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[第2章●強靱なリファレンス環境の探求]
11… 曜日の起源と論理
[2004.05.26登録]

石田豊
ishida@pot.co.jp

月火水木金土日。曜日は現代の生活にとってとても重要な位置にありますよね。土日は仕事が休み、火曜日は営業会議なんてふうに、労働の現場も週単位で動いているし、

「今度の木曜日に会わないか」

なんてふうに、日常生活の中でも平気のへーで常用している。

考えるまでもなく、我が国で週日の習慣が一般になるのは明治以降であるということは、容易に推察できます。だって弥次喜多にも忠臣蔵にも何曜日なんてのはでてこないし。

だったらこれは「太陽暦」のサブシステムなのかと思いきや、バリバリの太陰暦を(少なくとも宗教的には)採用しているイスラムの世界でも金曜礼拝といって、曜日が重要であるみたい。ちなみに、日本のいわゆる「旧暦」は太陰太陽暦、つまり月の運行を元に組み立てられた太陰暦に、太陽暦による修正を加えているものなんですが、イスラム暦は原理主義的な太陰暦で、元日が真夏に来ても気にしない、というカゲキなものです。

曜日っておもろいな。と。

日本史の授業で習ったように、日本でもって太陽暦が採用されたのは明治6(1873)年。ですんで、曜日もおそらくこのあたりからの採用か、と推察できます。

だとしたら、よくぞ、月火水木金土日なんて名称をつけたよなあ、という驚きがありました。こなれているというか、なんというか。

月曜→Monday→Moon、日曜→Sunday→Sun、土曜日→Saturday→Saturn っていう具合に、なんやしらん、惑星とのつながりがありそうだ。と。

いや、もうちょっと「意識の流れ」に忠実に書くと、私は昔、曜日の名前は五行説の木火土金水に日月を加えて命名されたものなんだろうかな、と思っていたんですが、土曜日→Saturday→Saturnの類似に気が付いたころに、どうもそれは違うかもしらん、と思い至ったわけです。

「曜日の名前に五行説+日月を割り振った」わけではなく「宇宙の基本元素である五行、つまり木火土金水を惑星の名前に割り振った、というより、それぞれの惑星が5元素を象徴しているとみなした」という中国の事情とは独立に、「惑星と七曜が関連している」という汎世界的なシステムがあるんじゃなかろうか、と、認識を変えたのです。

だって土とサターン、金とビーナスってつながらないじゃないですか。どうも西洋流の惑星名の命名には五行説は無縁であるような感じがする、と。

ここまでは、何かで調べたとか、習ったということではなく、自分で漠然と考えたこと。おそらく高校生の頃だったのではなかろうかと記憶しております。当時は中国歴史関係が大好きで、その関連で五行説はそこらの高校生よりよく知っていました。王朝交代の理論的背景の最大のものですからね。

で、ここからは最近。

公的な制度としての曜日は明治から導入されたとしても、どうもこの呼び名からして、そのときに、西洋の制度を直輸入したとは考えがたい。もっと前から日本でも七曜が認識されてたんじゃないかなとの疑問がわき上がってきた。いつごろ来たんだろう、と。

で、もひとつ。これは我が国内部の問題じゃないんですが、なんで月・火・水というような並び順になっているか、と。五行説だったら、ふつー、木火土金水って順でしょ(五行説との関係は捨てたはずなのに、どっか、まだこだわっている)。なんて疑問も。

こういう際に辞書検索ソフトであるJammingを立ち上げるわけです。

Jammingで「七曜」を引く。前に述べたように、もともと電子ブック版である小学館の日本大百科全書も「電子ブック漢字インデクサ」で表記型検索が可能にしてありますので、この語で串刺し検索ができる。

「七曜」での串刺し検索結果


インストールされている全辞書を対象に前方検索で「七曜」。26件がヒットしました。広辞苑では、
しち‐よう【七曜】(‥エウ)
(1)日・月と火・水・木・金・土の五星とを合せた名称。
(2)(七曜(1)が日ごとに交代して支配するとの考えから、これを各日に配当したもの) 一週七日の日ごとに七曜を配した名称、すなわち日曜・月曜・火曜・水曜・木曜・金曜・土曜の総称。


大辞林では
しち・よう 〜エウ【七曜】[0]
(1)一週七日の、日・月・火・水・木・金・土の各曜日。
(2)七つの星。日・月と木星・火星・土星・金星・水星の五星。〔{(2)}が原義、{(1)}は{(2)}によって名づけたもの〕
とか
しちよう・れき 〜エウ〜【七曜暦】[3]
日本で古く使われた暦の一。日・月・火・水・木・金・土の七曜を記した暦で、平安時代にはすでに使われていた。官用のもので民間では用いられていない。七曜の御暦(ゴリヤク)。
てのがあります。おや、やっぱり明治デキのもんじゃないようだ。ずいぶん古い話やないですか。

