ず・ぼん8●特集:都立図書館再編 14万冊がバラバラになった 請願書に署名した一利用者から 幅広いメンバーで専門的な検討を

特集:都立図書館再編14万冊がバラバラになった
請願書に署名した一利用者から 幅広いメンバーで専門的な検討を

氏家和正

[2002-10-03]

かつて日本図書館協会事務局に勤務し、退職後も図書館界にアンテナを向け続けている筆者はあり方検討委員会と反対運動の動きをどのように見ていたのか、そして最終報告をどう読んだのか。
これからの図書館・図書館員に望むことにも触れる。

氏家和正

うじいえ・かずまさ●小平市在住、一九五一年生まれ。小平図書館友の会会員。日本図書館協会事務局に一九九一年三月まで約十五年ほど勤務、その後フリーで編集、校正、書誌データベース構築にたずさわり、現在は校正をおもな仕事としている

 都立図書館に行ったのはもう一〇年以上も前のこと。多摩図書館でなにかを調べるためにだった。けっこう不便なところにある。中央図書館にはもっと前だから、いま都立図書館がどうなっているかは知らなかった。とはいえ、都立を使っていなかったということではない。都立三館の蔵書検索ができるようになってから、仕事で検索サイトによく行くようになった。とても便利で、うれしくて知り合いの編集者、翻訳者や校正者に同報メールで教えた。もう二年も前のことになる。具体的には、原稿中にでてくる書名や著者名の確認、翻訳ものにある引用文献などの原著に邦訳があるかどうかの確認、ある特定主題の書籍の調査、読まなければならない本の確認をして近くの図書館に行き所蔵していればそれを借りるなど、国立情報学研究所のWebcatとともに都立図書館のサイトを使う利用者ということになる。Eメールでのレファレンスも二、三度お願いし、ていねいな回答をいただいている。ただ図書館を通して借りる「協力貸し出し」ということになると、わたしの場合それほど役に立たない。どうしても必要というときには、紹介状を書いてもらうとして直接借りに行かなければ間に合わないことが多いからである(現在、都立図書館は日比谷図書館を除き個人貸し出しを行っていない。協力貸し出しされたものを市区町村立図書館から借りるという形式になっている)。立川ならまだしも、広尾までとなると時間と電車賃を考えるとあきらめ、別のルートを探ることになるだろう。とはいえ、年に何冊かは、小平の図書館を通じて借りてはいる。こんな利用のしかたをしている。
 昨年一一月に都庁で開かれた東京都立図書館展をみてきた。新庁舎(といっても十数年以上前に出来たもの)には初めて行ったのだが、周りには展示会の案内標識がどこにもなく、行き着くまでに苦労した。蔵書検索、所蔵書籍の展示、行政支援サービスへの取り組みなどをみてきたが、今回の問題がまるでないかのように協力事業についても紹介されていた。まあまあよかった。今後ももっと都立図書館は広報に力を入れてほしいし、サイト上だけでなく、定期的にプレス発表などをおこなってほしい。都内の公共図書館にもお知らせポスターなどを掲示してもいいのではないだろうか。

 今回の都立図書館のあり方検討委員会の発足から中間答申、そして最終答申へ、その後の動きをみていると、ひとことでいえば拙速である(多摩地区の図書館全体での理解を待たずにすすめたことと、財政事情悪化のなか「一四万冊」を処理するだけでもそれなりの予算を使ったとおもうが、じっくり検討すれば税金をそんなに使わずにすんだかもしれないという意味で)。そして、なんとか考え直してほしい、検討時間をついやしてほしいとおもって「都立図書館が危ない!住民と職員の集会実行委員会」の取り組みに参加した多摩地区の図書館員、請願書に署名した市民(わたしもその一人である)、図書館関係者などが無念のおもいをする結果となった。わからないのは、教育庁の強引とみえる進め方が一方にありながら、一五〇名以上の専門職からなる都立図書館員(二〇〇一年四月一日現在、専任職員一九三名、うち司書一五六名——『図書館雑誌』二〇〇一年十月号)が、その進め方と答申の中身にどれだけかかわったのかである(賛成なのか、反対なのか、受け止めきれなかったのか、そのいずれでもない別の考えをもっているのか、意志表示はあったのかどうかなど。組合のパンフレットは反対であった。組合員の多くはそうだったのだろう。その意見は現状を守るという姿勢が前面にでているように思えた)。いっぽう、中間答申が出されてからふた月近くなって、はじめてその内容を知らされたとおもわれる(なぜそうなったのかの詳細な経緯は不明だが)多摩地区のおおくの図書館員にとっては、「青天の霹靂」だったと想像できる。署名しなかったか、その機会のなかった図書館をよく利用する市民のなかには、今回の都立図書館の問題を知ったとしてもどう判断するかというための材料(情報)は十分に揃っていないとおもったひとたちもいたのではないだろうか。署名したわたしは「一四万冊」以外のことでは、すぐには判断のしようがなかった。

