ず・ぼん8●[特集]都立図書館再編 14万冊がバラバラになった 町田市立図書館が五万冊預かった理由  一四万冊の「再利用」をめぐって

[特集]都立図書館再編14万冊がバラバラになった
町田市立図書館が五万冊預かった理由
 一四万冊の「再利用」をめぐって

手嶋孝典
[2002-10-03]

町田市立図書館は、都立多摩図書館が図書の大量廃棄をするという情報を知り、図書の散逸を防ぐために、多摩地域の公立図書館が共同で利用できる方策を確立するまで、町田市で全点を引き受け、保管することを決定した。
結局、約一〇万冊の廃棄資料のうち、半数に当たる約五万冊を町田市立図書館が引き取ることになった。本稿はその経緯を詳しく述べるとともに、本来の「再活用」についても確認し、今後の展望についても指針を示す。

文●手嶋孝典
てじま・たかのり●一九四九年生まれ、町田市立図書館勤務、本誌編集委員。

はじめに

 都立図書館の再編計画により、多摩図書館が日比谷図書館にある児童・青少年資料約一六万冊を受け入れるために、約一四万冊の資料を廃棄するという情報を受け取ったのは、昨年の九月だった。その時点で初めて知ったのだが、「都立図書館のあり方検討委員会」(以下、「あり検」)の中間報告が既に七月に出されていた。出遅れた感はあったが、ただちに反対運動が組織され、多摩地域では、「都立多摩図書館があぶない!住民と職員の集会実行委員会」(以下、「実行委員会」)が結成された。
 昨年一一月二六日に行われた「実行委員会」主催、「都立多摩図書館のこれからを考える集い」で、資料集「捨てるな!」が配布された。そこに掲載された立川市図書館の斎藤誠一さん(「実行委員会」の代表、本誌編集委員)のデポジット・ライブラリーの提案については、「あり検」の中間報告に対する対案としての価値が十分あると評価できた。また、一二月一九日に開催された「都立多摩図書館のこれからを考える集い Part2」では、国分寺市立図書館の堀渡さん(実行委員、本誌編集委員)が、「阻止・反対運動とともに市町村図書館共同運営の保管・流通システムの構築へ」とのタイトルで、都立図書館再編計画阻止運動の次を展望した議論を展開している。
 私自身は、多摩地域の公立図書館が大規模館を中心に、分野別に分担保存していくべきであるとこれまで主張してきたが、斉藤さんの提案がもし実現可能であるなら、その方が図書館のあり方として本来的に望ましいと考えるようになった。というのは、分野別分担保存といっても書庫に余裕のある図書館などそんなにあるはずもないから、参加する館は限られてしまうであろうし、最終的に保存すべきかどうかは、その分野の資料を所蔵している館の判断に委ねざるを得ない、という致命的な制約から逃れることは難しいからである。
 デポジット・ライブラリーという発想が優れているところは、今までのようにすべてを都立に頼るのではなく、市町村立図書館も応分の負担をして、共同保存ができるという点にあると思う。市町村立図書館は、保存スペースが少ないため、資料を長期的に保存することは、考えてこなかった。都立図書館がバックアップしてくれるという前提があったからこそ、安心(?)して廃棄又は再利用に回すことができたのである。

 本来、都立図書館が機能していれば、そのようなことまで考える必要はないのであろうが、いつまでも、資料保存の問題を都立図書館だけに頼っているわけにもいかないことも確かである。今回の都立図書館の再編問題も、逼迫した財政が直接的な引き金になっているのだから、東京都は、内部だけで問題を処理しようとせずに、区市町村や利用者・都民に問題提起を行い、お互いに知恵を出し合うという手法を採れば、もっとまともな再編計画が策定できたであろうことは間違いない。もちろん、今からでも遅くないので、ぜひとも軌道修正を図っていただきたいと切望する。

なぜ町田市立図書館が預かることにしたのか

 都立多摩図書館の廃棄予定の一四万冊については、「あり検」の最終報告が出される前に除籍の手続きが着々と進行しており、資料の散逸を防ぐことが第一に優先される必要があった。もし、各図書館がバラバラに受け入れるということになってしまえば、一時的には再活用になるかもしれないが、結局は、受け入れた館の基準でいずれは廃棄されてしまうことになってしまう(地域資料の場合は、永年保存としている館が多いと思うが)。そこで、多摩地域の図書館が共同でそれを利用できる体制が整うまでは、どこかが名乗りを上げて、一括して一時的に預かるしかないと考えるに至った。幸いなことに町田市は、小学校の統廃合によって空く予定の教室があったため、そこを借りることが可能であった。
 以上のことを町田市教育委員会の生涯学習部長に説明し、町田市立図書館が全点引き取り、多摩地域の公立図書館で共同利用できるような方策を考えたいと相談したところ、直ちに賛成が得られ、教育長決裁を上げるよう指示があった。そこで、町田市立図書館が都立多摩図書館の除籍図書を引き取りたい旨を起案した【資料一】。

●資料一

(2001年12月5日起案、12月10日町田市教育長決裁)

都立多摩図書館の蔵書の受け入れについて

 町田市立図書館を始め、都内の公立図書館は、自館で所蔵していない資料を都立図書館や他の自治体図書館から、協力貸出制度により取り寄せ、利用者に提供しています。ちなみに、2000年度中に町田市立図書館が都立図書館から借用した点数は、6584冊に及びます。これは多摩地域の図書館では、最も多い点数になります。
 そもそも、区市町村立図書館は、それほど規模が大きくないために、専門的な資料や古い資料は持っていないのが一般的です。それをバックアップするのが都立図書館の本来の役割です。この機能によって、利用者は、わざわざ時間や交通費をかけて都立図書館まで出向かなくても、地元の公立図書館に申し込めば、資料を借り出すことが可能になっています。

 ところが、都立図書館では、来年度から大幅な再編が計画されています。具体的には、1)都立多摩図書館を中央図書館の分館とし、これまで多摩図書館が独自に行ってきた、資料収集や市町村立図書館への協力貸出、協力レファレンスなどの業務を事実上廃止する。2)蔵書も、今後同じタイトルの本は都立図書館全体で一冊のみとする。3)都立多摩図書館へは、日比谷図書館の児童資料(16万冊)を移管する。4)その収蔵スペースを確保するため、これまで多摩図書館が蓄積してきた14万冊の本を今年度中に処分する。5)児童資料を移管した後の日比谷図書館については現状維持、といった内容です。
 これらの計画が実施されると、多摩地域の公立図書館にとって、相互利用を始めとする多摩図書館から受けているサービスが大幅に低下することは必至となります。そればかりではなく、都民の共有財産である貴重な蔵書が処分されたり、散逸することによる損失は計り知れないものがあると考えます。
 そこで、町田市立図書館としては、これらの計画が実施されたときに備え、学校の余裕教室を一時的に借用して、都立図書館が処分しようとしている図書14万冊(どこの市町村でも所蔵していない貴重な資料)について寄贈を申し入れたいと考えています。もちろん、この申し入れは、多摩図書館の蔵書を町田市立図書館の蔵書として受け入れるのではなく、多摩地域の公立図書館が共有して活用する方策が確立するまで一時的にストックしておくためのものです。概ね、2、3年以内に東京都市町村立図書館長協議会が共同利用の方策を確立することを条件に、町田市立図書館が引き受けるというものです。なお、今後についても、都立図書館は、蔵書を大量に処分する計画のため、順次、可能な範囲で受け入れたいと思います。

