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[第14章●ベッドで本を読む] 3… 老眼のメカニズム |
[2004.08.19登録] |
石田豊 |
調子に乗って脱線を続ける。今回は老眼について(これも前に個人サイトに書いたことと重複してしまうのですが)。 老いるということがネガティブなこととされすぎているところに原因があるのだろうが、現代の社会の中では、若年者に対する「老齢教育」があまりにも不足している。つまり、歳とったらどうなる、という情報があまりに少ない。タブー視されているのではないかと思うほどだ。 小学生の女子に対しては初潮前教育がなされており、どーなるこーなる、だからどーするということが教えられているそうだ。それがあるから、彼女たちは自分の変化をきちんと受け入れることができ、生じる問題に対処していくことができるのだが、同じように誰にも訪れる老化のための教育はどこでもなされることはないから、中年期に達してそれに遭遇した時に、誰もがみんな驚いたり不適切な処置をしたりしてしまう。これはゆゆしき問題だと思う。 しかし、反面、それが教えられてこなかった、語られてこなかったものであるからこそ、自分で直面したときに、妙に面白かったりするってこともあるのだけれど。 自分自身を振り返っても、老齢化に対してずいぶん間違った観念を持っていた。老眼についてもそう。 ぼくは近眼であるが、長い間、近眼は老眼で相殺されると思っていた。つまり、歳とれば、近眼は直る、と。考えてみたら、周りに遠近両用メガネ(昔のそれは、境目がはっきりしていたから、傍目にも明らかであった)を装着している人も多々いたわけだから、論理的思考がちゃんとできていれば、そんなことはウソだと思えたはずなんだけど、どうもそう信じていたフシがある。バカだったわけだ。 しかし、バカは孤ならず。近眼老眼相殺説は意外に信じている人が多い。ツマもそうであった。つまり夫婦でバカだった。友人にも「おれもそう思っていたよ」というのが何人もおり、つまり、友達ぐるみでバカだった。 もちろん近眼は老眼で相殺されたりしない。老眼は程度の差こそあれ、誰にでも訪れるものだから、近視の人は、中年以降、近視で老眼という二重苦を背負い込むことになる。強度の近視の場合は、老眼になるのが遅くなる傾向があるくらいだ。 そもそも、近視と老眼はまったくメカニズムがちがうのだ。 目はよくカメラにたとえられる。カメラではレンズを通して入ってきた光が、フイルム面上に結像するというのが、そのシクミのエッセンスだ。近眼というのは、このレンズとフィルム面までの距離が正常より長くなってしまうことにより生じる(違う原因もあるらしいが、ま、ここはそれが専門じゃないから、こう言ってしまっておこう)。 いっぽう、老眼は加齢により、レンズの「戻り」がタコになることが原因だ。 つまり、まったく違うしくみが原因であるため、両者が相殺されることなど、基本的にはないのだ。 いま、目をカメラのアナロジーで語ってしまったが、目と(少なくとも現在までの)カメラは決定的に違っているところがある。それは焦点、つまり「ピント」の調節メカニズムだ。カメラにおいては、ピントは基本的にはレンズを前後に動かすことで合わせる。しかし目ではレンズ(水晶体)の厚みつまり焦点距離を変えることでピントを合わせるのだ。これはガラスで出来ている堅い光学レンズなんかには、まねのできないすごいシクミだ。 水晶体は近くのものを見るときには厚くなり、遠くのものをみるためには薄べったくなる。これによりピントを合わせている。では、どうやってレンズを厚くしたり薄くしたりしているか。 これはトランポリンの台を想像するとわかりやすい。トランポリンの台は、もっとも外側に円形の金属のフレームがある。そのフレームのところどころからバネのようなものが接続されており、そのバネによって、真ん中のマットの部分とつながっている。 トランポリンの外枠に当たるのが目では「毛様体」であり、バネに相当するのが「チン小帯」。マットがもちろん「水晶体」だ。この毛様体、チン小帯、水晶体の3者でレンズが構成されているわけだ。 で、トランポリンとのアナロジーはここまで。構成はよく似ているが、働きはトランポリンとはまったく違う。 レンズを薄くする場合はチン小帯が縮む。それにより水晶体は四方八方に引っ張られる。それで水晶体が薄べったくなる。 では逆にレンズを厚くする場合はどうするか。毛様体の「半径」が小さくなる。するとひっぱる力が小さくなるから、水晶体は「それ自体の弾力で」ぼよよんとふくらむ、というのだ。 この「それ自体の弾力で」というのがミソになる。つまり、薄くする外力はあるが、厚くする外力はないのだ。 水晶体がもっとも厚くなる場合、つまりいちばん近くのものに焦点を合わせなきゃならない場合には、毛様体の収縮は最大になる。つまりブカブカ状態になる。まったく引っ張られなくなった時に、ぼよよんと戻った厚みが、いちばん近くを見る場合の水晶体の厚みである。 