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第2回●「かようびのよる」のカエルになりたい。かも…。
  (高倉のイイ絵本・前編)

書き手●高倉美恵

[2002-04-08]







『かようびのよる』
デヴィット・ウィーズナー作
当麻ゆか訳
徳間書店

 前回、名作絵本の悪口を言った手前、「じゃ、アンタの言う《イイ絵本》ってなによ」という問いには(いや、誰も問うてないんだけど)、答えなければなるまい。
 
 以前地方新聞に掲載していたコラムで紹介したことがあるので、そのまま転記しよう。
 
 西日本新聞1998.11.25(水曜日)掲載___________
 
  ひさしぶりに天神に出かけると、街はすでにクリスマスモードになっていて驚く。
 町中に勤めていると、11月半ばから連日壊れたレコードのごとく繰り返し聞かされるクリスマスソングには、もうやめれーとわめきたくなるが、たまにふと耳に入ってくるそれは意外にも心地よかったりするから、ニンゲンてのは勝手なものである。

 さてクリスマスだ。
 昵懇にしてはいるがきっかけと勇気のなさで踏み切れなかった男女(あるいは男と男、女と女)が、どさくさに紛れてイタしてしまったりするこの季節、準備はいいかな野獣諸君。どさくさ度をさらに増すためには、やっぱり贈り物がだいじ。

 下心などまるで感じられない、好感度200%の絵本の贈りものとして「かようびのよる」(ベネッセ)をお薦めする。

 リアルかえる君がうじゃうじゃと登場するこの絵本は、言うてはなんですがコドモなんぞに読ましとくには勿体なすぎる逸品だ。
 
 この絵本を贈られて、きちんと喜んでくれる彼・彼女なら、今夜イタせなくても一生つきあう価値がある。と、思う。
______________________________

 掲載が、クリスマスの時期だったので、大人への贈り物にどうかな、という提案になっているが、むろん子供にも十分喜んで貰える。ウチの豚児の場合、1歳くらいから見せ始めて、2歳頃には「かようびのよる」読んで、と言ってくるようになった。3歳半の現在はあまり手に取らないが、それはゴジラやウルトラマンや怪獣やザリガニやかたつむりなどのせいで、絵本のせいじゃない。
 
  『かようびのよる』
 デヴィット・ウィーズナー作 当麻ゆか訳 徳間書店
 
 わたしの手元にあるのは、まだベネッセなどというヘンテコリン(失敬)な名前にする前の福武書店版で、1992年12月5日3刷(3回目の刷り増し分ってこと)だ。初版は、同じ年の1月25日、1年で3刷というのは絵本としては、なかなか上等な売れ行きだろう。

 福武書店が書籍出版をやめてしまったので、どうなることかと思っていたら、徳間書店からそっくり同じ作り同じ訳者で再刊された。このまま無くしてしまうには惜しい、直裁に言えばまだ売れる、と思った人がいたってことだ。
 
  ある火曜日の夜、沼のカエルたちがいっせいに蓮の葉に乗って飛び立ち、街を飛び回り、朝になると飛ぶ力を失った蓮から沼に落っこちて、また普通の生活に戻る。
というおはなしのこの絵本、文字句読点含めても49文字ぽっきりしかないけれど、何回も何回も読み直しみたくなる面白さ。

 カエルの絵は、あまりデフォルメされずヒキガエルそのまま。
「かわいい」などという表現とはほど遠い。
しかし、ページを埋め尽くすうじゃうじゃリアルカエルらの
「なんか知らんけどオレら飛べてるみたい、た、たのしいかも」
というような声が聞こえそうなツラ付きは、なんとも言えずプリティー。
絵本のカエルに向かって
「こらっ!調子こいてんじゃねーぞ」
「嬉しそうな顔しやがって」
と大の大人が(それはワタクシですが)、喋りかけてしまう程に、嬉しそうに飛ぶカエルたち。
 
  なんの教訓もない、感動の押しつけもない、セリフすらない、登場人物(登場蛙物)の声や音が飛び跳ねる(今《豊かさ》と書いてやめたよ、あぶねえあぶねえ)ファンキーを、《イイ絵本》と言いたい。いや言います。
 
  まあしかし、この絵本を贈って《昵懇以上》になれるかどうかは、アナタの腕次第、ってことで。
 
 後編は「三びきのやぎのがらがらどん」

   
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