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[第7章●バックアップについて考える]
1… バックアップの5W1H
[2004.03.03登録]

石田豊
ishida@pot.co.jp

正規表現についてはまだまだ書きたいことはあります。エディタを使った正規表現には限界があること、じゃあ、どうするのかということなどです。読者の方からも有益なサンプルなどもいただいていますので、その紹介もしなければなりません。

しかし、同じ話ばかりでは、いささかナンなので、ちょっと別の話もしましょう。

「バックアップは必ず取りましょう」

パソコンの解説書や解説記事には、かならずそのようなことが記されています。これははっきり言って、はなはだ無責任な書き方ですよね。

私自身にしても、コンピュータの記事を15年ほど書き続けてきているのですが、なんど、このフレーズを無責任に書き続けてきたことか。ずっと忸怩たるキモチを抱き続けてきました。

なにかをヤレという場合は、どうしても5W1H情報が必要になるでしょ。イツ・ドコデ・ダレガ・ナニヲ・ナゼ・ドノヨウニ。

「バックアップを取りましょう」だけでは、この5W1Hがまったくわからない。この1行だけでそのウラにある5W1Hが理解できる人にとっては、そもそもこの注意書きは不要です。そんなことは先刻承知。この注意書きは、そのウラが十全にわかっていない人にこそ必要です。

そこで、あまりにも基本にすぎるかもしれませんが、バックアップの5W1Hを考えてみたいと思います。順序不同ですが。

まずは、前提として「バックアップとは何か」。

バックアップとは、コンピュータのファイルの破損・消失に備えてその複製を別の場所に保管しておくことです。

コンピュータのファイルは複製を繰り返しても、内容が変化・劣化することはありません。複製といえば、通常は元のものとは異なるものですが、ファイルに関しては、まったく同じものができるのです。

このまったく同じモノである複製を別の場所にあらかじめ事故に備えて「備蓄」しておくわけです。

通常、ファイルはハードディスクに格納されています。ファイルを保管できるのは何もハードディスクだけには限りません。古いところではフロッピーディスクがありますし、他にもCD-RやMO、DVD-Rなどいろいろなものがあります。これら「ファイルを格納するための装置」を総称して「ストレージ」あるいは「ストレージ・デバイス」といいます。

ハードディスクに限らず、あらゆるストレージは、ある日突然読めなくなることがある、とはよく言われることですが、この表現は間違っています。「読めなくなることがある」んじゃなくって、いつか必ず読めなくなります。人間がいつかは必ず死ぬのと同じように、ストレージも必ずいつか死ぬのです。これまた人間の寿命と同じように、それぞれのストレージには「平均寿命」がありますが、個々のストレージメディアがいつ死ぬかは、予測不可能です。5年後であるかもしれませんし、10秒後であるかもしれません。

ストレージの読み書きができなくなると、その中に格納されていたファイルは当然ながら利用できなくなります。

ノートコンピュータの場合には、コンピュータそのものを紛失することもあるでしょう。その場合も、もちろん中に格納していたファイルはすべてパーです。

不注意から、必要なファイルを誤って消してしまったり、上書き保存してしまうこともあるでしょう。ファイルが壊れてしまうこともあります。

こうした事故に備えるのがバックアップです。

これが「ナゼ」バックアップしなければならないかの答えでもあります。ファイルはいつかかならず「死ぬ」。その時困るのはそのファイルを再利用するために保存していた自分自身。そこで困らないようにバックアップを励行する。というわけです。

続いて「ナニヲ」についてです。

ハードディスクまるごとをバックアップする流儀もあります。この流儀の最大のメリットは、「漏れがない」ということです。なにしろハードディスクまるごとですから、すべてのファイルの複製が存在していることになります。

しかし、この流儀には欠点もある。

ハードディスクまるごとだから、バックアップ先にも元のハードディスクと同じだけの容量が必要になります。バックアップ先に大容量のストレージが必要になるということもありますが、それよりも、「バックアップに時間が掛かる」ということの方が問題でしょう。