 『ず・ぼん』の編集者からは「長くていい。今回のことについて自由に書いてほしい」といわれた。都立図書館の見直し問題を知ってから、一一月の多摩地区での集会などに参加しての感じたこと、そこで得た資料、メーリング・リスト「rescue-tama」、東京都、東京都教育委員会、都立図書館のホームページなどから得た情報を主に、また何人かの図書館員、図書館利用者と話したこと、いくつかの文献を読んだことも頭のなかに入れて、都立図書館について、図書館について思ったことを時系列を追うようにしてランダムに書いていこうとおもう。

都立図書館の機能が大きく見直される?

 昨年一一月の小平図書館友の会の交流紙に一会員からの「都立図書館が危ない!」という投稿が載った。

 今、都立図書館の機能が大きく見直されようとしています。特に、三多摩都民全体に役立ってきた都立多摩図書館の蔵書のうち、一四万冊が今年度中に処分されます。これにより、都民へのサービス低下をまねくおそれも大きいと思われています。つきましては、十一月二十六日(月)に『都立多摩図書館のこれからを考える集い』を開催し、三多摩都民と一緒に考えたいと思います。皆様ぜひ参加してください。(以下略)

 「一四万冊が今年度中に処分」というのにひっかかった。それにしても新聞で読んだ記憶がなかった。見落としたのかもしれないが、なぜそんなことをするのだろう、なぜこんな大事なことが報道されないのだろう、というのが最初の感想だった。
 機能の見直しというのは当然だろう。インターネットで蔵書検索もできるようになったし、それに見合ってサービス形態が変わるのは当たり前のことだから。とはいえ、こんなご時世だからサービス縮小というのがおもな理由で動きだしたのだろう、ぐらいに考えていた。

 小平図書館友の会に入ってから東大の根本彰氏が主宰しているメーリングリスト「plit-ml」に参加していたので、そこで動きが二、三報告され、「都立図書館が危ない!住民と職員の集会実行委員会」のサイトを知り、早速メーリングリスト「rescue-tama」に入れてもらった。堀渡氏の「〈捨てるな!〉集会までのテンカウント」がおもしろくて、バックナンバーを送ってもらったりしたが、集会までに考えたことは一四万冊をなんとか生かす手だてはないものだろうかということだった。

デポジットライブラリーなどの対案を進めてほしかった

 一一月二六日の集会は、菅谷明子氏の講演に始まり、経過報告ののちに、パネルディスカッションとつづき、フロアからの発言となった。菅谷さんの「ニューヨークだったら市民はデモをして、ニューヨークタイムズなどが論陣を張るだろう」というようなことを聴き、ニューヨークでなら確実にそうだろうなあ、とおもった。経過報告をきいていると、多摩地区の図書館に都立図書館の見直しについての情報が流されたのが発表時よりずいぶん経ってからであるらしく、言ってみれば「寝耳に水」である。信じられないことである。そのうちフロアからの発言に移り、乱暴な書き方をすればアンチ石原都政という感じで進んでいった。配布されたメッセージ集『捨てるな』に目を通していたのだが、手を挙げ発言した。
 なぜ新聞に載らないのか(私のとっている地元紙「東京」と「日経」、この二紙にはいまだこの問題は掲載されていない)、一四万冊はいますぐ処分することはないのではないか、などである。前者は都立図書館の専門職の人たちはなにをやっているのか、知らされなかったとしても、手を打てなかったのかというおもいであり、後者は『捨てるな』に載っていた斎藤誠一氏や黒子恒夫氏などのデポジットライブラリー(保存センター)をという対案で話をすすめてもらったほうが「建設的」だったからだ。一四万冊の選定基準は「協力貸出のあまりない古いもの」ということなら乱暴であるし、もう一度集めるなど不可能なことは素人でもわかる。
 発言のなかで印象に残ったのは、ある利用者が「『黒人文学全集』は廃棄して、都立多摩図書館にはもうないといわれた」というものだった。これまでも都立図書館はそれなりの基準を設けて廃棄をしてきたのだろうが、再活用はしていなかったのかどうか(ちなみに『黒人文学全集』を二月二六日に公共図書館の横断検索のサイトでみてみると、参加公立図書館一〇四館のうち県立クラスでも所蔵していないところがあった。市立図書館でもわずかしかヒットしなかった。この全集は今後よほどのことがないかぎり再刊されることはないだろう。さすがに都立図書館は中央が全一二巻二セット、別巻と月報各一部、計二六冊を所蔵していた。とはいえ、こうして本は図書館から消えていくのだろうなと実感した)。また市立クラスの公共図書館でも、廃棄基準に従い処分してきたはずで、それ自体非難されるべきことではないが、今回の問題であらためて保存・廃棄が浮き彫りになったなあと思う。本来は利用・保存という対句のはずなのだが。斎藤さんの対案はそれを踏まえたものだった。
 『捨てるな』にはほかにも、たとえば、阿部明美氏が新しいしくみで、と多摩地域でのネットワークの再構築を考える記述(公共・大学図書館の電子情報の共同利用をも含むコンソーシアムをと「rescue-tama」にも投稿されていた)、何人かの方が調べるという面での図書館のアピールをというようなメッセージなど、いいことを書いているものがあったように思うが……。残念なことに、「rescue-tama」をみるかぎり、また二月の集会に参加しても、その後、デポジットのこと、「図書館で調べる」ということ、新たなネットワークのことなどが深く論議されたという話は、一二月に行われた多摩地区での集まりでの堀さんのデポジットライブラリー設立への提案以外は聞かなかった。ただ、それはわたしの知らないだけのことで、どこかで検討されているとおもいたい。