世界大百科では
七曜
(しちよう)
⇒関連項目
太陽,月と水星,金星,火星,木星,土星の七つの天体のこと。また日曜から土曜までの週日の総称。上記七つの天体の位置を示す七曜暦を作ることは《延喜式》に規定されていた。また東洋の星座である二十八宿と結びつけ日の吉凶を判断するために,七曜は今のような週日制のためではなく暦注として弘法大師により9世紀に輸入された。藤原道長の日記には曜日がつけられている。そのころの具注暦には日曜のことを密または蜜と注している場合がある。⇒週        内田 正男
とあり、七曜暦は
七曜暦
(しちようれき)
⇒関連項目
太陽,月,水星,金星,火星,木星,土星の七つの星を七曜といい,これらの位置を示す暦が七曜暦で,週を表す曜日とは関係ない。古く《延喜式》にこの名があるから,10世紀のころすでに作られていたと考えられるが足利時代に中絶した。七曜暦を復活したのは渋川春海で,改暦の貞享2年(1685)より年々天文方の手により編纂(へんさん)され幕末まで続けられた。刊行もされ,江戸では市販されたこともあった。一種の簡単な天体暦といえよう。                   内田 正男
「七曜」は日本大百科全書では単純な記載になっている。
七曜 シチヨウ
→週
太陽(日)と月、および土星、木星、火星、金星、水星の五惑星の総称。また、この七曜名を暦に用いる7日の週日の呼称、すなわち日曜日、月曜日、……土曜日の略称。北斗七星の和名「七曜の星」を略して七曜ともいう。→週〈渡辺敏夫〉
いっぽう「七曜暦」は
七曜暦 シチヨウレキ
→暦
 →天体暦
日(太陽)・月、および土星・木星・火星・金星・水星の五惑星の毎日の宿度(二十八宿(ニジユウハツシユク)の基準となる距星から赤道に沿って測った経度)を書き記した暦本。七星暦、七政暦とも書くことがある。一種の天体暦である。元来、中国渡来のものであるが、『延喜式(エンギシキ)』によると、七曜暦は毎年、正月朔日(ツイタチ)に陰陽寮(オンヨウリヨウ)から奏進したもので、10世紀初めには日本でも編纂(ヘンサン)されていた。中世に至って一時中絶したことがあるが、貞享(ジヨウキヨウ)改暦(1685)のとき、渋川春海(シブカワハルミ)から奏請して復活し、明治初めまで継続した。七曜暦は常用暦ではなく、特殊な暦であり一般用ではないが、天文方で編纂の七曜暦は京都の大経師降屋(フルヤ)と、江戸暦師仲間により版行して一般にも頒布したものである。→暦
 →天体暦
〈渡辺敏夫〉
【本】渡辺敏夫著『日本の暦』(1976・雄山閣出版)
となってます。

日本大百科全書ではわかりにくいのですが、世界大百科を併読することにより、「曜日」は一般的ではなかったかもしれないが、道長の時代から使われている。しかし「七曜暦」は曜日とは関係がない、ということが見えてきます。広辞苑、大辞林だけでは七曜暦→曜日つきカレンダーとして理解してしまいそうです。

ともあれ、月火水木金土日という名前は、なにも明治になってはじめて「翻訳」されたわけじゃないということがわかってきました。こなれているはずです。

百科事典内のリンクをたどって「週」にたどり着きます。こんどはちょっと長めの記述です。まずは大百科。

(しゅう)
week
⇒関連項目
7日ごとにくぎった,時間の人工的単位でそのおのおのに名称をつけて呼ぶものが週である。週の起源はユダヤに始まるが,前2世紀か1世紀のころ,ローマ暦の中で確立された。7日ごとに仕事を中断して神(の業(わざ))をたたえる(その日を安息日と呼ぶ。いまの金曜の日没から土曜の日没)というモーセの律法が,ユダヤの時間の尺度である週を生み,それがキリスト教会の中に入って世界的になった。
 週日には占星術から惑星の名がつけられ周期的にかつ連続性が保たれるようになった。そのころは太陽と月も惑星に数えられ,あわせて7惑星を地球から遠い順に並べると,土星,木星,火星,太陽,金星,水星,月となると考えられていた。これら七つが今の順で毎時を支配するとされ,第1日の第1時を土星とすれば第2時は木星,第3時が火星……,第7時が月,第8時が土星で順次進み,第24時は火星,第2日第1時は日(太陽)となる。かくて第3日第1時は月,第4日第1時は火星となる。これら第1時を支配する惑星の名を順に並べると今の七曜の順になる。これらの名称のうち,ローマの神々の名であるマルス(火星),メルクリウス(水星),ユピテル(木星),ウェヌス(金星)が,現在はそれらに相当する北欧神話の神々,テュール,オーディン,トール,フレイヤに置き換えられて曜日の名となっている。週はユダヤでは安息日に始まるとされていたが,キリスト教会に入って日曜日が最初となった。
 週は日本には唐を経て9世紀に伝えられたが,それは一種の暦注としてもたらされたもので現在用いている週とは本質的に違う。藤原道長の日記には毎日の曜日が記されていて,これが週が連続的に用いられている最古の記録である。日本で週日制が官庁で採用されたのは1876年4月からである。
 日をくぎる方法として中国では旬が使われ,フランス革命の際の共和暦にも10日で日をくぎる方法がとられたが,これらは順序性や連続性から考えて週と同格に扱うべきものではない。 内田 正男