 教育長は、町田市立図書館が単独で引き受けるというのは、以下に説明する東京都市教育長会に対する東京都公立図書館長協議会の要望書【資料二】と矛盾するのではないかということを懸念したが、1)都立多摩図書館の廃棄作業は、既に進行しており、このままでは資料が散逸してしまう 2)町田市立図書館が都立多摩図書館の廃棄図書を自館の蔵書として受け入れるのではなく、多摩地域の公立図書館が共有して活用する方策が確立するまで一時的に預かる、ということを説明したため、すぐに理解してもらえた。
 前述したように、東京都市町村立図書館長協議会は、東京都市教育長会及び東京都町村教育長会に対し、昨年の一一月一五日付けで三項目にわたる要請を要望書として出していた【資料二】。

●資料二

13東市町村図第5号
平成13年11月15日
東京都市教育長会
会長 岡田行雄様

東京都市町村立図書館協議会
会長 吉田 徹

要望書

 平素は東京都市町村立図書館長協議会の運営に多大なご尽力をいただき、厚くお礼申し上げます。
 このたび都立図書館では、『都立図書館のあり方検討委員会』の中間まとめ(平成13年7月13日付)を発表し、平成14年度より都立図書館の運営について大幅な変更を行うことを明らかにしました。

 東京都市町村立図書館長協議会では、10月11日の幹事会において『中間まとめ』の説明を受けました。しかし内容が不明な点も多く、あらためて10月31日に臨時館長会において説明を受けました。
 その内容は、現在中央図書館、日比谷図書館、多摩図書館の三館独立体制で運営していたものを、平成14年度より、中央図書館を中央館と位置付け、日比谷、多摩を分館にする、一中央館、二分館体制にあらためる機構改革と、各図書館の機能についても大幅な見直しを行うというものであります。
 これまで地域分担制により、多摩地区市町村立図書館のバックアップ図書館として機能してきた多摩図書館の事業内容の変更により、多摩地域の市町村立図書館の運営や利用者は、大きな影響を受けることになります。
 また、多摩図書館の活動については、これまで市町村立図書館とともに築き上げてきた経過がある中で、このような大規模な変更が、都立図書館内部の検討で決定されたことに、大変驚いております。
 そのうえ、平成14年3月中に日比谷図書館から児童・青少年関係図書14万冊の移管を受けるため、多摩図書館の資料の大量廃棄の作業が始められていることにも、大きな危惧を抱いております。
 そこで、今後の都立図書館のあり方が、これまでのサービス水準を維持し、さらに向上させるものとなるよう、下記事項につきまして、東京都市教育長会より東京都教育庁並びに都立中央図書館に要請していただきますようお願い申し上げます。

 なお同文の要望書を、東京都町村教育長会(会長・土澤進日の出町教育長)にも提出いたしますことを申し添えます。


1 これまでどおり、都立多摩図書館が市町村立図書館の運営を支える体制を確保していただくとともに、多摩地域の利用者に行ってきたサービスの水準を確保すること。
2 日比谷図書館の児童書移管に伴う、多摩図書館の資料廃棄については、拙速に行うことなく慎重を期すること。
3 都立図書館の運営は、市町村立図書館や利用者に及ぼす影響が極めて大きいことに鑑み、今後は事前に意向を確認することや、計画を早期に明らかにし、協議することなど協力関係を強めること。

 それを受けて、東京都市教育長会は、一二月七日付けで東京都教育委員会教育長に対し要望書を提出したのである【資料三】。

●資料三

13東市教長発第78号
平成13年12月7日

東京都教育委員会
教育長 横山洋吉殿
東京都市教育長会
会長 岡田行雄

都立図書館の運営に関する要望書

 平素より多摩地域の教育行政にご協力、ご尽力いただき厚くお礼申し上げます。
 さて、本年7月に「都立図書館のあり方検討委員会」は中間まとめとして、平成14年度より都立図書館の運営について大幅な変更を行うことを明らかにしました。
 11月21日の東京都市教育長会において、東京都より「都立図書館3館の運営の効率化について」説明がなされました。説明の後、質問や要望が相次ぎこの問題の重要性が改めて浮き彫りになりました。ほとんどの教育長が大いに戸惑いを感じているところです。
 つきましては、次のとおり意見を述べて要望する次第です。何卒特段のご配慮を賜りますようお願いいたします。
 なお、東京都と市との相互の信頼関係、協力関係をより一層強化するためにも、かかる重要事項については、検討段階から協議されますようお願い申し上げます。


1 多摩地域に約385万人の都民が在住しており、全ての都の行政サービスを等しく享受できる環境が整備されて然るべきものと思料します。広域的行政としての都の行政サービスを享受できるよう最大限の努力を払うことを切に要望します。
2 都立図書館と市町村立図書館との連携により、多摩地域の利用者に対するサービスの現行の水準を維持するとともに一層の充実を図られるよう要望します。
1)市町村立図書館が用意できない高価な専門図書等は都立図書館が用意し、提供するという支援体制を堅持されたい。
2)専門図書等を利用状況等必要に応じて複数配置し、利用の便に支障を来さぬようにされたい。

3)図書館機能の基本であるレファレンスサービスをより充実させるためにも、司書を含む職員配置は現状を維持されたい。

 町田市の教育長が懸念したことは、要するに「資料廃棄については、拙速に行うことなく慎重を期すること」と要望しておきながら、町田市立図書館が全点引き受けたいと名乗りを上げることは、矛盾があるし、町田市が抜け駆けしているという誤解を招くのではないか、というある意味で当然のものであった。ただ、館長協議会が教育長会に出した要望書には、そのことが入っているにもかかわらず、教育長会が都の教育長に出した要望書からは、それが抜け落ちている。理由は、よく分からない。
 町田市立図書館長は、館長協議会会長である東大和市立図書館の吉田館長に、前述のとおり町田で預かる用意があることを話し、都立多摩図書館の岡本館長にもその旨を申し入れた。吉田館長は、町田が一時的に預かるということについては、終始慎重であり、「都市教育長会の要望に対する東京都の出方を見守ることが肝要である」【資料四】との立場を崩さなかった。