中間報告を教育委員会承認決まったなと思った

 年が明けて一月上旬に、一一月一七日の都教育委員会の定例会議事録が公開された。そこには報告事項として都立図書館の件があり、「あり方検討委員会」の中間報告に関連したことが出されていた。最終的には「承りました」となっており、あとは行政内部(教育庁、もちろん図書館もわたしからみると行政である)の問題だと委員は考えている、これで決まったなとおもい「rescue-tama」に感想を書いたが、だれからもコメントはなかった。同じ定例会で、議案として「東京都近代文学博物館の廃止」が出ているので、都立図書館の問題は廃止とかそういうことでなければ、教育委員会はよっぽどでないかぎり、こういう問題には断を下さないらしい。ふつうは図書館内部の問題だと思う。変更をさせるには知事か都議会か行政内部でかの三つなのかと。ついでにいえば、東京都近代文学博物館の廃止に関して、江戸東京博物館と都立図書館に資料を移管するとあるが、実際はどうなったのだろう。「一四万冊」もコレクションだが、まさか博物館にあったとおもわれる作家の原稿・書簡類とか持っていたこまごまとした物(ひとかたまりでコレクション)がバラバラにされていたら目も当てられない。というのは、この博物館については、廃止反対請願が請願者ほか一名と「rescue-tama」に載っていたから。引き取るわけにはいまの都立図書館には無理なのかもしれないが、なんらかの報知ないし言及があってしかるべき、とおもうが、私の知るかぎりでは報道はなかった。

阿呆かいなという結論になった一四万冊の行方

 慌ただしくも短期間での一四万冊(正確には一〇万八一八二冊とのこと)の「再活用」の作業は終えたようだ。
 一月一八日から二月五日まで都内の公立図書館、公立小中学校、都関係機関などが都立図書館のサイトからリストをみて申し込むという方式(リストチェックをした館は大変だったとおもう)だが、結果は公立図書館が三〇館・九万四六九六冊(うち多摩地区は、五万六五〇一冊、二三区三万七七一三)、公立小中学校は三館で二一八冊、都関係機関は二機関で四一九〇冊。公立図書館のうちの大半は町田市立図書館と江戸川区立図書館が引き取ったそうである。なお上記以外では、九〇一八冊が協力貸出の頻度が高いため放出をやめ、都立図書館で複本として保管し、「再活用する」とのこと(以上、「rescue-tama」より)。一二月の段階で「rescue-tama」に町田図書館が全点引き取るというという情報が流れて来て、信じ難い快挙だと、熱くなった。とりあえずは一安心と思い、デポジットのことも考えようとおもううちに、「敵」もさる者だった、というより、阿呆かいな、という結論になった。それでも捨てられずにどこかに納まったことをよしとしなければならないのだろう。

図書館員のために開かれたような二月の集会

 二月に東京の図書館をもっとよくする会と多摩の実行委員会合同の集会がお茶の水で開かれた。友の会のメンバー四人と参加した。紀田順一郎氏の講演、各界からとして津野海太郎氏、広瀬恒子氏、竹内氏が話し、フロアの何人かからの発言があった。津野さんが除籍の話などに触れていたのだが、時間切れで中途半端なかたちとなった。もっと聞きたかったというのが正直なところ。以下はある実行委員の方に送ったメールの一部である。

 津野海太郎さんのはなしがもっともわたしに近かった——こころのこもっていないあり方検討会の文章ということ と 図書館員の反応の鈍さにたいすることば 「そのことを話すとまじめにきくのだけれど しかしなにも返事がない」というような部分(正確な引用ではありませんが)[*一]

