2008-10-17

『ず・ぼん14』 ~ その後のこと

 「ず・ぼん」で強調し忘れたこと。

 掲載された次期システム構想が中止になったのは、財政上の問題だけだった。
 事前に確保していた予算を執行できなかったためであり、貸出履歴の利用が問題になったわけではない。

 公共図書館でのレコメンドやブックリストはデータの蓄積が肝なので、利用者数が多いほど機能は上がる。大都市など利用者が多い図書館ほど効果的だろう。
 極端な話、コミュニティの規模が小さいと、例えば「街の歴史を調べているのはAさんで、金融の本を読むのはBさんかCさんだろう」という具合に、多くの図書館利用者同士が顔馴染みという状況もあり得る。
そんな状況だと、いくらシステムが完璧でも、個人の読書履歴までなんとなく見通せてしまう可能性はあるかもしれない。
だから、こういったシステムが初期から有効に機能するには、どうも自治体規模の下限というのがあるような気はする。
 もっとも、書店は流通しているフローだけを扱うのに対し、図書館は絶版本も雑誌バックナンバーも含むストックも扱っているので、数十年単位でデータを蓄積することにこそ価値がある。長期間に渡って貸出履歴やブックリストのデータを蓄積していけば、利用登録者が2万人足らずの市立図書館であっても、システムリース期間の4~5年の間には十分に有意義なものに育てられるという判断から、この計画を進めてきた。
 利用者自身が自分の読書履歴を把握でき、その本にいつでも再会できるというのが、図書館でこうしたことを行う最大の利点ではないかと思う。

 実は同業者から今までに「レコメンド機能はノイズが増える。どうしても必要な機能かというと疑問だ。」という意見を聞くこともあった。
 だが、資料紹介やテーマ展示などの延長で考えれば、こういった提示の仕方も有意義だと思うし、資料照会の一部をシステムに任せてしまうことで、資料研究や資料のデジタル化、雑誌目次データ入力などに力を入れていく考えだった。
 資料費を削ってシステム費に回してまで、どうしても実施したかったのかというと、そこは考えどころだが、僕のところでは、いま現在稼動しているシステムよりも1割安い費用で実現できる範囲で最大限のことを考えた結果、ああいう話になったのだ。

 利用者が生み出すデータを図書館が蓄積して、それをサービスに活用するというサイクルを、時間をかけていろいろ検討してきた成果を今年の春から実現して市民に還元できなかったことは、残念だったという思いは強い。
 だが、このままお蔵入りにしてしまうよりは、どこか別の図書館の役に立ててもらえた方がいいということで、「ず・ぼん14」ではこの段階で出せるものは隠さず出すことにした。

 次期システム構想が中止となった後、こちらでは公共図書館と市内の学校図書室のシステムをトータルで見直すという話が出てきている。
 全体でのコストダウンが大前提の話なので、どこまで公共図書館側の要望が実現できるのか、客観的に見るとあまり見通しは明るいとは言えない。
 ただ、このプロジェクトのリーダーに『ず・ぼん14』の記事を読んでもらったところ、公共図書館サービスをシステムによってパーソナライズ化するという考え方には賛同してくれている。だから一度には無理にしても、少しづつ評価を繰り返しながら、段階的にあの機能に近いものが実現できる可能性は残されている。
 新しいプロジェクトの立ち上げなので、それなりに時間のかかる話になる。
まず現段階では、公共図書館のシステムリプレイスはさらに1年先延ばしが決定しているので、第一段階は早ければ2010年に実施する予定になっている。

 つくづく思うのだが、現場はアイディアは出せてもお金を出せるわけではない。そう思うと自主財源の確保を真剣に考えたくなってくる。
  サービスの有料化や図書館運営基金の設立は真剣に考えても良いと思うし、やり方しだいでは、地元企業にスポンサーになってもらうアイデアも浮かんでいる。いっそネーミングライツみたいなことまで考えても良い時期に来ているんじゃないかとも思う。