日本大百科全書では
週 シュウ
week 日数7日を単位とした暦法上の周期をいう。週の起源は古く、諸説があり、古代ローマでは8日の週が、古代エジプトでは10日の週が用いられた。バビロニアでは各月の7、14、21、28日を安息日としたといわれる。ユダヤ人は、『旧約聖書』創世記に、神が6日の間に天地を創造し、7日目に休息した、とあることから、7日の週を用い、7日目をサバットとよんで休日とした。このサバットは現在の週日の土曜日に相当する。
 週日に日・月と土・木・火・金・水の五惑星の名称がつけられたのはエジプトの占星術による。この時代、日月五星の距離は地球から遠い順に土木火日金水月であると考えられていた。いま、第1日の第一時に土星を、第2時に木星、第3時に火星……第7時に月と配し、第8時はふたたび土星、以下、木、火……と配していくと、第1日第24時は火星に、そして第2日第1時は日が、第3日第1時は月が配されることになる。このエジプトの占星的七曜は土曜日から始まるが、これがユダヤの週日とあわさって、今日のような日曜日から始まるものとなった。
 暦法を組み立てている日、月、年はそれぞれ、昼夜、月の満ち欠け、季節の移り変わる太陽の運行という自然の周期であるが、週だけは人工的な周期である。7日間の週が広く用いられるようになったのは、この周期が生活をするうえで適していたためと思われる。
 日本への「七曜」の伝来は、空海が中国から伝えたといわれる『宿曜暦』によるとされ、一般の頒暦では、京暦が1672年(寛文12)から記載しており、伊勢(イセ)暦はもうすこし早くから記している。この時代は生活のためというより、吉凶の占いのために用いられた。1873年(明治6)太陽暦が採用され、76年3月、太政官(ダジヨウカン)達第27号により「同年4月1日より、日曜休暇、土曜半日休暇」とすることが定められ、公務は従ったが、一般には、たとえば昭和の初めごろには、まだ職人たちがそうであったように10日ごと、あるいは1日と15日を休むといった習慣が長く続いた。〈渡辺敏夫〉
【本】渡辺敏夫著『暦のすべて』(1980・雄山閣出版)


大筋のところでは重なっているんですが、細部で微妙に記述範囲に違いがあるところが面白い。

空海がユダヤ起源の考え方を持って帰ってきた、ちゅうところも面白い。

しかし、最大の収穫は、月火水木金土日の並び順の理由がわかってきたことですね。惑星ってのは太陽を中心にした同心円的な楕円軌道をそれぞれの都合で勝手にぐるぐる回っているわけだから、地球との距離で並べるというのは難しいですね。たとえば火星が9時の位置にあり、地球が3時の位置にあれば、当然ながら太陽ー地球より、地球ー火星の方が遠くなりますよね。だいたい水金地火木土天海冥(と記憶しているのはある年齢以上で、土天冥海順で覚えている方もあるでしょうけど)なんだから、水星の方が金星より近いってのは、どうも納得しがたいんですが、ま、当時はそう考えられていた、と。

この並び順なら、月水金ー日ー火木土と覚えればいい。算盤教室とかゴミ出しとかで月水金、火木土ってのは成句もみたいなもんでしょ。

ともあれ、以上のことがたった数分で判明しました。

これがローカルに百科事典を持っている強み。おなじ「調査」はWebでも可能です。よかったら、試してみてください。しかし、時間はかかります。またヒットした情報が正しいかどうかのウラとりも必要になります。早く、かたく、がローカルでの串刺し検索の身上です。

でもって、この「調査」の過程ででてきた語句により、Web検索を掛けることで、もっといろんな情報がひっかかってきます。たとえば太政官達第27号とか七曜暦だとか。

ね。すこし各種事典串刺し検索に萌えてきません?

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adlibさんより
ご意見いただきました

[2004-10-20]

 仮説“週の起源”

 近代天文学は、週を「あらゆる天文現象に関係がない」と断じますが、
春分から秋分までの日数186日に対し、秋分から春分までは179日なので、
(わたしは)この差7日間が“週の概念”を導いた、と推しています。
(下記の投稿より)
 
http://www.hatena.ne.jp/iwashi?mode=treedetail&thread=0000008609

*匿名*さんより
ご意見いただきました

[2005-11-30]

*無題*

kempachiさんより
ご意見いただきました

[2006-06-27]

自分にあった休みの周期ってなんだろう?

曜日の起源の探索過程も楽しめました。
更に楽しめた、納得したのは、末尾の次の部分。

> 日本大百科全書では
> 一般には、たとえば昭和の初めごろには、まだ職人たちが
> そうであったように10日ごと、あるいは1日と15日を休むと
> いった習慣が長く続いた。〈渡辺敏夫〉

今は曜日でスケジュールするのが当たり前の世の中だし、無視できない存在だけど、先人がそうだったように仕事の内容や自分のスタイルに合わせて、変化させて当然なんだろうと思う。たとえば「土日の他、毎月第5×曜日は休む」とかってルールも有りだと思う。

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