 図書館員のための集会だった、後日ある人が言っていたが、たしかにそういわれてみればそんな感じの集会だった。会場では『まちの図書館で調べる』(柏書房)が販売されていた。多摩地区の市立図書館司書グループがまとめたもので、実行委員会のメンバー、取り組みに参加している何人かが執筆者となっている。図書館のことがとてもわかりやすくかかれており、もしかしたらこの本は図書館員がはじめて、これまでとは異なる視点でふつうの言葉でわかりやすく市民に図書館について語りかけた本ではないのだろうか。たまたま都立図書館問題と時期を同じくして発行されただけなのだが、偶然ではないなにかを感じた。「rescue-tama」でもどなたがそれに近いようなことを書いていたようにおもう。「あまり関わりがないと思われている都立図書館についても目を開かせられる」と友の会の役員にメールし、紹介文を交流紙に投稿した。

最終報告の承認

これからが図書館の正念場か

 さて、都立図書館あり方検討委員会の最終報告である。二月の集会で手に入れた。一月二四日にプレス発表、同日ひらかれた臨時の教育委員会に報告、承認されている。

あまりに異なる検討過程の認識

 報告がまとめられるに当たっての検討過程の一部について触れている、あり方検討委員会、都の生涯学習部長、多摩地区の図書館員の一人、三つの発言を引用する。

 本委員会では、こうした都立図書館の現状と課題を幅広い視点から十か月にわたり、鋭意検討を重ねる一方、都立図書館協議会や区市町村等の関係者にも検討状況を説明し、御意見を伺ってまいりました。都民サービスの向上と運営の効率化の視点から議論を積み重ねた結果、都立図書館の役割を明確にし、新たな都立図書館のあり方を示して、ここに報告書をまとめる運びとなりました。
(最終報告の「報告にあたって」より)

(略)その間、特に秋以降、多摩の市町村を中心にいろいろな意見をいただきました。それらを踏まえながら、今回この報告書がとりまとめられました。
(「平成十四年第二回東京都教育委員会定例会会議録」より生涯学習部長の発言)

 問題のひとつは、この検討過程に都民や区市町村立図書館関係者、あるいは学識経験者などの関与する余地が、まったくなかったということである。都立図書館の再編問題だから、都の職員だけでよろしいという理屈は成り立たない。都立図書館と区市町村立図書館との協力・連携によって、東京の図書館サービス全体が構成されているのであり、ましてより良いサービスを享受する権利をもつ都民の意向が無視されてよいはずがない。
(守谷信二「都立図書館再編計画に異議あり!」『出版ニュース』二〇〇二年二月下旬号より)

 この三つの文章をなにも知らされずに読まされたとすれば、その違いにふつうの人間は戸惑うだろう。ひとこと付け加えると七月一五日にあり方検討委員会の中間報告が発表され、一〇月一一日に多摩地区の図書館長の会の幹事会(ややこしい名称だが「東京都市町村立図書館長協議会幹事会」というのがあるようだ)に説明があり、同じ月の三一日に都立多摩図書館の館長がこの図書館長協議会に出席した図書館長に説明をした、と二月の集会の資料には書いてある。

 このようなことであるならば、津野さんの「こころのこもっていない」いう言い方に、読まずともさもありなん、とおもう人もいるだろう。こういうところは日本の「公立」図書館たる所以か[*二]

とりあえずのスタート地点には立っている

 とはいえ、だからといって最終報告は駄目なのかどうか、読んでみた。
 報告本文は、第1章「都立図書館を取り巻く環境の変化」、第2章「都立図書館の現状と課題」、第3章「都立図書館の目指すもの」からなっており、図表を主とした「参考資料」として、「基本統計」「
都立図書館のあるべき姿(概念図)」「今後の都立図書館の運営について」「情報通信技術を積極的に活用した図書館サービスの将来」「政策立案支援サービスイメージ図」「委員・幹事名簿」「検討経過」が付されている。A4判で本文は三三字詰めで二七行、二五ページである。紙数の関係で第3章の目次と具体策として箇条書きされたもののみ引用する(全文は東京都の教育委員会のサイトに載っている)。

第3章 都立図書館の目指すもの

1 都立図書館の役割とサービス
(1)広域的・総合的な住民ニーズに応えるサービス
(2)区市町村立図書館への支援
(3)図書館相互協力ネットワークづくり
2 広域的・総合的情報拠点としての都立図書館
(1)高度・高品質な情報サービスの提供

(2)学校との協力・連携
(3)政策立案の支援と都政情報の提供
3 地域の情報拠点化を目指す区市町村立図書館への支援
(1)協力事業の推進
(2) 新たな相互協力ネットワークの提案
4 都立図書館の運営体制と機能

