと思う。

2009-05-29

iGoogleガジェット

約1年前に、iGoogleガジェットで図書館蔵書を検索できるようにしたいという話を書いたが、それがようやく実現した。
最初は自分で試行錯誤してみたのだが、やがて文字コードの変換で手詰まりになり、途中からシステム保守担当のSEさんに大幅にご協力いただいた。
本当は、このガジェットのソースを流用して、ブラウザの検索バーからOPACを検索できるようにしたり、Greasemonkeyを使ってAmazonの検索結果画面に図書館の所蔵情報を表示させたりといったこともやりたかったのだが、旧式の現システムではどうも難しそうなので、それらは来年次期システムに移行した後に、取り組んでみたいと思う。

2009-04-14

手作りの情報サービス戦略④

本を紹介する書評の情報に比べ、雑誌記事を紹介するメディアはまだあまり多くないように思う。
2005~06年頃に、そのような動機からスタッフの手作りによる「ザッパー」という雑誌記事紹介のミニコミ誌を試しに発行してみた。
これは、図書館の非常勤職員何人かと僕とが、勤務時間外に執筆・編集・印刷していたので、強制や命令はまったくないボランティア団体のようなもので取り組んでいた。
誌面には記事紹介の原稿と、三省堂書店の雑誌納品データにつけてもらっている特集記事名データ(雑誌1冊につき1件)もあわせて毎号掲載した。
この「ザッパー」は、利用者になかなか好評だったのだが、スタッフの入れ替わりなどによって残念ながらvol.20(2006.6.1発行)で終了してしまった。
その後も特集記事名データに関しては、「はてなダイアリー」に毎週アップする形で、現在も引き続き更新し続けている。

「ザッパー」は、特集号名データを公開するだけになっていたが、館の特色(受入誌数約4OOというのタイトル数の多さ、それらを製本・永久保存していること。)をもっと活かしたいという考えがずっとあった。
更に調べものやレファレンスの際、レファレンスツールとしての図書資料とネットの多用化に対し、雑誌記事を活かしきれていないという反省もあった。
そこで、もっと雑誌に光を当てようということで、主体的に「雑誌記事紹介ブログ」としてやり直すことにした。

また「新着雑誌記事速報」として、NDL雑誌記事索引のRSSとはてなRSSを利用したサービスを先月から始めている。
今後は、網羅性を考えてNDLだけでなくfujisan.co.jpの雑誌目次も利用したいと思っている。fujisanを利用するならば、まず使用許諾を得る必要があるが、とりあえず試しに「はてな」RSSにfujisanの目次RSSの登録を試みたが、どうもうまく登録できない。どういうことなんだろう?と試行錯誤していたところ、別のスタッフから「Google AJAX Feed APIを使ったらfujisanも登録できたので、そちらに切り替えてみては?」という提案があった。これからそちらで試してみるところだが、良ければ本格的にその方法で作り直すことになるかもしれない。

こうした雑誌の情報とは別に、2007年6月から行っている「資料紹介ブログ」では、辞書や事典、郷土資料など外部の書評サイトなどで取り上げられにくいものを、なるべく意識的に選んで紹介するようにしている。
他にもブクログを使ったイベント棚紹介、郡山女子大学図書館を参考につくったパスファインダー(と、まだ呼べるレベルではないけれど・・・)などをあわせて、今月からホームページのトップに「WEB図書館」という形にまとめてみた。
またこうしたWeb上での情報提供に加え、非ネットユーザーへのサービスを意識して、印刷したものを館内に置くようにしている。

他にもこども向けのパスファインダーや、調べ学習対応のツールも考えたいし、利用者に本の紹介をお願いして、それを図書館がブクログにアップしてサイトからリンクを貼るなど、図書館パッケージシステムに依存しない方向で進める予定でいる。
また現在はこうしたソーシャルな展開とは別に、郷土資料のブックリストを公開準備中で、将来的にはそこから書誌解題に発展させようかとも考えている。

