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第1回●超ロングセラー絵本「しろいうさぎとくろいうさぎ」が嫌いだ。 |
書き手●高倉美恵 |
絵本で、《とってもよい本》と世間的にはされているらしい『しろいうさぎとくろいうさぎ』が、わたしは嫌いだ。 これを書くにあたり、ネットでちょっと検索してみたら、「だいすきな絵本」「大事にしたい絵本」「大切な人にあげたい本」などという言葉のオンパレードで、ますます嫌いになってしまった。 この本が好きだという人も嫌いだ。「こんな素敵な絵本が好きだと思える自分が好き」なんじゃないかもし? と聞きたくなるが、まだ聞いてみたことが無いわたしは小心者だ。プレゼントされたりしたら、ありがとうと言う顔が引きつるかもしれん。 どんな絵本かというと、しろいうさぎとくろいうさぎが登場人物というか登場兎で、しろが女くろが男という設定。原題は「うさぎたちの結婚」。 で、二匹は森で、いつもいっしょに遊んでいるわけだ。 ある日、いろいろ遊んでいるんだけど、なぜかしょっちゅうくろいうさぎがふさぎこんで暗い顔をしているので、なんなんだあんたはさっきからしんきくさい顔をして黙り込んでさ(とは言わないけれどそんな意味のこと)と、しろいうさぎが尋ねると、くろいうさぎは そうすると、しろいうさぎが、じゃもっと一生懸命お願いしてみてよ(いったい誰に願うのか)と言い放ち、それに唯々諾々と従って、くろいうさぎが、もっと一生懸命願うと、「じゃ、わたし、これからさき、いつも あなたといっしょにいるわ」と、しろいうさぎが返事して、めでたく契約が成立。 森の動物たちが見守る中、二ひきは結婚式をしていつまでもなかよく暮らしましたとさ。というお話。 1965年6月初版のこの本。いま奥付を見て初めて知ったが、わたしが生まれた同じ月に、出版されている。ベトナム戦争の最中も、東大の赤門が落ちたときも、マンガ「ポーの一族」(萩尾望都)「別冊少女コミック」が発表されたときも、「女王陛下万歳」とセックス・ピストルズが歌っていたときも、ずーっとずーっと、やってきたわけだ。 「いつも いつも、いつまでも、きみといっしょにいられますようにってさ」「じゃ、わたし、これからさき、いつも あなたといっしょにいるわ」ってやつを。 この36年の間、ずーっと重版され続け、小さい子供やいい年の大人に読まれ続けてきたのだ。 そんな感動的で多くの人に支持されている絵本の、どこがどう良くて素敵で大事な人にあげたいのか、さっぱりわからんわたしは、ひょっとして欠陥人間か。 なら、欠陥人間でもいいよ。 だいいち、なんで一緒にいたいと願うのはくろいうさぎだけで、しろいうさぎは「いてあげるわ」という立場なのかが謎である。誰かと誰かが一緒にいることなんて、両方の努力があってこそだろうよ。 くろいうさぎにしたって、願うだけでいろんなことがかなうわけではないということを知るべきだろう。そして願ったってかなわない事のほうが多いってことも。 もちろん、願い方にもいろいろあって、頭で念じるだけのことを願うという人もいれば、こころから願うということは、そうなるために何か行動するってことだという人もいる。本当の「願う」は、後者だと、わたしのようなポンちゃんですら知っているが、この絵本から読み取れるのは、頭だけで念じる「願う」だ。 念じるだけの人、って結構多い。 「おまえが好きだ」「愛している」なんて言葉は平気で言い、一人前に嫉妬もし、将来の夢なども語るくせに、一緒にいるための努力はついぞしない男(女)なんてゴマンといる。そのように、口では甘い言葉を言い続けるくせに、だんだん生活費を入れなくなった男と暮らしたことがあるのはわたしです。すいません。反省してるので許してください。 「くろいうさぎが結婚してくれと言った。しろいうさぎが真剣にそう思っているなら結婚してやるよと言った。で、結婚した」話はこれだけなんである。 もう少し、素直な気持ちで読んでみようか、努力して。 で、読んでみた。 ○しろいうさぎが偉そう。いっしょにいることにするわ、なんて言って「あんたが願うなら、いてやらんでもない」という態度が何様かと思う。 ○くろいうさぎが馬鹿そう。今一緒にいて楽しいなら、それでいいじゃん。お互いにそれを持続させたいと思うなら、いろいろありながらも続いてゆくだろうに。馬鹿そうな顔で「ずっといっしょにいれるかな」「いたいな」「いてくれるかな」「もしこの先別れることになったらどうしよう」と悩み続けるのがいや、時間の無駄。 ○百歩ゆずって、まあそんな経緯があって結婚という契約をしたのはいいけれど、そこからどうするかが問題ではないのか。結婚してみんなで踊っておしまいか? いったい何が言いたいんだ、この絵本は。 ○1年後に、しろいうさぎの高慢さに、嫌気がさしたくろいうさぎが、家を出て行って、離婚するに1000点。 ああ、やっぱり嫌いだ。 わたしは本屋の店員で、なにかものを書く機会がある時は、なるべく「本屋さんに人が足を運びたくなる」ようなものにしようと心がけてきたつもりだし、これからもそのつもりなんだけど、この話はどうしてもどこかで書いておきたかった。『しろいうさぎとくろいうさぎ』が本当に、つまらなくむかつく絵本かどうかは、本屋店頭にてご確認をね。 『しろいうさぎとくろいうさぎ』 なお出来事は毎日新聞社『20世紀年表』より |
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