(1)一体的運営の強化
(2)地域分担から機能分担へ

都立図書館が目指すサービス向上の具体策
(1)図書館利用の機会を拡大する。
・入館利用の年齢制限を廃止する。

・デジタルデバイドを解消する。
(2)多様な資料を提供する。
・資料収集率の向上により、専門書や高価本等を提供する。
・インターネット上の電子情報等の多様な資料を提供する。
・貴重資料や都政資料を電子化して、ホームページ上で提供する。
(3)情報通信技術を活用したサービスを行う。

・自宅から各種図書館サービスの申込受付ができるようにする。
・他の図書館の蔵書も同時に検索ができるようにする。
(4)学校を支援する。
・「調べ学習」に対して、協力レファレンスを行う。
・司書教諭等を対象とした専門研修に協力する。
(5)区市町村立図書館への支援を充実する。

・区市町村立図書館が求める協力支援のニーズを把握するしくみを作る。
・高度・専門的な協力レファレンスを行う。
・レファレンス事例のデータベース化を図る。
・図書館業務に関する専門研修を支援する。
・区市町村立図書館間の相互協力を推進するしくみづくりを提案する。

 なお、最終報告時の検討委員会委員および幹事の中に専門職(司書)はいないが、オブザーバーとして参加していたとのことである。なんらかのかたちで専門職(司書)がかかわったことはいいことだとおもう。

 内容についていえば、詳細な記述がないので、また図書館現場で仕事をしているわけではないのでわからない部分も多々あるが、大筋ではこういった方向性になるのかな、というのが率直な感想である。都立図書館協議会の第一九期「児童・青少年に対して図書館は何ができるか?」と第二〇期の「高度情報化社会における都立図書館のサービスのあり方」とふたつの提言を読んでみたが、協議会の意向は十分ではないのかもしれないがチェックはされているように思った。これからの図書館のことを考える枠組みとして、とりあえずのスタート地点には立っているという意味である。

図書館のこれからを検討するメンバーが必要だ

 先に引用した守谷氏の「都立図書館再編計画に異議あり!」をはじめ、すでに何点か文献も出ている(くる)ようだし、それらも念頭において、知事本部、都立図書館、市区町村立図書館、国立国会図書館、大学図書館、学校図書館などの関係者、学識経験者などがひとつのテーブルで協議する場がつくられるように望む。そして、重要なことは、このテーブルと関連させたワーキング・グループというか、文字通り専門的に、さしあたっては東京都の都立を含む公共図書館のこれからを検討するメンバーを集める必要があるだろう。一館単位でものを考える時代ではない。メンバーはもちろん教育庁の担当職員、都立図書館、市区町村立図書館の司書、図書館情報学研究者が中心となるにしても、出版人、いわゆる図書館が扱うであろう電子メディア・情報技術にかかわる専門家、ネット上での書誌・索引的なもの、リソース集などをつくっている人、そしていわゆる文化人、有名人ではなく、これまで公共図書館とは無縁だったかもしれないが、バランス感覚のある「もののわかる人」(うまく書けないが、それがたまたま文化人、有名人であってもかまわない)も加えられるべきである。どうやって、といわれると私の力に余るが、必要だということをいちおう書いておく次第。双方から怒られるかもしれないが、教育庁も、いつまでもこのままではいかないだろうし、そもそも支援すると自ら言っている側が「支援される」側の話すら聞かないなど尋常なことではないのだから、そのあたりは自覚していただきたいとおもう(個人的なおもいで言えば、斎藤氏の対案だけでもしっかり検討して欲しかった。せめてどこか一館で一括再活用としていれば一四万冊は別れ別れになることもなかった)。また反対している立場の方も、どこかで一致点を見つけて話を進めていったほうがいいようにおもう。都立図書館も多摩地区の図書館も会員になっており、図書館の振興をはかるための唯一全国的なノン・プロフィットで中立の組織であるはずの日本図書館協会の調整という役割が望まれているような気がする。

税金以外の収入源の確保を

 不明な点、気になった点は、副題にある「社会経済の変化」とはいわゆるIT化と都の財政悪化、そしていわゆる地方分権の流れを指しているのだろうか。「成果重視の都政への転換、施策・事務事業の見直し」を指しているのだろうか。文中には「社会経済環境の変化」とあった。『広報
東京都』の元日号に行政評価として図書館は「抜本的見直し」と載っているが、「rescue-tama」で教えてもらった都のサイトには詳細な結果が載っている。最終報告で触れられてはいるが、関わりがはっきり見えない。よし悪し以前の問題として、こう評価されてしまったことはおもく考えなければならない。第二次評価は〈達成度2、必要性3、効率性2、公平性2〉〈抜本的見直し〉〈中央図書館に機能を集中させることにより、図書資料の収集・収蔵を一元化し、運営のより一層の効率化を図るべきである。/区市町村立図書館との役割分担を一層明確にし、府県行政に求められる高度な情報サービス機能と区市町村立図書館への協力支援機能を強化すべきである。/IT化の進展に対応し、都立大学図書館や他団体の図書館など関係機関とのネットワークを構築することにより、都民の生涯学習需要に応え得る情報基盤として都立図書館ならではのサービスを展開していくべきである。/なお、老朽化が進む日比谷図書館については、都立図書館全体の体制の中での役割を検討し、そのあり方を抜本的に見直す必要がある〉。『広報』では「ご意見をお寄せください」とあり、東京都の行政評価制度の概要の載っているサイトでみると、知事本部の評価はまだと読めるのだが、そのあたりがどうなっているのかわからない。