ソーシャルなサービスは、はてなやブクログなどである程度のことは実現できるが、パーソナライズに関しては厳しいものがある。
mixiでゆうき図書館コミュをつくろうなどという案もスタッフから出たが、そこで何が出来るのかというと、結局は図書館パッケージシステムとの連携が鍵なので、そこで壁に突き当たる。
これはもう図書館振興財団の助成金を念頭に、じっくりパーソナライズに関する企画を考えたい。
次年度導入予定の新システムの仕様を把握し、それに対応したパーソナライズ用の外付けシステムを検討したいと思っているが、そこには具体的にまだ着手できていない。
これから1年以上も検討期間があるのだから、スタッフの集合知で何か面白いものができるんじゃないかという予感はしている。

ゆうき図書館ホームページ
(今回紹介した情報は、すべて「WEB図書館」からアクセスできます)

2009-03-05

寄贈依頼について

図書館特集を組んだある雑誌の編集部に、日本図書館協会の資料室から「献本してください」という連絡があったという。

日本図書館協会の資料室では、全国の図書館の要覧、館報、利用案内などを収集している。他の図書館ではなかなかまとまった形で見られないので、それらは貴重な資料となっている。
ホームページに要覧、館報類を発行の際は資料室にも一部送ってくださいといった一文が掲載されているが、そこではもちろん、商業雑誌の図書館特集号の献本については触れていない。

僕も図書館員なので、外部に資料の寄贈を依頼することはあるが、商業出版社への依頼は極力避けている。
版元からの寄贈は、たとえフリーペーパーでも、ありがたいことだと思ってもいる。

予算が少ない資料室だから、できれば寄贈して欲しいという気持ちはよくわかる。版元の判断で日本図書館協会へ寄贈されるケースもあるのだろう。

だが地味な専門誌を出している商業出版社に対して、発行後3日しかたっていない雑誌を献本せよというのは、客観的に見るとやはり無理があるんじゃないだろうか?

予算がないとか、利用者の利益のためだといって、ついつい版元に負担を押し付けてしまうと、特に図書館への販売を期待している専門書を扱う版元などは、経営が圧迫されてしまうのではないのだろうか。
版元が潰れるということは、本来世に出るはずだった資料が失われてしまうことでもある。

図書館も書店も版元も、同じ出版流通業界の一部を担う者同士なのだから、今回の寄贈云々に限らず、普段から共存共栄という意識を持っておいた方がいいんじゃないかと思う。

2009-02-17

手作りの情報サービス戦略③

郡山女子大学図書館の事例を参考に、ソーシャルブックマークを使ったパスファインダーを勤務先でつくろうとしていることを、[本]のメルマガvol.345に書いた。

この作業を進めていたスタッフから、NDLの雑誌記事索引とfujisan.co.jpのRSSを使い、web型のRSSリーダーで所蔵雑誌の目次をまとめて公開しても面白いのでは?という提案が出てきた。
見せ方の工夫次第で、これも効果的なツールになるかもしれない。
とりあえず年度内の公開を目標に、作業を進めてみることにした。

これまでに何度か言及してきた、iGoogleガジェットや検索バー、Greasemonkeyなど、図書館サイトの外からOPACを検索するツールは、各OPACシステムの仕様によって検索結果が左右されてしまう。だから、どうしても検索漏れが出やすい。
それにアドオンなりiGoogleなり利用者自身が何か手間をかけなければ利用できないので、パソコンが苦手な人にとって少々ハードルが高い。
今回取り組むことにしたRSSリーダーは、新着雑誌の目次提供サービスとしては面白そうだが、図書館として目次を蓄積できるわけでもなく、自館のOPACと連携するわけでもない。
こんな具合に、今のところ無料のwebサービスは帯に短し襷に長しという感じのものが多い。