●資料四

平成13年12月13日
各市町村立図書館
館長殿
東京都市町村立図書館長協議会会長 吉田 徹

都立多摩図書館の資料の廃棄について

 平成14年度からの都立図書館再編に関連し、多摩図書館の資料の大量廃棄が緊急の日程に上っています。このことに関し、館長協議会の方針は如何にとの問い合わせが少なくない会員の方々から寄せられています。
 その中では、今回は一切、手を挙げるべきではないとの声もありますし、また、とりあえず捨てさせないことを目的に、各市で5000冊づつでもダンボール詰のままで受入れ、ゆっくり利用について考えたらどうかとの声もあります。そして、その保管場所として、各市それぞれ余裕教室を確保したらよいのではないか等の意見も寄せられています。
 いずれも貴重な資料の廃棄を恐れることからの声で、何とかしなければとの思いをひしひしと感じます。
 しかし、各市図書館の資料の所蔵状況や書庫の容量の違いもあり、館長協議会で貰うべきでないと決められるものでもありませんし、また、取りあえず全て各市で分担して受入れるべきだ等決められるものでもありません。仮に、取りあえず受け入れたとして、その後の取り扱いはどうなるのでしょうか。現実問題として、ある市で保管している5000冊を他の市町村で必要とする資料か否かを判断する手段をどう確保するのか。また、残った資料の取り扱いはどうするのか。さらには、今後の膨大な冊数を考えると、先の見通しは全く立ちません。
 5000冊の保管場所として、各市でそれぞれ余裕教室を確保してとの声についても、直ぐに結論の出るようなことではありません。いずれにしても、館長協議会の権限の範囲を超えた問題だと思います。

 都立問題については、貴重な資料の廃棄については拙速に行わず慎重を期すことも含め、教育長会から東京都へ要望書を提出していただくよう申し入れを行っていることは御承知のとおりです。
 先日行われた都市教育長会定例会において、館長協議会の意向を十分踏まえて、教育長会としての要望をまとめ東京都へ提出することとなったと伺っております。(12月7日付けで、要望書が提出されました。)
 従って、今は都市教育長会の要望に対する東京都の出方を見守ることが肝要であると考えております。なお、資料については、各館の収集方針に基づき、必要な手段を講じていただきたいと思います。

 既に除籍作業が着々と進められており、廃棄の準備が整えられているにもかかわらず、である。そもそも、「あり検」の最終報告が出される前に、館長協議会への事前協議もないまま、除籍作業を一方的に進めたこと自体を問題にし、抗議すべきだったはずである。
 東京都教育委員会は、一月一六日、東京都市教育長会の要望に対し、生涯学習部長が口頭での回答を行ったが、要望自体が抽象的なため、回答も抽象的なものにとどまったと聞いている。一月二四日に予定されている都立図書館あり方検討委員会の報告は、教育長会の要望を満たしたものになるとも発言したらしい。

 一月一七日、区市町村教育委員会指導室(課)長及び区市町村教育委員会教育長に対し、都立多摩図書館長名で「都立多摩図書館資料の再活用について」という文書がファクシミリで送信された【資料五】【資料六】。

●資料五

13多図協第279号
平成14年1月17日

区市町村教育委員会
指導室(課)長殿
東京都立多摩図書館長
岡本冴子

都立多摩図書館資料の再活用について

 日頃より図書館行政に御理解いただき、感謝しております。
 標記の件について、貴教育委員会教育長あて通知文を送付しますので、ご多忙中恐縮ですが、よろしくお取り計らい願います。

●資料六

13多図協第279号
平成14年1月17日
区市町村教育委員会教育長殿
東京都立多摩図書館長
岡本冴子

都立多摩図書館資料の再活用について

 日頃より図書館行政に御協力いただき、感謝しております。
 標記の件について、別添写しのとおり、区市町村立図書館長あて通知しますのでお知らせします。
 なお、今回の再活用対象資料は一般図書及び行政郷土資料ですが、貴管下公立小・中学校での活用が見込まれる場合は、とりまとめの上、平成14年2月5日(火)まで御連絡願います。

 教育長宛の文書には、「別添写しのとおり、区市町村立図書館長あて通知しますのでお知らせします。」と記載されており、図書館長宛の文書は、一月一八日付けとなっている【資料七】。

●資料七

13多図協第279号
平成14年1月18日
区市町村立図書館長殿
東京都立多摩図書館長

岡本冴子

都立多摩図書館資料の再活用について

 このことについて、下記により資料の再活用を実施しますので、御希望の簡は申し出下さい。
 なお、御希望が重なった場合は、当館で調整します。


1 再活用の基本的な考え方
 区市町村立図書館及び東京都を基本に再活用を図ります。特に、多摩地域、島しょ地域、人口一人当たりの蔵書数の少ない区市町村立図書館への優先を考えております。
2 提供資料
  10万冊程度
(1)一般図書(主に昭和62年以前に刊行された0〜9門の図書)

(2)行政郷土資料(東京都及び23区の行政資料)
3 提供資料の内容
 都立図書館ホームページ[相互協力コーナー中の再活用資料コーナー〈多摩図書館・再活用資料〉掲載開始:平成14年1月18日(金)]で御確認下さい。
 URLは、http://library.metro.tokyo.jp/19/19760.htmlです。ID及びパスワードは、通常どおりです。
 なお、ラベル等当館の装備はそのまま送付します。
4 申込受付期間

 平成14年1月18日(金)から2月5日(火)まで
5 申込方法
 別紙申込用紙に記入の上、FAX又は E-mail でお送り下さい。
 なお、確定後、貴教育委員会教育長より文書による御提出をお願いします。
6 搬送費用及び配送方法
 原則として、再活用資料受入側の負担とします。ただし、量により都立図書館の協力車で送付することもあります。

7 申込及び問い合わせ先
 企画課企画協力係長

 つまり、図書館長より一日早く指導室(課)長へ通知したことになる。ということは、教育長に対し、「貴管下公立小・中学校での活用が見込まれる場合」として周知することを図書館長への通知より優先したということである。ファックスを受け取った各市町村の指導室(課)は、当初、何の通知か分からず混乱したと聞いている。
 一月一八日、区市町村立図書館長に対し、都立多摩図書館長名で前述の文書が送信されたが、午前八時三〇分の時点では、ホームページにアップされていなかった。都立多摩図書館の協力課企画協力係長に電話をしたところ、係長は午前中休みを取っていて、他の係員は説明することを禁じられているとの対応だったそうである。後から確認したところ、ホームページへのアップは、午前一〇時からだったらしい。
 都立多摩図書館長によるこれら一連の対応ほど、区市町村立図書館長を虚仮にした話はない。断固とした責任追及の声を挙げるべきだったのに、館長協議会はそれをしなかった。

 当初一四万冊が廃棄される予定であったが、当面、児童書が対象外となったため、「一〇万冊程度」になった模様である。それにしても、一〇万冊ものデータを短期間で見ろ(申し込み締め切りは、二月五日)というのは、どだい無理な話で不可能に近い。町田市立図書館は、二月五日の最終日に「再活用資料全部。ただし、多摩地域の市町村立図書館から希望があった場合は、そちらを優先してください」とファックスで申し込んだ。
 一月二四日に「今後の都立図書館のあり方〜社会経済の変化に対応した新たな都民サービスの向上を目指して〜」の最終報告が出されたが、内容的には、中間報告をほぼ踏襲したものであり、美辞麗句を並べて、都立図書館再編の問題点を隠蔽しようとしたものと断じざるを得ない。報告書の内容については、「あり検報告」に対する批判「都立図書館再編計画に異議あり」(守谷信二さんが『出版ニュース』二月下旬号に書いた論文)の要点を疑問文形式にまとめたものがあるので、後で触れることにする【資料八】が、「報告にあたって」の中で、「区市町村等の関係者にも検討状況を説明し、御意見を伺ってまいりました。」とあるのは、まったくの嘘であり、黒を白、烏を鷺というに等しい。