こう書いてくると、もう体感的に老眼のメカニズムは理解されうるであろう。つまり、歳とって、水晶体が戻りにくくなってくるのが老眼なのだ。歳をとるごとに、皮膚でもなんでも「ぼよよん」度が低くなるじゃないですか。若い女性(女性だけじゃないんだけどね、ホントは)を称してピッチピッチとかプリプリとかいうけど、ほんとその通りで、若い人の肌やなにかは、押しても即座に跳ね返ってくるような弾力をもっているが、徐々にそれは一方通行で失われる。押したって、なかなか戻ってこなくなるじゃないですか。 つまり、水晶体は「筋肉の力」で厚くなるわけじゃないのだ。筋肉の働きなら、なんとかしてそれを鍛えるという方法もあるだろうが、「それ自体の弾力」なんて言われちゃうと、どうも打つ手がない。やむをえないなあ、と思わざるを得ないのである。 水晶体の最大の厚み、つまりどこまで「戻る」かというのは、他の部位のピチピチ・プリプリ度と同じく、中年期、たとえば40代に入っていきなりダメになるというものではない。幼児の頃から、年々歳々徐々に低下していくのである。つまり子供の時分から、老眼は着々と進行していくのである。 余談になるが、ここで「チン小帯」について。なんだかコミカルな名前だが、もちろん「チンコオビ」ではなく「チンショウタイ」と読む。「チン氏帯」ともいって、語源はこれをはじめて研究したドイツ人、ヨハン・ゴットフリード・チン(Johann Gottfried Zinn(1727-1759))氏の名前に由来する。陳さんじゃないんだ。このひとは植物学者でもあり、ヒャクニチソウもはじめて記載している。百日草をZINNIA(ジニア)というのはこの人の名前に由来している。 さて、水晶体がいちばん厚くなった場合、つまりいちばん近くに焦点があう場合の物体までの距離を「近点」という。何かを目に近づけて、焦点があう最小距離のことだ。これは10歳の頃は8cm、20歳で10cmと徐々に遠ざかっていき、50歳の頃には50cmにもなってしまう。新聞紙を50cm離さないと読めなくなるわけだ。 焦点距離はレンズの厚さに反比例する。つまり逆数に比例する。そこで、近点の逆数をとると、それが水晶体がもっとも厚くなった場合の厚みを表す指標になるはずだ。この指標(近点の逆数)を「ディオプター」という。ディオプターは近点をメートル単位で表した数値の逆数だ。10歳時点の近点8cmの場合のディオプターは1/0.08である。 年齢によるディオプターの変化をグラフにしてみると、次のようになる。徐々に淡々と変化していることがよくわかる。 しかし、実際の近点はどうか。近点の年齢変化をグラフにすると、様子はずいぶんかわる。逆数のグラフであるから、途中で急に変化するように見えてしまう。このグラフを見れば一目瞭然だが40歳で20cmだった近点が、50歳ではいきなり倍以上の50cmになる。これが40代でいきなり老眼が自覚されるゆえんだ。急に近くのものが見えなくなるわけだからね。 ともあれ、これが老眼のシクミである。不可避な自然過程であることがご理解いただけたと思う。 ずいぶん脱線してしまったが、この老眼化が、俯臥位読書の大いなる障害になる。 俯臥位読書の問題点は、つまるところ目肩腰へのダメージである。 こうなるとは知らなかった。 老眼が進行するなかで、目と本の位置がどんどん離れる。ビート板式にしていると、足がベッドから飛び出すし、セイウチ式だと、上体の反りがはんぱじゃなくなる。腰や肩へのダメージも、以前より大きくなる。目肩腰の痛みでなくなく読書を中断しなければならないなんて夜が増えてくる。 ぼくは子供の頃から、もっぱらこの体勢で読書してきた。大袈裟にいえば、若さにまかせて無茶をしてきたんですね。こうなると知っていれば、やらなかったものの、いまさら後の祭りである。 いま、できることと言ったら、年若の人々に対して「やめとけ、あぶないぞ」と警告を発しておくことくらいしかない。しかしそういう警告を聞いたところで、かつてのぼくおそらくそうであったように、気にしやしないだろうが。因果は巡るというところだろうか。 俯臥位読書についてはこれくらい。脱線がむちゃくちゃ長くて、本論はこれだけというのは反則みたいなものだが、この体位についてはこれくらいしか書くことがないのだからしかたがない。なにしろ、ここ数年、ほとんどこの体勢での読書をあきらめてきているのだから。 なお、記述の中の近点の数値などは「目の老いを考える」(池田光男、池田幾子著 平凡社自然叢書28)を参考にしました。 |
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PEPEさんより [2006-02-28] |
( ̄∀ ̄)/ 押忍。最後まで読みきってしまった。押忍。 |
あきちゃさんより [2006-04-02] |
う〜む う〜む これであきらめがついたぞ、老眼(^_^;)。 |
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