 財政逼迫にからめて言えば、そろそろ税金のみではなく都としても図書館を含め文化施設(図書館は教育施設ともいえるがとりあえず文化施設にくくる)を維持していくための収入を別途確保していくということも考えたほうがいいのではないか、このままの財政事情がつづくとけっして図書館はよくならない。利用者負担論を持ち出しているわけではなく(ただしいわゆる有料データベースやジャパンナレッジコム、OCLCのnetLibraryのようなものなどを図書館サービスとして利用する件については高負担とならないかたちで検討してもらうことはよいとおもう)、たとえば宝くじ、サッカーくじ、なかなか難しいかもしれないが財団などによるスポンサーシップ(デポジットの件で『助成団体要覧
2000』を調べてみたが図書館関連への助成は過去にはないようだ)など、という文脈である。ネットワークをうまく使うことによるお金のかからない方法という観点から読むと、報告で触れられてはいる。たとえばわたしの住んでいる地域で言えば「多摩北部都市広域行政圏」があげられている。ただそこにすべてまかせるなどとおもわないでほしい。そんなことは考えていないと理解したいが、そうとも読める文章になっている、念のため。

上野の児童図書館
関西館との連携は?

 国立国会図書館は視野に入っているようだが、上野の児童図書館、関西館との連携はどうなっていたのだろう、いるのだろう。素人考えだが、いっそ児童関係資料は上野にという話はなかったのか。関西館は年間資料購入費としてかなりの予算がついていると聞いている。いずれレンディング・ライブラリーとなる可能性がないわけではない[*三]。なお、概念図には都立以外の高校、大学の図書館が抜けている。

電子メディアの調査・議論もしてほしい

 もう一点。図書館のサービスは、本・雑誌によるものがベースであることは承知しているつもりだが、いわゆる電子と印刷というふたつのメディア[*四]の電子メディアのほうについて幅広く深く調査し、議論してもらいたい。たとえば図書館の利用者が図書館でサービスされているものと同じ情報がインターネットでも得られるとしたとき、それを使える人はどちらに流れるか、そしてインターネットでしか得られないもの[*五]について図書館はどう手を広げていくのかいかないのか、それにアクセスできない人へはどういうサービスを展開するのか、という視点を盛り込んで(最終報告はそういういう文脈での検討はこれからというように読んだ)。あと一点、保存を都立図書館の書庫だけで考えないでほしい。

ネットに対応できるレファレンス・ライブラリアンを

 報告では触れられていないようにおもったことをひとつ。市民が多様な図書館サービスを受けられるような環境にしていただければ、今後利用者も増え、自然に予算も回ってくる可能性もある。東京大学附属図書館インターネット学術情報インデックスのような仕事[*六]をインターネット時代の図書館員にぜひやっていただきたい。あまりに多すぎる情報からなにが使えるかというセレクトは、選書を考えていただければわかるだろう。Googleを除けば検索エンジンはいずれも利害が絡んでいるようにみえる。図書館は利害で動く機関ではない。『日本の参考図書解説総覧』の改訂増補が出なくなって久しいが、いまや書籍に関してはもちろんのこと、ネットにかかわる『解説総覧』が必要とされる時代になっている。というわけで、いろいろな図書館、サイト運営者などとと協同したかたちでそういう仕事が出来るように、こういったことにも動けるレファレンス部門の都立図書館員(これまでのルーチンワークをすこし減らさなければ振り向けられないとおもう)をつくってほしい。起業支援も大事だが、書籍と雑誌を中心にインターネットも併用してやってきてくれたこれまでの都立図書館のビジネス支援のベースを強化するという意味でわたしはこちらのほうを先に力を入れてもらいたい。