東京都市町村立図書館長協議会の対応

 館長協議会は、昨年一〇月三一日に都立多摩図書館長に説明会を開かせた。その場ではかなり紛糾したやり取りがあった模様であるが、説明を終えた岡本館長は、にこにこ顔で戻ってきたという都立多摩図書館職員の証言もある。
 町田市立図書館としては、都立多摩の廃棄資料一四万冊に対し、館長協議会としてどのように対応すべきかを議論し、方向性を出すように主張し、町田市で全点を一時的に預かるという案も提示してきた。館長協議会で、そのことを確認し、都立多摩図書館長に申し入れをすれば、それで決着するはずであると考えていた。

 ところが、館長協議会の対応は、前述したとおりとても慎重だった【資料四】。館長協議会は、協議体なので決定に拘束力を持たない、今後に確固とした展望が持てない等の理由、更に、これが本音なのかもしれないが、面倒なことを後々まで引きずりたくない、という思惑もあったようで、私にはまったくもって不可解としか表現の仕様がない。とはいっても、実際には、町田が一括して預かるということについても、賛否両論があり、なかなかまとまらなかったようである。事実、町田市と同様に全点引き取りを希望していた江戸川区に対しては、協力貸出しをして貰えるという条件で認めてよいという水面下の意見もあったように聞いている。
 一月二九日に開かれた館長協議会は、「あり検」の最終報告について議論する場として位置付けるべきであり、東京都教育委員会及び都立多摩図書館の対応の不誠実さについても断固とした抗議を行うべきであると、私は町田の館長に伝えた。併せて、町田市立図書館が一時的に都立多摩図書館の再活用資料を預かるということについても、再確認し、東京都市教育長会及び東京都町村教育長会にもそのことをきちんと伝えることが必要であると強調した。館長協議会としては、東京都市教育長会への回答が口頭にせよ出され、「あり検」最終報告が出た以上、主体的な判断が迫られているはずであった。もう、逃げの姿勢は許されるものではなかった。館長協議会がきちんと取り組まずして、一体どこが責任をもって対応できるのか。再度、教育長会、更には、市長会を動かすことも考える必要があったはずである。
 しかし、実際には、1:一〇万冊を町田市立図書館が引き受けることは、協議会として確認するが、公にはしない。搬入時の手伝い等は、協議会としてバックアップ体制を取る 2:多摩地域の各館が引き取りを希望する部分については、これを認める3:教育長会、市長会には改めて要請をしない。都の生涯学習部長の口頭回答を認める(そんな馬鹿な!) 4:実務担当者同席の説明会を都立多摩図書館長に要請する。以上のことをまとめたに過ぎなかった。
 二月二六日図書館長会が開催されたが、町田からは館長の代理として私が出席した。この会は、東京都市町村立図書館長協議会とは、似て非なるもので、都立多摩図書館長名で招集されたのである。
 会の冒頭、何故、館長協議会でなく、館長会なのかを質したところ、都立多摩図書館の岡本館長は、「館長協議会は、二月、三月は開催の予定がないため、吉田会長の了解のもとに館長会を招集した」と説明した。これに対して、吉田会長は、「事務担当者同席の説明会を求めたが、応じてもらえなかった。先ずは、館長に説明したいとの一点張りで、平行線だった。館長会を招集することを了解したわけでない」と反論。
 出席した館長(代理出席者を含む)が次々と発言し、「あり検」最終報告の策定手法に対する疑問等が噴出した。

 このやり取りの中で、明らかになったことは、都立中央図書館と多摩図書館の協力車の運行を週二便から四便に増やす。一冊収集に「原則」を付けて、複本収集も可能にした。レファレンスは、多摩図書館に残す。多摩図書館は、文学以外にもレファレンスブックを購入する。児童サービスは、来年度から開始するが、文学書の機能分担は、平成一六(二〇〇四)年度以降。協力貸出しの窓口は、多摩図書館。東京都関係資料も必要なものは収集する。人員は、一七人減員する予定だが、サービスは低下させないなどであった。
 その他のことは未だに決まっていないことも含め、不明なことばかりで、岡本館長の説明は、出席者の理解を得ることができず、これ以上続けても時間の無駄であるとの吉田会長の判断により、館長会を終了させ、引き続き図書館長協議会に切り替えた。
 実は、館長会の冒頭に文書【資料八、九】を配布しようと都立多摩図書館の柳町協力課長に許可を求めたところ、やめるように言われ一部にしか配布できなかったので、その場でそれを配布した。

●資料八
2002年2月26日

「今後の都立図書館のあり方〜社会経済の変化に対応した新たな都民サービスの向上を目指して〜」についての疑問
(町田市立図書館)

1 策定手法について
 検討過程に都民、区市町村立図書館関係者、学識経験者が関与する余地が全くなく、密室で策定されたものである。「中間まとめ」の段階でも、多摩地域の市町村立図書館長協議会での説明も、通り一遍のものでしかなかった。情報公開、市民(関係者)参加という観点から問題はないのか。
2 「報告にあたって」について

 都立図書館協議会や区市町村等の関係者にも検討状況を説明し、御意見を伺ってまいりました。」とあるが、どのように聞いて、それを反映したのか、具体的に示していただきたい。
3 第1章「都立図書館を取り巻く環境の変化」について
 「区市町村立図書館の充実」をことさら強調する背景には、「区市町村への支援」に極力限定したいという意図があるのは明白である。一方で、資料費の削減、書庫スペースの不足、勤務条件の不安定な臨時・非常勤職員の増加、派遣職員の導入、民間委託、司書職制度の未整備など、区市町村立図書館が直面している課題について何の言及もない。
 高齢者の旺盛な資料要求やサラリーマン層のビジネス情報の要求など、都立図書館の支援を必要とする区市町村立図書館の利用の変化をどうとらえているのか。
4 第2章「都立図書館の現状と課題」について
1)「学校への支援」が都立図書館の仕事として強調されているが、一義的には、区市町村立図書館の仕事ではないのか。小・中学校図書館を支援するためには、区市町村立図書館が十分な資料提供能力を持たなければならないから、都立図書館が豊富な蔵書を背景に、積極的に区市町村立図書館に資料提供することが必要なはずである。

