2008-08-13

サイエンスコミュニケーション

 「サイエンスコミュニケーションと図書館」*という長神風二さんの論文に興味を持った。

サイエンスコミュニケーションというのは、

「研究者,メディア,一般市民,科学技術理解増進活動担当者,行政当局間等の情報交換と意思の円滑な疎通を図り,共に科学リテラシーを高めていくための活動全般」

と文部科学省科学技術政策研究所が2003年に定義しているそうだが、これでは何のことやらピンとこない。

だが、そうした活動の象徴的なものが、最近良く見かけるサイエンスカフェだといわれるとよくわかる。
最近増えてきた、科学者・技術者などが喫茶店などで、科学技術の話題をめぐって市民と語り合うイベントのことだから、研究者と社会との接点を作りして相互理解を進めましょうという方向性の話だ。

この論文で氏は

「図書館・図書館員は,人々が今知りたいこと,科学技術にこれから明らかにしてほしいこと,科学技術に対して自制してほしいこと,などを声として形にし,科学技術を担う側の人に提示できる役割を担えるか検討してみよう。」

と提案しているが、これは結構大きな意味を持っているような気がする。

要するに、図書館は利用者の要望に応じた情報提示から一歩進んで、社会と科学との橋渡しを視野に入れて欲しいということだと僕は受け取った。

地域の情報拠点といった看板を掲げる図書館は数多い。
だが、あくまで資料と利用者の関係を仲介するのが司書の仕事だという認識が普通だろうと思う。
講師を招いて起業セミナーを開くような試みはよく見かけるが、ここで言われているのはそういうことではない。
資料紹介にとどまらず、現役の研究者と市民とを直接仲介するような機能も、図書館が内包したらどうですか?ということだ。

サイエンスコミュニケーションという言葉から、何となく医学や天文学や物理学などをイメージしやすいが、人文科学だって社会科学だって同じことだろう。だから、例えば文学や郷土史も十分テーマになり得るように思う。

研究者と図書館利用者のコミュニケーションによって、社会から学問に対する要望を伝達し、再び研究者が利用者に情報を提示するといったサイクルが、図書館で確立できるとしたら、それはすごく面白いんじゃないかと思う。
そんな学問と市民の結び目となるような機能を持ち、そんな情報を各図書館が共有するようになれば、地域の情報拠点という看板にようやく追いつけるのかもしれない。
具体的にどうするという前に、まずは明確にこういう意識を持つことから始めることが大事じゃないかという気がする。

*「情報管理」Vol.51, No.5に掲載