2007-06-02

坐禅(ざぜん)のすすめ ~自然治癒力で心身を癒す~

オーマイニュース』に次のような記事を執筆しましたので、転載いたします。

タイトル:坐禅(ざぜん)のすすめ
サブ・タイトル:自然治癒力で心身を癒す

 坐禅の効能がいま、注目されている。

 坐禅を科学的に分析したパイオニアといえば、東京大学医学部教授の笠松章と、東大医学部付属病院分院神経科医長の平井富雄である。平井は、精神病やノイローゼにかかった患者の診察である。

 1955年7月初めから9月の終わりまでの3カ月、笠松と平井は、修行年数20年以上になる曹洞宗の僧侶14名を対象に、坐禅をしているときにどういう脳波が出るかという実験を行う。そして、その研究成果は1960年に「坐禅の脳波学的研究」という論文で発表された。

 脳波の単位はヘルツでの表示。1ヘルツは「1秒間に1回の周波数・振動数」があることを指している。一般人が起きて日常生活を送っているときに出るのはベータ波で、波の振動は20~30ヘルツ。目を閉じて平静な状態で出てくるのがアルファ波で8~13ヘルツの波で、ベータ波よりゆっくりしている。アルファ波が出ているとき、人は心身共にリラックスした状態にあり、「癒しの脳波」といえる。そして、それよりも遅いのが4~7ヘルツのシータ波で、中程度の睡眠の時に表れる。

 笠松・平井の実験では、僧侶に目を開けた状態で坐禅をやらせている。僧侶たちは坐禅を始めると数分でアルファ波が出てきて、時間が経つにつれ振動はゆっくりとしていしてき、中にはシータ波が出る僧侶もいた。比較として、坐禅をやったことのない人に同じように坐禅をやらせてみたが、ベータ波が出るだけであった。

 坐禅を長く実践すると、緊張を解きほぐし人々を癒すアルファ波が生じ、それ以上のリラックス効果を与えるシータ波が出る場合もある――ということを実験は示している。平井は、坐禅こそが神経症(ノイローゼ)など、心の病を癒す精神療法になると結論づけた。

 神経症の人は日ごろ非常に強い精神緊張の状態にあり、そのために日常の生活が上手くいかない。坐禅の実践は精神緊張を解きほぐし、その結果、神経症の治癒につながる。平井は坐禅の効果を「根源的な生命力というものをときはなつ」と形容した。

 最近では、脳生理学の専門家で東邦大学教授の有田秀穂氏が坐禅の効用に関する研究を発表している。坐禅を20~30分間続けると、脳幹のセロトニン神経が活性化され、脳全体を覚醒させる神経伝達物質のセロトニンが増加するという。セロトニン神経とは脳内にある150億の神経細胞の1つで、セロトニンを合成し、それを神経の情報伝達に利用する。

 精神医学の通説では、うつ病はセロトニンが不足して起こるといわれている。坐禅をすることでセロトニンが増加すると、頭はすっきりし、不安感も取り除かれた壮快な精神状態になれる。身体的にも、顔つきも締まって背筋が伸び、腰が据わる。

 大学でも坐禅の効能に目をつけたところがある。2006年2月、花園大学(京都府)は社会福祉学研究科に臨床心理士養成課程を設置、それに併せてカウンセリングセンターを開設した。座禅を採り入れた心理療法をするために8畳の和室を用意されている。坐禅に関心が高まっている一例とも言えるだろう。

どうすれば坐禅をできるか。方法はいたって簡単だ。まず、座布団の上にすわり、足をくむ。足のくみ方には、ももの上に両足をのせる結跏趺坐(けっかふざ)と、片足をのせる半跏趺坐(はんかふざ)がある。体のかたい人は後者をやればいいだろう。背筋は伸ばしてあごを引き、重ねて輪をつくった手はへその前に置く。視線はおよそ1メートル前方、約45度の角度におとしたままにして、深々と息を鼻から吸い込み、これを徐々に口から吐き出す。この深呼吸を数回行った後は、自然と鼻からの呼吸にまかせる。

 坐禅において、大切なのは「調身」「調息」「調心」だ。姿勢を正し、呼吸を整え、雑念を払う。ストレスを多く抱えている人は、坐禅をして気持ちを整え、心を癒すといいだろう。