2)「行政の中での図書館の役割」については、都立図書館の都庁内へのサービスだけに触れて、区市町村立図書館の対行政サービスへの支援についての記述がないのはなぜか。
都立図書館は、区市町村立図書館がそれぞれ行政サービスを行うことについても支援すべきである(多摩図書館に東京都全体の行政資料を置くべきである)。
3)「都立図書館と区市町村立図書館」の項では、昨年末に文部科学省が告示した 「公立図書館の設置及び運営上の望ましい基準を引用し、「都立図書館は広域的立場から、都民全体へのサービスを提供し、区市町村立図書館を支援する図書館であり、地域住民のニーズに応え、直接サービスを行う区市町村立図書館とはおのずと役割は異なる。」と結論づけている。「望ましい基準」は、都道府県立図書館が市民ニーズを「広域的かつ総合的に」把握することを求めているのであり、区市町村立図書館との単純な役割分担を求めているわけではないのではないか。この報告が引用したすぐ後で、都道府県立図書館が「住民の直接的利用」にも対応すべきことや区市町村立図書館の要求に十分応じられる資料の整備を行うべきことを明記している。報告は、原則一点一冊収集であり、現有書庫の拡張について考慮していないが、このような記述と矛盾することは明かである。「望ましい基準」との乖離をどう評価するのか。
4)「中央図書館と多摩図書館の運営」では、「社会経済環境は変化し、都民ニーズも多様化し、高度化してきた」という抽象的な表現で、これまでの地域分担を否定し、資料収集や、書庫管理等の中央図書館一元化の必要性が述べられている。
 東西に細長い東京都の地形、人口規模、東に片寄った現在の中央図書館の立地など、地域分担が必要とされている要素をどう考えるか。
5)「書庫管理」について、中央図書館が平成15年度末、多摩図書館が平成18年度末に「満杯になる見込み」とあるが事実か。日比谷図書館の空きスペースは、いつから何に使うのか。

5 第3章「都立図書館の目指すもの」について
1)国民への資料提供の最後のよりどころを国会図書館に求めているが、国会図書館の設置目的は別のところにあり、利用制限も多い。一回に10冊までとか、館外貸出不可では役に立たないのに等しいが、その点をどう考えるのか。
2)「広域的・総合的情報拠点」「高度・専門的」などの言葉が頻出するが、「高度・専門的」なサービスの内容を具体的に例示して欲しい。
3)「都の政策立案支援や(都民への)都政情報の提供」と言いながら、多摩図書館に置く行政資料は、多摩地域に関するものだけに限定するのはなぜか。多摩地域に住む都民が全東京の地域資料を見たいときは、中央図書館へ足を運べということか。
4)「産業活動等の活性化への支援」では、都立図書館の役割が区市町村立図書館への支援だけなのはなぜか。産業労働局のビジネス図書館構想に教育庁として全く関わりを持たないのか。
5)「資料の再活用」で、「中央図書館と多摩図書館とで重複した資料は、区市町村立図書館へ提供」し、「蔵書の充実に寄与」するとあるが、自館の蔵書を10年持てずに除籍している区市町村立図書館の書庫事情をどう認識しているのか。しかも、これから「再活用基本計画をまとめ」云々と書いてあるのに、既に除籍作業は、着々と進めているというのはどういうことなのか。

6)「地域分担」から「機能分担」への変更と言いながら、実態は多摩図書館に特定分野の資料を移管する「分野分担」に過ぎないのではないか。「機能分担」を言うなら、今後の都立図書館は、「協力貸出センター」と調べもの機能に特化した「レファレンスライブラリー」に分けるという考えも成り立つのではないか。
 さらに、「協力貸出センター」の運営には、リサイクル図書の活用などで区市町村立図書館の協力を要請することも考えられる。報告をより実質的なものにするための検討を区市町村と一緒にやってみる考えはないか。

 私たちの前に初めて明らかにされた報告である。以上の疑問点について、早急に回答を求めたい。併せて、今後、東京都市町村図書館長協議会と報告の内容について意見調整を図るつもりはあるか確認したい。
 (以上は、『出版ニュース』2月下旬号守谷論文を質問形式に要約したものです。)

 

●資料九
2002年2月12日
東京都教育委員会
教育長 横山洋吉様
町田市立図書館協議会

委員長 関根達雄

都立図書館の運営に関する要望書

 平素より多摩地域の教育行政にご協力、ご尽力いただき厚くお礼申し上げます。
 さて、本年1月に「都立図書館あり方検討委員会」は「今後の都立図書館のあり方〜社会経済の変化に対応した新たな都民サービスの向上を目指して〜」をまとめ、平成14年度より都立図書館の運営について大幅な変更を行うことを明らかにしました。私たち町田市立図書館協議会は、この内容について協議致しましたが、問題の重要性を改めて認識し、ことの重大さに驚いております。これでは、多摩地域の住民に対する図書館サービスが低下することは明らかです。
 そこで、私たち協議会の総意をお伝えしたく、突然ではありますが、次のとおり書面をもって要望する次第です。何卒この件につきまして、関係部署等への指示、働きかけを行って下さるようお願いいたします。

 なお、かかる重要事項の検討に際しましては、今後、区市町村立図書館の関係者及び利用者である東京都民に事前にすみやかに情報を公開し、その意向を十分に反映するよう特にお願い申し上げます。


1 区市町立図書館の資料提供に支障がないよう、都立図書館の資料購入費を十分に措置して下さい。
2 都立多摩図書館の現有蔵書については、一方的な廃棄及び散逸を行わないでください。
3 都立多摩図書館が各市町村立図書館へ行っている様々な支援体制を継続し、現在の多摩地域都民への図書館サービスが後退しないようにしてください。

※都知事、都議会議長、教育委員長にも同文を送付

 武蔵野市立図書館の舩崎館長からは、二月一九日の都議会文教委員会における小美濃議員(自民党)の質問と回答を記した文書が配布され、それぞれ簡単な説明を行った。
 吉田会長から、「最終報告については、幅広く意見を聞いたとは思っていない。今後は、市町村の意見を十分に聞くことを要望したい。三月一四日に予定されている協力担当者会までに、図書館長協議会で文書を作成し、提出する。」との提案があり、確認した。
 質問、要望については、各館でまとめ、三月五日までに東村山市立図書館(協議会事務局)宛てにファックスする、事務局はそれをまとめて三月八日に館長協議会として文書で出し、三月一四日の席上で回答可能なものは、回答させる、最終的な文書回答は、三月二二日までとする、を確認し散会した。
 ところが、三月一一日に三月八日付け、市町村立図書館長宛の市町村立図書館協議会長名の文書が届いた。これを読んで、ひどいショックを受けた。というのは、〈(前略)一九自治体より多数のご意見が寄せられましたが、三役会において別紙のとおり取りまとめ三月八日付で都立多摩図書館長宛送付いたしました(中略)。なお、寄せられた意見の中には、『あり方検討委員会』のあり方や、進め方、報告書の内容等基本的な問題にも触れたものがございましたが、それらのことは確かに重要な問題ではありますが、二月二六日(火)に確認された内容とは異なりますので、今回の要望・質問では取り上げてはおりません。また、教育長会への説明、都議会文教委員会での答弁、説明会等で明らかにされた事項については、あえて駄目押しの確認はしないことといたしましたのでご了承いただきたいと存じます。〉(以下省略)とあったからだ。
 二六日の説明会は、「あり検」の最終報告の説明会だったはずである。だとすれば、「『あり方検討委員会』のあり方や、進め方、報告書の内容等基本的な問題」に触れないというのは、どういうことなのだろうか。「確認された内容と異な」るというのは、私には納得がいかない。