公共図書館の正念場

 この最終報告を都立図書館員、ふつうの市民と直接対応している第一線の図書館員の多くはどう読んでいるのだろう。わたしはそれが知りたいのだが、わからない。「rescue-tama」を通してしか現場の図書館員の声が聞こえず、またこの報告そのものに関しては先に紹介した守谷氏の反論のみだった。「rescue-tama」には参加していない多摩地区の公共図書館に勤めている知り合いの図書館員、わずか三人だが、に聞いてみた。いずれも司書として信頼できる人とおもっている。二人は読んでいた。一人は館長のところに来ているのは知っているがまだ下りてきていない、とのことなので、是非読むようにと話しておいた。詳細は省くが、報告書の作成経緯とその間とその後の都立図書館の対応についてはひどい、困ったことだ、など。財政逼迫、行政内部での図書館のおかれている位置、情報技術の進展による環境の変化などから図書館は変わらなければならないし、こういったものが出てくるのは当然、あるいはやむを得ないことで、こまかな内容ではいろいろあるものの、ただ反対だけをしてもなにも生まれない、などが共通していた。どうして都立図書館の司書はこういった強引な手法とか「再活用」に発言しないのか、という問いに、「いや氏家さん、それなりの司書なら行政内部でできることはやっているはずです。ただ、インターネットでというか、をというか、たとえば、これまで図書館でやってきたことの一部が、パソコンを使えればふつうの人でもできるようになってきた、というようなことにどう対処すればいいか、都立のなかには戸惑っている司書もいるかもしれないですね、じつはわたしはちょっと戸惑っているのです」というそのうちの一人のことばが深く記憶に残った。
 友の会の会員の何人かに聞いてみた。専門的なことはわからない、そう変なことが書かれているようには思われない、児童が多摩にというのはおかしい、などなど。一四万冊の「再活用」にはみんな首をひねっていた。

 日本の公共図書館(パブリック・ライブラリー)にはハードな時代となったのだろうか。ともあれ、これからが都立図書館はじめ公共図書館の正念場なのだと思う。「起て三十代の図書館員よ」というかつての大串夏身氏の檄を思い出す。いまはもうその年齢ではないだろうが、わたしと同年代の図書館員の奮起に、ことに期待したい。

BOOKS ARE FOR USE
EVERY READER HIS BOOK

EVERY BOOK ITS READER
SAVE THE TIME OF THE READER
LIBRARY IS A GROWING ORGANISM
(Shiyali Ramamirita Ranganathan著The
Five Laws of
Library Scienceより)[*七]

(二〇〇二年四月二日)

【注】


[*一]津野さんは、こういう進め方にも問題はあるが、『文化(財)』を引き継ぎ提供するはずの市民の図書館ではないのか、そもそもは、という意識がこの報告書には感じられない、電子メディアに触れてはいるが、本との関連を深く考えずに、情報技術の進展という流れのうえでしか盛り込まれていない、だから「こころがこもっていない」と感じたのではなかろうか。『図書館雑誌』の一九九八年五月号での問いかけにいまだ図書館員は正面から応えてくれない、という気持ちがその底にあるのかもしれない、この稿を書くにあたりその「市民図書館という理想のゆくえ」をあらためて読んでみて、そんな気がしてきた。

[*二]図書館の世界ではネットワーク(公共、大学、設置母体などかかわりなく)は当たり前のことで、だからこそ日本でも学術情報センター(現国立情報学研究所)のWebCAT(目録所在情報サービス)には国公私立大学、短大、高専などの図書館、研究機関八五四機関(二〇〇一年七月三十一日現在)が参加している(県立図書館も一部参加しているが都立は入っていないようである)。断言はできないが、日本の、ことに地方自治体の行政組織からみると図書館は教育委員会のもとの一部門にすぎないともみられるので、なかなか横のつながりをつけるのに「制約」があるようにおもう。今回の都立図書館と多摩地区の図書館との関係でいえば、現場の図書館、図書館員どうしはこれまでそれなりにとてもいい関係をつくってきていたのだが、教育庁、教育委員会、都立図書館、それぞれの市町村の教育委員会、図書館の全体で、このことと、そしてそもそも図書館のことが共通認識されていなかった。関係の悪化に至った原因のひとつはそこにあるようにおもう。組織に所属していない自分にとってはかんたんなことではないようだくらいにしかわからないのだが、えらそうなことを言えば、行政全体として、ことに知事とそれぞれの市区町村長、管理職の方にはもっと図書館への理解を深めるようお願いしたいし、図書館、ことに専門職は行政内部で図書館というものの認識がよりいっそう深まるよう考えてがんばってもらいたい。また議員の方はまず『まちの図書館で調べる』を読んでいただきたい。

[*三]原稿を書き終えてから「国立国会図書館関西館(仮称)」というパンフレットを見ていたら、たとえば、一〇月開館予定時で六〇〇万冊の収蔵能力、全体計画では二〇〇〇万冊、建設目的には「国民共有の情報資源としての図書館資料の大規模蓄積・保存」とある。なお「インターネットを通しての申し込みによる複写サービス」もある。