ファイルにはいろいろな種類があります。OSがらみのファイルやアプリケーションは、あえてバックアップしておかなくても、元のCD-ROMから再度インストールすることが可能です。特にWindowsでは、OSやアプリケーション関連ファイルの多くはバックアップ先から元へ戻す(このことを「リストア」といいます)だけではマトモに動作しません。つまりバックアップを取っておいても無駄であるわけです。

必要なファイルだけをバックアップする方が、合理的だと言えるでしょう。

必要なファイルとは、要は「データ」です。自分が作ったデータファイルや受け取ったデータファイルです。これらはどこにも売っていません。カネでは解決しないのです。忘れがちなのはメール関係。送受したメールデータもさることながら、アドレス帳に入っている友人知人のアドレスも貴重です。またWebブラウザの「お気に入り」も立派なデータです。

データはWindowsでは「マイドキュメント」に、Mac OS Xでは「ホーム」に保存するのが基本です。別の場所に置くことも可能ですが、特に理由がなければ、基本に忠実にお約束の場所に保存することを心がけるのがよいでしょう。何となれば、データをまとめておくと、バックアップを取る際にも便利だからです。特にMac OS Xの「ホーム」にはデータの他にアプリケーションの各種設定(ブラウザのお気に入りや履歴も含む)などの広義のデータ類がまるごと含まれますので、これさえバックアップすれば、ほぼ完璧ってことになります。

「ナニヲ」はデータ。バックアップをしやすくするためにもデータは一定の場所にまとめて置くようにしましょう。

で、これらのデータを「ドコヘ」バックアップするのか。

バックアップは「別」の場所に行うのが基本です。よくバックアップと称して、ファイルの複製を同じハードディスク内に置いている人がいますが、ハードディスクが読めなくなれば、バックアップもろとも全滅です。まったく無駄だとは言いませんが、できれば避けた方が望ましいバックアップ先です。

ハードディスクをパーティションで切り分ける方法があります。別パーティションをバックアップ先として指定するのも、同パーティション内に行うのと同じ問題があります。切り分けていると言っても、キカイとしては同じキカイ。物理的に壊れちゃう場合は同時にダメになります。

増設ハードディスクはどうでしょうか。デスクトップ型のコンピュータの多くは、筐体内にもうひとつ(ないしそれ以上)のハードディスクを追加でくっつけることができます。これを「増設ハードディスク」と言います。この増設したハードディスクにバックアップする方式はどうでしょうか。これはパーティションできりわけた領域にたいしてバックアップするのよりはマシな方法です。いちおう「機械」が別ですから、同時に壊れる可能性は低くなります。

しかし、そのリスクが皆無ではありません。たとえば落雷などの事故では、内蔵ハードディスク、増設ハードディスクの両者が壊れてしまう可能性があります。

そのようなレアケースを考えなくても、増設ハードディスクに対するバックアップは、あまりおすすめできません。というのは、「そのハードディスクをいつもバックアップ用途にしか使わないという決然とした意志があるのか」という疑問があるからです。

「ハードディスクはいつもパンパン」の法則ってのがあります。ま、これは私がかってにこしらえた法則ですが。

どんな大きなハードディスクでも、使っているうちにいつかパンパンになります。どんどん空き領域が少なくなるのです。人にとって、必要十分なハードディスクの大きさ、というものはありません。人にとって必要十分なお金というのがないのと同じです。つまり「あればあるだけ使っちゃう」のです。

最初の意図は、増設したハードディスクはメインのハードディスクのバックアップに限定して使う、ということであっても、使っているうちに、なんだかんだとそこに置いてしまうものです。

気が付いてみると、バックアップするための空き容量も残っていないということになってしまいがちなのです。

ですから、とくにシゴトで使っているコンピュータのバックアップは、そのコンピュータの「外」にバックアップ専用の「場所」が必要になってきます。シゴトのコンピュータのバックアップの「ドコヘ」の答えは「コンピュータとは別の場所へ」です。

これが、これからつづく一連の議論の出発点になります。

バックアップの5W1Hののこり3つ「イツ」「ダレガ」「ドノヨウニ」についてとともに、この議論の続きは次回に。

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