 確かに、都立図書館としては、二六日の説明会をもって、市町村立図書館には、きちんと説明したというアリバイにすることは間違いない。今後はそれに沿ってことが運ばれるであろう(というより、既成事実が進行している)、という認識は確認したように思う。しかし、出席者(館長及びその代理)は、都立多摩図書館長の説明に納得しなかったからこそ、都立多摩図書館長自身が招集した「館長会」を途中で打ち切って、「館長協議会」に切り替えたはずである。
 ましてや、町田市立図書館は、当日、報告書に対する疑問点を列挙した文書を配布している【資料八】。(前述したとおり、「館長会」で配るのを禁止されたため、「館長協議会」で配った)。しかも、事前に町田の図書館長から、協議会会長に電話で話をし、かつ、ファックスで全文を送信している(内容に若干変更はあるが、項目は変えていない)。その時は、「館長協議会として文書を出す予定」ということだったので、事前に内容を会長にお知らせしたのである。もし、館長協議会としては、「基本的な問題に」は、触れないということであるなら、町田市立図書館単独で、都立多摩図書館長宛に質問状を出していたはずである。そうしなかったのは、館長協議会として文書をまとめることを優先したかったからに他ならない。
 それから、「教育長会への説明、都議会文教委員会での答弁、説明会等で明らかにされた事項については、あえて駄目押しの確認はしないことといたしました」という点についても納得がいかない。「一九自治体」からの意見・要望を取りまとめた苦労は理解しているつもりだが、やはり文書で確認しておく必要があったのではないかと思う。いずれにしても、手遅れ、後の祭りだった。

都立図書館の対応

 都立多摩図書館の岡本館長から二月五日(再活用の申込締め切り日)に町田の館長宛に電話が入り、資料の保管場所や搬送費用の確保について、ファックスで回答しろという要請があった。思うに、町田市立図書館が全点引き取りを希望したため、本当にそのような体制が取れているのかを確認したかったのであろう【資料十】。

●資料十
2002年2月5日

都立多摩図書館資料の再活用について(回答)

 電話にて問い合わせがあったこのことについて、下記のとおり回答いたします。


1 搬送費用について
 確保してあります。
2 保管場所について

 確保してあります。
3 再活用方法について
 町田市立図書館が独占して再活用するのではなく、多摩地域の公立図書館が共有して 活用する方策を確立するまで、一時的にストックしておきます。概ね、2、3年以内に東京都市町村立図書館長協議会が共同利用の方策を検討、確立することになっています。
4 その他
 今回の資料については、一九八七年以前のものが対象とされています。都立多摩図書館のバックアップを前提としてサービスを展開している多摩地域の市町村立図書館にとって、代替のきかない資料が大半であると思われます。都立多摩図書館の再活用資料を真に活かす観点から、多摩地域の公立図書館に優先的に提供されることを強く望みます。

 その後、岡本館長からまた電話があり、「町田市で責任を持って引き受けるという教育長名の文書」を出すように言われた。町田市立図書館の館長名で再活用を申し込んでいるのにである。たまたま私が電話を取ったので理由を尋ねたところ、「館長協議会は、任意団体なので、直接差し上げるわけにはいかない」とのことだったので、「館長に伝えます」と答えて電話を切った。
 後日、岡本館長から町田の館長宛に電話があり、教育長名の文書はどうなったのか、二月一九日までに速達で回答しろ、とのことだった【資料十一】。

●資料十一
01町教図第130号

2002年2月18日
東京都立多摩図書館長
岡本冴子様

町田市教育委員会
教育長 山田雄三

都立多摩図書館資料の再活用について(回答)

 電話にて依頼があったこのことについて、下記のとおり回答いたしますので、意のあるところをお汲み取りください。


 先般、図書館長がファクシミリにて回答したとおり、町田市立図書館が独占して再活用するのではなく、多摩地域の公立図書館が共有して活用する方策を確立するまで、一時的にストックしておきます。概ね、2、3年以内に東京都市町村立図書館長協議会が共同利用の方策を検討、確立することになっていますが、最終的には、町田市教育委員会が責任をもって受け入れます。

 図書館長の回答と重複しますが、大事なことなので繰り返して申し上げます。
 今回の資料については、1987年以前のものが対象とされています。都立多摩図書館のバックアップを前提としてサービスを展開している多摩地域の市町村立図書館にとって、代替のきかない資料が大半であると思われます。都立多摩図書館の再活用資料を真に活かす観点から、多摩地域の公立図書館に優先的に提供されるべきであると考えます。

 何で、速達の必要があるのか、そんなに急ぐ事情でもあるのか、理解できなかったが、二月一九日に都議会文教委員会を傍聴し、都の生涯学習部長の答弁を聞いて腹が立った。再活用先を決定するのは、二月末ということであったが、何のために、速達が必要だったのか理解に苦しむ。都立多摩図書館長の権威付けのためかどうかまでは分らないが、税金の無駄遣いであることだけは明らかである。
 二月二七日、都立中央図書館管理部長と都立多摩図書館長の両部長職が、町田市の教育長に面会に訪れた。申し込み状況と「平成一三年度都立多摩図書館資料再活用受入先の選定基準(案)」の説明が目的だったと思われる。教育長は、再活用の一〇万冊は、本来多摩地域の図書館を対象にした資料であるから、町田市で一括して預かりたいと明確に主張した。
 二月二八日に都立多摩図書館の再活用図書の説明会が急遽招集された。前日の夕方四時頃、ファックスが入って、いきなり翌日招集とはひどい話である。当日配布された文書は、「都立多摩図書館資料の再活用計画の決定について」【資料十二】、「平成一三年度都立多摩図書館資料再活用受入先の選定基準」【資料十三】である。

●資料十二
13多図協第365号
平成14年2月28日
該当区市町村教育委員会教育長、
東京都関係機関長殿

東京都立多摩図書館長
岡本冴子

都立多摩図書館資料の再活用計画の決定について

 当館資料の再活用につきましては、平成14年1月17日付13多図協第279号「都立多摩図書館資料の再活用について」により、通知させていただきました。

再活用についての趣旨を御理解の上、多数の区市町村からお申し込みをいただき、御協力ありがとうございました。
 このたび、資料の再活用計画を下記のとおり決定いたしましたので、御報告いたします。
 受入れていただいた資料については、今後とも貴区市町村及び機関等において有効に御活用くださいますよう、併せてお願い申し上げます。


1 貴管下図書館等への提供冊数

 別紙1のとおり
2 全体の再活用計画
(1)申込み総数    23万2018冊
(2)再活用資料総数  9万9164冊
 当初再活用予定の10万8182冊のうち9018冊は、協力貸出の頻度が高いため、多摩図書館で複本として保管し、活用する。
(3)申込み及び提供状況

[下記の表参照]
3 再活用先決定の方法
「平成13年度都立多摩図書館資料再活用受入先の選定基準」(別紙2)に基づき決定した。

●資料十三[資料十二の(別紙2)]
平成14年2月12日

平成13年度都立多摩図書館資料再活用受入先の選定基準

1 資料再活用の基本的な考え方
○区市町村立図書館及び東京都を基本に再活用を図る。
特に、多摩地域、島しょ地域、人口一人当たりの蔵書数が少ない区市町村立図書館を優先する。
〇区市町村立小学校・中学校、都立学校にも活用が見込まれる場合は、再活用を図る。