いつかwebサービスや各種ツールの進化によって、この微妙に半端な感じが克服されることを期待したい。

2009-02-03

手作りの情報サービス戦略②

東京大学情報基盤センターが、学内職員向けに、「図書系職員のためのアプリケーション開発講習会」というのを行っている。
そしてそこで学んだ図書館員達が、新しい利用者サービスや業務効率化のためのツールを、自ら開発しているのだという。
そんな事例が、昨年11月にカレントアウェアネス・ポータルで紹介され、「情報の科学と技術」12月号の『ローコストでできるファインダビリティ向上』という前田朗氏の論文で、さらに詳しく紹介された。
最近僕の勤務先では、iGoogleやGreasemonkeyなどを利用したサービス拡張に向けて試行錯誤しているため、「新しい利用者サービスのために」という意味で、その講習会の今後にも興味があるし、出来ることなら参加したいくらいである。

僕自身は、以前から図書館員にSQLを自在に使える技術があれば、余計なシステムカスタマイズ費を抑えるのと同時に、業務効率化も進めやすいと考えていたので、スタッフにSQLの基礎やMS-Accessでのアプリケーション作成を指導してきた。
そういうことに取り組み始めたのは、14~5年前からだろうか。ともかく以前勤務していた大学図書館でもそうだったし、公共に移ってからも同じスタンスでスタッフを指導している。
SQLもMS-Accessもプログラミングの知識は不要なので、敷居は低いと思うのだが、必要に迫られるとか興味があるとか、何か動機がないと本気で習得する気にはならないのだろう。自在に使いこなすところまで育つスタッフは、あまり多くはない。
だが、ある程度マスターしたスタッフは、俯瞰で業務を把握するようになるなど、急成長するケースが多いのは事実だ。

本当は司書資格課程で基本的な考え方、例えば図書館パッケージシステム機能に干渉しない範囲でツールをつくるとか、業務DBに対しては参照オンリーが基本だとか、バックアップを採ってから一括更新するといったことは教えた方がいいんじゃないかと、随分前から個人的に思っていた。
そんな図書館システムリテラシーみたいなものがベースにあって、さらに新しいwebサービスの知識を持ち、自力で新しいツールをつくる力を持った図書館員が1人でもいれば、その図書館のサービスは大きく飛躍する可能性があるんじゃないだろうか。

だが、残念ながら学生対象にそんな教育をしているという話は、今のところ聞いたことがない。
これはとても残念なことだと思う。

2009-01-30

手作りの情報サービス戦略①(たぶん全4回)

最新の情報は、RSSリーダーがあるので比較的収集し易いが、ちょっと前の情報を探そうとなると、これは案外難しい。
例えば「○○について最初に言及したのは誰で、いつだったか?」というのを、文献だけでなくネット上の情報も含めて探そうとなると、意外に手間取る。

2~3年前から、Firefoxのアドオンを使い、Amazonの書籍情報に図書館の所蔵情報を追加するユーザースクリプトが、ネット上で幾つか公開されている。
2005年10月発行の「最新WebサービスAPIエクスプローラ」Software Design編集部(技術評論社)に、Amazonで図書館の蔵書を検索するスクリプトが掲載されたので、それがひとつの契機となって普及したのかもしれない。
一部の図書館関係者は、かなり早い時期にこれに気付いていたが、セキュリティ面で難しい部分があったため、公共性の高い施設で提供するのはリスキーという認識が一般的だったと記憶している。

その後、ブラウザの検索バーからOPACを検索する仕組みが登場しているが、こちらに関しては農林水産研究情報総合センターの林さんがトップランナーだったのではないかと思う。

この「朝焼けの図書館員」に以前書いたiGoogleガジェットもそうけれど、こうした図書館サイト外から直接OPACを検索できる仕組みは、利用者がわざわざ図書館サイトを訪れる手間を省いてくれる。
これは、図書館の窓口を利用者の身近な場所に置くことにもなる。
こうしたことが、特に予算を確保せずとも図書館員自身の手でできるようになっている。

無料貸本屋を脱し、情報サービス機関色をアピールする好機が到来したんじゃないかと個人的には思う。

しかし、そういうことに関心を持っている公共図書館員が、どれくらいいるのだろう?
もちろん別の方向で、次の手を模索しているのだとは思う。

だがそれにしても、学生や研究者、大学・専門図書館の人ばかりがこういった方面で活躍し、公共図書館員がなかなか現れないこの状況は、同じ情報サービス機関として何とも寂しい気がしている。