[*四]浦安市立図書館の常世田良館長のいう「ハイブリッド・ライブラリー」のこと(図書館学講演会「シンポジウム2005年の図書館像」資料 二〇〇一年六月二十三日 明星大学人文学部)。二月に友の会のメンバーと浦安の図書館見学に行ったときも同様のことをお話ししてくださった。

[*五]本の形態であれば公共図書館が購入して雑誌コーナーに置くはずのもので、有名作家のメール・マガジンを例として二点あげる。
●『ジャパンメールメディア』(JMM: Japan Mail Media)
http://ryumurakami.jmm.co.jp/
村上龍の主宰する無料メール・マガジン。おもに金融・経済を中心とする諸問題について、村上龍が質問者となり専門家(エコノミスト、シンクタンクの研究員、生命保険会社の社員、証券会社の社員など)が回答するスタイルが中心になっている。メールの配信数は一〇万五〇〇〇(二〇〇二年三月二四日現在)を超えている。のちに幻冬舎から出版された山本芳幸の『カブール・ノート』(http://www.i-nexus.org/gazette/kabul/index.html)もリアルタイムでこれに転載されていた。〈九・一一〉テロに関して新聞・雑誌・テレビなどからは得られない現地からのたしかな情報がここにあった。

●『新世紀へようこそ』
http://www.impala.jp/century/index.html
 池澤夏樹の無料のメールによるコラム。なお池澤夏樹の『読書癖 一〜四』、『室内旅行』に含まれる全書評のみならず、書籍未収録の書評を網羅したデータベースが二月から有料でスタートした。今後は、最新の書評を随時掲載するほか、三浦雅士などの優れた書評を提供する、という。

[*六]栃谷泰文「ゲートウェイ・サービスのためのメタデータ」『電子資料の組織化:日本目録規則(NCR)一九八七年第九章改訂とメタデータ』(日本図書館協会 二〇〇〇年五月)

[*七]丸山昭二郎「図書館と情報社会の未来像」(『びぶろす』三二巻一二号一九八一年十二月号)からの孫引き。二十年も前のものだが、丸山さんはこの論文で「公共図書館の有しているコミュニティ・センター的な役割は、今後多様な情報媒体を駆使しつつ、ますます重要なものになるだろう。(略)単なる資料の集積所ではなく、もっとアクティブな情報のスイッチング・センター化する」と公共図書館の未来を想像している。なお、引用文は、直訳すると、「本は使われるもの(必要なもの 役に立つもの)/どんな読者にもみなそのひとの本があり/どんな本にもみなその本の読み手がいる/読者に余計な時間を使わせてはいけない/図書館は成長しつづける有機的な組織である」となる。『図書館学の五法則』として森耕一監訳で日本図書館協会から刊行されている。

◎文中に関連あるサイト一覧
●図書館情報学 根本研究室

http://plng.p.u-tokyo.ac.jp/
●都立図書館が危ない!住民と職員の集会実行委員会
 *多摩地区の図書館をむすび育てる会のサイト内に記録が移行された
http://www.hinocatv.ne.jp./~je1hyg/kankeidantai/tamamusubi/tamamusubi.htm
●図書館の本の横断検索のサイト(Jcross図書館と本の情報サイト)
http://www.jcross.com/bibcrs/bibcrs2mnu.html

●平成13年第17回東京都教育委員会定例会会議録(H.13.11.17開催)
http://www.kyoiku.metro.tokyo.jp/gaiyo/gijiroku/17teirei.htm
●都立図書館あり方検討委員会の最終報告
http://www.kyoiku.metro.tokyo.jp/buka/shogai/toshokan.htm
●平成14年第2回東京都教育委員会定例会会議録(H.14.1.24開催)
http://www.kyoiku.metro.tokyo.jp/gaiyo/gijiroku/142teirei.htm

●都立図書館協議会のふたつの提言
http://www.library.metro.tokyo.jp/18/index.html
●東京都の平成13年度の行政評価結果
http://www.chijihon.metro.tokyo.jp/hyokahp/h13/h13.htm
●東京都の行政評価制度の概要(「東京都行政評価規則」にアクセスできる)
http://www.chijihon.metro.tokyo.jp/hyokahp/what.htm

●ジャパンナレッジコム
http://www.japanknowledge.com/
●OCLCのnetLibrary
http://www.netlibrary.com
●東京大学附属図書館インターネット学術情報インデックス
http://resource.lib.u-tokyo.ac.jp/iri/url_search.cgi?S_flg=

●国立国会図書館関西館におけるサービス
http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/index.html
●国立情報学研究所のNACSIS WebCAT
http://webcat.nii.ac.jp/

[2002年8月31日現在]