2 選定基準
 優先順位は(1)のとおりとする。ただし、申込が競合した場合の再活用先の選定に当た っては、(1)の優先順位及び(2)の留意事項を総合的に勘案して決定する。
(1)優先順位
1:多摩地域及び島しょ地域の市町村立図書館
2:区立図書館
3:東京都及び関連機関

4:区市町村立小学校・中学校及び都立学校
5:その他

(2)再活用選定に当たっての留意事項
1:再活用を希望するより多くの自治体に提供できるよう、大口 (1万冊以上)と小口(1万冊未満)の申込が競合した場合には、小口の申込を優先する。
2:大口の申込が競合した場合は、再活用計画の具体性や他の区市町村立図書館等への相互貸借の取組状況*などを総合的に勘案し、提供資料の割合などを決定する。

3:行政郷土資料は当該自治体の図書館及び東京都関係機関を優先する。
4:全集やシリーズ本が競合した場合は、個別申込より一括申込を優先する。
5:小口の申込が競合した場合は、地域又は主題に関連の深い図書館等を優先する。
*取組例
・「ISBN総合目録」に参加している区市町村立図書館
・地域ブロック等での広報利用を実施している区市町村立図書館

 結局、町田市立図書館には、約五万冊の図書が割り当てられることになった。私は、以下について質問したが、岡本館長からは、納得できる回答を得ることができなかった。

質問一●平成一三年度都立多摩図書館資料再活用受入先の選定基準」(平成一四年二月一二日付け)は、昨日(二月二七日)町田市の教育長に提示した段階では、(案)が付いており、日付も入っていなかった。二月一二日に決定したのであれば、(案)は必要なかったはずである。
回答●二七日に町田の教育長に「基準」(案)を提示して意見を伺った。「基準」については、異論が示されなかったので、内部で検討していた二月一二日に遡って決定した。

再質問●町田市の教育長は、多摩地域の図書館を対象にした資料であるから、町田市で一括して預かりたいと明確に申しあげているはずだが。
回答●「基準」(案)については、異論がなかった。
質問二●大口(一万冊以上)の申し込みは、何件あったのか。
回答●二件(町田市と江戸川区)あった。
質問三●約五万冊の内訳は、どのように決定するのか。また、何故五万冊なのか。

回答●都立多摩図書館は、平成一五年度から文学書を集中して所蔵するので、文学関係は、江戸川区に提供する。先ず、小口(一万冊未満)の希望を優先した。「基準」(二)1:、大口の申し込みが競合した場合は、「基準」(二)2:を適用した。
質問四●多摩地域図書館が五七%になった根拠を示して欲しい。
回答●優先順位は、「多摩地域及び島しょ地域の市町村立図書館」が第一順位であるが、議会でもオール東京を対象とする旨答弁している。

 他の自治体の図書館からも、いろいろな質問が出ていたが、具体的な配布先さえ明かさないという対応に終始した。
 結局、資料の散逸を止めることはできなかったが、意外にも、岡本館長は、多摩地域で共同利用を目指すことは、評価できると言っていた。都立が関わらないで、市町村が勝手にやればいいと思っているのかまでははっきり分からないが、今後の詰め方次第で、都立を土俵に引きずり込むことも可能になるかもしれない。説明会での唯一の収穫だったような気がする。東京都の嶋津生涯学習部長は、三月四日の都議会文教委員会で、町田市が引き取って多摩地域での共同利用を目指していることについては、地方分権の精神から評価できるなどと岡本館長と同じようなことを答弁している。やはり、自分たち(東京都)の手から離れたところで勝手におやりなさいというのが本音なのかもしれない。
 三月一日の夕方、館長宛に速達が届いた。中味は、二月二七日付け「都立多摩図書館資料の再活用計画の決定に伴う説明会の開催について(通知)」と二月二八日付け「都立多摩図書館資料の再活用計画の決定について」である。

 前者は、説明会の前日の午後四時頃ファックスで送られたものと同じで、差出人の名前がない。後者は、都立多摩図書館長名のもので、説明会の当日配られたものとまったく同じであった。なぜ、既に配布したものと同じ文書をしかも速達で送る必要があるのか、不可解極まる。しかも、前者の文書番号は、後者のそれより後になっている(恐らく、ファックス送信後に後から番号を付けたから、だと推察できるが)というお粗末さ。
 欠席した区市町村にだけ、後者を送るというのは当然としても、開催通知まで一緒に出すという神経が私には、まったく理解できない。「正式な文書として出しています」ということなのかもしれないが、そんなものを事後に貰っても何の役にも立たないばかりか、差出人の入っていない文書は無効である、と言っておきたい。
 館長からは、どう処理したらいいか相談されたので、破り捨ててしまおうと言いかけたが、一応、前者については、決裁を上げておくことにした(後者は、説明会で配られたものを既に教育長決裁に回していたので、私が参考資料として密かに保管した)。ということは、正式の開催通知を受け取ったという証拠が残り、都立の術策に、はまったことになるのかもしれない。
 いずれにしても、図書購入費の大幅削減や都立図書館の再編を強行しておきながら、一方では平気で無駄遣いをするという無神経さが許せない。
 それから、町田市立図書館で預かることになった約五万冊について、分野の内訳は、〇、三、四、五、六、七門及び地域資料で、段ボール約一五〇〇箱という連絡が都立多摩図書館の担当者からあった。事前に、箱数を確認したのだが、一箱二〇冊程度しか入らないと言われていた。私は、一箱に四〇冊程度は入るはずと主張していたが、はからずも、当方の見込みが正しかったことが裏付けられた。しかも、多摩教育センターには、一〇トン車が入れられないことも業者が下見に行って初めて分かった。引き取りの日取りは、紆余曲折があったが三月二五日に決まった。市町村立図書館からの応援については、運送業者と相談した結果、監督として何人か立ち会っていただくのは構わないが、作業の手伝いは必要ない(要するに邪魔)、とのことだったので、今回は見送ることにした。搬送の手伝いを楽しみにしている図書館職員もいると聞いていたので、その点は申し訳なかったと思うが、都立図書館の除籍資料は、原則一点収集、かつ現有書庫を拡張しないという都立図書館の方針が変わらない限り、今後も大量に出るはずなので、今回で終わったわけではない。むしろ、終わりの始まりということなので、まだまだ機会はあると思う。だから、次回を楽しみになどというのは、不謹慎かもしれないが、本当は、次回などあって欲しくない。
 三月二五日、都立多摩図書館から四万九九五五冊(書類上そうなっているが、一冊一冊確認したわけではない。しかも、書誌データ上は四万九九五九冊になっている)を搬出し、三月末で廃校が決まっている小学校に無事運び込んだ。

