木造仮設住宅群 3.11からはじまったある建築の記録
定価:1,800円 + 税
ISBN978-4-7808-0174-3 C0052
B5判 / 128ページ /並製
[2011年12月刊行]
印刷・製本●シナノ印刷株式会社
ブックデザイン 橋本祐治、岩松亮太(アキタ・デザイン・カン)
内容紹介
仮設住宅という建築だけを扱うものではなく、まして作品として見るためのものでもない。暮らしてきた町を失い、暮らしてきた家を失い、家族や知人と離ればなれになった人たちがともに生活することでつくり出した景色、それが木造仮設住宅群である。
この本は、人間と建築を撮り続けてきたカメラマン・藤塚光政による木造仮設住宅群の記録である。
目次
まえがき 滑田嵩志
1章 希望 木造仮設住宅が描き出す日常
2章 福島の杉 豊かな県産材でまかなう
3章 ログで建てる マシンカットログ工法と工程
4章 木の空間 1次公募ログハウス仮設住宅
5章 進化した木の空間 2次公募ログハウス仮設住宅
6章 まちをつくる 配置計画とコミュニケーション
7章 三春町の木造仮設 地元の力を結集
8章 板倉の木造仮設 4寸角材と厚板でつくる杉の家
9章 恵向公園ロハス集会所とグループホーム 自然エネルギーを生かす
10章 南相馬集会所 記憶に刻む、壁画と塔
11章 KAMAISHIの箱 建築家として、新構法の提案
12章 二地域居住と復興住宅 これからのために
木造仮設住宅分布図
時系列表
撮影記 藤塚光政
あとがき 芳賀沼 整
前書きなど
まえがき
滑田崇志(なめだ・たかし/はりゅうウッドスタジオ 代表取締役)
3月11日の夕方、僕たちの行動は、仲間の安全を確かめることと、被害の大きそうな地域から順に施主の安否を確認することから始まった。
事務所のある会津地方も、大きな揺れに見舞われた。繋がりにくい電話をかけ続けて、県内の施主の安否の確認をし、電話先の情報から断片的ではあるが県内の被害が分かってきた。しかし、その日、双葉郡大熊町の役所に道路協議に向かっていた所員と、双葉郡富岡町を訪ねている芳賀沼の安否だけが最後まで確認できなかった。夜中になってやっと電話がつながった。と同時に、富岡町にあった僕たちの設計した新築間もない住宅が流されたことも知った。
次の日、飲料水タンクを持ち郡山方面に向かうと、アスファルトの亀裂や段差のためにまともに走れる道はなく、大津波の報道の影で知らされていない「中通り」の状況も理解することができた。
今回の震災復興については、原発による混乱の状況をみても、過去の事例からだけでは答えのでないものであり、どのようなプログラムを建てようにも時間と労力を要するものだと思われた。そこで第一歩として震災以前から
あった繋がりを頼りに、建築の専門家に協力を願い、「木造仮設住宅群」を考えることとなった。「木造仮設住宅群」とは、東日本大震災において初めて生まれた一連の木造の仮設住宅の群像であり、それぞれの木造仮設住宅が、これからの復興にむけての思想をもっている。一日も早く、避難し、仮住まいを続ける人々を出発点へ先導する。それは、建築そのものだけの問題ではない。避難される方の生活形態や就労、住まい方を見つめ分析することで、「木造仮設住宅群」における各人の行動表現は、今後の復興プロセスの芯となる可能性を秘めている。それぞれの分野の指導者の助言を受け止め、長期化が懸念される福島県の復興に向けて、これまでの災害復興の概念の殻を破るためのプログラムづくりの出発点として出版を決定した。
建築を三つに分けて考えてみる。
一. 考える 二. つくる 三.使う
第一に、今回の災害時に対して、これまでの「考える」という建築家の立場が、目の前に起こった災害への対応に対して、距離があることを感じた。建築家として様々な角度から切り口を見つけ提案を行なっても、効果を上げるに至らないことにもどかしさを覚えた。建築行為を様々な点から見直し、今後の復興活動の起爆剤と成り得るかを考えるために、執筆者各位に文章を依頼している。
第二に、どう「つくる」のか。従来の仮設住宅では、コスト削減と作業手順の簡略化に強く比重がおかれていたが、「木造仮設住宅群」は、住民評価という強い支持から仮設住宅の概念を大きく変えようとしている。一方で仮設住宅の建設現場は、30日という限られた工期の中、一つの敷地に一日数百人の人間が働くという非日常がある。「夢も希望もある住まいつくる」といっても、そうした現場を理解せずには、どれだけ優れたアイディアも実現しにくいものとなる。工法における取り組みのなかで特に象徴的なものとして「KAMAISHIの箱」があり、難波和彦氏の指導の下で新たな仮設建築の試みを行なっている。
第三に、「使う」人々の受け止め方を考える。住民の方の復興の出発点として、「木造仮設住宅群」がどのようなものになっていくのか焦点を当て、その可能性について議論を行ないたい。
これらのテーマについて、本書は藤塚光政氏の写真を中心とした「木造仮設住宅群」のドキュメンタリーである。そこにあった建設から入居後までの一つ一つの瞬間を捉えている。「木造仮設住宅群」の「生きられた」空間を、ご協力くださった各執筆者の文章と共にお伝えしたい。
そして災害を共有する住民の方々、復興に携わる方々に、これからの出発点となる本になることを願っている。
担当から一言
災害時に建てられる仮設住宅(正式には応急仮設住宅)は、通常はプレハブ建築協会によるプレハブとなります。しかし、東日本大震災は、そのプレハブだけではまかないきれないほどの甚大な被害をもたらしました。そこで、仮設住宅づくりの公募がかけられて、施工会社や建築家などが協力し合い、短期間にさまざまなタイプの木造仮設住宅が建てられました。本書は、その中のログハウスによる仮設住宅を中心に、いくつかの木造仮設住宅を紹介しています。
写真家の藤塚光政さんは建設の始まりから完成・入居後も現地に足繁く通い、仮設住宅という建築のみならず、人々とそこでの暮らしを写しとっています。藤塚さんの鋭い視線の中ににじみ出る人間味。その写真が本書の要であり、建築を専門としない方々にも、きっと伝わるものだと思います。
そして、建築界の方々に対しては、この木造仮設に関わった建築家たちがどういう思いで、どのようにつくっていったのか、じっくりと読んでいただけたらと思います。ただ仮の住まいをつくるだけではなかったこれら木造仮設住宅群は、普段のまちづくりや木造の家づくりにも通じることが多々あります。本書がこれからの建築を考える一助となることを強く願っています。
[担当編集者・内田みえ(silent-office)]
阪神淡路大震災から東日本大震災へつなぐ「学ぶ技術でボランティア」のもと、2年前、陸前高田で木造仮設住宅を8棟建てました。
この時の生まれたか課題解消を、元工業高校の教師の立ち場に立ち、兵庫県の山間・林業のまち宍粟市千種の高校と中学校の皆さんと、繰り返し建て方が出来る実物大の木造仮設住宅をつくっています。
今週の土曜日、県立千種高校体育館内において「林業のまち千種の若者たちがめざす木造仮設住宅」のもとに立ち上げます。
11月6日にリハーサルを行った様子が、兵庫県立千種高校のHPに掲載されています。ご覧ください。
(学)日本工科大学校 校長 内藤康男
兵庫県姫路市兼田383-22 ℡079-246-5888