 当日午前九時前に私ともう一人の同僚は、都立多摩図書館に直行。業者のトラックが続々集結する中で、養生等の作業準備を見守った。九時半前から積み込み作業を開始、昼前には積み込み作業を終了。
 私は、積み込み作業の途中で同僚を残して町田に戻り、一時半過ぎには、搬入先の町田市立本町田西小学校に行った。二時少し前から、元家庭科実習室に運び込みを開始したが、一階で、しかも幸いなことにトラックを横付けできたので、作業は予想以上にはかどった。とはいっても、約五万冊、段ボール箱約一六〇〇箱分だからそれなりに大変である。結局、休憩を挟んで、三時半過ぎには作業が終了した。
 都立多摩図書館の廃棄図書の内の約半分を町田で預かることになったわけだが、残りは散逸することになってしまい、残念の極みである。
 町田で五万冊を受け取ることが決まった後も、搬出日や搬出作業開始時間、トラックの重量制限、入構台数の制限等、様々な軋轢が正直なところあった。当日も、エレベーター二台を同時に使ってはいけないなどの制約もあり、実際に文句を言いに来た女性職員もいた。五万冊を搬出するということが、どれほど大変なことなのか、まったく理解していない対応としか思えない。
 二月末になって漸く、冊数が決まったと思ったら、三月中旬までに運び出せとの館長からのお達し、何箱ぐらいになるかも分からない中で業者に見積もりを取らせることにもなってしまったのである。結果的には、業者の段取りがよかったため、予定より早く作業は終了したが、最初から最後まで、ハラハラのしどうしであった。
 それでも救いは、都立多摩図書館の女性職員で、(町田が引き取ってくれて)ありがとうございますと言ってくださった方がいたことである。エレベーターの件で苦情を言いに来た職員との何という落差!

本来の再活用とは

 「東京都立多摩図書館運営方針」には、「資料の再活用」という項目があり、「公立図書館の除籍資料については、未所蔵の資料を受け入れて利用に供し資料の再活用を図る。」としている。つまり、多摩地域の市町村立(に限らず、多摩地域以外の区市町村立や道府県立も理念的には含むはず)図書館が、除籍した資料で、多摩図書館が持っていない資料を受け入れるのが「再活用」であり、今回の「再活用」とは全く逆のことを意味しているのである。
 二〇〇一年三月に出された「資料再活用業務連絡会」(主管課:多摩図書館協力課)による「資料再活用業務検討連絡会最終報告」では、「事業の概要」として「都内公立図書館が除籍する資料のうち、都立図書館が未所蔵で、都立図書館が将来にわたって行うサービスに必要な資料を受け入れる。」としている。「都内公立図書館」という限定はあるが、「再活用」の意味は同じである。それによれば、多摩図書館では、二〇〇一年度から、図書を対象とした試行を行い、逐次刊行物については、二〇〇三年度からの試行を目指すことになっている。
 また、同報告は、「事業の目的」として「都立図書館における資料の収集率の向上」と「都内公立図書館に対する保存の責務」を挙げている。
 前者については、「都立図書館の資料の充実を図り、もって都立図書館が行うサービスの向上に寄与する」ことが再活用の目的であるとしている。その理由を「都内公立図書館が一年間に収集する図書タイトル数は、全館を合わせて全出版点数の約七割に達する」のに対し、「都立三図書館で収集する図書タイトル数は約四割」に過ぎず、「資料費の減少により、収集冊数の減少が続く現状では、都立図書館未所蔵資料は増加する一方である」ことから、「この資料再活用業務による資料収集は、都立図書館資料の収集率の向上と都立図書館の行うサービスの向上に寄与するものと考える」としている。

 後者については、「都内公立図書館の収蔵スペースは、多くの自治体で限界に達している」ことから、「ほとんどの図書館で、やむをえず資料の除籍を行っている」が、「リサイクルの方法で市民に還元されることが多い」としても、「幅広い利用が可能な図書館資料としては生命を終えることになる」と指摘した上で、次のように述べている。
 「このような除籍資料の中から、都立図書館未所蔵で、将来にわたって都民の幅広い利用が望める資料を都立図書館が受け入れて保存し、図書館資料としての継続を図ることは、都民サービスにとって有意義なことである。」
 また、保存の責務については、『公立図書館の任務と目標』(日本図書館協会、一九八九年)、二〇〇〇年一二月に改訂された「公立図書館の設置及び運営上の望ましい基準について」(報告)を挙げるとともに、「都立中央図書館及び多摩図書館の運営方針にも明記されている」としている(「公立図書館の設置及び運営上の望ましい基準について」は、その後二〇〇一年七月に文部科学省から告示された)。
 更に、「図書館資料の保存対策は個々の自治体で行われているが、限界に達しており、広域的で効果的な保存対策が必要な段階に立ち至っている」から、「資料再活用業務は、そうした広域的な資料保存対策のすべてではないが、その一翼を担い、効果を上げることが可能であ」り、「将来的には、資料再活用業務を包括する全都的な資料保存対策の策定が必要である」としている。しかも、「都立図書館は今後はいっそう保存機能を重視し、全都的な資料保存対策の中核となって、将来にわたる都民の資料利用を保障していくことが必要である」と言い切っているのである。
 「あり検」最終報告との何たる落差!違いは歴然としている。この違いは何に由来するのか。この報告は、現場から生まれた。図書館の役割について知っている者の手により書かれている。
 ところで、試行された本来の再活用であるが、三月一五日に三市から二二九冊を受け入れたそうで、一週間も経たない内に、何冊も予約が付いたとのことである。

今後の展望

 以上の経過を考えるなら、町田市立図書館が五万冊の資料を一時的に預かり、その間に館長協議会で都立多摩図書館も交えた話し合いの場を設け、デポジット・ライブラリー等の検討を行うというのは、至極妥当な方針だったのではなかろうか。もちろん、これは、図書館サイドでの検討に過ぎないわけだから、利用者・都民がサポートできる仕組みは、別途検討されるべきである。具体的には、現在の「実行委員会」を母体とした市民・議員・図書館員・有識者の検討組織を立ち上げることになろう。検討内容は、デポジット・ライブラリーのみにとどまるのではなく、都立図書館あるいは、多摩地域の図書館のあり方に及ぶべきであると思う。
 デポジット・ライブラリーについては、その費用負担をどうするかが問題になろう。財政的な裏付けのない提案は、無責任とのそしりを免れないことも確かである。もちろん、現在の時点では、都立図書館がそれに参加するかどうか明らかになっていないので、確定的なことは言えないが、市町村の負担については、例えば各館の図書購入費の五パーセントを出資することにすれば、運営は十分に成り立つはずである。各自治体の新たな費用負担ということではなく、各図書館の図書購入費を従来の九五パーセントに減額すれば、新たな負担は生じない。図書購入費を減額するなどとんでもない、という批判もあるだろうが、図書購入費の一部減額は、資料の長期保存及び共同利用が可能になることのメリットと十分相殺できるのではないかと私は考えている。もちろん、図書購入費の減額を積極的に奨めているわけではなく、減額せずに費用負担が認められれば、それにこしたことはない。
 図書館の機能を矮小化し、貶めることしか考えない連中に、何とか一矢を報いたいというのが、現在の正直な気持ちであるし、それが図書館で働き続けたいと願う者の責務でもあると確信している。

*本稿の「都立図書館の対応」(八〇〜八五頁)執筆に当たっては、都立日比谷図書館の雨谷逸枝さんにご教示いただいたことを特記し、感謝の意を表したい。